30.立会人到着
十日後、立会人となる人物達が到着したと連絡を受け、ネロはグラントの許へと向かった。
「入れ。」
「失礼します。」
ネロが部屋に入ると、グラント以外に四人の人間がいるのが見えた。一人は、眼鏡をかけた魔法使い風の男性で、この中で一番若そうに見えた。一人は、腰に剣を差した黒いポニーテールの女性で、ネロから見ても美人に見えた。一人は、神官風の服装をした女性で、とても穏やかな雰囲気を醸し出していた。そして、最後の一人は、鎧を着た戦士風の男性で、グラントと同い年くらいに見えた。
「来たな、ネロ。お前の要望通り、本部からの人間に来てもらったぞ。」
「・・・君が、グラントが目をかけているネロ君だね。」
魔法使い風の男が、最初にネロに話しかけてきた。
「はい、初めまして。・・・ええと・・・。」
「失礼。僕は、ノック。冒険者ギルドの本部所属の魔法使いだよ。これでも三級魔法使いなんだ。」
「ノックさん、ですね。僕は、ネロです。一応、五級魔法使いです。今日は、よろしくお願いします。」
ネロも自分の名前と等級を名乗る。
「その若さで五級なんて凄いね。僕なんて、五級の試験に三回も落ちてようやく受かったんだ。優秀というのは間違いなさそうだね。」
「・・・すみません。僕は、試験を受けて五級になったんじゃなく、特別措置でなったんです。」
「!?特別措置!?・・・なるほど。だからか。これは、わざわざこの国に来て正解だった。」
「ノック、それくらいでいいだろう。次は、キリエ。お前だ。」
グラントに言われ、ノックは元いた位置に戻る。代わるように、ポニーテールの女性がネロの前に来る。
「・・・私は、本部所属の冒険者キリエだ。ランクは石英だ。」
「では、あなたがギルドマスターの言っていた、五人の石英ランク冒険者の一人なんですね。・・・思っていたより若いような・・・。」
「こう見えて、私はグラントと同い年だ。」
「え!?」
彼女がグラントと同い年ということに、ネロは思わず驚愕する。
「彼女は、体質的に外見が老化しにくいそうだ。一族特有のものらしい。」
<ほう、外見の老化が遅い。俺が人間だった時代に、そんな体質の一族がいたな。その末裔かもしれん。>
(そんな一族がいたんだ。世界は広いな。)
「君の話は、グラントの報告で知っている。見どころのある人間だと。だから、厳しく採点させてもらおう。」
「お願いします。」
「彼女の採点は厳しいぞ。心してかかれ。次は、リズだな。」
キリエが元の場所に戻ると、今度は神官風の姿の女性が来た。
「私はリズです。キリエさんと同じパーティを組んでいます。」
「初めまして、ネロです。リズさんも、石英ランクの冒険者なんですか?」
「いいえ、私は正長石ランクです。キリエさんと、隣にいるバイクさんが石英です。」
リズは、自分の隣にいた戦士風の男を指して説明する。
「ランクが一つ低いからといって侮るな。リズの実力は、石英に匹敵する。若い同ランクの人間では歯が立たないだろう。それだけの経験を積んでいる。」
「分かっています。今回の試験に来てくれる人達です。決して侮ってなんていません。」
「いい心がけだ。では、最後にバイク。」
リズが元の場所に戻ると、最後に残った戦士風の男が来た。
「俺がバイクだ。」
「初めまして、ネロです。」
「グラントに認められているからといっていい気になるなよ。俺は、自分の目で見た事実しか信じない主義だ。」
「分かっています。だから、今回は目の前で主を討伐してみせます。」
「その威勢、いつまで続くかな?」
「そのくらいでいいだろう、バイク。」
「ふん。」
グラントに止められ、バイクは元の位置に戻る。
「以上の四人と、俺を合わせた五人で立ち会う。異論はないな?」
「ありません。では、どこに主を討伐すればいいですか?」
ネロは、あえてグラント達に討伐する主を選択させることにした。その方が、より信用されるだろうというクロの判断だった。
「そうだな。アンペア荒野の主は、まだ自然発生するには時間がかかるだろうし、ボルト湿地帯は主と一対一で戦うのは難しいだろう。なら、オーム大森林の主がいい。」
「オーム大森林の主・・・キングサーベルタイガーですね。」
「そうだ。レッサーリッチのように魔法を使うわけでも知能が高いわけでもないが、単純に強い魔物だ。こいつ一体が暴れたために、一晩で七つ以上の集落が壊滅した記録もある。」
<単にデカいだけの魔物か。少々物足りないが、お前の練習相手には問題ないだろう。>
「分かりました。では、討伐対象でキングサーベルタイガーでいきましょう。」
「・・・大した自信だな。俺でも、中震級の魔物と戦う時は、仲間と共に戦うというのに。」
即決したネロに対し、バイクは身の程知らずといった様子で彼を睨んだ。その感情も当然と言えた。彼が今のランクになるまでには、多くの苦労をしてきた。大小様々な依頼をこなし、強い魔物と戦った。死にかけたことも多々あった。それだけの苦労をして、今のランクになった彼にとって、ロクに実績もなく、経験も少ないネロが特例でランクを上げようとしているのを快く思うわけがなかった。寧ろ、少しでも痛い目を見ればいいと内心では思っていた。
「そう言うな。まずは、お手並み拝見といこう。まずければ、私達が出て倒せばいい。そのために、私達が立ち会うんだ。」
「・・・ふん。」
キリエに言われ、バイクは不満気ながらもそれ以上言うことはなかった。