22.グラントの提案
「単刀直入に聞こう。お前、それだけの力をどうやって身に付けた?」
ギルドマスターの部屋に通されたクロは、グラントから強さの秘密を尋ねられた。
「<特別なことはしていない。俺は、基本的なことしか修行していない。>」
「そんなことはないだろう。あれだけの強さをその若さで手に入れるなど、不可能に近い。俺が石英になれたのも、二十年以上かかってようやくなんだぞ。俺以外の奴だってそうだ。」
「<・・・グラントと言ったな。お前の考えている普通と、俺の考えている普通は違う。お前にとっては想像だにしないようなことも、俺にとっては普通だ。俺は、普通に修行して、普通に強くなった。そうとしか言えん。>」
「・・・なるほどな。つまりは、俺は知らないが、お前だけ知っている修行を行っていたということか。それで、どんな方法なんだ?」
「<・・・それについては説明はできない。師匠から禁じられている。>」
「・・・そうか。」
グラントは、少しだけ考え込んだ素振りを見せるも、それ以上追及はしなかった。
「<用が済んだのなら、これで帰らせてもらおう。今日は、余計なこともしたんで疲れた。>」
「待て。さっきのは個人的な理由で聞いただけだ。本題はこっちだ。お前のランクについてだ。」
「<ランク?>」
「そんな実力で、一番下の滑石ではおかしいだろう。俺の権限で、本日付けで石膏に昇格させよう。」
「<いいのか?確か、決まりだと依頼を規定数こなさなければ昇格はできないはずだが?>」
「例外もある。ギルドマスターの推薦だ。特に、石膏程度なら、ギルドマスターの判断で即時昇格が可能だ。」
「<ほう。そうなのか。それは知らなかった。てっきり、面倒な手続きがいるとばかり思っていたぞ。>」
「本当なら、方解石にしてもいいくらいだが、そこまでいくと、俺の一存だけでは無理だ。何かしら成果が必要になる。お前、今回の依頼が初めてなんだろう?滑石の依頼を六つ受けた程度では、成果としては物足りないのだ。」
「<なるほど。つまり、もっと依頼数をこなすか、上のランクとして認められることをやってほしいということか?>」
「話が分かって助かる。お前ほどの逸材を、いつまでも下のランクに甘んじさせたくはないからな。」
「<・・・善意のようにも聞こえるが、お前にも何かしらメリットがあるんだろう?>」
「・・・気付いていたか。」
グラントは、クロの洞察力に感嘆する。
「まあ、確かに俺にも利があるのは事実だ。新たな一流以上の冒険者の誕生という功績がほしい。」
「<新たな?>」
「現在、冒険者の最高位と第二位は空席のため、事実上第三位の黄玉ランクの冒険者であるインディが最高だ。そして、その下に、俺達五人がいる。それが、約十年以上も続いているのが、現在の冒険者の状況だ。正直言って、あまりよくない。この六人の内、一人でも消えれば、冒険者ギルドは成り立たなくなる恐れがある。インディが消えれば、確実にギルドは国に取り込まれてしまうだろう。それくらい危ういのだ。だが、もしこの状況をひっくり返せる冒険者が現れたとしたら、その冒険者を選んだ人間は、ギルド内での発言力が上がる。ギルドの救世主を見出したとしてな。」
「<つまり、お前の目的は、俺を一流以上の冒険者にして、自身の出世の足掛かりにすることか。>」
「そんなところだ。だが、単に俺の出世だけではない。この国の冒険者のためでもある。・・・情けない話だが、ファス王国の冒険者は、全体的にレベルが低い。隣国の冒険者達と比較しても、数段劣るのだ。」
「<・・・なるほど。あいつらが異様に弱かったのは、この国の冒険者のレベルが低かったから。>」
「辛辣だな。・・・だが、否定はできん。お前の実力を把握できなかったんだからな。他国の冒険者なら、見抜けていた者もいただろう。」
「<つまり、俺の存在を宣伝兼起爆剤にして、この国の冒険者のレベルを上げようということか。>」
「そうだ。まだ若い冒険者が、短期間でランクを上げるということは、いい宣伝になる。それに、他の冒険者にもいい刺激になるだろう。この国は、一般の人間が他国に行くのが難しいため、競い合う相手が国内に限られてしまうせいで、どうしてもレベルがな・・・。」
「<・・・いいだろう。だが、俺にも相応のメリットがなければ協力する気はない。俺は、搾取されるのが嫌いだ。>」
「分かっている。俺のできる範囲だが、便宜を図る。それでどうだ?」
「<・・・まあいいだろう。なら、まずは一つ目だ。明日から、俺が受けられる討伐依頼を全部俺に回してもらおうか。>」
「そんなことでいいのか?分かった。メアリー、聞いての通りだ。明日から討伐依頼をネロに最優先で渡せ。」
「は、はい!」
同席していたメアリーは、緊張した様子で返事をする。
「<・・・では、そろそろ話も終わりだろう。報酬を受け取って帰らせてもらおう。>」
「分かった。メアリー。」
「ど・・・どうぞ。」
メアリーは、オドオドした様子で報酬をクロに渡す。
「<・・・確かに。では、明日からよろしく頼むぞ。>」
クロは、それだけ告げると部屋を出て行くのだった。
クロが出て行ったのを確認したメアリーは、緊張の糸が切れたのか、椅子に座り込んでしまう。
「は~・・・。緊張した。」
「何を休んでいる?お前は、あいつのための依頼書を急いで作成しろ。」
「そんな・・・!」
「早くしろ!もしかしたら、あいつは史上初の、金剛石ランクの冒険者になりえる逸材だぞ!」
「金剛石って・・・それって、賢者クラスですよね?いくら何でもそこまでは・・・。」
「・・・俺の勘がそう告げている。・・・あいつは、必ずとんでもないことを仕出かすとな。」
「・・・まあ、ギルドマスターがそこまで言うのなら。・・・ですが、私の給料もあげてくださいよ!」
「ああ。あいつがドデカいことを仕出かせばな。」
「・・・言質取りましたよ。・・・はあ。何で、こんなことに・・・。」
不満げに退室するメアリー。一人残されたグラントは、登録の際にネロが記入していた書類に目を通していた。
(・・・ネロ。・・・確か、最近魔法学校をとんでもない実力で卒業した生徒がいたな。そいつの名前も、確か、ネロだったな。・・・少し、調べてみるか。久しぶりに、あいつに連絡を取ってみるのも悪くないな。)
グラントは、かつての友と連絡を取るのが楽しみな様子で、自身も部屋を後にするのだった。