カフェにて
「いらっしゃ───えっ、付き合い出したの?」
カフェ『hitode』に入ると長谷部さんが俺と瑞季の手元を見て驚いていた。まぁ、そう誤解されるだろう。恋人繋ぎではないが手を繋いでいるのだから。
「いえ、付き合ってませんよ」
「ん~、まぁ、2人の間では普通のことなのかな」
長谷部さんはそう言って俺と瑞季を席へと案内してくれた。ここで食べるのは初めてだ。
新作ケーキといわれるものをドリンクと一緒に頼み、来るまで雑談しながら待つことにする。
「あれから何回か料理の練習をしてみました。まだ誰かに食べさせれるようなものではありませんが、いつか碧くんに食べてもらいたいです」
「うん、楽しみにしてる」
そうやって努力するところも彼女が好きになった理由の1つだ。
頼んだものが届き、俺と瑞季は、食べ始める。瑞季は食べる前に写真を撮っており、食べている時の表情は、とても幸せそうだった。
「瑞季、ここクリーム付いてる」
「えっ、あっ、どこですか?」
「ここ」
どこに付いているかわかっていないようだったので俺は彼女の口元に付いているクリームを手で取った。すると、瑞季の顔が真っ赤になっていった。
「えっ、大丈夫? 顔赤いけど」
「き、気のせいです! ありがとうございます」
よくよく考えれば俺はなぜ手で取ってしまったのだろうか。紙ナプキンでも良かっただろ。
「あれ、露崎さんと鴻上くんじゃん」
隣に座った2人組が話しかけてきたので誰かと思うとそこには陸斗と支倉さんがいた。
「陸斗と支倉さん」
「2人は、もしかしてデート?」
支倉さんに聞かれて俺と瑞季は違うと答える。だが、2人は納得しているようには見えなかった。
「支倉さんと田部くんは、デートですか?」
「いやいや、付き合ってるように見える? ないない、陸斗がここのケーキ食べたいけどカフェは、女子の世界みたいで1人じゃ無理っていうから仕方なく私は、ついてきたの」
「おまっ、そんなこと思ってたのかよ」
「誘ってオッケーした時言ったじゃん。本当は、今日予定あったのに陸斗が何度もお願いしてくるから」
「予定あるなら先言えよ」
急に始まった喧嘩に俺と瑞季は、困惑していた。どうしようかと目で会話していると瑞季が任せてくださいと胸に手を当てた。
「支倉さん、田部さん、カフェでお静かにですよ」
瑞季は、人差し指を口元へ当て「しっー」とゼスチャーする。その仕草に支倉さんと陸斗と何この可愛さと思い大人しく席に座る。
恐るべし天使の笑顔……。言われてない俺までキュンとしてしまいましたわ。
「お二人は幼なじみですか?」
瑞季は、支倉さんと陸斗が注文し終えた後、そう尋ねた。
「えっ、瑞季凄い。ってごめん、急に名前呼んで」
「いいですよ、さやかさん。仲がよろしいので幼なじみかと思っただけですよ」
「いや、凄いよ。陸斗とは中学は違ったけど昔から親の付き合いでよく遊んでてさ……」
「ケンカするけどなんだかんだ一緒にいるよな」
支倉さんと陸斗の間にいい感じの空気が流れたのでこの2人は本当に仲がいいのだろうなと思った。
「鴻上くんと瑞季は、去年から仲いいんだよね。けど、人気者の瑞季と仲良くなれるなんて鴻上くんは何をしたのかなぁ〜?」
何か香奈みたいなテンションで来るな。てか何かってなんだよ。
「偶然話すようになっただけで何もしてない」
「香奈が言ってた通り中々答えてはくれないのね」
あいつ、何か支倉さんにいらんこと言ってるな。
「まっ、デート中っぽいし私と陸斗のことは気にしないで2人で楽しんで」
支倉さんは、そう言って陸斗と向き合って話し始める。
「デートですって……。あの、碧くん……この後、展望台に行ってみませんか? ここから近いらしいですし」
「あー、あの展望台か。俺も行ったことないし行こうか」
***
「綺麗ですね。夜だともっと綺麗な景色が見れそうです」
展望台に着き、俺と瑞季は、外の景色を眺めていた。
「そうだ、もう遅いけど親心配してるんじゃないか?」
自分は、念のため親に連絡をしたが、瑞季はスマホを出して連絡する素振りを一度も見せていない。
「大丈夫です。今朝帰りが遅くなると伝えていますので」
「それなら……」
「せっかくなので写真撮りませんか? 夕焼けをバックにして撮ったらきっといい写真が撮れますよ」
「まぁ、記念に……自撮りできるか?」
瑞季が自分のスマホを持ってどうやるのかとおどおどしていたので声をかける。
「が、頑張ってみます! じゃあ、いきますよ」
展望台から降りて俺は、瑞季の家まで送ることにした。
「送ってくださりありがとうございます」
「いや、女子1人で帰らせるのもな……」
「優しいですね……」
瑞季は、隣でそう呟いた。その時、彼女の表情はどこか寂しそうだった。
「瑞季……?」
「碧くん、少しだけ聞いてもらえます?」
「うん、聞くよ」
俺は、そう言って彼女の言葉を待つと瑞季は、ありがとうございますと小さな声でいう。
ちょうど公園を通りかかったのでベンチに座って話すことにした。
「私は、これまで勉強やスポーツを頑張ってきたのですが、最近は頑張っても意味がないと思ってます」
なぜ頑張ったことに意味がないと思ったのか俺にはわからない。
「瑞季は、凄いよ。勉強もスポーツも頑張って、最近では不得意だった料理もできるようになった。頑張ってる」
彼女がどんな言葉を今掛けてほしいのかわからないが、俺は、彼女の頭を優しく撫でた。
「碧くん……」
「いろんなことを頑張っているのにその頑張りが無駄だと思うのはなんで?」
「褒めてほしいとか、優しい言葉をかけてほしいわけじゃないです。私は、あの人に……」
彼女は、下を向いて泣きそうな表情をしたので俺は、優しく彼女を抱きしめる。
「ごめん、嫌なら無理して話さなくていい。もし、頑張りすぎて疲れてるなら休めばいいし、何か悩んでるなら俺に相談してほしい。愚痴でも何でも聞くからさ」
「ありがとうございます……」




