5話 採取者は草原を走る。
冒険者の朝は早い、クエストボードの依頼の争奪戦が激しく、初心者冒険者にとっても同じ事。
初心者の依頼はランクFの常時依頼のみで、薬草採取や野獣の討伐依頼のみであっても、討伐数や報酬額の差があり、冒険者にとってのおいしい依頼から消えていく。
リトの朝は遅い、宿屋の朝食時間ギリギリに起き、ゆっくり朝ごはん食べてからギルドへ訪ねていた。
ランクFだったので選べる依頼の数も多くなく、早起きする必要がないと最初から頑張る気が無いともいえるが・・・。
「薬草採取は・・・あるな。昨日と同じ種類と・・・。」
リトは少し依頼の内容を考え、依頼票を剥がし受付カウンターへ向かう。
「あのこの依頼ですが、依頼された納品数を超えたらどうなりますか?」
受付カウンターへ依頼票をのせ質問すると、受付嬢は依頼票の内容を確認し
「常時の薬草依頼ですね。
薬草10本の束を3束で1つの常時依頼完了とします。
それ以上採取し納品した場合は、個別で薬草を納品可能ですが、報酬額を考えますと、最低でも10本1束での納品をお勧めします。」
「それなら薬草10本3束で1つの依頼完了なら、6束なら依頼2つ完了したと考えていいですか?」
「そうです。もっとも薬草の束に雑草が混ざっている場合もありますので、薬草採取の依頼に関してはギルドでの『鑑定』後に、納品された薬草の数で報酬額が決まりますので気を付けて下さい。」
「なるほど、ギルドで『鑑定』するなら余裕をもって、採取数を増やした方がいいか・・・。
あの薬草の納品の上限はありますか?」
「上限ですか・・・基本的にはありませんが、雑草ばかりを納品する冒険者には、薬草採取の依頼を禁止する可能性があります。雑草ばかりを『鑑定』させてギルドの常務を妨げる可能性がありますから・・・。」
「了解です、あの採取道具はどこで買えばいいですか?
お金無いんで安く手に入れば嬉しんですが。」
リトの装備は冒険者の格好というより、ギリギリ村人装備といえるものだった。
孤児院の出格好そのままで全身布装備で戦える姿では無い。
肩掛けカバン1つがリトの装備といえるが・・・。
受付嬢はリトの姿を観察し、少し思考したのち受付カウンターから離れ、大きな木箱を運んでくる。
木箱には汚れてはいるが武具や道具が見て取れた。
「それならこちらをどうぞ。」
受付嬢は木箱から、採取ナイフ(?)と小型の背負い篭をカウンターに置く。
「これは?」
リトはナイフと篭を指さし質問する。
「この木箱は冒険者たちがギルドへ置いていった物です。
武具の買い替えや道具の替え替え時に売らずに、後輩の冒険者への贈り物として。
まぁ、使い古しが好まない方も多いので放置気味ですが。」
リトはナイフを手に取り、鞘から抜きナイフの刀身を見つめる。
刃こぼれは無く直ぐでも使えそうな一品だった。
背負い篭も子供が背負っても大丈夫な小型であり壊れていない。
背負い篭を持ち上げ、下から見たり背負い紐を触り、補修なく使えそうだ。
「これはギルドの貸し出しですか?」
「基本的に貸し出しという事になります。
壊しても補償しろという事はありませんので心配なさらない様に。」
「了解です、ありがとうございます。」
採取ナイフは腰紐に差し、背負い篭を担ぎ、受付嬢にお礼を言いギルドを後にする。
これで村人装備から冒険者装備に変更した。
昨日まで採取作業は指で無造作に集めていたが、今日からは採取ナイフでサクサク集められる。
この世界は手の汚れは魔法できれいに出来るが、いちいち面倒なので汚れずに仕事をこなせるのは嬉しい限りだ。
それに背負い篭があれば、肩掛けカバンよりも多くの薬草を持てる。
「今日から『感知』『鑑定』『警戒』『隠密』を同時展開っと。」
リトは目の前の草原に魔法を展開していく。
薬草を『鑑定』し、害ある野犬を『感知』し、周囲を『警戒』し、気配を『隠密』して行動を開始する。
「おぉ、『鑑定』スキルのレベルが上がったかな。
いつもより薬草の存在を感じる。」
昨日の倍の速度で薬草を背負い篭へ放り込み、草原を静かに移動しサクサクと薬草を刈り取る。
野犬は目視で確認し、速攻逃げる!
「野犬の群れは倒す事より、解体しなきゃいけないから相手にしない。」
リトは風向きを気にしながら風下へ『隠密』しながら逃げる。
『感知』外に離れ、『警戒』する必要がない位置で、再び『採取』作業を再開する。
街の防壁から離れているが、夕方までに戻れる位置なので大丈夫だと考える。
「ここまで来たのは初めてかも、薬草も豊富だし穴場かな。」
足元には複数の薬草が生い茂っている。
問題は薬草と同じ場所に毒草も生い茂り、いつも以上に『鑑定』が頑張る必要がある。
「毒草は違う感じで使えそうな気もするけど・・・。
間違えて納品したらヤバいかな。」
冒険者ギルドのクエストボードへは毒草の採取依頼は無かったから採取不可。
ギルドでの『鑑定』で毒草が見つかればマイナス査定になりそうな気が・・・。
ここだけの話、ギルドでの毒草の持ち込みは禁止されていない。
問題は薬草と毒草を区別できない事が問題で、薬草採取で毒草を多く持ち込む冒険者は、採取依頼禁止になる。
それは採取作業全て禁止となり、ギルドで禁止される前に冒険者の方から『採取無理』と考える。
「『鑑定』を信じて採取しますか、今日は3種類の薬草を集められそう。」
傷薬やポーションになる薬草2種類に、毒消しになる薬草を含めた3種類。
ウインドウには薬草としか表示されていないので、大丈夫だと信じる。
薬草と雑草、毒草以外にはウインドウ表示が『???』というのもある。
「なんだよ『???』って、今は放置でいいのかな?」
薬草をサクサク刈り取り、背負い篭へポイポイ投げ込む。
『感知』スキルに反応があれば、逃げて離れる。
『警戒』スキルで野犬の群れが大きくなっているのを感じ、隠密』スキル全開で静かに草原を走り出す。
リトが移動を開始したのを同時に、野犬の群れも行動を開始する。
それはリトが『隠密』スキルで気配が消えての行動であり、リトを発見した事での移動ではないのだが
「ヤバい見つかったかも。」
後ろを『警戒』し、『隠密』にて気配を殺し、草原での存在感を無くし、リトは冒険者ギルドへ帰還する。
全力疾走したリトは汗だくだったので、『生活魔法』で汚れを落とし、気怠そうに受付カウンターへ背負い篭を渡す。
「お願いします、薬草採取したので『鑑定』お願いします。」
受付嬢は篭の中身を見て、リトに小さな札を渡す。
札には『26番』と書かれている。
リトは札を手に取り、首を傾げる。
「『鑑定』後にお呼びしますのでお待ちください。」
「あ、はい。」
受付嬢は背負い篭を奥の部屋へ運び出す。
リトは待合室の隅にある椅子に座り、冒険者の手引書を読み始める。
今日の採取場所に生えていた薬草も記載されており、間違い無い事に『ほっと』し、『???』とウインドウ表示された薬草は載っていないのに気が付く。
「あれは薬草じゃないのかな?
それとも草原で確認されていないとかかな?
ギルドの資料室に行けばわかるかな。」
ギルド加入2日目、薬草採取しなければ宿屋へも泊まれず、食事すら危うい。
その為、二日連続で薬草採取をし、生活費を稼いでいた。
活動資金に余裕があれば休日も確保できるかな。
それから30分後に『26番』の『鑑定』が終わったと呼び出しがあった。
受付カウンターへ行くと、カウンターには空になった背負い篭と小さな革袋が置いてあった。
「はい、『26番』です。薬草大丈夫でしたか?」
「『鑑定』が完了しました、薬草3種類あり全て薬草だったと確認できました。
各種10本1束で計算して端数無しでしたので、依頼票7枚分の報酬となります。
各依頼票の詳細は必要ですか?」
「いえ、大丈夫です。間違いないなら結構です。」
リトは小さな革袋を背負いカバンの入れ、背負い篭を手にし
「これで今日も宿屋へ泊れる。」
小さな呟きは受付嬢の耳にも届き、受付嬢は気になったので
「あの宿屋暮らしなので?」
リトは何を聞かれたかわからず、首を傾げコクリと頷く。
「孤児院出身なので昨日から宿屋暮らしです。
働かないと寝る場所も食べる事も確保できませんし。」
「採取のみで宿屋暮らしは大変ではないですか?
それと冒険者ギルド管轄の宿屋は多少格安で泊まれるのでお教えしますか?」
リトは格安という言葉に反応し
「教えてください、少しばかり困っているので。」
受付嬢はカウンターへ宿屋の地図を広げる。
その宿屋はギルドの真後ろの位置にあり、リトは倉庫があったと記憶していた。
「ギルド裏の倉庫が宿屋ですか?知らなかった。」
「ギルドの保管倉庫兼、ギルドの直営宿屋ですから。
場所がわかるから案内する必要ないですね。
どうします、今日から泊まりますか?
宿泊代は銀貨1枚、各食事は銅貨3枚で、部屋にはベットと机のみで保管箱があるだけです。
部屋は施錠可能で連泊可能ですよ。」
「薬草採取の報酬で泊まれるのか、今日の報酬で6日間は大丈夫なのは嬉しいな。
今日から連泊お願いします。」
「わかりました、宿泊代はここでも可能ですが・・・どうしますか?」
リトは悩まず、革袋から銀貨3枚をテーブルに置く。
「それでは今日から3泊の金額いただきました。
こちらの札を宿屋の女将に渡してください。」
受付嬢から札を渡され宿屋へ向かう。
ギルド裏の倉庫は宿屋とは思えない作りだったが、扉を開けた先は予想以上に上質な内装をしていた。
綺麗というより上質な作りで、なぜか安心する建物だった。
宿屋の女将は恰幅のいい女性で、ニコニコしてリトに話しかける。
「ギルドの受付嬢から教えてもらいました。
ギルド3枚納めたので3日間お願いします。」
そう言ってギルドから渡された札を手渡す。
札を受け取った女将は、「あらあら~。」と嬉しそうにリトを部屋に案内する。
リトの部屋は1階の角部屋で3畳ほどの部屋にベットに机、保管用の箱があるだけだった。
最後に部屋の鍵を渡され、食事は朝昼夜の3回で別途銅貨3枚、食堂は宿屋入り口から右の大部屋との事。
「薬草採取を3回で活動資金貯めれる。
5回もすれば休日も確保できるはず・・・。
今日は頑張ったから、明日は二度寝できるな。」
リトが草原から野犬の群れから逃げて影響か、リトが消えた後に野犬の群れと冒険者の集団が、草原で衝突しギルドへ応援要請が来るのだが、その事をリトは知らない。
怪我人が多く、薬草の需要が増えた事で後日薬草採取の報酬額が増える。
微増なのと報酬額を確認しないリトがその事を知る事は無い。
 




