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8.第二の訓練

 「・・・校長先生のおかげで、邪魔されないで訓練ができるからよかったよ。」


 校長からのお墨付きを得たネロは、森の訓練場でクロと共にいた。これから卒業試験までの一ヵ月、クロに徹底的に鍛えてもらうことにしたのだ。


 <話の分かる人間で助かったな。色々詮索しないのも好感が持てる。>

 「・・・でも、せめて校長先生には、クロの・・・それが無理でも本当の魔法のことを言いたかったな。」

 <・・・俺も、あの校長は信用できる。・・・だが、周りの人間や、学校の上にいる連中が気になるからな。俺がいいと言うまでは話さない方がいいだろう。>

 「・・・そうだね。」


 ネロは、自分の顔を叩くと、気を取り直して訓練を始めることにした。


 「じゃあ、次は何を教えてくれるんだい?」

 <今度は、新しいことを教えるのではなく、基礎を固めていこうと思う。>

 「基礎?」

 <お前の身体を鍛え直す。>

 「・・・はい?」


 意外なクロの言葉に、ネロは思わず変な声を出してしまう。


 「・・・身体を鍛え直すって・・・どういう・・・?」

 <言葉通りだ。お前は身体が弱すぎる。だから、鍛える。>

 「鍛えるって・・・。別に僕は、騎士とか戦士になる気は・・・。」

 <そこがまず駄目だ。魔法使いが鍛えなくていいわけがないだろう。前衛にいつも守ってもらおうなんて考えているのか?そんな考え、三流、いや、モグリの考え方だ。魔法使いにとって、身体は魔力より大事だ。どんなに魔力が多くても、肉体が弱ければ魔法に耐えられない。強化魔法も、素の肉体が強ければ無理にランクの高い魔法を使わなくても圧倒できる。俺の時代では常識だ。>


 身体を鍛えることに否定的なネロの考えをクロは一蹴する。


 <第一、お前があの馬鹿エディに勝てたのは、俺の知識やお前の魔力量もあったが、単に奴が身体を鍛えなさ過ぎたからだ。俺からすれば、あの程度の肉体強度で魔法使いになろうとは、おこがましい。>

 「は・・・はあ・・・。」

 <お前もだ。肉体強度的にはお前も奴と大して変わらん。このままでは、お前は卒業しても、五級魔法使いとやらになる前にすぐに死ぬぞ。>

 「う・・・。」


 クロの容赦ない言葉に、ネロは何も言えなかった。


 <では、早速始めるぞ。【重力増加】。>

 「!?」


 突然、ネロは身体が重くなるのを感じた。


 「な・・・何・・・これ・・・!?」

 <お前だけ、重力が倍になる魔法をかけた。これで訓練を行ってもらう。>

 「そんな・・・!こんな状況で・・・どうやって・・・!?」

 <まずは、ランニングだ。とにかく走れ。>

 「うう・・・!」


 クロに促され、ネロは訓練場を走り出す。が、一分もしないうちに動けなくなってしまう。


 「・・・も・・・駄・・・目・・・!」

 <・・・【解除】。>


 あまりの体たらくに、クロは呆れながら魔法を解除する。


 <・・・お前、そんなことだと実際に魔物とは戦えないぞ。それどころか、身を守ることもできないぞ。いつまでも俺に頼るつもりか?>

 「・・・そんなこと・・・ない・・・!」

 <・・・なら、続けるぞ。この一ヵ月で、お前にはこの程度の重力下でも平気になってもらうからな。>

 「・・・分かった。」


 ネロは、フラフラとしつつも立ち上がる。クロは、再度【重力増加】の魔法をかけ、ネロに負荷をかける。ネロは、必死にその状態で運動を続けるのだった。











 「・・・ネロ、何やってるんだ?」


 そんなネロの姿を見て、生徒達は訝しく思っていた。クロの姿が見えない彼らには、ネロが一人、ランニングをしてフラフラになっているようにしか見えなかった。


 「たかがあんなちょっとのランニングでバテるなんて・・・ネロって、もう少し体力あったはずだろ?どうしたんだ?」

 「体力に自信のない俺でも、もっとマシに走れるぜ。」

 「あれでエディを倒したなんて思えないな。」

 「・・・でも、魔法闘技の時のネロ、まるで別人みたいだったよ?」

 「なら、あれは演技だ。自分が強いってことを悟らせない。」

 「そんな器用な子が、退学寸前まで行くと思う?」

 「う~ん・・・ますます分からなくなってきた。」


 生徒達は、ネロの実力を計りかねていた。今まで魔法が使えず、退学されそうになっていた大人しいネロ。それが、魔法が使えるようになった挙句、Aクラス最強のエディを倒した。だが、今はちょっとのランニング程度でヒーヒー言っている。どれが本当のネロの実力なのか、彼らは分からなかった。


 「そういえば、エディの奴はどうなったんだ?」

 「・・・実家に戻されたらしいぞ。」

 「!実家って・・・!・・・確か、エディの実家って・・・!」

 「・・・ああ。王国でも有名な貴族で、魔法使いの家だ。四男坊だけど、兄貴達からは可愛がられていたからな・・・。」


 エディの実家、エルト家は、この国の貴族であり、優れた魔法使いを輩出した名家でもある。エディもその兄弟も、皆才能溢れた人材で、次男三男は四級、長男に到っては三級魔法使いであった。現当主のエディの父は、宮廷魔法使いでもあり、国にも影響力を持っていた。

 そんな優秀な父と兄から師事を受けていたことも、エディの強さの理由だった。その自慢の子を、ネロは倒してしまったのである。しかも、再起不能同然にしてしまったのだ。生徒達は、一つの不安を覚えた。


 「・・・ネロに復讐・・・なんてしないよな?」

 「・・・分からない。・・・もしそうなら、ネロも可哀そうに。」

 「で・・・でも、エディは問題ばかり起こしてただろ!・・・きっと分かってくれるさ!・・・多分。」


 生徒達は、エディの家族がネロに報復するのではないかと、心配に思うのだった。

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