夏祭り
「お待たせしました。こんばんは、碧くん」
待ち合わせである近所の神社で彼女を待っていると浴衣姿の瑞季が俺のところに来た。
彼女は言っていた通り、花柄の白い浴衣で着て髪型は、お団子ヘアだった。これでドキッとしないわけない。
「浴衣、可愛いな」
「ありがとうございます。碧くんこそいつもよりカッコいいです」
「ありがと」
お祭りにはたくさん人がいて迷子になるだろうから手を繋がないかと提案しようとしたが、自然と彼女と指を絡めて手を繋いでいた。
「瑞季、何か気になる店があれば言って」
「わかりました」
しばらく歩いていると瑞季がたこ焼きを食べたいとのことで買って人が少ないところへ移動した。
「はい、先どうぞ」
「い、いえ、割り勘しましたし、碧くんが先に」
「はい、あーん」
つまようじで差したたこ焼きを瑞季の口元へ持っていくと彼女はパクっと食べた。
「碧くん、ひどいです」
「俺、何もしてないけど。美味しかった?」
「えぇ、美味しかったです。碧くん、仕返しです、はい、あーん」
差し出されたたこ焼きを食べたが、まだ冷めておらずちょうど良かった。
「ん、美味しいな」
そう言うと瑞季は、頬を膨らませていた。俺が普通に食べたことが気に入らなかったのだろうか。
「碧くん、これ食べ終わった後は碧くんが行きたい屋台に行きましょう。どこか気になる屋台はありましたか?」
「そうだな……」
食べてばっかりというのも面白くないのでゲーム系がいいな。
「瑞季、輪投げと射的。どっちがいい?」
「そうですね。輪投げが……って、私が選ぶのはダメだと。碧くんが屋台を決める番ですので」
どっちがいいと聞かれて瑞季は、素直に答えたが、慌てて言葉を取り消そうとする。
「じゃあ、輪投げ行こっか」
「それはさっき私が言ったからですか? それとも本当に輪投げがやりたくて……」
「さぁ、どっちだろう……。じゃ、輪投げしに行くか」
輪投げをやっている屋台へと向かい、俺と瑞季は、挑戦するが、何も取れずに終わってしまった。
「あの距離で列を揃えるなんて難しすぎます」
「それは俺も思った」
「悔しいですね。碧くん、射的もやってみませんか?」
「いいよ、やったことないからやって見たかったし」
瑞季が射的をやりたいとのことで輪投げの屋台から射的の屋台へと移動した。
***
屋台を楽しんだ後は、自販機で飲み物を買って神社から離れた公園へ行くことにした。
「楽しかったですね。碧くん、本当に射的は初めてなんですか?」
瑞季は苦戦して何も取れなかったが、俺は、瑞季がほしいと言ったクマのストラップを落とすことができた。
「うん、初めてだよ」
「初めてにしては凄かったです。碧くんからもらったこのクマのぬいぐるみのキーホルダーは大切にしますね」
大切にクマのぬいぐるみのキーホルダー持つ瑞季の姿に俺は、見とれてしまった。
「ブラックコーヒーだけど飲んでみるか?」
「コーヒー、苦くないですか?」
「まぁ、苦いな。飲んだことないの?」
「ありませんよ。大人な飲み物って感じがしますし、もし、碧くんがよろしければ飲んでみたいです」
瑞季がそう言うので缶コーヒーを渡すと彼女は、受け取り一口飲んだ。
「に、苦いです……」
「瑞季には合わなかったか」
「碧くんは、平気なんですね。コーヒー好きなんですか?」
「まぁ、好きかな。さて、そろそろ帰らないと親に怒られそうだから帰るか」
今日は父さんが、早く帰ってくると朝、盗み聞きしたので早く家に帰らないとまたうるさく言われる。
「そうですね。帰りましょうか」
「家まで送るよ」
「ありがとうございます」
公園から瑞季の家まで着いていき、そこで別れるはずだった。だが、なぜか今、俺は彼女の家の中にいる。
「君が鴻上碧くん。画面越しより直接会った方がイケメンね。ほらほら、飲みなさいな」
「あ、ありがとうございます」
ありがたく淹れてもらった紅茶を飲む。隣で瑞季は、すみませんと申し訳なさそうに謝る。
なぜこうなったのかというと瑞季の家の前まで行くと家の中から瑞季のお婆さんが出てきてほぼ無理やり中に入れられた。
まさかこんな形で彼女の家に入れるとは。家には瑞季とお婆さんだけで母親と父親はいなかった。
「どうかされましたか?」
「いや、お婆さんと2人暮らし?」
「いえ、お父様は仕事です。お母様とはわけあって別々に住んでいます。お婆様は、なぜかまだいます」
中々帰らん方なんだな。けど、父親の仕事が遅いとなると誰か瑞季の側にいてくれるのは安心する。
「帰ろうと思ったけど、夏休みが始まったらしいからもう少し瑞季といたいと思ってね。あー、私のことは清美でいいわよ」
俺と瑞季の会話が聞こえていたのか瑞季の清美さんはそう言う。
「寂しくないな」
「そうですね……。あの、碧くん、お誕生日おめでとうございます」
持ってきたカバンから瑞季は、何かが入った袋を俺に渡す。
「ありがとう……凄い嬉しい」
「中は、手作りお菓子です。感想聞かせてくださいね」
「うん、食べたら言うよ」
彼女からの誕生日プレゼント。翌日食べたが、美味しすぎて速攻瑞季に感想を伝えた。
***
家に帰ると父さんは、まだ帰っておらず少しホッとした。自室へ行くと香奈から電話がかかっていることに気付きすぐにかけ直す。
「なんだ?」
『あっ、やっと出た。夏休みだからみんなで花火したいなぁ~って思うんだけどどう?』
「いいんじゃないか? 去年もやったよな?」
『うん、やったね。今年も私の家の庭でやろっ。今度はみっちゃんも誘ってね』
「で、俺が誘えと」
『うん、彼氏さんだし。ところで夏祭りデートはどうだった?』
どうだった? 俺は、一言も香奈に瑞季と一緒に夏祭り行ったことは言ってはないんだが……。
「もしかしてだけど、来ていたのか?」
『ん~どうだろうね。手繋いでいるカップルは見かけた気がする』
「来てたんだな……」
『じゃ、よろしくね~』
「わかった。聞いておくよ」
香奈との通話が終わり、俺は大きなあくびをした。
今日は、早起きして眠い……お風呂入って早く寝よう。




