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7.校長の決断

 校長に連れられ、クロは校長室に入室する。校長は、彼を椅子に座らせるが、自身が座ることはなかった。


 「<・・・それで、何の用だ?>」

 「・・・ネロ君。君を誤解していた。本当に申し訳なかった。」


 校長は第一声、クロに深々と頭を下げて謝罪する。クロにはそれが理解できなかった。


 「<・・・何故、お前が謝る?お前はネロに、非道なことはしていないはずだが?>」

 「・・・私は、君を誤解していた。君は、優れた資質があった。だが、私はそれを引き出すことができなかった。そればかりか、退学を勧めるなど・・・。これは、教育者としてあるまじきことだ。・・・すまなかった。」

 「<・・・そんなことか。>」


 クロは、校長が謝る理由に、心底くだらないと言わんばかりの表情を浮かべる。


 <・・・ネロ。そろそろお前に身体を返す。後は、お前で対処しろ。>

 (・・・分かった。)


 クロは、身体の主導権をネロに戻す。ネロは、自分の意識が外の世界に戻るのを感じた。


 (・・・元に戻ってる。・・・クロは、剣に戻ったんだな。)


 身体に戻ったネロは、今までの険しい表情と態度とは一転、元の大人しい表情と態度に戻り、校長に話しかける。


 「・・・頭を上げてください、校長先生。校長先生のこと、僕は本当に尊敬しているんです。僕が魔法を使えなかったのは、校長先生が悪いわけじゃありません。だから、謝らないでください。」

 「・・・ありがとう、ネロ君。」


 校長は、頭を上げると自分も椅子に座る。


 「・・・さて、退学の件だが、これに関してはもう言うことはない。即時取り消しだ。もう、誰も文句を言う者はいないだろう。言う者がいるのなら、私が絶対に許さない。」

 「ははは・・・。」

 「・・・しかし、今度は君のクラス決めの問題が出てきた。本来なら、Cクラスに進級させるところだが、Aクラストップのエディ君を圧倒した君を、わざわざ下のクラスにする理由がない。そうなると、Bクラスか、Aクラスということになるが・・・。」

 「?どうしたんですか?」

 「・・・ネロ君。一ヵ月後の卒業試験を受け、学校を卒業する気はないかね?」

 「!」


 校長の提案に、ネロは驚く。

 卒業試験は、以下の条件のいずれかを満たした場合に受けることができる。


 一.Aクラスの生徒で成績上位十名。


 二.魔法学校で四年以上修業している。


 三.教師十人以上、或いは校長の推薦を得る。


 大抵は、一か二に該当する生徒が受ける。ちなみに、条件二が何故四年からかというのは、この学校にいられるのが、最大で五年だからである。

 ネロは、どの条件も満たしていなかった。なのに、自分にそんな提案をしてくるなど、思ってもみなかったのだ。


 「・・・どうして、卒業試験を?僕は、まだ三年しか修業していません。ましてや、Aクラスの生徒でもないんです。いきなり卒業試験と言われても・・・。」

 「・・・これも、教育者として恥ずべきことだが、君に教えることなど何もないからだ。・・・今更Aクラスに進級させたところで、君は成長しないだろう。・・・寧ろ、時間の無駄ではないかとまで思うのだ。」

 「・・・。」

 <・・・こいつ、馬鹿じゃないな。自分ではネロの才能を引き出すことも伸ばすこともできないと分かっているからこんなことを言っているんだな。>

 「・・・君の才能を引き出した人物に関しては気になるが、無理に聞き出すことはしない。そして、ここにいるより、その人物の許で修行した方が、君は伸びるだろう。・・・なら、学校に留める理由はない。すぐにでも卒業して、その人物の許に行くといい。」

 「・・・校長先生。」

 「条件に付いては気にしなくていい。私が直々に推薦する。これなら問題はない。」

 「・・・。」


 ネロは、胸が痛かった。彼は、本当に自分の未来を心配してくれているのだと分かるからだった。自分から無理矢理にでもクロのことや本当の魔法のことを聞き出し、それを学校の教育に活かせば、もっと優秀な魔法使いが多く輩出されるだろう。そうなれば、彼は歴代校長でも一番と称えられる人物になるだろう。そればかりか、その方法を見つけたのが自分だと公表すれば、魔法使いとしての名誉も手に入るだろう。だが、校長はそんなことはせず、生徒の未来を守ろうとしているのだ。ネロは、すまない気持ちでいっぱいだった。


 「・・・分かりました。・・・受けます。」

 「・・・ありがとう。試験については、追って知らせるとしよう。」

 「はい。・・・では、僕はこれで・・・。」

 「ああ、待ちたまえ。それで、卒業までのクラスについてだが、君はどうしたいのかね?」

 「・・・クラス・・・。」


 校長にクラスのことを言われ、ネロは正直悩んだ。クロから正しい魔法を学んでいる以上、わざわざ学校で学ぶ必要がなかった。そもそも、学校で教えている内容では、ネロは魔法が使えないのだから、無意味なのである。たとえ、Aクラスであろうとも、ネロには意味がないのだ。


 「・・・すみません。僕はこれ以上、クラスで授業を受けるつもりはありません。」

 「・・・そうだな。それに、君は座学だけならもう卒業試験を受けられるレベルだ。なら、無理に授業を受けなくてもいい。試験日まで、実習でもしているといい。」

 「ありがとうございます。」


 ネロは、一礼すると退室する。

 すると、入れ替わるように、教師達が入室してきた。


 「校長。」

 「・・・君達か。何かね?」

 「・・・校長。・・・その・・・ネロ君の今後についてですが・・・。」

 「それについては安心したまえ。彼には一ヵ月後の卒業試験を受けてもらうことにした。その間は、実習という形で自由に訓練することも許可した。」

 「・・・そう・・・ですか・・・。」


 校長の決定に、教師は誰も反論しなかった。魔法闘技の結果を見れば、反対する理由はなかった上、あのネロに教えられる自信がなかった。


 「・・・今後、教育方針の変更が必要になるだろう。ネロ君のように、埋もれていた人間が多くいるはずだ。」

 「・・・ですが、どうすればそんな人間を発掘できるのか・・・?」

 「・・・校長。やはり、ネロ君に教えた人物のことを聞き出せば・・・。」

 「それは駄目だ。ネロ君のやる気を削ぐようなことになる。」

 「・・・ですが、名を明かせないような人間となると、危険な人間かもしれません。なら、尚更ネロ君から・・・!」

 「・・・いや、私は、そうではないと思う。・・・勘だがね。」

 「・・・。」

 「とにかく、ネロ君にその人物について聞き出すことは厳禁とする。・・・以上だ。」

 「・・・はい。」

 「・・・。」


 校長は、壁にかけられた歴代校長の肖像画に目をやる。皆、優秀な魔法使いで、数々の有望な魔法使いを輩出してきた人物でもある。そして、その中の一番左に、自身の肖像画がかけられていた。だが、校長は自身の肖像画を、悲しそうに見つめていた。


 (・・・私に、ここに飾られる資格はなかった。・・・いや、ひょっとしたら、歴代の校長も同じだったのかもしれん。・・・教育方針見直しの目途が立てば、この地位を辞するとしよう。・・・私は、教育者の器ではなかったのだ。)


 校長は、自身の今後の進退を決めると、それまでの間にやるべきことを成すべく、教師達と話し合いを始めるのだった。

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