28.クロの実力3
レッサーリッチの魔法によって生じた魔法爆発に呑み込まれ、ネロの姿は見えなくなっていた。そんな様子を、レッサーリッチはつまらなさそうに見ていた。
(・・・コンナニアッサリト死ヌトハ・・・。確カニ不快ナ力ヲ奴カラ感ジタハズダガ・・・気ノセイダッタノカ?)
自分にとって悍ましい力を感知したはずだったというのに、戦ってみるとまるで歯ごたえがなく、レッサーリッチは拍子抜けしていた。もしかしたら、自身の感覚が鈍ったのではないかとまで思い始めていた。
『・・・!?』
レッサーリッチが立ち去ろうとしたその時、煙の中から強力な魔力を感知した。
『・・・コレハ・・・何ダ・・・!?・・・マサカ・・・生キテイルノカ・・・!?』
しばらくして、煙が晴れ、中から無傷のネロが姿を現した。
『・・・何故・・・生キテイル・・・!?』
「<・・・同じ手を使わせてもらったまでだ。まさか、複合魔法を使うとは思わなかった。お前の強さを見誤っていた。>」
ネロは、クロに代わっていた。爆発が起きる瞬間に代わり、レッサーリッチと同じく火と氷の上級魔法で魔法爆発を起こし、難を逃れていたのだ。
『・・・ナルホド、今マデハ様子見ダッタノカ。ナラ、アノ弱サモ納得ガイク。』
「<少し違うんだがな。>」
レッサーリッチの勘違いに、クロは苦笑する。
(・・・ごめん、クロ。まさか、こんなに強いなんて思わなかったよ。)
ネロは、自身の判断が軽率だったとクロに謝る。だが、クロは気にも留めていなかった。
<いいや、問題ない。お前の今の実力を知るためにやらせたんだからな。>
(・・・でも、あいつかなり強いよ。複合魔法が使えるなんて。)
<ああ。だが、この程度なら問題ない。>
クロは、自身をレッサーリッチに向けると、ネロに向けて告げる。
「<ネロ、見ていろ。俺はこいつを初級魔法だけで倒す。>」
(!?)
あれだけの強さを見せつけたレッサーリッチに、初級魔法だけで倒すと宣言したクロに、ネロは驚愕する。どう見ても、不可能に思えたからだ。
(・・・初級魔法だけなんて無理だよ!もっと、強い魔法を使わないと・・・!)
「<安心しろ。今のお前でも、知識があれば十分に倒せることを証明してやる。・・・いくぞ!>」
そう言うと、クロは魔法を発動する。それは、ネロが先ほどレッサーリッチに使用した【ファイアバレット】だった。
(【ファイアバレット】じゃ無理だよ!簡単にかき消される!)
「<問題ない!>」
クロは、多数展開するでもなく、たった一発だけ【ファイアバレット】を発動すると、レッサーリッチに放つ。レッサーリッチは、ネロの時のように錫杖で弾き返そうとする。
『・・・!?』
だが、レッサーリッチは突然それを回避しようとした。だが、少し遅く、【ファイアバレット】はレッサーリッチに直撃する。凄まじい爆発が巻き起こり、レッサーリッチは悲鳴を上げた。
『グワアアア!?』
(!?効いた!?どうして!?僕の時は、アッサリかき消されたのに・・・!?)
<魔力を凝縮させることで、初級魔法でも威力を底上げすることができる。俺の師匠も、同じことをやったことがある。威力は俺の比ではなかったがな。>
さも当然のことのように、クロは説明する。だが、魔力を凝縮するということ自体知らなかったネロにとって、これはまさに驚くべきことだった。
『貴様!』
予想外の反撃にダメージを負ったレッサーリッチは、ネロを確実に殺すべく、再び上級魔法を発動しようとする。
「<使わせると思うか!>」
『!?』
クロは、レッサーリッチに一気に近付くと、レッサーリッチの顔面を殴り、発動を止めてしまう。
『ガハッ!?』
(こんなに速く移動できるの!?)
<強化する部分を一点集中することで、初級でもこのくらいは出せる。状況に応じて全体的に強化するか一点のみ強化するかを使い分けるのも重要だ。>
そのままクロは、レッサーリッチを殴り続ける。殴られるたびに、レッサーリッチは苦しそうに呻き声を上げた。レッサーリッチは魔法使いではあるが、肉体はアンデッドのため、人間の魔法使いと比較にならないほど耐久力があるはずである。おまけに腐っても上級のアンデッド。普通に考えて素手の攻撃が通じるはずがない。だが、レッサーリッチは確実に大ダメージを負っていた。
『ガハッ!?何故ダ!?何故、武器モ使ワズコノ身体ニ傷ヲ・・・!?』
(・・・身体強化を使っているんだよね?それにしては、ダメージが多いように見えるけど?)
「<身体強化プラス拳に魔力を纏っている。こうすれば、魔力を帯びた武器と同等の効果を得られる!これも覚えておけ!>」
そのままレッサーリッチをタコ殴りにし、ダウンさせてしまう。クロの攻撃を受けたレッサーリッチは、満足に立ち上げれなくなるほどのダメージを負っていた。
『コ・・・コレホドトハ・・・!』
「<まだだ。まだ終わりではない。【フリーズミスト】!>」
至近距離でクロは、【フリーズミスト】を放つ。これも初級魔法の一つだが、攻撃に使われる魔法ではなく、ものを凍らせたりするために使う、日常魔法のようなものだった。普通に考えれば、こんな強力な魔物に対して使うものではない。だが、クロは最初に使った【ファイアバレット】の時と同様に、いや、それ以上に魔力を凝縮させて放った。
『ヒッ!カ・・・身体ガ・・・!?』
クロの特製【フリーズミスト】をくらったレッサーリッチは、見る見るうちに凍り付き、動けなくなってしまった。
「<・・・終わりだ。>」
そのままクロは、自身の剣で凍り付いたレッサーリッチを両断する。レッサーリッチはアッサリと両断され、そのまま氷共々砕け散った。
「・・・こんなに簡単にレッサーリッチを倒すなんて・・・。」
<どれもやり方さえ分かればできることだ。今度出たら、お前もやってみろ。>
「・・・自信はないけど、頑張ってやってみるね。・・・さてと。」
ネロは、レッサーリッチの死骸に目をやる。死骸は粉々になり、もはや粉か灰と言っても過言でない状態で、魔石だけがその上にポツンと乗っかっていた。レッサーリッチクラスにもなれば、アンデッドであっても死骸はいい素材になる。だが、この状態では回収は不可能だった。
「死骸の回収はできないけど、この魔石だけは回収できるね。」
<・・・死骸の回収までは考えていなかったな。これは失敗だ。>
「まあいいよ。腕試しが目的だったからね。魔石が手に入っただけでも十分儲けものだよ。」
<そうだな。・・・さて、これから色々面倒なことになるな。>
「?面倒って?」
クロの言葉の真意が分からず、ネロはキョトンとする。すると、後ろから何かの気配がした。それは、大勢の人間の気配であった。ネロが気配のした方を見ると、町の冒険者達が大勢、完全武装した状態でこちらに向かっていた。
「!町の冒険者達!どうしてここに!?」
予想だにしていない展開に、ネロは困惑する。だが、到着した冒険者達も、ネロの姿を見て困惑する。
「!?ネロ!?お前、どうしてこんな所に!?」
「・・・腕試しに・・・ちょっと。・・・それより、皆さんは、どうしてここに?」
「町の魔道具が、アンペア荒野の主の魔力に変化があったことを伝えたんだ。」
「魔道具?そんなものがあったんですか?」
「ああ。この町は、魔物の棲息地と隣接しているから、もしもの時に備えて、主の魔力を監視するために用意してあるんだ。」
「で、主の魔力がいつもの反応と違っていたから、俺達が調査、最悪、討伐するために来たんだ。」
「あ・・・そうだったんですか。」
「で、ネロ。お前、主を見なかったか?」
「・・・。」
ネロは、粉々になったレッサーリッチの死骸を恐る恐る指差す。それを見た冒険者達は、ネロが何をしているのか理解できなかった。
「?何指差しているんだ?」
「・・・あの粉々の山が、レッサーリッチです。」
「・・・は?」
ネロの言葉を、冒険者達は理解できなかった。