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黒剣の魔剣士の物語 相棒兼師匠は最強魔法使い?  作者: レイス
エピソード②冒険者活動編
22/31

21.クロの実力2

 「お前に、冒険者の本当の強さを教えてやる!」


 訓練場に到着した冒険者達は、クロを囲んで逃げられないようにした。

 冒険者達の中で、前衛の者は、全員が訓練用の木剣を持っていた。表面上は、これを新人を鍛える訓練ということにするつもりなのである。これまでも、少々自意識過剰な新米冒険者を、先輩冒険者がシゴくということはあった。さすがに、こんな大人数でやることはなかったが、こういう新人に対するシゴキは、ギルドでは半ば日常化していた。一方、クロの方はというと、腰に自身の魔剣を差したままで、一切武器を持っていなかった。


 「<・・・一つ聞くが、ここにいる冒険者で一番強い奴は誰だ?>」

 「俺達だ。名前くらいは聞いたことがあるだろう?【剛力の大剣】。ランクは全員、燐灰石アパタイトだ。」


 クロに一番近い男達が、自分達のパーティが一番強いと主張する。


 「<・・・知らん。俺は、この時代には疎いからな。>」

 「・・・舐めやがって!五級魔法使いだろうが、駆け出しの滑石タルクのくせに生意気な!それに、何故武器を持たない!?」

 「<武器など必要ないからだ。>」

 「・・・このガキ!人を舐めるのもいい加減にしろ!いいから早く武器を取れ!何なら、腰の剣を使ってもいいぞ!先輩からのハンデだ!」

 「<必要ない。お前達など、木剣どころか素手で十分だ。>」

 「貴様!二度と減らず口を叩けないようにしてやる!」

 「<なら、早く来い。時間がもったいない。>」

 「上等だ!覚悟しろ!」


 クロの挑発に、【剛力の大剣】のメンバーの一人が襲い掛かる。この冒険者は、力には自信のある冒険者で、パーティのアタッカーを務めていた。そんな人間が力を込めて攻撃すれば、いくら訓練用の武器とはいえ、大怪我は免れない。しかし、そうなったとしてもいいように、回復魔法が使える冒険者を彼らは用意していた。そのため、死にさえしなければ多少手荒なことをしても構わないだろうと彼らは考えていたのだ。だから、怒った冒険者を止める者はいなかった。それだけネロ-今はクロだが-は見下されていたのだ。唯一、訓練場の入り口で成り行きを見守っていた女性職員だけが、慌てていたが。


 「くらえ!」


 男の木剣が、クロの頭に当たるかと思われたが、それは寸でのところで止まる。クロは木剣を、素手で受け止めたのだ。


 「!?」

 「<おいおい。身体強化もせずに切りかかっても俺は倒せないぞ。>」


 クロは、男の腹を一発殴る。男は一撃で気を失い、その場に倒れた。


 「!?」

 「<駆け出しだと思って舐めてかかるとこうなるぞ。本気でかかってこい。>」

 「・・・後衛!魔法で援護しろ!身体強化が使える奴は全員使え!」


 冒険者の一人が、連携を取って仕掛けるよう指示する。それを聞いた後衛役の冒険者達は、魔法の準備をする。

 さっきまで、クロは彼らにとって、ただ生意気なヒヨッコにすぎなかった。だからこそ、怒る仲間を止める者はいなかった。だが、彼がいとも簡単に倒されたことで、瞬時に認識を改めた。目の前の相手は、舐めてかかれる相手ではないと。仮にも経験豊富な冒険者だけあり、その状況判断は正確だった。


 「一斉にかかかるぞ!」


 前衛役の冒険者達は、身体強化をかけ、一斉にクロに攻撃を仕掛ける。


 「<・・・遅い。>」


 クロは、彼らの攻撃をダンスするようにかわすと、カウンターで蹴りやパンチを入れて倒していく。


 「【ファイアショット】!」


 そんなクロの隙を突くように、後衛が【ファイアショット】を放つ。


 「<・・・中堅のくせに、【ファイアショット】だと?・・・舐められたものだな!>」


 隙を突いたと思われた【ファイアショット】は、クロには全く当たらない。それどころか、クロはうまく誘導し、味方の冒険者に当たるようにして同士討ちに追い込んだ。


 「ぐわ!?」

 「何するんだ!?」

 「ご・・・ごめんなさい・・・!」

 「<なってないな。魔法とは、こう使うんだ!>」


 クロは、前衛を攻撃しつつ、後衛に【ファイアバレット】を放つ。後衛は、突然の魔法攻撃に反応できず、直撃を受けて沈んでいく。


 「何だと!?こいつ、内出系のはずだろ!?」

 「<いつ俺が、内出系だと言った?>」


 クロは、混乱する冒険者達を一方的に蹂躙していく。前衛の身体強化を上回る身体強化から繰り出されるスピードと打撃、後衛の魔法を上回る威力と精度の魔法。もはや、先輩冒険者の後輩へのシゴキではなく、クロによるワンサイドゲームだった。これが実戦なら、確実に冒険者達は死んでいただろう。それだけの力の差があった。

 十分、いや、五分も経っていなかったかもしれない。戦いは終わっていた。クロの圧勝という形で。冒険者達は、全員地に伏していた。


 「<・・・これで中堅・・・だと?レベルが低いのは分かってはいたが、これは酷すぎる。このままでは、まだ未熟なネロが最強になってしまうだろうが。・・・情けない。>」

 「・・・嘘でしょう?・・・あれだけの冒険者達が、束になっても敵わないなんて・・・!」


 奥で見ていた女性職員は、この結果に戦慄する。稀に、天才的な新人が現れる時もあった。だが、それでも常識的な強さであった。中堅の冒険者達数十人を相手に圧倒する新人など、非常識極まりないことだった。


 「何事だ!?」


 そんな時、一人の大柄の男性が訓練場に入ってきた。男性は、顔に大きな傷が付いた、見るからに歴戦の戦士といった雰囲気を漂わせていた。


 「ギルドマスター!」

 「メアリー!これはどういうことだ!?」


 ギルドマスターと呼ばれた男は、メアリーと呼んだ女性職員に、訓練場の惨状の説明を求める。


 「・・・それが、新しく登録したこのネロさんが・・・。」

 「新人?・・・あの小僧がか?」


 ギルドマスターは、クロの姿を凝視する。見た目はネロのクロは、外見だけで判断すれば、大して強くは見えないだろう。だから、他の冒険者達は、クロを見下して返り討ちにあったのだ。だが、このギルドマスターは、一目見ただけで、直感的にクロの強さを判断した。


 (・・・何だ、この小僧は!?・・・強さの底が見えない・・・!?こんなことは、初めてだ!俺と互角か?・・・いや、俺より上かもしれん・・・!)

 「<・・・あんたがこのギルドで一番偉い人間か。>」

 「・・・そうだ。この国の冒険者ギルドのギルドマスター、グラントだ。・・・どうしてこうなったのか聞きたい。」

 「<俺の実力を疑うから、分かりやすい方法で見せただけだ。そこでのびている連中も了承していた。>」

 「実力を疑う?・・・何があった?」

 「<その受付が、俺が一日かかって達成した依頼を認めなかったからだ。>」

 「!」


 自分の名前が出てきたことで、メアリーは身体をビクッと震わせる。


 「・・・成果を認めなかった?こいつは、いったい何をやったんだ?」

 「・・・一日で、滑石タルクの討伐依頼六つを達成したんです。・・・一人で。・・・とてもあり得ないことでしたので・・・。」


 メアリーは、怯えながら、ネロの異常な達成速度を報告する。普通なら、メアリーの言い分が正しいだろう。これだけの数の依頼を、一人で、しかも一日で達成するなど不可能だった。だが、目の前で多くの冒険者を一蹴した姿を見せられれば、自分の判断が間違っていたと言わざる得なかった。


 「・・・確かに、普通なら・・・・お前の判断は正しい。だが、この小僧はとんでもないぞ。俺より強いかもしれん。」

 「え!?ギルドマスターよりも!?何かの冗談でしょう!?マスターはこの世界で数少ない、石英クオーツランクの冒険者なんですよ!?そんなこと・・・!?」

 「その先入観が、この事態を招いたのだろう。・・・そもそも、冒険者同士の乱闘などしなくても、テスト用のゴーレムで事足りたはずだ。それをここまで悪化させるとは・・・。お前は、何年職員をやっている!?」

 「・・・すみません。」

 「・・・ウチの職員と冒険者共が迷惑をかけたな。謝罪する。すまなかった。」


 対応が未熟だったメアリーを叱り付けたグラントは、クロに彼女と冒険者達の犯した非礼を詫びる。


 「<俺は別に、報酬さえもらえれば構わん。当然、用意してくれるんだろうな?>」

 「もちろんだ。メアリー。依頼を受理してやれ。」

 「は、はい!」


 メアリーは慌てた様子で訓練場を後にする。


 「・・・さて、依頼の件はこれでいいだろう。次は、お前の件だ。」

 「<俺の件?何のことだ?>」

 「ここで話すのもなんだ。俺の部屋に来い。そこで話をしよう。」

 「<・・・いいだろう。>」


 グラントは、クロを伴って自分の部屋に向かうのだった。途中、報酬を持ってきたメアリーが来たが、お前も付いて来いと言われ、渋々付いて行くのだった。

基本、ギルドマスターは石英以上です。

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