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では、困った時は、鴻上くんを頼ります

 3連休1日目。瑞季と新幹線、バスを利用し、清美さんの家へと向かった。家に着くと先来ていた長谷部さんと会った。


「久しぶり、瑞季ちゃん、鴻上くん。最近、お店に来ないから会いたかったよぉ~」

「こんにちは長谷部さん」 

「光さん、早かったですね。私たちより遅れてくると言っていた気がしますが……」

「早く来ちゃった。ほれほれ、2人とも部屋用意したから荷物置いてきなよ」


 長谷部さんにそう言われ、俺と瑞季はお邪魔しますと言って家の中へと入る。すると清美さんがキッチンの方から出てきた。


「瑞季、鴻上くん、待ってたよ。部屋は、突き当たりの部屋に用意したからついておいで」


 清美さんからそう言われて俺は、まさかな……と思いながらも瑞季と一緒に後をついていく。


「ここだよ。光とお昼ご飯の準備をしてくるから荷物を置いたらおいで」


 部屋を案内して終わった清美さんはこの場から立ち去った。俺と瑞季は、和室の前で荷物を持って立ち尽くしていた。


(んん? これは、そのまさか?)


 案内された場所は1部屋。これは、一緒にこの部屋を使って寝泊まりするということだろうか。


「部屋はまだあるはずなのになぜお婆様は一緒の部屋に……。碧くんは、その部屋を使ってください。私は隣の部屋を使いますので」

「あっ、うん……」


 ドキドキ展開になる夢は一瞬で失せ、少し残念だったが、一緒に瑞季と寝たら絶対に一睡もできないだろうしこれでいいのか。 


 部屋に入り、荷物を置いてから瑞季とキッチンへ向かい、手伝いにいった。そして瑞季、清美さん、長谷部さん、そして俺の4人でお昼を食べた。


「ごちそうさまです。美味しかったです」

「それは良かった。ところで2人は今から何する予定なのかね?」


 清美さんからそう問われて瑞季と顔を見合わせた。特に何かをしようとは決めていない。けど、何もせず過ごすのは何だか勿体ない気もする。


「予定……碧くん、私のオススメスポットにでも行きますか?」

「オススメスポット?」

「はい、いつもここに来たら行く場所があるんです。碧くんにも見てもらいたいです」

「じゃあ、そこに行くか」


 俺と瑞季がそう話していると目の前で長谷部さんがニヤニヤしながらこちらを見ていた。


「光さん?」

「何か前会った時とは雰囲気が違うような……」


 そう言えば長谷部さんには付き合い始めたことをまだ伝えていなかった。それを思いだし、瑞季は、長谷部さんに伝える。


「光さん、実は碧くんと夏休み前から付き合ってます」

「えぇ~!? 私、聞いてない! 夏休み前から? かなり前じゃん!!」


 長谷部さんと最後に会ったのは告白する1時間前。瑞季がすでに話して知っていると思っていたが、どうやら知らなかったようだ。


「けど、やっとかぁ~。イチャイチャしてるのに何で付き合わないのかなってずっと思ってたからさ」


 長谷部さんの言葉に瑞季は、顔を赤くして首を横に振った。


「い、イチャイチャしているつもりはないです。ただ、碧くんに甘えていただけです」

「それをイチャイチャしてるって言うんだよ。それよりほら、碧くんがそろそろ行きたいなぁみたいな顔してるから行っておいで」

 

 そろそろ行きたいなぁみたいな顔ってどんな顔なんだよ。別に早く外に出たいからってイライラした表情をしたわけでもないし、早く行こうよとも言ってない。


「では、行ってきます。夕飯までには帰ってきますね」

「行ってらっしゃい~。お婆ちゃん、この前の続き聞かせて! あの、若いときやってたやつ」

「あ~あれか」


 行ってきますと言ってこの部屋から出ようとしたその時、長谷部さんと清美さんの会話が聞こえてきた。


(清美さんが若いときにやってたやつが気になるな……長谷部さんが食いつくような話ってことは絶対普通じゃない話な気がする)


「碧くん、どうされましたか?」

「いや、何でもない。行こっか」

「はい。案内は任せてくださいね」


 靴を履いて玄関の鍵を閉めた後、瑞季は、俺の前に手を差し出したのでその手を優しく握った。


「ここ、夜は、綺麗な星が見えるんです。一緒に見ましょうね」

「星が見れるのか?」

「はい。星といえば碧くんとは一度一緒に見たことがありますね」

「そうだな……」


 あれはまだ瑞季とそこまで話せるような関係ではなかった時。夜7時にお使いを頼まれ、スーパーに行き、会計を済ませた後、同じく会計が終わりスーパーから出る彼女と出会った。


「あっ、鴻上くん。こんばんは」

「こ、こんばんは……」


 見慣れない私服に俺は、ドキッとしてしまい声が上擦った。出口の前で立ち話すると邪魔になるので俺と露崎は、スーパーから出た。


「家、ここから近いんですか?」

「うん、お使い頼まれてさ。露崎は?」

「私も家、ここから近いですよ。私はお使いではなく明日の夜ご飯を買いに」

「そっか……」


 じゃあまた学校でと言って立ち去ろうとしたその時、露崎が口を開いた。


「今日は、星がよく見えますね」

「……そうだな」


 露崎が星がよく見えると言われるまで気付かなかった。空を見ることなんてほとんどないからな。


 隣を見ると彼女は、嬉しそうに星を眺めていた。


「露崎ってそんな顔するんだな……」

「それはいい意味で言ってるのですか?」

「もちろん、いい意味だ。自然って感じでそっちの方が俺は好きかな」

「そうですか……。ありがとうございます」


 彼女は嬉しそうに笑うが俺は、なぜお礼を言われたのかわからなかった。


「自然ということは学校での私は嫌いですか?」

「いや、嫌いではないけど何か……」

「何か?」


 ここでこの先の言葉を露崎に言ってしまえば彼女を悲しませる気がして言わないことにした。


「いや、何でもない。無理だけはするなよ」

「……無理してませんよ。心配ありがとうございます、鴻上くん」

「嘘つき」


 ペチンと彼女の額を指で軽く弾いた。すると露崎は、痛っと言う。


「痛いです、鴻上くん」

「ごめんごめん。何もかも1人で頑張らないでいいから困ったら俺でもいいから頼れそうな人に頼れよ。人間、そんなに強くないんだからさ」

「……では、困った時は、鴻上くんを頼ります」


 露崎ならもっと他に頼れそうな人がいそうだが、彼女は俺を頼る相手にした。


「ん、わかった。じゃあ、また明日」

「はい、また明日です」


 あの日の夜の会話は今でも覚えている。瑞季は、覚えているのだろうか。


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