表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/12

4話 採取者は冒険者になる。

冒険者ギルドには孤児院卒業の子供13人が、孤児院出身の冒険者の引率でギルドへの加入に来ていた。

毎年春先に引率同伴で孤児達の加入するので、ギルドとしても可別で説明するのではなく、ギルド食堂の一角でギルド加入の手続きをしていく。

冒険者ギルド加入に関しての注意事項、また、冒険者としての心構え、クエストに関しての注意など説明を淡々と教えてくれる。

孤児達は真剣に話を聞き、拳を握りながらコクコクと頷く。

リトはギルドの受付嬢から手渡された『冒険者の手引書』を読みながら話を聞いている。

良い事と悪い事は教えてもらえなくても知っている事ばかりだった。

孤児院出身の冒険者から何度も聞いていたし、何より不道徳な事は世間的に犯罪者と言われるからやらないと思うんだが・・・。


「それと冒険者として不道徳な事をすればギルドカードが『赤色』になります。

『赤色』のギルドカードは犯罪を犯した者、賞金首という存在になります。

そうなった場合、新しくカードを発行しても『赤色』になりますし、街に入る事も出来ません。

いいですか、冒険者して人として不道徳な事はしないで下さい。」


「あの『赤色』になった場合どうすれば・・・。」


孤児の一人が恐る恐る受付嬢に質問している。

受付嬢はニッコリ微笑み答えてくれた。


「賞金首として狙われます。もしくは、捕縛して奴隷落ちです。」


「え、狙われ、捕縛で奴隷落ち?」


「はい、犯罪者になった者の末路は死か奴隷です。

冒険者として普通に過ごせば大丈夫だと思いますよ。」


「あの気が付いたらカードが『赤色』になった場合はどうすれば?」


「その時はギルドで報告してください。

カードには何をして『赤色』になったか表示できる機能があります。

盗み、殺し、誘拐、強盗などカードに表示されます。

気が付いたら『赤色』になる事は無いです。

カードには何を討伐したか、何を採取したか事細かく表示されます。

例えば今まで倒した魔獣の数、採取した薬草の数なども知る事が出来ます。

それ以外ではカードの持ち主のレベルやスキルを見ることも出来ますし、他の人が見れないように非表示にすることが出来ます。」


『赤色』にビビっていた孤児たちはカードにレベルやスキルを知ると聞いてカードを見つめている。

受付嬢はそんな孤児たちの姿を見ながら自身のカードを取り出し


「カードの名前を触り『ステータス』と唱えると、本人にしか見えないステータスが表示されます。」


孤児たちは声を揃え『『『ステータス』』』と唱える。


「お、出た!」

「こっちも出た!」

「レベル1でスキルは・・・ある!」

「こっちもすきるある!」


孤児達がステータスを見ながら騒ぐ、受付嬢は毎年の事なのが手をパンパンと叩き静かにさせる。


「レベルとスキルは基本非表示です。

カードに記載されている事は秘密事項である事を知っていて下さい。

レベルは個人の実力であり、スキルは個人の修練の証となります。

スキルを狙っての誘拐も過去にありましたので気を付けて下さい。」


「あの誘拐って?」


「珍しいスキルは犯罪組織に狙われる傾向があります。

有名なスキルでは『解錠』スキルは盗賊団に狙われ誘拐されたと聞きます。

『隠密』スキルは暗殺ギルドに攫われ、奴隷にされて暗殺者にか・・・。」


「誘拐されるって普通あるんですか?」


「ありますよ、この街でも初心者冒険者の2割はいなくなります。

冒険者をやめたのか、他の職に就いたのかはわかりませんが・・・。

ここで冒険者になった皆さんには1年後もここで会えることを望みます。」


「「「・・・。」」」


冒険者としての夢のある話よりも、冒険者としての現実を聞き孤児達は黙ってしまう。


「それでは初心者冒険者になった皆様にギルドとして初心者教習を開催します。

明日から戦い方のレクチャーに冒険者としての基礎スキルの習得、周辺の草原での討伐や採取について教えます。

強制ではないので教えを乞う方のみの参加可能ですので希望者は明日の朝ギルド受付まで集合です。

それではギルド加入の説明を終わります。」


受付嬢はぺこりとお辞儀をして受付カウンターへ戻っていく。

引率の冒険者は受付嬢にぺこりと頭を下げ、黙りこくっている孤児達へ声をかける。


「ギルド加入したんだ、これからどうするかよく考えて行動するんだぞ。

初心者冒険者になったんだから、孤児院も出ていく必要があるし、まずは一月死なずに頑張れ!

カードに自分のレベルとスキルを見ただろ?

それがお前らの実力だ、武器スキルがあればスキル補正で素人より扱える。」


「レベル1は素人より強い強い感じ?」


「そうだ、扱えるだけで強くはない。

ましてお前たちは武器も無いから意味がないがな。」


「それならどうしたら・・・。」


「冒険者ギルドには、討伐クエスト・採取クエスト以外にも街での雑多なクエストも多い。

まずは活動資金を得る為に街でのクエストをするんだ。

街の住民に冒険者として認めてもらえ、12歳ではクエストを選べると思うな。

宿屋の住み込みでも商店での住み込みでも何でもこなせ。

最初は衣食住を確保しろ、お前達は読み書きも出来るから仕事を選ぶな。

働いて資金を稼いでからでも冒険者になれる!」


引率の冒険者のアドバイスを聞き、孤児達はギルドのクエストボードへ駆けて行く。

12人の孤児達が我先に駆けて行く、テーブルに座り小冊子を読んでいるリトが残されている。

引率の冒険者はリトの隣に座り、テーブルを指先でトントンと叩く。

リトは音に驚きテーブルを見回し、他に人がいないことに再度驚き、再びコンコンと音の鳴る方を向く。


「あれ、みんなは?」


「仕事を探しにクエストボードへ行ったぞ。」


引率の冒険者が指さす先には、孤児達同士が相談しながら仕事を選んでいる。

何故か受付嬢の一緒に仕事探しをしだし・・・12人の孤児達は受付嬢を伴ってギルドから出ていく。


「受付嬢の案内付きで仕事へ向かうんですか?」


「いや、普通はあり得んな。

しかも受付嬢全員で行くかよ。」


「今日の受付嬢はみんな親切だったと?」


「まぁ、そうだな。

んで、お前さんはどうするんだ?」


「冒険者一択です。

もっとも採取しかしない予定ですが・・・。」


「やれそうか?」


「街の周りの薬草採取なら大丈夫です。

知り得る薬草だし、周辺の野獣は警戒すれば平気です。」


「今年は冒険者も増えると思ったんだがな。」


「孤児院出身の冒険者ばかりじゃないでしょ?」


リトの視線の先には革鎧姿の初心者冒険者の集団がいた。


「装備はイイが見た目と実力が伴っていないんだよ。

半年後には死ぬか逃げるし期待薄いんだよ。」


「良さげな装備に見えますが?

腰には長剣?もあるし戦える冒険者では?」


「初心冒険者だよ、先行投資豊富なだけ実力は二の次、見た目重視の冒険者だよ。

しかも、最初から討伐クエストをやりたがりのな。」


「・・・向上心がある?」


「死にたがりを向上心とは言わないよ。」


「街の周りは野犬が多そうですね。それと角ウサギだけと書いてますが?」


「その小冊子には最低限の事しか書いてないからな。

野犬は群れで行動してるし、角ウサギは草原にいるが臆病で見つけるのが困難だぞ?」


「小冊子には書いてない情報ですね。

野犬の群れは気を付けないと危ないですね。」


「基本的に野犬は3~5体で行動している。

稀に希少種が生まれるから気をつけな。」


「希少種ですか・・・?

それも書いてないし。」


「無料配布の小冊子に何を期待してるんだよ。

これには最低限の事しか書いて無いぞ。

あとは自分で経験するか、ギルドの資料室で調べな。」


「資料室もあるんですね。

書籍や資料があるんですか?」


「過去の資料があるはずだ、読む冒険者がいないから資料室は荒れ放題だがな。」


「それは楽しみが増えました。

そろそろ最初のクエストへ向かいます。

今日はありがとうございました。

これからよろしくお願いします。」


リトは引率の冒険者にぺこりと頭を下げクエストボードへ向かう。


「おぅ、頑張んな!」


リトは「あ」と声を上げ、受付カウンターを指さして


「受付嬢がいない場合はクエストを受けれないんですか?」


「あー、何のクエストをするつもりだ?」


「薬草採取です、確か常時依頼の?」


「それなら採取後に受付カウンターへ届けたらいいはずだ。

基本薬草10本1束の納品だから気をつけてな!」


「はい、気を付けます。」


リトはペコリをお辞儀をし、クエストボードで必要な薬草の数を確認し、ギルドを出ていく。


引率の冒険者『ジン』は、過去に何度か孤児院出身のギルド加入を手伝っていた。

最初から冒険者を目指す者もいたし、ギルド加入して違う職業になった者もいた。

力半ばで力尽きた初心者冒険者も沢山見てきた。

ジン達は孤児達に冒険者に必要な最低限のスキルの習得、冒険者としての情報を教えてきていた。

それは同じ境遇の孤児達が死なない様に教えたはずだった。


そして、初心者冒険者になったリトは過去に送り出した孤児と違っていた。

冒険者ギルドで説明を黙々と聞き、小冊子を真剣に読み、緊張も興奮もなくギルドを出て行った。


「薬草の仕分けをしていたから実力は知っているが大丈夫かな。」


ジンは引率の仕事が終わったので早々に酒場へ駆け出す。

酒場で新たに働き始める元孤児の様子を見る為に。



街の防壁の手前でギルドカードを門番に開示し、草原へ歩き出す。


「夕刻には門が閉まるから気をつけろよ!」

「防壁の近くは野犬もいないが、離れると野犬の目撃情報もあるから警戒忘れるな!」


リトは門番2人の忠告にコクコクと頷き歩き出す。


リトは『感知』と『鑑定』を並行して使用する。

次の瞬間、リトの視界には透明なウインドウが現れる。

周囲20mに生い茂る植物の名前が個別にウインドウに表示される。


「見にくい・・・、雑草のウインドウを薄く表示。

薬草の表示を濃いめに・・・っと。」


これで視界いっぱいだったウインドウ表示が薄まっていく。

リトは薬草のウインドウを探しながら採取していく。

10本1束にして次々と採取し・・・、次の瞬間『感知』に敵意ある反応の接近を感知し、周囲を警戒しながら街へと帰還する。

音を立てず、気配を消しながら、警戒をしながら・・・。

この緊張感ある周囲警戒を経験し、後日新たなスキルを習得したのを知るのだった。


この日、リトが初めての薬草採取の報酬額は決して多くは無かったが、少なくとも宿屋へ泊れて生活可能だと知る事になる。

冒険者ギルドでは初心者冒険者が納品した薬草に雑草が混ざっていない事に驚き、新たな採取冒険者の誕生を喜ぶのであった。


もっともリトの採取成功率と納品頻度に悩むのは別の話。

ジン(♂):孤児院出身の冒険者。


リト(♂):12歳初心者冒険者。『生活魔法』『鑑定』『感知』『採取』『格闘術』『棍』『全初歩魔法』『警戒』『隠密』

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ