1-3.Arcadia / にじファン
00年代末から10年代初頭にかけて進行したのが、それまで原作を基本単位として分断的に形成されてきた、男性向け小説界隈の決定的な統合であり、web小説投稿の場の一極化である。
ここではその舞台となったArcadia、及びそれを引き継ぐ形となった小説家になろう(にじファン)、という2サイトについて見ていきたい。
■Arcadia
Arcadiaというサイトは2000年08月開設。当初はよくある個人HPの規模であったが、2002年01月の捜索掲示板設置、2003年02月の投稿掲示板設置を通じて徐々に巨大化。
00年代中盤から2010年頃にかけて、web小説に関する国内最大のサイトとなった。(ケータイ向けサービスや2chは除く)
長期間に亘って安定的に運営されており、なおかつトップページの日間UA数という形で、当時の人流をほぼ正確に把握できる。
サイト間の比較を行う上での指標として、これ以上のものは無い。
それまでの期間、大手と言うべきサイト群は、2008年初頭頃まで拡大基調にあった。
しかしそうしたサイト群を目的とした人流は、2008年春以降右肩下がりに縮小していく。
一方のArcadiaでは、2008年前半頃まで日間5~6万で推移していたトップUAが、年末にかけて肥大化。「一日のユニークPV15万」というピークを形成することとなった。
web小説投稿が急激に集約されていった時期であり、
その中でも特に、Muv-Luv・赤松健・とらハ・ゼロ魔の4板が多くのPVを集めた。
(PV計測は2008年夏以降。ここで言うPVとは「1話(≒目次)を踏んだ回数」のこと)
このうちMuv-Luvに関しては、2006年02月のオルタネイティヴ発売以降、継続的な投稿が見られる。Fate/二次から続く、エロゲ原作二次を主体としたArcadia、としての傾向が強いと言える。
一方他の3原作に関しては2008年以降、他のサイトで形作られた人気が原作の流入、Arcadiaというサイトへ場所を移して急速に展開した、という類のものかと思う。
具体的にどうと理由を求めるのは難しいが、PV表示や感想面など「より便利なサイトへ」、作者読者両面で「より人が多いサイトへ」、という流れとして展開したのだろう。
■小説家になろう
小説家になろうは2004年04月開設。他でも書いているので、あまり深くは立ち入らない。
過去の公式ブログを漁った感覚だと、特に2007年を通じて行われた様々な機能拡張が目につく。そして決定的だろうものが、2009年9月30日リニューアルの存在だ。
何はともあれなろうは持続的な成長を継続。概ね2010年夏頃を境に、Arcadiaとの規模的な逆転が起きたと言ってよいだろう。
特徴的なのが「にじファン」開設のタイミングで、「小説を読もう」の検索量が激減している点。元々二次創作目的での検索量が多かったことが窺える。
投稿点数に占める二次創作の割合を調べてみると、最も比率が高かった10年代前半のことであった。
にじファン開設とは二次創作膨張という現状の追認、利便性向上のためのサイト分割という傾向が強かったのだろう。
にじファン運営期間の人気原作と、Arcadiaの投稿活動の変化を照らし合わせてみるとなかなか興味深い。
板別で見ていくと、特に2010年秋頃からネギまとゼロ魔二次の投稿量が、その後2011年後半期にはなのは二次の投稿量が急落。一方のにじファンでは、それに応じるような形で主要原作が移り変わっていった。
Arcadiaとなろうの逆転、その一部は「特定原作を目的とする二次創作集団」と「その中心となる場の移動」として進行したものと思う。
■にじファン閉鎖
視認性の都合でサイト開設前の検索量を0としている。暁に関しては一般名詞すぎる点で検索量が適切に表現されるとは言えず、「暁 SS」「暁 小説」の合計値を当てた。
一応「エブリスタ」「pixiv SS」「pixiv 小説」なども調べてはみたものの、にじファン閉鎖に連動する検索量の変動、と見做せる数字の動きは認められなかった。
3月規制に際して特に数字が跳ね上がったサイトとしては、「シルフェニア」と「TINAMI」が挙げられる。少しして「にじの彼方」が開設された。
7月に入り閉鎖が告知されると、これらに加えて「アットノベルス」が台頭。その後07/15には「暁」「ハーメルン」が開設された。
所々Arcadiaとハーメルンの数字が鋭く突き出ている箇所が見られるが、この時期ではまだ不安定だったのに加え、何者かによる攻撃の影響で鯖落ちが多発していた。