26.聖力と聖法
<さて、まずは、あのスケルトン共で試してみるとしよう。>
外に出たネロに、クロは遠くを屯しているスケルトンでシロの力を試すよう言う。
「分かった。シロ、頼むよ。」
ネオは、シロをスケルトンの群に向ける。
<任せてください。・・・聖法【ホーリー】!>
シロの刀身が光り輝く。すると、遠くにいたにも関わらず、スケルトン達は慌てた様子でその場を逃げようとする。
<もう手遅れです。穢れし者よ、安らかに。>
シロの刀身の光は、一直線でスケルトン達に向かっていく。光はスケルトンを次々と貫き、貫かれたスケルトンは、塵となって消滅していった。
「・・・凄い!こんなアッサリ・・・!」
<これが、聖法だ。魔力と相反する力、聖力で行使される非常にレアな技だ。>
「?・・・魔力と相反する?そんな力、聞いたことないけど?」
<・・・ネロ、最初に話した時から感じていたのですが、あなたは聖法、いえ、聖力を知らないのですか?>
「うん、知らないよ。そもそも、そんなものがあること自体、聞いたことがない。」
<・・・信じられません。私達が人間だった頃、聖力を持つ人間は、国が血眼で確保に明け暮れていたのに・・・。>
<この時代は、何故か間違った知識や理論が横行している。聖力が知られていないのも、それが原因のようだ。俺はある程度は慣れたが、それでも違和感を覚えている。>
<・・・信じられません。それで、どうやって魔物達から身を守ってきたのでしょうか?>
この時代の常識に、シロは、ネロと会ったばかりのクロと同様に困惑する。彼女にとってこの状況は、人類が生きていられるとは思えなかったのだ。
<それは分からん。どうしてこうなったのやら。師匠から託された連中は、何をしているか・・・。>
「・・・ねえ、どうしてシロは、聖法がないと人間が危ないみたいな言い方するんだい?魔法でも十分魔物に対抗できているはずだけど?」
<聖法は、魔物に対しては魔法以上に効果があります。聖力は、魔力を打ち消すからです。>
「魔力を打ち消す?それがどうして、魔物に効果があるの?」
<魔物とは、魔力濃度が閾値を超えたときに生じる。つまり、魔力によって誕生する生命体だ。そんな生命体にとって、魔力を打ち消す聖力は、毒と言えるものだ。下級魔法と下級聖法を比較してみた結果、威力に五倍から十倍の差が出るくらいだ。>
「なるほど。魔法より効果があるんだ。」
「そうだ。聖法使いは、対魔物戦においては、魔法使い十人分の働きをするとまで言われていた。むろん、個人差もあるが、下手な魔法使いを集めるより、聖法使いを一人用意した方がよっぽどいい働きをした。>
「じゃあ、昔は聖力を持っている人間が、魔物から人間を守っていたの?」
<そうならよかったんだが・・・そうもいかなかった。この聖力を持つ人間というのが中々見つからなかった。何しろ、普通の人間は持っていない。俺だってそうだ。師匠の弟子の中でも、持っていたのはシロだけだった。>
「持っていない?どうして?」
<人間は、魔力を持つだろ。だが、聖力は魔力と相反するから、魔力を持つ人間は聖力を持っていない。というか、持てない。だから、普通の人間は聖力を持っていない。聖力を持つ人間は、生まれながらに魔力を持たない人間ということだ。>
<ですが、そんな人間は稀なのです。私達の時代でも、国を挙げて探してようやく数年に一人見つかるか否かといったほどでした。当時も、私を含めて百名にも満たなかったはずです。>
「魔力を持たない人間。・・・そういえば、稀にそういう人間が生まれるって学校で習ったことがあった。確か、『先天性魔力欠乏症』って名前だよ。」
<病気扱いされているのですか!?信じられません!>
この時代の聖力持ちの人間が病人扱いされていることを知り、シロは愕然とする。一方、クロの方は、ネロから記憶を読み取っていたこともあり、どこか複雑そうだった。
「・・・そんなこと僕に言われても・・・。」
<・・・それで、その病気は、どのような症状があるのですか?>
「・・・僕が習った内容によると、魔力を持っていない人間は、魔法が使えないだけじゃなくて、魔法が効きにくいらしいんだ。そのせいで、治癒魔法をかけても怪我や病気が治りにくいらしいんだ。そのせいで、死亡率が普通の人より高いらしいんだ。」
<聖力持ちの弱点だ。魔力を打ち消すということは、魔法を打ち消してしまうということでもある。そのせいだ。俺の時代も、聖力持ちは回復魔法ではなく、回復聖法で治療していたからな。まあ、攻撃魔法を無効化できるというメリットもあるがな。>
聖力持ちの人間に魔法が効かない理由をクロは説明する。聖力持ちの意外な弱点に、ネロは驚くと同時に、いいことばかりじゃないということも理解した。
<知らない人間からすれば、魔法も使えず効かない病気にしか見えない、ということなのですね。・・・とても悲しいことです。>
「あと、これは迷信のようなものだけど、魔力を持たない人間は、魔法使いの魔法を弱めてしまうなんて言われていたらしいんだ。そのせいで、田舎では魔力を持たない人間は、忌み子って言われて迫害されることもあるって・・・。」
<・・・残念だが、それは迷信ではない。聖力持ちは、聖力をコントロールできないと、聖力を駄々洩れさせてしまい、周囲の魔法使いの魔法を阻害してしまう。だから、聖力持ちは制御できるよう訓練を受けることが必須とされていた。聖力が知られていないこの時代では、制御訓練などできない。そのせいで、魔法を阻害してしまったんだろう。忌み子と呼ばれて迫害されるのは、それが原因だな。>
「・・・じゃあ、本当に魔法を阻害するんだ。・・・確かに、知らなければ魔法を妨げる異常な人間に思われてしまうか。」
<・・・本当に信じられません。確かに、私達の時代の遥か昔にもそのようなことがあったらしいですが、当時は完全に廃れていました。・・・、なのにどうして・・・?>
「・・・。」
シロの失望した様子に、ネロは心を痛めた。クロから言われ、自分の世界の歪さを感じていたネロだったが、今回のシロの様子は、改めてそれを感じさせるものであった。
<ここまでくれば、師匠から託された連中が何もしていないせいとしか思えん。・・・あいつら、何を考えている?いや、何をやっている?>
<早めに彼らと接触する必要がりますね。>
「・・・ねえ、君達がさっきから言っている託された連中って、いったい誰なんだい?」
<・・・そうだな。お前にもそろそろ話して・・・。・・・!?>
<!話をしている暇はないようですね。>
「・・・だね。・・・大物が来るみたいだ・・・!」
ネロ達は、大きな魔力が近付いてくるのを感知し、身構えるのだった。