9話 採取者はランクアップす。
リトの冒険者としての活動時間は短い、ギルドで依頼表を確認後、草原へ向かう。
肩掛けカバンにはパンと焼き串や干し肉が少々、キッチリ昼ご飯を常備している。
活動資金も最近では余裕もあり、露店で買った果物も入っている。
「今日も無駄にイイ天気だ。」
『感知』で周囲に害ある反応が無い事を確認し。草原に立ち尽くしている。
目の前に広がる薬草の群生地、『鑑定』で確認しても薬草か確認出来ない。
「薬草が多いな、一応『隠密』で気配を消して採取するかー。」
採取ナイフを構え、サクサクと薬草を採取する。
やはりリトが知らない薬草もあるが、個別で採取しておく。
「『???』はボーナス♪
雑草と毒草以外は採取採取~♪」
リトには薬草が銅貨に見えていた。
「これで寝具を新調出来る!」
宿屋のベッドはシングルサイズなので、次は寝返りをしても安心なダブルベッドに変えたいと思っていた。
「ベッドを大きくしたら部屋が狭くなるかなー。」
宿屋の部屋の大きさでは机や保管箱が邪魔になりそうな気がする。
そんな部屋の毛様替えを考えながらも、薬草を採取する手を止めることは無い。
草原でサクサクと集中していると、角ウサギなどが接近してくるのだが、『隠密』スキルの影響なのか気付かれる気配も無く、採取作業を続行している。
これは野犬の群れでも同じだったし、冒険者達がリトの視界で戦闘していても・・・最後まで気付かれる事は無かった。
「『隠密』スキルが優秀なのか、周辺をキチンと感知してないのか、今のところ分からんな。」
リトの採取技術は日に日に上達していたし、隠密も同様に上達した結果、誰に悟られず採取する技術を確立していく。
ランクFからランクEへのランクアップは、ランクFの依頼10回を成功すればランクアップ出来る。
冒険者になった時に教えてもらった内容なのだが、リトは聞き流した内容であった。
リトと同期時期に冒険者になった者たちは、次々とランクアップをし、ランクDへランクアップした者もいた。
リトにも何度かランクアップを聞かれはしたが「ランクアップで何か変わりますか?」と聞くと、「クエストの選択肢が増えて、報酬も増えます。」と教えられた。
「選択肢が増えても採取するのに影響は無いと思うなー。」
リトがランクアップに興味が無い様なので、受付嬢は慌ててランクアップの恩恵を説明していく。
「ランクEの依頼は報酬額が増えますよ?」
「僕は常時依頼の薬草採取しかやってないですよ?」
リトが選ぶ依頼票は常に常時依頼ばかりで、それ以外な依頼は見向きもしていなかった。
ギルドから何度も違う依頼を進めても断ってきてた。
「ランクEのお勧めの薬草採取もありますよ?」
「知らない薬草なので採取できませんよ。
見た事ない薬草は採取できないです。」
何度か常時依頼以外の薬草採取の依頼票を見ていたが、名前も知らない薬草ばかりでやる気も無かった。
「それならギルドの資料室で調べてみてはどうですか。
リト君が知らない薬草を知るいい機会だと思いますよ?」
「そういえば資料室があるんでしたね・・・。」
リトはギルド加入時に資料室がある事は知っていた。
「新しい薬草を知る機会か・・・。」
「それにランクアップすれば冒険者としての行動範囲も広がりますよ?」
「防壁周囲から遠くへ行けるかー。」
リトが毎日薬草採取しているからか、防壁周辺の薬草が枯渇気味であった。
刈り尽くした訳ではなく、次に採取するまで育っていないものが多いだけで。
「そうですね、暫くは資料室に籠ります。」
この日から冒険者ギルドの資料室に籠る。
薬草の知識を知り、実際にギルドに納品されている薬草を触り、リトは薬草を十全知識として吸収していく。
資料室に籠り、5日間でランクEの薬草は覚えた。
防壁付近から離れた場所での野獣や魔物の目撃情報を何度も確認した。
「薬草は大丈夫、群れる野獣が多いのが気になるが大丈夫かな?」
野犬の群れは逃げ優先なら問題ないが、野犬より強い個体が群れていた場合は逃げれる自信が無い。
草原には野犬より大型の黒犬に、獰猛な狼も群れて行動していると資料に書かれていた。
リトの装備では黒犬の攻撃に耐えれるものでは無いし、狼に対しては素早い動きで囲まれたら、ランクE冒険者では逃げることも耐えることも不可能を記載されている。
「薬草報酬が良くても死ねる環境な気がする。
装備を買い替える資金も無いし、暫くは常時依頼で稼ぐしかないかー。」
朝から晩まで資料室に籠っていたが、昼ご飯後に2時間の昼寝をし、いつも以上に眠そうな顔でギルドへ通う姿は受付嬢から心配され、「疲れたら休むのも大事よ?」と言われ、「充分休んでいますよ?」と逆に聞き返してしまうほどであった。
5日間の資料室での勉強で知りたい事を学べたので、受付嬢には「明日から採取再開します。」と告げる。
「ランクEの薬草採取をするんですか?」
受付嬢から心配そうに聞かれたので、リトは首をふり
「暫くは常時依頼の薬草採取をします。
そろそろ宿屋代を稼がないとヤバいです。」
「5日間籠り続けていたもんねー。
薬草の事を知るだけと思っていましたが?」
「え、はい、薬草の事を調べて知識として学べましたよ。
ランクEの薬草は完璧です、問題があれば襲われた時の対応をどうするか悩んでます。」
「草原での目撃情報は・・・野犬に黒犬、狼が群れで目撃されていますね。
実際にランクE冒険者にはギリギリ対応できる場所だと思います。」
「ランクEの冒険者が何人パーティーでですか?」
「4~5組のパーティーでギリギリです。
リトはパーティーを組むことをお勧めします。」
「・・・今までソロでやってきたのに、パーティーを組めと?
どこかに組める冒険者がいるんですか?」
リトの同期の冒険者は、すでに引退したか者もいたし、既にパーティーを組んで依頼をこなしている。
今現在パーティーを組んでいないのは、問題がある冒険者と協調性の冒険者しかいない。
「ギルドでお勧めの冒険者を紹介してもらえは・・・。」
「無いですね。」
リトの縋る様なお願いは、受付嬢がバッサリと切った。
ソロで活動している冒険者は、一癖ある者しかいないので、リトに紹介してもダメと思われたからだ。
「暫くソロで活動します。
それと薬草からポーションを『調合』ってどうすればいいんですか?」
「リト君は『調合』スキルは習得済みですか?」
「いえ、薬草をそのまま納品するより、ポーションにして納品した方が報酬額いいでしょ?」
「それは勿論、『調合』習得には不明な事が多くて、気が付いたら『調合』スキルを覚えていたと聞い事があります。」
「調合の真似事でもいたら覚える可能性があるかなー。」
「もし調合を覚えたらギルドとして報酬を支払います!」
「スキルの発現もギルドで買い取るの?」
「スキルの情報としての報酬と思って下さい。
ギルドから結構いい報酬が支払う事をお約束します。」
「了解です、夜宿屋に戻ってから試してみますね。」
「はい、お願いします。」
5日連続で資料室に籠っての作業は、草原での薬草採取とは違った意味で疲れる仕事であった。
知識を得て次の採取へ役立つはず、只今はゆっくり眠りたい。




