初デートの最後に
水族館デート当日。駅前で彼女が来るのを待っていた。
髪跳ねてないてないよな……。服おかしくないよな……。彼女とは何度か外に出掛けたことがあるが、なんだこの緊張は。
瑞季と付き合っていることがクラスメイトと知れ渡ったので、今日は前みたいに周りを気にせずにいられる。
「おはようございます、碧くん」
後ろから抱きつかれて驚く。声からして瑞季だとすぐにわかった。
「お、おはよう……」
これはキツい。ドキドキしてたのにさらに心拍数が上がった気がする。後ろから来るなんて聞いてないぞ。
瑞季は、離れて俺の目の前に移動した。彼女の私服姿に俺は、可愛すぎて言葉を失う。お花見の時もそうだったが、私服だとさらに可愛いと思ってしまうこの現象はなんだ。
「見てください、碧くん。お婆様にやってもらったんです」
そう言って瑞季は、お団子ヘアを俺に見せてきた。
(お婆様……?)
「あっ、お婆様は一緒に住んでいるわけではないのですが、体育祭がある日までお泊まりしに来ているんです」
「可愛い。瑞季に似合ってる」
「ありがとうございます」
「それにしても凄いな。簡単にできるようなヘアスタイルには見えないけど」
「私のお婆様凄いのですよ。特に───あっ、すみません。水族館に行きましょうか」
瑞季がお婆様のことについて話している時はとても楽しそうでずっと聞いてられるなと思った。
だが、ここでずっと立ち話していると時間が経過するので電車に乗り、2駅先の駅で降りた。
駅から少し歩き、目的地である水族館へ到着した。水族館には並ぶことなくスムーズに入ることができた。
「碧くんは、水族館に来たことはありますか?」
「んー、小さい頃は何回か来たことあるけど最近は来てないかな。瑞季は?」
「実は、私はこれが初めてなんです。初めての水族館が碧くんと一緒で嬉しいです」
ニコッと笑い嬉しそうにする彼女を見ていると手を出して頭を撫でたくなった。我慢しろ、ここは我慢だ。
「瑞季、どこから見たい?」
水族館に入り、俺は、館内マップを広げると瑞季が腕にくっついてきてマップを見た。
近い近い。くっつかれるのが嫌と言うわけではないが腕に柔らかいものが、当たっている気がする。
「順番に見ていきません? あと、これは絶対見たいです!」
瑞季が園内マップを見て指差したのはイルカショーだった。
「イルカショー、場所からして11時からのやつがいいな。よし、行くか」
彼女の目の前に手を出すと、瑞季は嬉しそうに俺の手を取った。
「見てください! クラゲです!」
目の前の水槽を指差し、瑞季はその水槽に近づこうとし、俺と手を繋いでいることを忘れているのかグイッと手を持っていく。
まっ、待ってくれ……手が……手が……。
「瑞季、楽しそうだな」
「そう見えますか……?」
「さっきから凄いニコニコしてる」
「楽しいですよ。初めての場所ってワクワクしませんか?」
「それ、わかる。俺も初めて遊園地行った時、楽しくて閉園時間まで遊んでてさ」
共感できると思い、俺の昔の話をすると瑞季は、楽しそうに聞いてくれた。
いろんな魚を見た後は、イルカショーを見に行った。
「碧くん、見ましたか!? 輪の中をくぐりましたよ!」
「凄かったな。ショーが終わったら近くにいって見るか?」
「是非行きましょう」
瑞季は、最初から最後まで楽しそうにイルカショーを見ていた。
(楽しそうで何より……)
「あっ、いましたよ。大きいですね」
「そうだな」
ショーの後、イルカが泳いでいるのが見える位置まで移動した。
瑞季は、水槽に手を当てイルカを見ていた。俺達以外にもショーの後、見に来ている人が何人かいた。
「碧くん、次行きましょうか」
***
イルカショーを見た後は水族館の中にある店でオムライスを食べる彼女の表情はとても幸せそうだった。
「瑞季って幸せそうに食べるよな」
「そう言ったら碧くんも美味しそうに食べてるじゃないですか」
「そうなのか?」
「えぇ、こちらまで幸せな気持ちになりそうです」
自分では表情を確認することはできないためどうしようもないが……。
昼食を終えた後、お土産コーナーに立ち寄った。
「碧くん、嫌じゃなければお揃いで何か買いませんか?」
「いいな。お揃いとなればキーホルダーとかか?」
偶然、目には入ったイルカのキーホルダーを見て提案してみると、瑞季が可愛いですと呟いた。
「それいいですね。ピンクと水色の2種類ありますが、どうします?」
どうやらイルカのキーホルダーが気に入ったようでどちらの色にするかと尋ねてきた。
「瑞季が好きな方でいいよ」
「水色でもいいですか? やはりイルカの色はこっちかと」
「じゃあ、買ってくるから待ってて」
水色のイルカのキーホルダーの2つ取り、レジへ会計して1つを彼女へ渡すとありがとうございますと言って受けとる。
「あの、いくらでしたか?」
財布をカバンから出しながら瑞季は、尋ねてきた。
「お金はいいよ。それはプレゼントする」
「ありがとうございます。大切にします」
***
「送ってくださりありがとうございました」
外も暗かったので家まで送ることにした。家の前まで来ると瑞季は、繋いでいた手を離した。
「じゃあ、また学校で」
「はい、また……」
背を向けて家に帰ろうとしたが、瑞季の寂しそうな表情が気になり彼女の頭を撫でた。
「碧くん……?」
「寂しいならいつでも電話していいから」
「……わかりました。寂しくなったら碧くんに電話します」
瑞季は、ぎゅっと俺に抱きつき暫くこのままでいる。すると、瑞季は小さく笑って言う。
「碧くん、お休みなさい」
その時、瑞季は少し背伸びをして俺の頬にキスした。
そして彼女は顔を隠しながら家の中に入っていくのだった。
「えっ……」




