表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
47/52

君といると私は私でいられる

「着きました。ここからの景色を碧くんに見せたかったんです」


 長い階段を登り、着いた場所は、この町の全部が見渡せるような絶景だった。


「綺麗だな」

「先ほどの以前星を見た時の話ですが、私はあの時碧くんに救われたんです。誰かを頼らず1人で何もかも頑張ろうとする私を変えてくれました。ありがとうございます」


 真っ直ぐと見つめる彼女は、そう言って嬉しそうに笑った。



***



「眠い……」


 お風呂に入り後は、瑞季と星を見るだけ。今寝たら約束を破ってしまう。まぁ、瑞季なら明日また見ましょうとか言って許してくれそうだけど。


 寝る準備を済ませ、何をしようかと考えているとコンコンと音がした。


「碧くん、お風呂から上がりましたので縁側に出ましょう」

「おう、ちょっと待ってくれ」


 寒いと思いフード付きのジャンバーを着て襖を開けた。すると目の前にお風呂上がりで寝巻きを着ている瑞季の姿があった。


「碧くん……?」


 お風呂上がりのせいか瑞季の雰囲気がいつもと違うような気がする。


「ご、ごめん、あまりにも可愛くて見とれてた」

「そ、そうですか……」


 瑞季は、顔を赤くして下を向く。その仕草も可愛く見える。


「じ、実はこの服は碧くんに可愛いと言ってもらえるかと思って買った服なんです。に、似合ってますか?」


 お、俺に可愛いと言ってもらうためだけに!? 


「似合ってる」

「それなら良かったです。えっと……行きましょうか」


 縁側に出て空を見上げるとたくさんの星が輝いていた。


「綺麗だな……俺らが住んでるところでは絶対見れないやつだ」

「そうですね、自分の家からは見られないです」


 うっとりと星を眺めるいると彼女が着ている服が薄いことに気付いた。


「瑞季、風邪引くからこれ着とけ」


 自分が着ていたフード付きのジャンバーを脱いで彼女の肩にかけた。


「ありがとうございます」


 肩にかかったジャンバーが落ちないように彼女はぎゅっと服を握った。


 縁側に座り、肩を寄せあって星を眺めるこの時間はとても心地よかった。ずっとここでこうしていたいと思ってしまうほど。


「前にさ瑞季が頑張ることに意味はないって言った時、あの人って言ってたけどあの人って誰か教えてもらえる?」

 

 あの時は何となく聞いてはいけない気がして聞けなかったけど、彼女のことを知りたいと思い聞いてみることにした。


「お母さんのことです。お母さんは、昔から私のことを見てくれません。興味がないんでしょうね」


 そう言って彼女は、寂しそうな表情をするが心配をかけないようにするためか無理やり笑みを浮かべる。


「お母さんにちょっとでも見てもらえるよういろんなことを頑張ってきたつもりですが、褒められたこともありませんし、一度も私に興味を示したことはありません」

「もしかして、頑張ることに意味がないってお母さんに見てもらえないなら意味がないっていう意味だったのか?」

「はい……。ですが、頑張って碧くんに頑張ったねと褒めてもらえるようになってから意味がないわけがないんだなって思えるようになりました」

「碧くんといることで私は私でいられます」


 彼女と放課後、よく会うようになったのはちょうど1年前。甘えたいという希望に答えて始まった不思議な関係。


 そう言えば……瑞季っていつから俺のことが好きになったのだろうか。


「瑞季は、いつから俺のこと好きになったんだ?」

「去年の文化祭です。そこから私は碧くんにアピールしてました」


 もしかしてスキンシップが多いなと感じだしたあの時からだろうか。距離が近いなと感じていたが、嫌でもなかったので何も言わなかったが。


「碧くん、カッコいいですし、他の人に取られるんじゃないかと思って実は少し焦ってました」

「カッコいいって俺モテたことないし。それを言うなら瑞季の方がモテるだろ。好きな人結構いるし」


 入学式から注目されていた瑞季は、クラスの半数が彼女に興味を持っていた。


「そうですね、モテているといっても好きになれそうな方は今までいませんでしたね。碧くん以外は」


 瑞季は、真っ直ぐと俺を見つめてきた。シーンと静まり返ったこの場所は、虫が鳴く声がよく聞こえる。


「瑞季」

「碧くん」


 お互いに名前を呼び合い、そしてゆっくりと唇を重ねた。3度目のキスは、少し長かった。瑞季は、そっと俺の手の甲に自分の手を重ねた。


 唇を離した後、瑞季は俺に抱きつき、目を閉じた。


「碧くんといると落ち着きます。大好きですよ」

「うん、俺も瑞季のこと好きだよ」


 彼女の頭を優しく撫でると瑞季は、小さく笑った。



***



 瑞季におやすみと言って部屋に戻った俺は、布団に寝転がりテーブルに置かれていたリモコンを手に取る。


 すると、襖の向こうから碧くんと名前を呼ばれた気がしたので襖を開けるとそこには枕を持った瑞季がいた。


「どうした?」

「あ、あの、一緒に寝てもいいですか?」

「い、一緒に……?」


 男女で寝るとかそれは問題じゃない? 付き合っているといっても一緒に寝るのはいろいろもダメな気がする。


「だ、ダメですか? 広い部屋で1人で寝るのは何だか寂しいです」


 確かに1人で寝るには広い部屋だ。寂しく感じるのもわかるけど。


「不安にならないのか?」

「この前、碧くんの家で一緒に寝たじゃないですか。なので問題ないかと……」


 寝れるだろうか。瑞季と一緒に寝るとなったらちゃんと寝れる気がしない。


「わかった。一緒に寝てもいいが布団持ってこような」

「はい」


 彼女は嬉しそうにそう言って自分の部屋から布団を運んでくる。敷くのが大変そうなので少し手伝った。


「近くないか?」

「寂しいので近くにしました。ダメですか?」

「いや、瑞季がそうしたいなら」

「では、寝ましょうか。おやすみなさい」

「うん、おやすみ」


 俺も瑞季と一緒で星を見た後から1人でいると寂しい気持ちになっていた。だからこうして隣に瑞季がいてくれたので寂しくなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ