8話 採取者は枕を買う。
冒険者の朝は早い、ギルドで依頼を受理して、初めて朝食を始める様に。
しかし、リトだけは違った。
宿屋の食堂が閉まるギリギリの時間に朝食を食べ、ギルドで常時依頼を確認してから王権者としての活動を開始する。
受付嬢の挨拶が「おはよう。」から「こんにちは。」へ変わる時間帯に草原へ向け歩き出す。
街の門番からも最初は眠そうにしていたので、寝坊した子供の冒険者と認識されていたが、3日経っても7日経っても変わらず、ただ本当に眠い寝坊助な冒険者として定着していた。
もっとも毎日の様に背負い篭には薬草らしき植物が見えるので、採取冒険者らしいと思われていたのだが。
リトが毎日ゆっくり寝ているのには訳がある。
孤児院よりも寝具の具合が良すぎた為に、毎日が安眠であり疲れてもいないのに、朝まで目が覚めることが無かった。
しかも、宿屋の朝ごはんが美味しく、二度寝の誘惑にギリギリ耐えて毎日食べている。
晩御飯もまた毎日おなか一杯食べてから寝ている為に、部屋に戻り身体を魔法で綺麗にしてから、寝るのだが数分と言わず・・・数秒で即寝している。
これについて孤児院では、毎日欠かさず昼寝をしていたので、冒険者になってからの睡眠時間不足が、早寝遅起きにつながっているとリトは考えていた。
冒険者になってから10日が過ぎた頃、宿屋の支払いをしても活動資金に余裕がある事に気が付き、宿屋の女将さんに1つお願いをしみた。
「あの女将さん、相談があるんですがいいですか?」
食堂でリトの朝食の準備をしていたので
「なーに、パンが足りないの?」
「あ、はい、パン多めなら嬉しいです。
違います、部屋の寝具についてです。」
「寝具って毛布とか枕の事?」
「はい、自分で買い替えてもいいですか?」
女将さんはリトの部屋の寝具を思い出し、各部屋共通で不備が無いはずだと思いながらも
「何か問題でもあった?
毛布1枚では寒かったかしら?」
「いえ、毛布1枚で大丈夫です。
枕を変えたいと思って・・・ダメですか?」
「そういえば、枕は普通の大きさだからリト君には大きかったかしら?」
「はい、もう少し高さを抑えた枕ならゆっくり寝れそうな気がして。」
リトの言うゆっくり寝れそうなと聞き、今でも朝食時間ギリギリまで寝ている子が何を言っているのかとも思ったが、寝具の買い替えは他の住民を行っていたので
「大丈夫よ、この宿屋に住む他の方々も専用の寝具を持っているし、うちで御用達の寝具専門店を紹介しましょうか?」
女将さんがリトの前に今日の朝食プレートを配膳しながら聞いてきたので、リトは「ぜひ!」と脊髄反射で答えてしまう。
プレートからパンを食べながら、今まで貯めていた活動資金がいくらあるかなーと思いながら
「あんまりお金無いから買えるかはわかりませんが。」
「そうねー、子供用の枕なら銀貨1枚以内で買えるはずよ。
もっとも高級品なら銀貨5枚以上するけどね。」
「子供の枕にも選べるほど種類があるんですか?」
「そりゃね、枕の材質で値段が変わると聞いたわよ。
うちの宿屋の枕に羊毛でモコモコなはず、大きさは一律大人用だけどね。
確か銀貨2枚で品質的には、街の宿屋よりいいはずよ。」
「毎日モコモコ枕でぐっすりです。」
リトは「あれはいいものだ。」と思いながら深く頷く。
孤児院の枕は薄く硬く、枕というより頭をのせるモノという認識だった。
どこでも寝れるリトにしてみれば、寝る気ならどこでも寝れる体質なので、この宿屋での枕は良い意味で衝撃を受けた。
「孤児院の枕と比べたら、ここの枕は極上です。」
朝食を食べながら、寝具は大事だと考える。
女将さん的には寝具は寝ればいいと考えており、リトの寝具に対する思いを不思議に感じてはいたが口には出さなかった。
朝食を済ませたリトは女将さんから寝具専門店の場所を教えてもらう。
昼ごはんに食べるパンと焼き串を肩掛けカバンに入れ、背負い篭を手にし宿屋を出る。
今のリトはヤル気に満ちていた。
何枕資金を稼ぐために、ギルド向けて歩き出す。
ギルドでは薬草の大型採取依頼が張り出されてあったので、薬草の通常10本1束の依頼票以外に、新たに薬草10本10束の依頼が何枚見つける。
しかも、10束依頼の方が2割ほど報酬額が多い。
「これは薬草採取の時代が来たか。」
リトはそう思いながらも、依頼票の薬草採取の上限は無しという項目をチェックし、急いで草原へ向かう。
『隠密』と『鑑定』を全開で展開し、草原の薬草を『採取』していく。
次の事を考え、刈りつくすと事無いように気を付けながら。
一応『???』というリトも知らない薬草っぽいのを採取していく。
いつもなら街の防壁を右回りで採取していたが、今日は質も量も欲しかったので、夕方までに防壁を一周する距離を採取し、リトは背負い篭ギリギリの量をギルドへと持ち込む。
ギルドへ持ち込んだ時に受付嬢から「ありがとうございます。」と言われたの印象に残っていた。
『鑑定』したギルド職員からは「相変わらずいい目をしている。」と褒められ、リトが見つけた『???』という薬草は貴重な薬草という事で高値でギルドへ納品する事になる。
「この薬草は常時依頼では扱ってない薬草です。
上級ポーションの材料の1つで見つけ難い薬草の代表格です。」
リトは薬草の名前と何に使うか知り、『???』という表示がキチンとウインドウ表示に薬草名が記載していた。薬草として認識したからか、薬草の知識の影響で『???』が変化したかわからんな。
「その薬草はランクに関係なく採取しても大丈夫ですか?」
「危険地域で採取していないのであれば、ギルドとしてはダメとは言えません。
というか積極的に採取お願いします。」
「了解です。それと今回は採取しなかったんですが、薬草かどうか不明な植物も採取していいですか?」
「不明な薬草ですか?
例えばどういう植物ですか?」
「例えばですが、雑草や毒草意外な植物という感じかな?」
「リト君の知らない植物という事かな?」
「そうです、知っている薬草は採取してる状況です。
毒草の採取はギルドで採取依頼が無いからですし。」
「ランクFでは常時依頼でも通常依頼でも毒草の採取は無いですよ。
ランクCになれば多少は毒草の採取依頼がありますが・・・。」
「以外にも毒草の需要あるんだ・・・。」
「調合師が『調合』スキルで毒消しポーションに調合したり、付加師の『不可』スキルで武器に毒攻撃可能にしたり、毒耐性を強めたり色々使えるぞ。」
「初めて聞く情報が多すぎます。
少なくともランクF冒険者が採取できないのはわかりました。」
「毒草は取り扱いが非常に難しいので、ランクが上がるまでは持ち込み禁止でお願いします。」
リトは「やっぱりな。」と思い、1つ頷く。
そして、今回の薬草の報酬額は過去最高の金額となり、帰り際の受付嬢の言葉を聞き流し、急いで宿屋の女将さんに教えてもらった寝具専門店へ歩き出す。
教えてもらった専門店は、布団に毛布や枕が大量に保管されている店舗だった。
「あのーすいません、誰かいませんかー。」
店内には誰もおらず、リトは今日一大きな声で話してしまう。
暫くすると「はーい、お待ちくださいー。」と聞こえてきたので「はーい。」と答える。
店員が来るまでの間、布団の数に驚いていたが、値段の高さにも少しビビる値段だった。
毛布も材質かはわからないが温かそうな毛布が豊富にあった。
枕も大小種類があり、値段もピンキリでリトでも買える物を見つけ
「お、買えそうな枕がある。」
「すいません、裏の倉庫の片づけをしてました。」
パタパタと奥からかけてきた店の店員男性は、子供のリトにもキチンと対応してくれる。
店員は店のカウンターで何を求めているかを聞いてきたので「枕が欲しいです。」と言うと、「枕・・・枕・・・。」と店に並べられている枕の前まで案内し、数個の枕をカウンターに並べる。
「子供用なら、この3種類になりますがどうします?」
宿屋の部屋にある枕より小型な枕が並ぶ、値段もリトが思っていた金額よりも良心的で、リトは実際に横になり体験した後に2つの枕を購入する。
枕を一括で購入し、背負い篭へ枕をしまう。
店員はリトが2つの枕を購入したのを不思議に思い、「何故に2つを?」と聞くと、リトは「予備です!」と答えた。
余計に店員は混乱したが、いい笑顔で「予備です!」と答えられては何も言えずにいた。
最後に「またのご利用を!」と声をけるよと、「もちろんです!!」とまたイイ笑顔で答える。
次の日のリトは冒険者になって初の寝坊を経験する。
初の朝ごはん抜きになり、より一層早寝を心掛ける事になるのだが、宿屋の女将さんにお願いし、朝ごはん用のパンを数個別途購入できると聞き、二度寝してパンだけ生活でもアリかなと少しだけ思うのだった。
その後、寝具専門店にて毛布や布団も追加購入する。
衣食住の住のみ大事にするのはリトらしいが、宿屋の女将さんや他の冒険者達からは、「それは違う。」と言われる。
リトは前世では6時間睡眠が普通であったが、今では10時間以上の睡眠時間を確保するほどの、寝るのが大好きな子供になっていた。
これが子供特有のことなのか、異世界仕様なのかはリトにもわからない事なのだが・・・。