伝えたいこととは
カフェに二十歳ぐらいの人間が少し不機嫌な表情で対面式の二人がけ席に座っている。この人間、背が高く細身ではあるが、ひょろっとはしていなく、体幹はしっかりしている。目は切れ長の一重で鼻は高く、若者世代より少し上の世代にウケが良さそうな、整った顔立ちをしている。服装はシンプルに構成されている。上は黒の半袖のワイシャツに下は全国チェーン店に売っていそうな黒のカーゴパンツを着ていた。そして、濡れているかのような黒い髪を後ろでまとめられ、小さな尻尾ができている。
カフェが好きだ。しかし長居できるカフェ、もしくは気後れしないカフェが好きだ。おしゃれカフェとかは気後れしてしまう。外出先で一人でもの思いに耽ることのできるこの空間と時間が居心地いい。最近のカフェで考える事は主に就活についてだ。大学生活の半分が終わり、そろそろ自分も将来について考えなければならなくなった。周囲や両親の言う通りにどこかの会社への就職をした方が良いのだろうか。しかし、私の性格と体質上、会社勤めだとどこかでガタが来てしまうだろう。
「あれぇ?しーちゃん?このカフェいたので?相席よろし?」
急に苺にチョコレートをかけたような声が上から降ってきた。振り向いて見ると、前田朱里。声の主は私の幼稚園からの親友だった。目は大きくパッチリ二重で、唇はぽってりとして色気を感じる。セミロングで淡い栗毛の髪を今はピンクアッシュに染めている。服装は白のふんわりとしたシンプルなワンピースを着ていた。声と同じように可愛いらしい見た目で美少女を体現したかのような人間である。小学生の頃に腕を組んで二人で歩いている時に「可愛いカップルね。」と誤解された事は今でも嬉しくて覚えている。
「あぁ、うん。い…」
「よっこいしょっと、ふぅ〜。」いいよと言い終える前にもう座っていた。遠慮がない。人前でいつも猫被っている彼女が身内にだけ猫を剥がす姿をみるのはなんとなく優越感に浸れる。
「あれ、どしたの?なんか一人で外おるのあんま見ないのに?」
「いやっ、なんでもないよ?考え事はしよったけどね。」
「あ〜、しーちゃん初対面の人とか知り合いにはめっちゃ笑顔やけど、それ以外には真顔がデフォやけん、一人で不機嫌な顔でおるなぁって思ったら考え事か〜。何の?」
「就活とか色々。」
「そんなん考える時期になってきたねー。あーあー嫌だー。」
「そうだね〜。まぁ、朱里ちゃんは人と関わるの上手いから大丈夫だよ。」
「だったらいいんだけど〜。」
あぁ、この子はは人から愛されているのが分かる子なんだな。同じだけ生きているのにこの考え方の違いは何だろうな?まぁ、確かにこの子を嫌いになる人はそうそういないんだろなぁ。実際私もこの子のことを可愛いと思うしね。
さすが、フェロモンの使い方が上手な種族なだけある。