6話 採取者は救護する。
薬草採取の依頼報酬は安い、薬草10本1束でギリギリ銀貨1枚。
宿代は稼げても食事代は無しという。
その為、薬草採取の依頼は冒険者的には人気が無く、冒険者ギルドでは常時薬草不足という状況であった。
防壁付近の草原では、冒険者も多いが野犬狙いの冒険者が戦っているのが見える。
向こうでは弓を構え角ウサギを狙っているし、薬草採取する冒険者は見当たらない。
リトの目の前には草原が広がっている。
周囲には冒険者が多い、『感知』スキルは不要かなと思い、『鑑定』スキルを全開で薬草が生い茂る場所へ向かう。
ウインドウ表示には複数の薬草を確認し、リトは採取ナイフを構え採取作業を始める。
「今日も豊作豊作。過去最高の採取量になりそう。」
取りすぎに注意して、後日再び採取するようにしている。
「各採取場8割の採取でも十分薬草を確保できる。」
薬草は無駄に生い茂る性質があり、魔素と言われる魔素溜まり多く生い茂る。
魔素溜まりには野獣が魔獣に変化する傾向があり。野獣もまた強さを求めて魔素溜まりに集まる傾向にある。
それを教会は魔獣の進化と言い、魔獣が魔物へと進化すると言われている。
薬草が生い茂る場所には、薬草を求め採取冒険者が集まり、野獣を狩る為に冒険者が集まる。
「む、何か来た。」
『感知』スキルに害ある反応の接近に気が付き、『隠密』スキルで気配を断ち姿を隠す。
害ある反応が離れている冒険者へ向かうのを『感知』し、静かに『感知』範囲外へ移動する。
野犬4体の群れに冒険者5人組なら問題無いなと思い、『隠密』スキルで次の採取場所へ向かう。
野犬4体を数分で倒すのを『感知』で知り、冒険者5人組は中級以上の冒険者だと考える。
「討伐冒険者は凄いなー。」
冒険者としては討伐冒険者は花形であるが、少なくともリトにはなりたいとは思ったことは無い。
戦い倒すのは緊張の連続であり、いつまでも出来る仕事とは思っていないからだ。
今はまだ薬草を採取するしかできないが、薬草を『調合』して納品した方が報酬額は多くなる。
『調合』や『錬金』スキルは将来的に習得したいスキルではあるが、どうすれば習得するかはリトにはわからない。
何度か採取場所を変更して採取をする。
そして、何度か野犬の群れを振り切り、草原を縦横無尽に走り回る。
3回ほど他の冒険者達に誤って向かって行く、冒険者達が大丈夫なを確認してから離る。
その日最後の採取中に『感知』し、野犬の群れが冒険者へ向かって行くのを確認し、街へ帰還しようと思ったが、冒険者の対応が悪く逆に死にかけていたので、リトは急いで野犬の群れへと走り出す。
冒険者2人が倒れているのを、3人が野犬の群れに対応している。
倒して野犬の数は2体で残り4体という事か、リトは手早く声をかける。
「大丈夫か?助けはいるか?」
リトの端的な言葉に、声を上げ「「いる!」」と答える。
リトは魔力を全身に巡らせ駆け出す。
野犬の群れをすれ違いざま風魔法で刻み、倒れている2人の元へ辿り着く。
武器も無く無手で野犬に向かうほどリトは無謀ではない。
「助かる!」
「今のうちに隊列維持!」
「2人を任せていいか!」
「あぁ、任せろ。野犬を刻んだだけだ殺してない。」
「野犬3体の動きを封じただけで十分!」
「これなら負けん!」
「倒れた2人は野犬の体当たりで気を失ってるだけだ。
外傷は無いしから守ってもらえれば充分だ!」
確かに倒れた2人の冒険者に傷も無ければ出血も無い。
気を失っているだけか・・・、『感知』スキルで死にかけていたと思ったのは気絶だったか・・・。
リトが刻んだ野犬3体に冒険者2人がかりで倒し、残りの野犬1体を囲んでボコボコにしている。
終わってみれば圧勝という感じだったが、4体倒し冒険者3人組は声を上げて喜んでいる。
リトは「ふぅ。」と周囲に害ある反応が無いのに『ほっと』し、身体を起こしてから
「それじゃ、お疲れさまでした。」
リトはペコリと頭を下げて街へ向かう。
それを見た冒険者3人組は、「「「ちょいちょい。」」」と声を上げたので「んー?」と足を止めた。
「どしたの?」
「野犬の分け前があるだろうが!」
「野犬の解体も必要だろうが!」
「助けられた俺もまだだろうが!」
「野犬を倒してもいないし、報酬ももらう気ないよ?」
何よりこれから野犬6体の解体に加え、倒れた2人を運ばなければならない。
そんな面倒な事はリト的は遠慮したい。
リトは倒した野犬を指さし、「急いだ方がいいよ。」とだけ告げ歩き始める。
リトが離れるのを見ていたが、冒険者の1人が今の現状を確認し「あ、ヤバ!」と、他の2人に声をかける。
「暗くなる前に解体するか、街へ帰るか選べ!」
「解体するなら急げ、街へ帰るなら走れ!」
「え、いや、どっちも!!」
「歩いて帰れば余裕があるが、解体すれば時間的にまずいな。」
「解体して走って帰れば大丈夫じゃ?」
「野犬の群れに遭遇したら危ないし、街へ戻れなかったら話にならん!」
「気を失った2人を起こすのは?」
「・・・2人を起こしてから決めるか。」
「起きなかったら野犬は牙だけ集めて街まで走ろう。」
「「それしかないか。」」
「助けてもらった冒険者に最後までお願い出来てたらな・・・。」
「それは無理ですよ、あの子武器も持ってなかったし、採取冒険者に無理を言っちゃダメです。」
「武器も無かったというか、背負い篭しか装備してなかったな。」
「武器での戦闘が苦手なのかもしれんし、子供を巻き込むのはやめよう。」
リトは外見が12歳でどう考えても初心者冒険者である。
対して自分らは冒険者歴5年目で、討伐冒険者としてギルドで言われている存在。
彼らはこれを機により一層慎重に冒険者として育っていくとか・・・いかないとか。
その後、リトはギルドで背負い篭いっぱいの薬草を納品し、宿屋5泊分を差し引いた報酬を手にするのだった。
薬草採取報酬の大半は宿代へ消えるのだが、最終的には宿屋の宿泊代に加え、毎回の食事代も報酬額から支払う事になる。
武器も持たず、鎧なども装備せず、初心者冒険者の格好だ。
本来なら装備を整える時期なのだが、装備よりも衣食住を優先した結果、食事と睡眠を欲していた。
孤児院では最低限の食事に、快適とは言えない寝具と寝床。
この宿屋では美味しい食事に快適な寝具、おなか一杯に食べれて、十分な睡眠時間が何よりもリトにとって重要な事となる。
この冒険者の救援後に、草原で何度か救援作業をしていく。
冒険者の間では無報酬で助けてもらえる存在として知れ渡りる。
リトは救援を繰り返し、『不意打ち』と『手加減』という新たなスキルを習得したが、薬草採取に必要と思えず、相変わらず戦いを避ける様になる。




