プールか海がいい。決して彼女の水着が見たいわけではない
私は、お母さんに頑張ったねと褒めてほしい。そして自分のことをちゃんと見てほしい。だから、勉強もスポーツも努力したし、苦手なものも少しずつできるように頑張ってきた。
けど、お母さんの私への態度は変わらない。直接何か言われたわけではないが、私はずっと愛されてないのではないかと思っている。
テストで100点を取っても「当然でしょ」と言われて褒めてはもらえない。
あのクリスマスの時はたまたま私のお母さんが家に帰ってきていたが、基本私はお父さんと2人暮らしだ。お母さんは、お婆様の家に住んでいる。
別々に暮らしているのはお母さんとお父さんの仲が悪いからではない。原因は、おそらく私。お母さんが私と同じ空間にいたくないから。
体育祭、お婆様からお母さん連れていくわねと連絡が来て一瞬だけ嬉しくなった。けど、実際に来たのはお婆様だけだ。お母さんは、来なかった。
どんなに頑張っても意味はない。頑張るとどんどん自分を失っていく気がする。
やっても意味がないことを私はやっているのだろうか。
***
昼休み、ご飯を食べ終えた後、夏休みの話をしていた。
「瑞季、どうした?」
ぼっーとしている様子の彼女にお~いと声をかけると瑞季は、ハッとしたのか周りを見た。
「えっと……何を話してましたか?」
瑞季がぼっーとするなんて珍しい。何かあったのだろうか。
「夏休みの話だよ。みっちゃんは、どこに行きたい?」
「どこに……そうですね、夏なので海とかプールがいいです」
心配かけないよう彼女はいつものように笑顔で答えるが、俺は心配になった。
「やっぱプールいいよね~。みっちゃんの水着が見たい!」
「遊びたいじゃないのかよ」
「碧、ナイスツッコミ!」
「ツッコミを入れたつもりはない。で、結局どこに行くんだ?」
今のところ案で出ているのはプール、海、ショッピングモール、遊園地。俺は、基本どこでもいい。だが、暑いので涼しくなれるでプールか海がいいなぁみたいな感じだ。
ここでプールに行きたいと言ったら香奈は、さては水着が見たいから?とか言ってきそうなので言わないでおく。
「晃太はどこに行きたいとかあるか?」
瑞季と香奈が話している間、俺は晃太にどこに行きたいか尋ねる。
「そりゃ男子と女子が行くところとなればプールか海だろ。碧も露崎さんの水着見てみたいだろ?」
晃太にそう言われて俺は、頭の中で瑞季の水着姿を想像してしまった。
「今想像したろ?」
「してない」
何でいつも晃太は、俺の心が読めるんだ。俺がわかりやすい奴だからか?
「男子お二人さん、海でもいいかな?」
香奈は、瑞季の話し合った結果海に行くと決まったらしい。もちろん嫌なわけがないので俺と晃太は頷いた。
「じゃ、決まりだね。みっちゃん、帰りにショッピングモール寄って水着買わない?」
「えぇ、行きましょう」
「ショッピングモールか。なら、俺達も寄って帰ろうぜ」
「おう、わかった」
***
放課後、俺と晃太はショッピングモールへ寄る予定だったが、部活が休みという陸斗も一緒に行くことにした。
「海?」
「そうそう、4人で行くことになったんだ。陸斗も来るか?」
「行ってもいいのか?」
「香奈と露崎さんがどういうかわからんけど俺は、全然構わない。碧は、どうだ?」
隣にいる晃太にそう尋ねられ、俺は陸斗が来たいならいいんじゃないかと答える。
「もし、いいのなら行きたいかな」
「じゃあ、香奈と露崎さんには明日、俺から言っとくよ」
一方その頃、香奈は、瑞季が試着し終えるのを試着室の前で待っていた。
「香奈は、水着決めたの?」
香奈に謎に連れてこられたさやかは、香奈に尋ねた。
「うん、決めたよ。去年とは違う───」
「か、香奈さん……」
香奈がさやかに話しているとカーテンの向こう側から瑞季の声が聞こえてきたのでさやかが着替え終わったんじゃない?と香奈に言う。
「みっちゃん、着替え終わったの?」
「は、はい……で、ですが、心の準備的なものがあるのでまだ……」
「心の準備? 絶対可愛いから大丈夫だと思うけど……ね? さやちゃん」
「まぁ、うん、どんな水着でも着こなしそう」
香奈とさやかは、瑞季がどういう水着を選んだのかが気になりワクワクしていた。
「……で、では開けますね」
「おぉ~めっちゃいい!」
「その色瑞季に似合ってる。多分、鴻上くんが釘付けになるわ」
瑞季が選んだのはミントグリーンのフリル裾のビキニ水着だった。
「けど、瑞季が着たら変な男が寄ってきそう」
「あー、確かに。まっ、碧というボディーガードがいるし大丈夫でしょ」
水着も凄くいいと思ったが、香奈とさやかの目線は胸の方にいっていた。
「さやかさんや、あれはどれくらいなのかね?」
「わ、私に聞かないでよ! まぁ、うん、言えることは私達より大きいってことね」
瑞季は、2人が何やらコソコソ話しているのが気になりどうかしたのかと聞くが香奈とさやかは、首を横に振り、何でもないよアピール。
「私、これにしますね」
カーテンを締めた後、香奈とさやかは、先ほどの会話を再開するのだった。




