友達とお花見
3月下旬、自分の家のキッチンではお弁当作りが行なわれていた。
瑞季が4人で作る方も楽しいと言ったので香奈、晃太もお弁当作りに参加することになった。食料は先ほどスーパーへ全員で買いに行き、今から作るところだ。
「えっ、みっちゃん料理できないの?」
「意外ですか?」
香奈があまりにも驚くのでできないことがそんなに驚くことなのか瑞季は、不思議に思う。
「んー、勝手なイメージだけどみっちゃんって何でもできる感じがするからさ」
「私は何でもできる人ではありませんよ。香奈さんは、料理得意ですか?」
「私も料理できないんだよねー。となると男子2人中心に作ることになるね。ってことでお二人さん、よろしくお願いします」
女子が話している間にキッチンで準備を進める俺と晃太に香奈は言う。
香奈のその言い方だと全部任せっきりな気がするな。瑞季は、料理を教えてほしいと言っていたのでやるだろうが……。
「碧くん、今日はよろしくお願いしますね」
フライパンを用意し、卵を割っていると瑞季が隣に立ち、そう言ったので「あぁ」と頷いた。
***
弁当を作った後、近くの公園へ歩いて移動した。桜は満開で俺達のようにお花見をしている人達がたくさんいた。
家から持ってきた大きめのレジャーシートを敷いて作ったお弁当を広げて食べることにした。
「上手く作れたな」
瑞季は、お弁当箱の蓋を開けて嬉しそうな顔をしていたのでそう言うと彼女は俺に笑いかけた。
「上手く作れたのは碧くんが丁寧に教えてくれたおかげです。ありがとうございます」
「いえいえ、どういたしまして」
瑞季は、飲み込みが早く一度説明しただけで1人で作れていた。
「碧が作った卵焼き食べてみたいなぁ~」
香奈は、箸を持ってニコニコとアピールしてきたので弁当箱を彼女の近くにやり食べていいよと言う。
すると香奈は、やったぁ~と喜び、箸で俺の弁当箱から卵焼きを取って食べた。
「んーやっぱ美味しい! 晃太も食べてみなよ」
「碧、食べていいか?」
自分の分がこのカップルに全て奪われるんじゃないかと思ったが、俺は、無言で弁当箱を晃太へ渡した。
「優しい碧くん」
「今度君づけしたら一生あげないからな?」
「ごめんって……ありがと」
卵焼きをもらい口にいれる晃太は、卵焼きを食べて美味しいと感想を漏らす。
さて、食べるか……と箸を持ち皆が絶賛する自分が焼いた卵焼きを食べようとすると隣から服をぐいっと引っ張られた。
隣を見るとそこにはムスッとした顔をしている瑞季の姿があった。
「あっ、みっちゃんもほしいんじゃない? 碧、みっちゃんにはあーんしてあげなよ」
香奈は、彼女の様子に気付きそう言うと瑞季は、顔を赤くした。
「か、香奈さん! わ、私は別に碧くんの作った卵焼きを食べたいとは一言も言ってません!」
「私は別に卵焼きとは言ってないよ?」
香奈がそう言うと瑞季は、耳まで真っ赤にして下を向いてしまった。
「おい、瑞季を困らせるなよ。ごめん、瑞季。卵焼きがほしいって気付けなくて」
そう言って頭をいつもみたいに撫でると香奈と晃太から視線を感じ、すぐに手を離す。
「晃太さんや今の見ました?」
「見ましたよ、香奈さんや。あれをイチャイチャ以外に何と呼ぶのやら。碧、何か手慣れてる感あったけど頭撫でるのこれが初めてじゃないよな?」
手慣れてる感……まぁ、普通にやってしまっていたのでそう言われるのもおかしくはない。
「黙秘する」
「えー黙秘はなしだよ~。あっ、碧が教えてくれないならみっちゃんに聞けばいいんだ。みっちゃん、碧に頭撫でられるのって今日が初めて?」
皆の視線が瑞季に集まり彼女は困っていたが、暫くして口を開いた。
「碧くんと私の秘密なので初めてか初めてじゃないかは教えることはできません」
その言い方だとほぼ初めてじゃないと言っているようなものだと思うけど……。
「碧と露崎さんってほんとに付き合ってないんだよな?」
晃太がそう聞いてきたので俺が答えようとしたがそれより先に瑞季が答えた。
「付き合ってませんよ。碧くんとは友達です」
そうですよね?と瑞季が目で問いかけてくるので俺は小さく頷いた。
「にしては友達の距離感じゃないけど……まぁ、2人がそう言ってるなら2人は、付き合ってないってことだね」
これからずっと友達としているのもいいが、ここ最近の俺はそうは思えなくなっていた。瑞季と違う関係になれないかと少し思い始めているのだった。
***
「じゃあ、また新学期ね」
香奈と晃太と別れ、瑞季と二人っきりになった。ここで俺も彼女と別れようとしたが、瑞季は服袖を引っ張り、碧くんと名前を呼んできた。
「今日のお花見をしていて思ったことがありました。聞いてもらえますか?」
「うん、聞くよ」
一言一句聞き漏らさず聞くよとまでは言わないが俺は、彼女の言葉を待つ。
「香奈さんと前山くんも優しい方で一緒にいるうちにもっと仲良くなりたいと思いました。もちろん、碧くん、あなたもです」
一緒にいたい……その言葉がなぜか俺にだけ向けられいるように感じのは気のせいだろうか。あの日、お互い側にいるなんて言ったからか……?
「碧くん」
小さく手招きされたので俺は彼女に耳を傾けると彼女は小さな声でささやいた。
「大好きです」
それだけ言って彼女は手で顔を隠して走り去ってしまった。
「えっ……?」




