大丈夫……どこにも行かないから
夏休みが始まってから1週間。家に瑞季が来て一緒に夏休みの宿題をしていた。
一緒に夏休みの宿題をしようから始まって、俺の家でやろうと彼女を誘い、現在に至る。
目的は夏休みの宿題。なので残念ながらラブコメ的な展開もなく、イベント発生もない。ただ時間が過ぎていくだけだ。
俺ばっかりこんなに変な期待してたら瑞季に後で怒られそうだ。瑞季は、何も思っていないのだろうか。
ちなみにお母さんはお出かけ。そして父親は仕事。つまり二人っきり。何をやっても誰もみてないこの状況……このまま時が流れて終わってもいいのだろうか。
「碧くん、集中してますか?」
隣で集中して宿題を進めていた瑞季は、人差し指で俺の頬にぷにぷにしながら聞いてきた。
「し、してるけど……」
「そうですか。集中したらご褒美あげますから頑張ってくださいね」
「ご褒美?」
「ご褒美がわかってしまったら碧くんはおそらく集中しないでしょうし、今は言いません」
いや、それは逆では? ご褒美が何かが気になって勉強に集中できない。だが、ここで頑張らなければご褒美の内容すらわからずに終わってしまう。
よし、何とか終わらせよう。
2時間ほど集中して決めていたところまで終え、俺はうんと背伸びをした。ずっと同じ姿勢でいたから体が痛い。
「終わりましたか?」
「まぁ、後は英語だけだな。こんなに早く夏休みの宿題が終わったのは初めてだ」
いつもなら最終日ギリギリまで宿題に手をつけない。なんかやる気でないんだよなぁ……。
「早く終わると夏休みは自由に過ごせますよ。ちなみに私は先ほど全て終わらせました」
「マジか……さすがだな」
頭を撫でると彼女は嬉しそうな表情する。
「碧くんもよく頑張りました」
小さな手で瑞季は、俺の頭を優しく撫でた。ずっとこうされていたいと思い目を閉じると眠気が襲ってきた。
「眠そうですけど……」
「まぁ、今日は早起きしたからな」
瑞季が来るとなり朝はいつもより早くに起きた。
「では、一緒に寝ますか? ご褒美として今なら添い寝してあげますよ」
「いいのか?」
「もちろん。変なことをしないという約束が守れるならですけど」
「瑞季が嫌がることはしない。絶対に」
「それなら大丈夫ですね」
さすがに1階のリビングで寝るわけにもいかないので和室に1枚布団を引き、瑞季は先にそこに寝転んだ。
「碧くん、どうかされましたか?」
添い寝なんて展開に中々ならない。このチャンスを逃したらこんなこともうないかもしれない。けど、いざやるとなったら緊張するな。
無防備過ぎる彼女は、横をトントンと叩き待っていた。
1つ1つの仕草が可愛すぎて平常心が保てる気がしない。変なことはなにもしないって言ったけど……。
頭の中に天使と悪魔が出てきて俺は、動けないでいた。
『こんなに無防備な彼女を目の前にして何もしない!? あり得ないでしょ。このままキスするのよ、そしてその後はやらしいことをするべきよ。
もし碧くんがそういうことを求めるのなら言ってくださいねって瑞季ちゃん言ってたじゃん』と長谷部さんの悪魔の囁きが聞こえた。
『ダメだよ、碧。みっちゃんは、碧にそういうことはゆっくりやっていこうって言われたじゃん。キスはいいけど、その先はダメ』と天使の香奈。
キスはいいのか……? そうだよな、付き合って2カ月。してもいい気がする。
「ごめん、考え事してた」
「そうですか……少し遠くないですか?」
寝転んだもののやはり近くにいたら理性が抑えられそうにないので俺は瑞季から少し離れた位置に寝転んだ。
「そ、そうか? くっついてたら寝にくいだろ」
「そうですけど、私は、これぐらいがいいです」
そう言って瑞季は、後ろから抱きついてきた。
んん!? まさかの後ろからのハグ!? こんなの寝れるわけがないだろ!
「瑞季はそれで寝れるのか?」
「寝れますよ。碧くんの側にいると安心しますので」
瑞季はそう言うが、俺は先ほどから背中に当たるものが気になって仕方がなかった。
「瑞季、そういうことされると困るんだけど」
「困る? ところで碧くんは、先ほどからこっちを向いてくれないのはなぜですか?」
「……可愛い瑞季を見て寝ることは不可能なので」
「……では、手を繋いで寝てもいいですか? 離れて仰向けになって寝ますので」
それならいいかと思い、俺は仰向けになって寝転ぶ。すると瑞季が俺の手をぎゅっと握ってきた。
「碧くん、起きるまで隣にいてくださいね」
「うん、どこにも行かないよ」
***
目が覚めて1時間経ったことを時計で確認した。そろそろ起きないとと思い、瑞季の方に体を向けると瑞季は横を向いてすやすやと眠っていた。
「瑞季、そろそろ───っ!」
寝顔、可愛すぎる。ほっぺたをふにふにしてもバレないのでは?と思い、俺は彼女の頬を指でふにふにとつつく。
柔らかっ! ヤバい癖になりそう。
やり過ぎると彼女を起こして怒られそうなのでこの辺でと思っていると彼女が握っている方のてを少し強く握った。
どこか行くのではないかと思い不安になったのだろうか。
「大丈夫……どこにも行かないから」
そう言って手を繋いでいない方の手で頭を撫でると瑞季は、ニコッと笑みを浮かべた。




