前編
文化祭が終わって最初の登校日、俺を含めた全校生徒が体育館に集められる。
何事かとざわつく生徒に教壇に、立つ教師が一人の少女が亡くなったことを告げる。
宇佐美莉兎
いじめられて自殺した少女、俺はそいつを知っていた。
学年が一つあがり、二年になって一ヶ月。周りはすでに一年の時からの友人や、二年で初めて同じクラスになり仲良くなったやつが集まってグループができている。
俺は、一人でいることのほうが圧倒的に多い。友達がいないだけだって?そもそもなれ合う必要性を感じない。
その日も、いつものように一人になるために昼休みに旧校舎に向かっていた。旧校舎は、今は授業で使われていないからかほとんどが荷物置き場だ。だが、一部屋だけ荷物も置いていない場所がある。一年の時から使っているお気に入りの場所だ。
持ってきた弁当を食いながら過ごしていたときだった。いつもなら、俺以外全くと言っていいほど人の気配なんてない。だから、油断していたんだ。この旧校舎に来るやつがいるなんて、思いもしなかった。
ガラガラと、扉を開ける音がした。驚いてそちらを見ると入ってきたのは一人の女だった。制服のリボンが青いため同じ学年なんだろう。
そいつは、俺が先にいると思わなかったんだろう。少し目を大きく見開く。
「先客がいたんだ」
と、それだけ呟く。それで出ていくと思った。だが、そいつは、ちょっと隣いいかなと言って横に腰かけてきた。
「まだいいって言ってないだろ」
「そうだっけ、まあ細かいことはおいておこうよ」
よくわかんないやつだ。つかみどころがないというか。
「というかお前なんなんだよ」
中学に入ってから一年ちょっと、それまでここに来たやつなんていなかった。
「私のことしらないんだ」
そう小さくつぶやかれた言葉は、俺には届かなかった。
「まあ、なんだっていいじゃん。どうせ、君も私と一緒で一人になりたくてここにいるんでしょ?」
「後から来たのはお前のほうだろ」
いったいなんなんだこいつは。
「じゃあ、ここにいる間は私も君も互いに干渉しないようにしようか。そうすると、一緒にここの教室を使うだけの他人ということにならないかな」
こいつがそう提案した後すぐ予鈴が鳴る。
「じゃあそういうことで、またね」
「おいっ俺はいいって一言も言ってないぞ」
そういってやつは、足早に空き教室を出ていく。まるで嵐のようなやつだった。
「一体なんなんだあいつは」
もう後ろ姿も見えない。それに、俺ももう行かないと授業に遅れる。さすがに悪目立ちは避けたい。本館に向かいながら、今までの日常が崩れていくのを感じた。
これが、のちに自殺することになる少女、宇佐美莉兎との出会いだった。