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久しぶりに敗北感を味わった気がします

 文化祭2日目。当番はなく、今日は1日中フリーだ。瑞季とまず向かった先は隣のクラスの『アクセサリー作り』。


 瑞季が作っているところを見ているだけで良かったのだが、そのクラスの人がやりなよと進められ、俺もやることになった。


「碧くん、お互いに作るのはどうですか? できたら後で交換しましょう」


「わかった。瑞季のために似合うブレスレットを作るよ」


「私も碧くんに似合うブレスレットを作りますね」


 俺と瑞季の会話を聞いてたこのクラスの生徒が温かい目で2人を見守っていた。


「露崎さんってそんな顔するんだね。もっとお堅い人かと思ったよ。鴻上くんと付き合ってるって友達から聞いたときは驚いたけどお似合いだね」


「ありがとうございます」


 アクセサリーの作り方を教えてくれた去年同じクラスだった女子にそう言われた瑞季は、嬉しそうに笑う。


 お似合いか……。瑞季の近くにいて頼りない男とか思われているかと思ったが、そう言われてもらえるとかなら嬉しいもんだな。


「できました。どうぞ、碧くん」


「俺もできた。はい、どうぞ」


 作ったものをお互い交換し、瑞季は、さっそくもらったものを手首につけていた。


「可愛いです。碧くん、私がつけましょうか?」


 えっ、俺もつけるの?と思ったが、文化祭中ぐらいつけていてもいいのでは?という結論に至りつけてもらうことにした。


「じゃあ、お願いします」


「わかりました」


 彼女の前に手を出すと、彼女がサイズを合わせて紐を結んでくれた。


 それを見たこのクラスの生徒からじっと見つめられていたので何かと思えば近くからこそこそと会話が聞こえてきた。


「羨ましっ。露崎さんにつけてもらうとか」

「ちょっと、声でかい。彼氏特権なんだからあんたには一生露崎さんにやってもらえないからね」

「なんか結婚指輪つけてもらってるみたい」

「いや、それは逆だろ」


(彼氏特権……そうか、これは彼氏特権なのか)


「はい、つけ終わりましたよ」


 会話を聞いてるとつけ終わったみたいで瑞季が手を離す。


「ありがと。じゃあ、次行くか」


「はい」


 作り終えたので教室から出ようとするとこのクラスの生徒に引きとめられた。


「あの、それつけて是非このクラスを宣伝してください」


「えっ……?」


「つけてるだけでいいんです」


「はぁ……」


 よくわからないことを言われて教室を出た後は、上の階に行っていろんなゲームで遊べるところに行くことにした。


 高校の文化祭は中学の延長みたいなもので出し物に食べる系は一切ない。だが、体育館では演劇や文化部の発表。各クラスではゲームやアトラクション系、物作り体験などがたくさんあった。


「水槽の中にあるこの小さなガラスのコップにコインを入れたら100点。両サイドにあるやつは、50点。で、1番大きいやつが10点ね」


 1年生が丁寧にゲームの説明してくれて、瑞季と俺はコインを3枚受け取った。


 チャンスは3回。やり方はさっき説明してくれた通り、コインをガラスのコップに入れるだけの簡単なゲームだ。3回できるので満点は300点。

 

 景品とかは特にないが、やるからには300点を目指そう。


「碧くん、せっかくなんで勝負しませんか? 得点が低い方が飲み物を奢るということで」


「いいよ、その勝負乗った」


 瑞季からそんな提案が来るとは思わなかったが、勝負事が合った方が盛り上がるだろう。


「じゃあ、1枚目いきましょう」


 一番小さなコップをめがけて上からコインを落とす。右、左、右、左とゆらゆらと揺れながらコインは落ちていき、最終的にコップの横に落ちた。


「碧くん、どうでしたか?」


「入らなかった。瑞季は?」


「私も一番小さなコップにいれようとしましたが、やはり難しいですね」


 瑞季も最初は小さなコップに入れたらしい。まぁ、チャレンジしたくなるよな。


 その後、2回、3回とやり、結果俺の方が得点が高かった。


「悔しいです。久しぶりに敗北感を味わった気がします」


「惜しかったな」


 悔しがる彼女の頭を撫でるが、相当悔しかったのか瑞季は教室を出てからなぜ上手くコインが入らなかったのか考えていた。


「私が負けましたし、奢ります。何がいいですか?」


「いいよ、瑞季に奢ってももらうわけにはいかないし」


「ダメです。私は、負けたんですから」


「……じゃあ、炭酸で」


「わかりました」


 瑞季は、自販機に寄り炭酸を買う。そして自分の分も買って俺のところに戻って来た。


「どうぞ」


「ありがと。そう言えば瑞季ってりんごジュースよく飲むよな。好きなのか?」


「好きですよ。美味しいじゃないですか」


「んー、俺はあんまり飲まないからわからないな。けど、瑞季が好きなものは好きになりたいし今度飲んでみようかな」


「では、私は碧くんが好きな……何が好きなんですか?」


 瑞季は、俺が飲んでいたものを頭に浮かべたが、いつも飲むものをコロコロと変えており俺が何を好きなのかわからなくなっていた。


「俺は、コーヒーか炭酸系かな」


「コーヒーは、私の口には合わないようなので炭酸をチャレンジしてみます」


 相手が好きなものを好きになりたい。一緒に食べたとき飲んだ時に共感したいからこそそう思う。


 瑞季のこと少しずつでいいからもっと知りたいな。一緒にいてもまだ俺は、彼女のことを知れていない。


「碧くん、この後ですが、他クラスのおばけ屋敷に行きませんか? ライバルクラスがどんな感じにやっているか気になります」


 なんかいつの間にか同じおばけ屋敷をやっているクラスをライバル視しちゃってない?


 まぁ、確かに他のクラスのおばけ屋敷は気になるな。


「おばけ屋敷って瑞季は、大丈夫なのか?」


「大丈夫です、碧くんがいますから。碧くんがいると私は何だってできる気がするんです」


 瑞季は、そう言って俺の手をぎゅっと握ってきた。


「わかった。けど、無理ならハッキリと無理って言うんだぞ」


「わ、わかりました」

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