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もし碧くんがそういうことを求めるのなら言ってくださいね

「お邪魔します」


 週末、テストの点で負けたので瑞季がいきたいところである俺の家に瑞季は来た。母さんは、休日はいつもなら少し遅めに起きてくるが今日は瑞季が来るということで朝から張り切っていた。


 何を張り切る必要があるかわからないが……。


「待ってたわよ、瑞季さん。どうぞ遠慮なく上がって」


「あっ、はい……」


 瑞季は、母さんにリビングへ連れていかれる。母さんのテンションに彼女が困らないといいけど。そう心配しながら俺もリビングへ向かった。


 俺と瑞季はソファへ隣同士に座り、その向かい側に母さんは座った。テーブルには母さんが用意してくれたお茶とお菓子。

 

 準備がいいなと思いつつ、そう言えばこの状況、彼女を紹介する流れじゃないか? この前、友達とクリスマスパーティーするもいって来てもらったが、今日はこの前とは状況が違う。


「母さん、こちらクラスメイトの露崎瑞季さんで、お付き合いしている方です」


「えぇ、何となく雰囲気で察していたわ。前にこの家に来たときに瑞季さん、碧と仲良さそうに寝ていたものね」


 そう言って、母さんは、俺と瑞季にスマホの画面を見せた。


「母さん!?」

「お、お母様、それは……」


 俺と瑞季は、見せられた画面を見て顔が真っ赤になった。

 なぜなら、画面に映るのは、ソファに座って俺と瑞季が肩を寄せあって寝ている写真だったからだ。


(母さん、いつの間に撮ってるんだよ!)


「仲良さそうに寝てるから撮っちゃった」


 撮っちゃったじゃないでしょ! 瑞季、ここは怒っていいんだぞ。人の家の母さんだが、ここは怒るべきところだ。

 だが、瑞季は怒らず母さんにお願いする。


「お母様、その写真もらえませんか?」


(ちょっと、瑞季さん!? 何をおっしゃってるんですか?)


「もちろんよ。あっ、連絡先交換しましょ」


 目の前で連絡先を交換し出す母さんと瑞季。この展開が訪れることを誰が予想したのだろうか。


 俺のことはすっかり忘れられており瑞季と母さんは何やら楽しそうに話していた。


「ところで瑞季さん。お母様と呼ぶのはまだ早いわよ。私のことは陽菜乃さんと呼んでくれたら嬉しいわ」


「す、すみません。では、陽菜乃さん、碧くんとの交際は───」

「認めるわよ。こんなに可愛い女の子を手放すわけないじゃないの。前に一度言ったでしょ? どうぞ、碧をよろしくお願いしますと」

 

 えっ、あの言葉本気で言ってたんだ。てっきり冗談かと。


「碧くん、私、彼女として認められましたよ!」


 嬉しそうに瑞季が俺のところに来るので俺はそうだなと言って頭を撫でた。

 

「さて、私がいるとお家デートの邪魔しちゃうだろうから少しの間出掛けてくるわ。二人っきりだからって襲っちゃダメよ」


 母さんは、俺に向けてそう言うが、そういうことを言われるとこの後意識してしまうので言わないでほしかった。


「わかってる。付き合い出してまだ1カ月も経ってないんだ。母さんが心配するようなことはなにもしない」


 そう言うと隣にいる瑞季がなぜか少しムスッとした顔でいた。


(あれ? 俺、変なこと言ったか?)


「それなら安心ね。じゃあ、行ってくるわね」


「うん、行ってらっしゃい」


 母さんを見送り玄関の方へ行ったと思いきや、忘れ物をしたのか母さんがなぜか戻ってきた。


「碧、誰もいないからって────」

「心配しずぎ。言うほどフリにしか聞こえんからやめてくれ」


 ガチャと音がして母さんがいなくなると部屋がシーンと静まり返った。


 母さんがあんなことを言ったからこれからどうしたらいいかわからなくなってきた。


「瑞季、何しよっか」


 彼女にそう尋ねると瑞季は、俺に近づいてきて肩に寄りかかってきた。


「誰もいませんし、甘えていいんですよね?」


「えっ、あぁ、うん……」


 いつもならこう言われてもこんなにもドキドキしないはずなのだが、母さんがあんなことを言ったせいか平常心でいられない。


「えっと、膝枕? それとも───」

「キスしますか?」


「き、キス?」


「冗談です。甘えようかと思いましたが、今日は碧くんを甘やかしてあげましょう。膝枕してあげますのでどうぞ」


 瑞季は、ニコニコしながら俺の方を見てきた。


 いやいや、無理! 膝枕は、まぁ、うん、してもらいたいけど……。


 瑞季の今日の服装は短いスカートに黒いタイツを履いていた。とてもじゃないが、膝枕は無理だ。 

 と言いつつ、途中から無になれば大丈夫か?という発想になり、俺は瑞季の膝に頭を置いて仰向けに寝転んでしまった。


「碧くんは、私とこういうことより別のことがしたいですか?」


 なぜか頭を撫でながら瑞季は、俺にそんなことを聞いてきた。


 別のこと? もしかして母さんがあんなことを言ったからこんなことを聞いてきたのだろうか。


「べ、別って?」


「そうですね、例えばキスとか……」


「キス……。したいと言えばしたいけどそう言うのはまだ早いかと……」


「素直な方は好きですよ」


「瑞季は……どうなんだ? 俺とキスしたいとか思っているのか?」


 先ほど彼女がムスッとした顔をしていたのを思い出し、聞いてみた。


「私も碧くんと一緒です。私達は、焦らずゆっくりとやっていけばいいんです。ですが、もし碧くんがそういうことを求めるのなら言ってくださいね」


 瑞季はそう言って俺と顔を近づけていき、長い髪を手で抑えて俺の頬にキスした。


 2度目の頬へのキス。嬉しくないわけがなかった。目の前に映る彼女の姿を見ていると彼女に触れたいと思ってしまった。


(ダメだろ……さっきまだと言ったばかりなんだから)


「顔が真っ赤な碧くん、可愛いです」


「み、見んなよ……」


 手で顔を隠すと瑞季がクスッと笑った。


「ふふっ、可愛いのでずっと見てますね」


 瑞季といると心臓が持ちそうにない。俺ばかりがドキドキさせられている気がする。

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