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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

前世がゴリラでした。〜そうだ、ぼくはごりらだった〜

みんな大好きゴリラです。

よろしくおねがいします。

「そうだ。ぼくはごりらだった」


 唐突に思い出した記憶。

 それは僕が前世でゴリラと呼ばれる生物だったことだ。


「……ごりら?」

「こんな時に何言ってんの、ゴラッソ!」

「気でもふれたか? ま、わかるぜ。こんな状況だもんな」


 ここはダンジョンの中。

 そして僕たち冒険者パーティ『流浪の風』はこのダンジョンを攻略している途中で、モンスターハウスと呼ばれる夥しい数のモンスターのいる空間に飛ばされて、モンスターたちに囲まれている。

 ハッキリ言って、パーティ全滅の危機だった。絶体絶命の状況。


 そんな中、さっき僕はモンスターの攻撃をモロに食らってしまい、一瞬意識を失い――




 自分が前世でゴリラだったことを思い出した。




 それを思い出した瞬間、僕の中にある力に気づいた。

 もしかしたらこの窮地を切り抜けられるかもしれない。


「……みんな。僕に考えがある。うまくいくかはわからないけど、もしかしたら生きて帰れるかも」


 僕がそう言うと、パーティのみんなは驚いたように目を見開いた。

 当然だ。今はミリンが全方位防御魔法を張っているから何とかしのげているに過ぎない。

 この防御魔法の効果時間が切れたら、モンスターたちが容赦なく襲ってくるだろう。

 ダンジョンから脱出できるアイテムもない。

 それなのに、僕が「生きて帰れるかも」なんて言ったのだから、その反応も無理はない。


「その考えというのは……?」


 リーダーのジンが他のみんなを代表して訊いてくる。

 だから僕は言った。


「僕が前に出てモンスターを倒す」


「バカな! そんなこと、できるわけがない! あのモンスターの数を見ろ!」


 僕の言葉に、ジンは猛反発する。

 それに他の2人――レックスとミリンも続いた。


「さてはゴラッソ。お前、死ぬ気だな? 自分が囮になるからその間に逃げろってか?」

「そんなのダメよ! ワタシたちはパーティ……一心同体よ!」


 そんなみんなの言葉を、僕は否定する。


「大丈夫。僕を信じてくれ」


「…………死ぬ気はないんだな?」


 僕の力強い言葉に、ジンが問いかけてくる。


「よくわからないけど、うん、なんか……やれそうな気がするんだ」


「わかった。ならばゴラッソ……君に我々の命運を委ねる!」


「ありがとう、ジン。それじゃあ僕はこれから魔法を使って、その後にこの防御魔法から出るね。みんなはそのまま防御魔法の中にいて」


「魔法!? 何を言っているんだ、ゴラッソ! 君は魔法が使えないはずだろう!」


 そう。魔法を使うには才能が必要だ。

 僕はどんなに努力しても初級魔法すら使えるようにならなかった。


 だけど、使える。


 この魔法を使うのに、普通の才能は必要ない。


 僕だけが使える魔法。


 その名は――




「ゴリラ魔法! 肉体強化――ゴリライズ!」




 そう唱えた瞬間、僕の肉体に力がみなぎっていく。


「ウホオオオオオオオオオ!!!!!!」


 雄叫びをあげると、そのまま防御魔法の外へと飛び出し、


「ウホッ!」


 目の前にいたモンスターを一撃で叩き潰した。


 おおよそ人間離れした膂力。

 そうだ。そうだった。

 これが僕だ。




 これがゴリラのパワーだ!!!!!




 モンスターたちは1人で防御魔法から出てきた僕に群がってくる。

 凄まじい数の前に、いくらゴリラのパワーを得たとはいえ、2本の腕では対応するのは難しい。


「「「ゴラッソ!」」」


 僕の身を案ずるみんなの声が聞こえる。

 大丈夫だよ、みんな。


 なぜならゴリラには、これがあるんだから。


 モンスターたちに襲いかかられるよりも早く、僕は両手で自分の胸を叩く。




 ドコドコドコドコドコドコ……!




「ゴリラ魔法――ドラミングショット!」




 ゴリラは自分の胸を叩くことで周囲に自分の力を誇示する。つまり威嚇だ。

 この魔法はその威嚇の効果を高めて、周囲を怯ませることができる。


 思い通り、モンスターたちはピタリと動きを止めた。

 この一瞬があれば十分だ。


「ウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホ!!!!!!!!!!!!!!!!」


 ゴリライズの効果で手に入れたゴリラパワーで片っ端からモンスターを蹴散らしていく。


「す、すごい……! 見る見るうちにモンスターの数が減っていく!」

「あれ、本当にゴラッソなの?」

「何でもいいじゃねえか! これなら生きて帰れそうだぜ! やっちまえ、ゴラッソー!」


 みんなの声援を受けながら、僕は一体、また一体とモンスターを葬っていく。

 レックスの言う通り、これならみんなで生きてここから帰れる!


 そう思っていた時だった――。


「キャア!」

「くっ、防御魔法が……!」

「この野郎!」


「ウホッ!?」


 ついに防御魔法の効果時間が切れた。

 数はだいぶ減ったとはいえ、まだまだモンスターはいる。

 手強い僕ではなく、倒しやすいみんなのほうへとモンスターが流れていく。


 ――させない!


「ゴリラ魔法――ドラミングウェーブ!」


 そう叫ぶと僕は両手で地面を叩いた。

 ゴリラパワーで叩かれた地面はその衝撃で揺れ、今にも仲間たちに襲いかかろうとしていたモンスターたちは動きを止める。


 今だ!

 続いて僕はもう1つ、魔法を唱える。


「ゴリラ魔法――ゴリラサモン!」


「ウホッ!」

「ウホウホッ!」


「な、何だ、この妙な生き物は!?」


 するとみんなのすぐそばに白と黒の2匹のゴリラが現れた。

 そう、この魔法はゴリラを召喚できる魔法なのだ!


「ウホッ! ウホウホッ!(みんなを守れ!)」


「「ウホッ!(了解!)」」


 僕の命令を聞き、ゴリラたちは仲間たちを守ってくれる。

 白のゴリラがモンスターの攻撃を防ぎ、黒のゴリラがモンスターを倒す。


 よし。防御魔法が切れる前に終わらせることはできなかったけど、これでみんなは安全だ。


 安心した僕は改めて周りのモンスターたちを葬っていく。


 どれくらいの時間、そうしていただろう。

 僕たちを囲っていたモンスターはすべて倒され、無数の魔石が転がっている。


「……やった、のか?」


 信じられないというような声音でジンがつぶやく。


「は、はは……やりやがった! ゴラッソの野郎、マジでやりやがったよ!」

「これで帰れるのね! 生きて帰れる!」


 レックスとミリンは大喜びだ。

 あの絶望的な状況を切り抜けられたのだから当然だろう。


 でも――


「いや、まだだ……」


 ここにはモンスターがもう1体いる。

 それを僕はゴリラの持つ野生の超感覚で気づいていた。


「何だ!?」


 唐突に地面が揺れ始める。

 さっきの僕のドラミングウェーブよりも激しく、ジンたちは身動きができない。


「――っ! 黒!」

「ウホッ!」


 僕が呼びかけると、黒がジンたち3人を突き飛ばす。

 その直後、


「ルオオオオオオオオオ!!!」


 地中から大きな顎が現れ、黒のゴリラを――さっきまでジンたちがいたところを――飲み込んだ。


「ガイアドラゴン……!」


 世界で最強と言われるモンスターのうちの一種――ドラゴン。

 その中でも地中に生息するドラゴンだ。


 黒のゴリラを飲み込んだガイアドラゴンはその全身をさらけ出した。

 岩で出来た鱗――1つで僕らの体くらいの大きさがある――に覆われた巨大な体躯が僕らの目の前にあらわになる。


「ちくしょう……せっかく生きて帰れると思ったのによぉ……」

「なんでガイアドラゴンなんているのよ……!」


 人では決して勝てない。

 一目でそう理解させられてしまうほどの威容。

 レックスとミリンが絶望するのも無理はない。




 だけど僕は諦めていなかった。




「ゴラッソ……?」


 僕はみんなの前に出る。


「やめろ、ゴラッソ! いくらお前が変な魔法に目覚めたとしても、ドラゴンに勝てるわけがない!」


 冷静に考えればジンの言う通りだ。

 いくらゴリラパワーがあると言っても、足の指くらいしか攻撃が届かないだろう。


 それでも、


 僕は、


 みんなを守りたいんだ!


「ウホオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!」


 僕は力の限り両手で胸を叩く。


 ドラミングショック――ではない。


 この巨体だ。

 ドラミングショックにどれほどの効果があるかわからない。


 だからこれは、別の魔法の準備だ。


 ドラミングの間隔が短く、そして一層激しくなる。


 もっとだ!

 もっと!

 もっと響けええええええええ!!!!


 そして、ドラミングがピークに達したその時――


 僕はその魔法を唱える。




「ゴリラ魔法――極意!」




 仕上げ代わりに一際力強く胸を叩き、発動させる。




「ゴリラ王国(キングダム)!」




 その瞬間、周りの景色が変わった。


 土と岩で構成されていた洞窟の中が、鬱蒼とした樹木に囲まれたジャングルへと変貌したのだ。


 奇しくもそれは、ガイアドラゴンが僕に向かって襲いかかろうとしていたのとほぼ同時でもあった。


 ギリギリだ。

 何とか間に合った。


「な、何だ……これは!?」

「さっきまでここは洞窟だったよな!?」

「なんでワタシたち、森に来てるの!?」


 ジンたちが戸惑ったような声をあげる。


「ここはジャングルだよ」


「「「ジャングル?」」」


「そう。ゴリラの力を最大まで引き出せる空間を作り出して相手を閉じ込める――それがゴリラ魔法の極意……ゴリラ王国なんだ」


「そ、そうなのか……」


 まぁ、説明しておいて何だけど、僕もよくわかっていない。


 この空間なら僕は無敵だってこと以外は!


「ウホッ!」


 僕は慣れた手付きで近くにあった木を登っていく。

 そしてある程度の高さまで登ると別の木へと乗り移る。


「ルオオオオ……?」


 この鬱蒼としたジャングルの中、ガイアドラゴンは僕の姿を見失ったようだ。


 それを尻目に、僕は木を乗り移るのを繰り返し、すでにガイアドラゴンのすぐ上へとたどりついていた。


 ここは、僕の射程だ!


「ウホオッ!」


 ガイアドラゴンの頭を力いっぱい殴りつける!


「ルオオオオオオオオオオ!!!!」


 ゴリラ空間の中では、僕の全ての能力は高くなり、逆に僕以外の全ての能力が低くなる。

 防御力が低くなっていたガイアドラゴンの鱗が、攻撃力が高くなった僕の攻撃で割れた。


 そこにさらに追撃を加える!


「ルオオオオ!」


「おっと!」


 しかし、ガイアドラゴンは頭を振って僕を振り払う。


 さすが世界で最強と言われるモンスターだ。

 だけど、これならどうかな?


「ウホオオオオオオ!」


 僕が叫ぶと木の合間で何かが動くのが見えた。


「あ、あれは……!」

「オレたちを守ってた変な動物!?」

「それがあんなにいっぱい!」


 そう、ゴリラだ。

 さっきは2体しか召喚できなかったが、今は数え切れないほどのゴリラがそこら中にいた。


 ここはジャングル――ゴリラの王国だ。

 ゴリラは無数にいるに決まっている。


 このゴリラ王国は僕の能力値を最大まで強化するだけではなく、無数のゴリラも一緒に召喚する効果もあった。


「ウホッ!(行くぞ!)」


『ウホッ!(了解!)』


 僕の合図でゴリラたちが一斉にガイアドラゴンに襲いかかる。


 召喚されたゴリラたちもゴリラ王国の効果で強化されている。

 つまり、このゴリラたちもガイアドラゴンの強固な鱗を破壊できるということだ。


「ルオオオオオオオオオオ!!!!!」


『ウホオオオオオオオオオオオオ!!!!』


 ガイアドラゴンとゴリラたちの戦いが始まる。


 弱体化されたと言ってもドラゴンは世界で最強の種族だ。

 襲ってくるゴリラを一撃で倒していく。


 だが、多勢に無勢。

 ゴリラは木を伝うことで縦横無尽に移動し、多角的に攻撃してくるのだ。

 いくらガイアドラゴンが強いとはいえ、無数のゴリラによって少しずつ消耗していく。


 ……よし。

 最後の仕上げだ!


「ゴリラ魔法――終の極!」


 僕は最強のゴリラ魔法を唱える。

 これはゴリラ王国の中でしか使えない、まさにゴリラ魔法の最終奥義だ。


 その魔法とは――


「キングゴリラ!」


 唱え終わると同時に、僕の体がゴリラになり、さらに巨大化していく。

 あっという間に、僕の体はガイアドラゴンと同じくらいの大きさになっていた。


「なっ!? あれはゴラッソ……なのか!?」


 聞こえてきたジンの言葉に、僕は無言でサムズアップで返す。


 決めてくるよ、みんな。


「ウホオオオオオオオオオオオオ!!!!」


「ルオオオオオオオオオオ!!!!」


 鱗を破壊されてボロボロになったガイアドラゴンを、巨大なゴリラと化した僕が――当然、ゴリラ王国の強化効果を最大まで受けた状態で――殴りつける。


 勝負は一撃で決まった。


 ただでさえ、通常サイズのゴリラたちの攻撃を受けていたガイアドラゴンは、僕の全力の一撃を受けて地に伏せた。

 やがて光とともにその巨体を、これまた巨大な魔石へと変えた。


「勝ったのか……?」

「やった! やったわ、ゴラッソ!」

「やりやがった、あの野郎! マジかよ!」


 ガイアドラゴンが消滅し、完全に安全になったことを確認した僕は、キングゴリラとゴリラ王国を解除する。


「みんな! 無事でよかった!」


 あとはこのダンジョンから脱出するだけだ。

 僕がゴリラ魔法に目覚めてからはともかく、その前に消耗しすぎた。

 今日は大人しく街に帰って休もう。


 そう提案しようとして、


「――あれ?」


 視界が歪んだ。


「「「ゴラッソ!」」」


 次いで、みんなが僕を呼ぶ声とともに硬い衝撃――地面に倒れた。


 そしてそのまま僕の意識は闇に落ちた。








 次に目を覚ました時は、いつも僕らが使ってる宿屋の天井が見えた。


「やっと起きたか? ゴラッソ」


「ジン……? っ! みんなは!?」


「慌てて体を起こすな。お前は何日も眠ったままだったんだ。……みんなは無事だ。お前のおかげでな」


 その言葉を聞いて、僕はホッとする。

 それからジンの言ったことが気になった。


「僕は何日も寝てたの?」


「ああ。医者の診断では、お前が倒れたのは魔力の使いすぎが原因だそうだ。ほぼ魔力が空だったらしい」


「魔力の使いすぎ……」


 原因はわかってる。

 あの謎の魔法――ゴリラ魔法だろう。


 他の魔法と違ってセンスを必要としない代わりに、消費魔力がケタ違いなのかもしれない。

 もしくは、最初から飛ばしすぎたのか。


「なぁ、ゴラッソ。あのゴリラ魔法ってのは何なんだ?」


「僕にもよくわからないんだ。あのとき、急に使えるようになって……」


 さすがに前世でゴリラだったなんて言ってもジンにはさっぱりだろう。

 それに、前世がゴリラだったからってあの魔法が使えるというのもよくわからない。


「そうか……しかし、あの魔法がどんなものにせよ、おかげで俺たちは生き延びることができた。心から礼を言う。ありがとう、ゴラッソ」


「……! 当たり前じゃないか。仲間だろ」


 それから僕たちは少し話をしていると、買い物からレックスとミリンが戻ってきて、みんなの顔を見たら安堵で泣いてしまった。


 ……よかった。

 本当によかった。


 僕たちは死を覚悟していたんだ。


 それなのに、あのゴリラ魔法のおかげで生きて帰ってくることができた。


 こうしてまたみんなで話すことができて、本当に嬉しい。


 ゴリラ魔法がいったい何なのかはわからないけど、今はただ生還の喜びを噛み締めた。





 その後、僕はゴリラ魔法を使って様々な冒険をしていくことになるのだけど、それはまた別の話だ。








 そして――


「……にゃんだと? ゴリラが?」


「シャッシャッシャーク。ついに最後の1人が現れたのね」


「接触スルゾ。世界ガ終焉ヲ迎エル前ニ」


 僕のいる街から遠く離れた場所で、そんな会話がなされていたことを、僕はまだ知らなかった。




【ネタバレ】

このあと何やかんやあって前世がネコだった人と前世がサメだった人と前世がロボだった人の3人と一緒に世界を救います。

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