1話 採取者は草原で生きる。
冒険者リトは今日も草原で薬草採取をしている。
ソロで活動しているので、周辺を警戒しつつ『鑑定』スキルで採取を行う。
「この草原は薬草が豊富だな。」
見つけては採取し、薬草を10本1束で結んでいく。
「薬草、雑草、雑草、雑草、薬草、雑草・・・。」
小声でブツブツつぶやきながら採取する姿は傍目ではいいものではない。
その為リトと同様に草原で採取している冒険者はリトから離れて活動している。
リト的には真剣に採取していたが、周りの冒険者からは虚ろにブツブツつぶやきながら、採取する姿は怖くもあった。
冒険者ギルドでのリトの評価は高かったが、冒険者からの評価はすこぶる悪かった。
冒険者でありながら最小限の装備で、討伐クエストよりも採取クエストをするのは臆病者と言われている。
ピコン
『周辺感知』で近づく気配を感知し、薬草の束を背負い篭へ放り込む。
感知スキルで害あるモノを目視で確認し、他の冒険者へ注意を促す。
「西から野犬3、西から野犬3、逃げるなら東へ逃げろ!」
リトは野犬へと視線を捉え戦闘態勢で迎え撃つ。
草原にいた冒険者たちは武器を構えるもの、我先に逃げ出すもの、リトの言葉を信じず怪訝な顔をするもの。
長剣を構えながら2人の冒険者が野犬へを斬りかかる。
問題があるとすれば草原で薬草採取を冒険者は初心者ばかりで、長剣で迎え撃つにも命がけである。
最初こそ善戦していても、数に負け実力にも負け始める。
他の冒険者は・・・草原から逃げたのか姿が見えない。
リトは気配を消し野犬の後方へ移動し、長剣の冒険者へ目配せをして、野犬へを放つ。
ザシュ!ザシュ!!
長剣の冒険者への誤射を避け、倒すのではなく動きを封じる事を優先する。
野犬2匹の前足を切り裂き後方から長剣の冒険者のサポートに徹する。
野犬との戦闘は初心者冒険者としてはイイ意味で冒険である。
数で互角であっても実力的にはギリギリで、長剣の冒険者2人も傷を受けてはいるが、ニコニコしながら野犬を解体している。
リトは面倒なので野犬3体の討伐自体を放棄している。
「それにしても野犬の報酬も放棄していいのか?」
「毛皮や牙もギルドへ持ち込めば金になるのに。」
「あー、大丈夫。私は解体苦手なので。」
「解体苦手って・・・冒険者なのに。」
「魔法が得意なのに勿体ない。」
「魔法は自衛ができれば充分ですよ。」
長剣の冒険者2人は野犬の解体をしながら『勿体ない』とか『あれほどの腕があれば』とブツブツつぶやいている。
リトは解体作業している2人の周囲を警戒し、解体作業を終え一緒に街へと帰還する。
冒険者ギルドへの報告は長剣の冒険者2人へ任せ、リトは薬草の納品を済ませる。
薬草採取の報酬額は決して多くはないが数日は宿屋へ泊れるはず、リトは宿屋で食事を済ませ、魔法で体の汚れを落とし眠りにつくのだった。
リトが宿屋で眠りにつく頃、冒険者ギルドの食堂。
リトと一緒に野犬を討伐した冒険者2人が、同世代で駆け出しの冒険者達と野犬討伐時の話題で飲んでいた。
「よく逃げもせず野犬3体に向かっていったな。」
野犬3体に襲われた時に一目散に逃げた冒険者のセロンが、長剣の冒険者ノノとトトに聞いていた。
ノノとトトは野犬3体との闘いを思い出し渋い顔をしながら答える。
「目視で逃げれる距離でもないし、周りに冒険者もいたから大丈夫と思ったんだよ。」
「嘘つけ、いきなり剣を構えただろ。」
「周りにお前らもいたから大丈夫と思ったらにげるんじゃねーよ。」
「お前も勝てないと思ったら逃げろよ。」
ノノが数で対抗すれば大丈夫と考え、トトは逃げる考えをノノが構えたことで逃げそびれたみたいだ。
セロンはエールを飲みながら、こいつら大丈夫かと思い。
「野犬単体なら大丈夫でも3体の群れは無理だろ。
よく生き残れたな・・・お前ら。」
ノノとトトは多少の傷を負いこそすれ致命傷などはなく、セロンはこの2人は冒険者としての成長したのかと思い、自分も少しは冒険者として『冒険』をすればと考える。
「採取したときに声が聞こえただろ、『西から野犬3!』って。」
「その声の冒険者の3人で倒したんだよ。」
「野犬討伐の報酬を放棄したから倒した事もギルドへの報告拒否されてな。」
「まさか魔法で援護するとは思わあなかったがな。」
「確かにあの時声をかけられたが・・・・、あの声は採取冒険者のリトじゃないか?」
「あぁ、そうだ。俺らとは距離もあったし、野犬とも距離があったが最初に気が付いてたな。」
「お陰で逃げれたやつもいるし、向かうバカもいたしな。」
「バカ言うなし、冒険者なら戦ってかてや!」
「勝てない相手に向かうなよ・・・、だからお前はバカなんだよ。」
「ノノがバカなのは知ってるし、トトも同じくバカだと思うぞ。
しかし、リトが魔法で援護か・・・、戦えるすべを持っていたのか。」
「野犬を切り裂いていたから風魔法だと思うぞ。」
「足を切り裂いて動きを阻害したおかげで倒せたがな。」
「それじゃ3人で野犬3体を倒したのか?
しかし、野犬討伐を放棄したのは何故だ?
野犬なら解体すれば。皮に牙に肉がギルドに納品できるのに。」
「解体するのが面倒なんだとさ。」
「まぁ、リトは解体ナイフを持ってなさそうだが?」
「武器も無いし防具も無いし、背負い篭のみで草原にいたからな。」
「冒険者装備というより村人っぽいしな。」
「それなら冒険者として上を目指せそうだが。」
リトの冒険者の活動は薬草採取のみ、冒険者になったのがセロンやノノ・トトを同時期だったが、一度でも討伐クエストで戦う姿を見た事がなかった。
何より武器らしいものを装備せず、防具も厚手の革装備でなく、街に住まう人々と同じく普通の格好をしている。
「勿体ないな、戦える力があるのに。」
「戦えるから戦うわけじゃないだろ?」
「それでも戦えるのなら冒険者じゃなく兵士にでもなれば。」
「兵士は冒険者より自由が無いぞ?生き難いんじゃないか?」
「リトは数日おきにしか採取しないから無理だろ?」
ノノにそう言われトトはエールを飲みながら『無理だな。』を思う。
リトは街で有名な働かない冒険者の一人だという事を。
「冒険者ギルドではリトの実力は把握していると思うぞ。
ソロで採取冒険者として活動しているんだし、何より採取成功率がイイらしいからな。」
街の冒険者ギルドではリトの薬草採取は、常時採取クエストと指名採取クエストを受けている稀有な存在な事は、冒険者の間では誰しも知っていた。
普通薬草採取の何割かは雑草が混ざっているのだが、リトだけは最初から薬草採取で雑草の混入は無かった。ただの1本も・・・それは他の薬草も採取成功率100%としてギルドとしては貴重な戦力としていた。
冒険者ギルドではリトが何らかの薬草の知識を有しているか、『鑑定』スキルを有していると考えていた。
ギルドとしても各冒険者へスキルの開示をしておらず、リトが問題なく薬草を採取していれば問題無しとギルドと意思としていた。
「そういえば野犬3体の討伐でランクアップ出来るがどうする?」
「上げてもいいんじゃないか?ランクDまでは草原から森の入り口での活動だしな。」
「お前らまだランクアップしてなかったのか?
同期の奴らはランクEだし、何人かはランクDになってるのに。」
セロンは『マジか』という感じでノノとトトを見ている。
「何度かランクアップの話を聞いてたけど、聞き流してた。」
「面倒そうだし直ぐに飲みに行ってたしな。」
ノノとトトはエールのお代わりをしながら、グラスのエールを豪快に飲み干す。
この2人はクエスト報酬の大半を飲み代へ消える。
「冒険者としては間違ってないが、初心者冒険者としては間違ってると思うぞ。」
「うまい酒が飲めれば充分!」
「今日も酒がうまい!野犬分の臨時報酬もあるしな!」
「おぅさ!」
「やっぱり冒険者として間違ってるよ、お前たちは。」
セロン(♂):冒険者ランクE、基本ソロでの活動し、採取作業は臨時でパーティーを組み活動中。
ノノ(♂):冒険者ランクF、トトとパーティーを組む。酒をこよなく愛する。
トト(♂):冒険者ランクF、ノノとパーティーを組む。酒をこよなく愛する。