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雨宿り

 教室から何かが倒れる音がした原因は、どうやら脅かし方が凄すぎて作った小道具が全部倒れたらしい。


 接客練習が終わったら解散となっていたが、俺達のクラスは残って、倒れたものを本番でも倒れないように工夫し、準備し直していた。


「何があったらああなるんだよ」


 中で脅かす役をしていた香奈に聞くと彼女は腕を組んでふっと笑った。


「おばけ屋敷だからって気合い入れて脅かしたら相手が予想以上に驚いてくれて、そしたらその驚きに私達も驚いちゃってさ。中はかなりカオス状態だったね」


「一体どんな脅かし方したんだよ……」


「香奈、本番は抑えめでお願いらしい。さやかからの伝言な」


 同じ脅かさす役である陸斗が香奈にさやかの変わりに伝えに来た。


「オッケー。抑えめでいくよ」


「抑えめね……」


 そう呟くと廊下で瑞季がクラスメイトと話しているのが目に入った。相手が女子なら何も思うことはなかったのだが、相手が男子だったためモヤモヤした。


 瑞季がいろんな人から話しかけられて談笑することはよくあること。前までは気にならなかったんだけどな……。


「ん? 碧、もしかしてみっちゃんが他の男子と話してるからって嫉妬してるの?」


 俺の顔を覗き込んできた香奈は、ニヤニヤしながらそう尋ねてきた。


「してない」


 少しモヤッとしただけ。瑞季が他の男子と話す、話さないは、彼女の自由だ。






***






 文化祭1日目。当番日だったので今日は1日教室の前に座って瑞季と受付係をする。


「3名ですね。では、どうぞ」


 瑞季は、教室のドアを開け、そして来てくれた客を入れる。


「結構来てくれるな」


「そうですね。おばけ屋敷は、私達のクラス以外に2クラスありますが、どのクラスも同じくらい人が来ているらしいです」


 3クラスのおばけ屋敷をすべて行っている人達が何人かいるみたいだ。


「瑞季は、どこのクラスに行きたいとかある?」


「隣のクラスのアクセサリー作りが少し興味あります」


「じゃあ、明日は最初にそこに行くか」


「いいのですか?」


「瑞季が行きたいなら俺も付き合うよ」


「では、碧くんもどこか1つ行きたいところを考えてといてくださいね」


「わかった」


 どこか1つ、といっても俺が行きたいところを選んでしまうと瑞季が楽しくないと思ってしまうかもしれない。 

 

 生徒会が作った文化祭の出し物一覧を見ていると次のお客さんを案内しなければならないので一旦考えるのをやめた。


「やーやーお嬢ちゃん。当番やめて私と回らない?」


 受け付けに来て瑞季にそういったのは晃太との文化祭デート中である香奈だった。


「瑞季、香奈のいうこと聞くんじゃないぞ」


「わかってますよ。当番を放棄したりしません」


「偉いよ、みっちゃん!」

 

 香奈は、ニコニコしながら瑞季の頭を撫でる。それを見ていると前から視線を感じた。


「何だよ、晃太」


「何も言ってないけど。で、瑞季さんと楽しくやってるのか?」


「楽しくやってるよ。そっちは?」


「結構いろんなクラス回ってきた。碧には、2年のフォトスポットとかオススメする」


「フォトスポットか……」


 いいなと思い、頭の中で絞っていた候補が増えた。まぁ、時間があれば行けるだけいろんなところに行けばいいか。


 文化祭1日目が終わり、脱ぐのも面倒なのでクラスティーシャツを着たまま帰ることにした。


「碧くん、同じ服着てますし、一緒に撮りませんか?」


「うん、いいよ」


 渡り廊下には人がいなかったのでそこで立ち止まり撮ることにした。数枚撮った後は、下駄箱へ向かう。


「碧くんとお揃いってなんか嬉しいです。といってもクラスメイトも同じですけどね」


 ふふっと笑う瑞季の笑顔に俺までも小さく笑ってしまう。彼女の笑顔を見ていると彼女を大切にしたいなという気持ちが強くなっていくのがわかる。


「雨降ってきましたね。碧くん、傘持って来ましたか?」


 学校を出ようとすると雨が降り出してきた。瑞季に言われてカバンから折りたたみ傘を探すが、見つからない。


 朝、荷物減らそうとしたから置いてきてしまった。こんなときに限って必要になるんだよな……。


「忘れたみたい。学校傘貸してくれたっけ?」


「どうでしょう。もし、よろしければ私と同じ傘を使いません?」

 

「けど、濡れないか?」


「大丈夫ですよ。くっつけば何の問題もありませんから」


 




***






「碧くん、耳真っ赤ですよ」


「気のせいだ」


 こんなの平常心でいられるか。雨の中、女子と同じ傘に入るシチュエーションに瑞季との距離はほぼ0距離。ドキドキしぱっなしだ。


 俺の方が身長が高いので俺が傘を持つ。


「もう少し寄らないと濡れますよ」


 瑞季が濡れないよう彼女の方に傘を寄せると瑞季が手を後ろから回し俺を引き寄せた。


「雨、強くなってきましたね。どこか雨宿りしますか?」


「そ、そうだな……。どこか雨宿りしよう」


 このままじゃ理性が持たん。ここが公共の場でなければ彼女への気持ちが抑えきれず思うままに行動していただろう。


 近くにある公園で雨宿りできるようなところがありそこで雨がやむまで待つことにした。


「服が濡れてしまいました……」


 イスに座った瑞季は、濡れた服をハンカチで拭いていた。


「風邪引くからこれ着とけ」


 暑くて着ていなかったセーターを瑞季に渡すと彼女は、セーターを見つめてそして着た。サイズが合わずだぼだぼだったので可愛いと心の中で呟いた。


「碧くんの服大きいですね。碧くんに抱きしめられる感じがして安心します」


「瑞季って、そういうことさらっと言うよな」


 俺は、彼女の隣に座りそして自然と肩を寄せ合った。手と手が重なりあい彼女の温もりを感じた。


「雨が降って寒いはずなのに人の温もりはこんなにも温かいんですね」


 彼女が俺に対して無防備なのは俺のことを信頼しているから。甘えるのは、寂しさをなくすため。彼女は1人で何かと頑張ろうとするが、それは無理してやっているだけ。


 途中で限界が来たからこそ瑞季は、俺に甘えることで何とか今日までやってきたのだろう。


 肩に寄り添っていたが、だんだん前へうとうとしてきた。そして瑞季は俺がいることにより安心感があったのか膝へポスッと倒れてきた。


(無防備すぎる……)


 このまま時が止まればなと思うほどこういう瞬間は、一番の幸せを感じる。

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