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私の側にいて守ってください

 小さい頃から仲が良かった。かといってケンカは多く、言い争いは何度かした。幼稚園、小学校と同じだったが、中学は別だった。


「さやかも同じ高校受験してたんだな」


 高校1年、そう言って話しかけてくれたのは幼なじみのような存在である田部陸斗。


「あーうん、陸斗もなんだ」


 中学時代、家は隣同士だったが、話す機会はほとんどなかったため少し気まずい。

 どういう感じで陸斗と話していたか思い出そうとしたが、緊張してしまう。


「じゃあ」


 陸斗はそれだけ言って男子が集まっているところへ行ってしまう。


 もう少し話したかった。けど、何を話せばいいのかわからず私は、彼の背中を見つめていた。


「さやか、一緒に帰ろ~」


「あっ、うん」


 私は幼稚園の頃から陸斗のことが好き。けど、一度も好きとは本人には言ったことはない。


 中学は違う学校だったけど好きという気持ちはまだ変わっていない。またあの頃みたいに話せるようになるかな。





***




 

 文化祭準備でパネル作りのため空き教室で作業していた俺と瑞季は、無言で板に色を塗っていた。

 香奈と晃太は、他の作業の助っ人にいき、今はいない。


「碧くん、そこの絵の具取ってください」


「はいよ」


 一度板から筆を離して、近くにあったピンク色の絵の具を渡した。  


「ありがとうございます」


 ん〜疲れた。ちょっと廊下出てついでに飲み物でも買ってくるか。


 瑞季にちょっと行ってくると声をかけたが彼女は、集中しているのか「はい」というだけで手を止めなかった。


 少しは休憩したほうがいい気がするが、まぁ、やっていて楽しそうだからいいか。


 戻ってくると瑞季は、作業をやめ、窓からグラウンドを見て風に涼んでいた。


「瑞季、お茶で良かったか?」


「あっ、ありがとうございます」


 瑞季は、俺に気付き、2本買っていたので瑞季に1つ渡した。受け取ると瑞季は、さっそく飲む。

 

「文化祭のことなんだけどさ……俺と一緒に回らないか?」


 告白したときぐらいに緊張したので少し声が上ずった気がする。


「えぇ、もちろんです。私も碧くんと回らないかと誘うつもりでしたよ」


 文化祭は2日間。1日目は、当番があるため他のクラスに回ることはできないだろう。


「文化祭デートですね」


 嬉しそうに瑞季が俺の手を取り、そうだなと言おうとしたが……。


「あっ、鴻上くん、露崎さん、そろそろ下校時間だから片付けを……って、ごめんね、お邪魔しちゃって」


「お、お邪魔ではありません。碧くん、片付けしちゃいましょうか」


 クラスメイトに見られて恥ずかしかったのか瑞季は、急いで片付け出す。


「そうだな。俺は、パレット洗ってくる」


「お、お願いします」


 片付けを終え、教室にカバンを取りに行き、瑞季と学校を出た。今では自然に手を繋いでいることが多い。折れるんじゃないかというぐらい小さい手をぎゅっと握る。


「陽菜乃さんから聞きましたが、碧くんは中学時代に生徒会長をやっていたそうですね」


 何、勝手に話してんだよ、母さん。俺が知らないところで話されてるってことはおそらくメールでやり取りしているのだろう。


 生徒会長は、なりたくてなったわけじゃない。父さんからなれと言われたからだ。生徒会長になるにはまず周りからの信頼が必要だと思い、俺は、ある日からやらないようなことをやり続けていた。皆、平等に接し、周りから信頼される生徒を演じ続けた。


 だが、そういうのは長くは続かない。どこかで心の限界がくるから。


「やってたけど生徒会とかめんどくさいから高校ではやらないかな」


「そうなんですね」


 家の前まで着き、瑞季が手を離した。


「あっ、また家に来たかったらいつでも言って。母さんが会いたがってるからさ」


「陽菜乃さんがですか?」


「うん、母さん、瑞季のこと気に入ったみたいでさ」


「そうなんですね。迷惑でなければ近いうちに行きたいです」


「わかった、母さんにはそう伝えとく。瑞季、また明日」

 

「はい、また明日です」

 

 笑顔で手を振ったので俺は、振り返した。


 瑞季といるようになってから彼女が変わるとともに俺も変わった気がする。具体的にどこかとはわからないが、考え方が明るくなった。瑞季が隣にいてくれると自分に自信が持てる。





***




 文化祭準備の最終日。当日に向けて今日は本番に近い接客の練習を行っていた。


「何名様ですか?」


 中で脅かす役は嫌なので瑞季は、受付係になったのだが、客役の人達がちゃんとやってくれない。


「あ、あの、一緒に入ってくれたりしませんか?」

「可愛い受付係さんも一緒に入ろうよ~」   


 だが、瑞季は、天使のスマイルでニッコリと微笑む。


「ごめんなさい、そういうサービスはここではありません」


「そっかぁ~。残念だよ~」

「露ちゃん、2名行ってくるね」


 2人は、諦めたのか教室の中に入っていった。すると教室から悲鳴が聞こえてきた。脅かす役は相当気合いが入っているな。


 廊下で瑞季の受付を見ていたが、やはり心配だ。


「瑞季、やっぱ受付やめて他の係にしないか? 瑞季、可愛いし他の男子に絡まれそう」


「もう、そんなに心配しなくてもそういう人は、全員追い払います」


「追い払うって……」


「では、碧くんも一緒に受付係を。私の側にいて守ってください」


「わかった。支倉さん、それでもいいかな?」


 近くで立っていた文化委員の支倉さんに受付をもう1人増やしてもいいかと尋ねる。


「うん、いいよ。中の人手余裕で足りてるから」


 そう言ったその時、教室の中から何かが倒れる音がした。


「えっ、何事?」


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