人気者になってしまうと私が困ります
桜咲く季節。周りは皆、新しい生活に胸をわくわくさせているようだが、俺は違った。
クラス替えで知り合いがいなかった場合のことを考えると少し不安な気持ちになる。
1学年全6クラス。2年からコース分けがあり、瑞季、香奈、晃太とは同じコース。英語コース2クラス、文芸コース2クラス、理数コース2クラスなので一緒のクラスになる確率は2分1。なので3人一緒で俺だけ別クラスみたいなことにならなかったら誰か1人は一緒だ。
通学路、いつも彼女と別れる場所であるカフェの前を通ろうとしたその時、誰かを待っている様子の少女に気付いた。
彼女と一緒に学校に行く約束はしていない。だが、目の前に彼女がいるのだ。
長い髪にスラッとしたスタイル。遠くからでもわかる彼女の名前は露崎瑞季。いつからか懐かれるようになり、俺の好きな人。
「おはようございます、碧くん」
なぜいるのだろうと彼女を見ていると瑞季は、俺に気付いた。大好きですと言われてから会っていなかったため久しぶりに彼女と会うことになる。
「おはよう……もしかして俺を待ってた?」
「はい、待ってました。一緒に登校したいなと思いまして……。すみません、連絡するべきでしたよね?」
えっ、まぁ、うん。かなり驚いたから連絡は……って別にしなくてもいいんだけど。
「もし良ければ一緒に行きませんか?」
「俺と?」
「はい、春休みの時にもっと碧くんと仲良くしたいと言いましたので」
そう言った彼女は顔を赤らめていた。おそらくその春休みの時に彼女は俺に告白のような発言をしてしまってそれを今思い出したからだろう。
今すぐにあの告白の意味を知りたい。あの時、彼女が逃げなければ俺は彼女に告白していただろう。
「いいよ。瑞季の側にいるって約束したから」
「では、行きましょうか」
瑞季は、先程からニコニコしており機嫌が良かった。俺と一緒に学校に行けることが嬉しいのだろうか。
「クラス替え、楽しみですね」
「瑞季は話せる友人がいるからいいが、俺はあまり話せる人がいないからクラス替えはあまり楽しみじゃない……」
「大丈夫ですよ。碧くん、優しいですし、すぐにクラスの人気者になれます」
クラスの人気者になりたいとは一度も思ったことはないんだけどなぁ……。
「あっ、やっぱり今のなしです! 碧くんが人気者になってしまうと私が困ります」
瑞季の発言に本人も俺も顔が赤くなってしまう。
困るってことは、瑞季は俺を独占でもしたいのだろうか。
「おはよ~って、みっちゃん!?」
後ろから背中を叩いてきて横に来たのは香奈。瑞季と一緒にいたので驚いていた。
「おはようございます、香奈さん」
「うん、おはよう。も、もしかして知らないうちに付き合いだした?」
「いえ、私が碧くんを一緒に学校に行こうとお誘いしただけです」
瑞季がそう言うと香奈はニヤニヤし始めて彼女に言う。
「良かったね」
「はい、良かったです。ところで前山くんは、一緒に登校なされないのですか?」
「晃太は、先に行って友達とクラス発表見るってさ」
晃太は、いつも学校では俺といることが多いが本当は俺以外の友達がたくさんいる。たまになぜ俺といてくれるんだろうかと疑問に思うことがある。
「そうですか」
「みっちゃん、一緒に行ってもいいかな?」
「もちろんです、一緒に行きましょう。碧くんいいですよね?」
「俺の許可があろうとなかろうと香奈は瑞季と一緒に行くつもりだろ?」
俺がそう言うと香奈はわかってんじゃんと言った。
学校に着き、校内に入るとクラス発表の紙が掲示板に貼られており、俺と瑞季、香奈は一緒に名前を探すことに。
「俺は、6組か……」
自分の名前を見つけ、下の人の名前が偶然目に入った。下には『小山香奈』と書かれていた。
「碧、今年もよろしくね〜」
「あぁ、よろしく……」
クラスに1人友人がいる。それだけで少しホッとした。
「みっちゃんはどうだった?」
「ありましたよ。碧くん、香奈さん、今年もよろしくお願いしますね」
***
「よう、碧。今年もよろしくな」
先に来て、そしてなぜか俺の席に座っているのは晃太だった。邪魔だから立ってくれと言うが、晃太はイスを占領する。
「わ〜い、前が碧だとわからないところ先生に当てられた時教えてもらえる〜」
後ろの席であるある香奈がそう言うので俺はすぐに「教えてやらないからな」と言っておく。こう言っていないと香奈は授業中に寝てしまうだろう。
「俺が変わりに教えてやるからな」
晃太がそう言って香奈の頭を撫でると彼女はニコニコの笑顔になった。また今年もこのカップルのこんなやり取りを見るのかと少し思いながらも本当は嬉しかった。また1年、皆と過ごせるのだから。
「にしてもやっぱりみっちゃんは人気者だね」
「そうだな」
俺達がいる一番後ろの席から一番前に座る瑞季を見ると彼女の周りにはクラスメイトが集まっていた。さすが人気者。いつも近くにいる感じがするがこういうときは何か距離が遠く感じる。
「碧、ライバルは多いからとられないようにしないとな」
「何の話だ?」
「わかってるくせに……」
晃太の言葉を聞いて俺は、瑞季がいる方を見た。
「露崎さん、今年もよろしくね」
「露崎さん、同じクラスになれて嬉しいよ。仲良くしようね」
「ちょっと、露崎さんはあんたみたいなお喋りな人は苦手だって。露崎さんはおしとやかな人と話したいだろうし」
周りの女子から一度に話しかけられ、瑞季は困っていた。
(あの人に褒めてもらいたいからずっと努力してきたけど……これじゃあ、私は───)
いつも通りニコニコ笑う瑞季は、表面上笑いながらもいろいろと思うのであった。




