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2.魔剣クロとの出会い

 「・・・。」


 ネロは一人、森の中を歩いていた。悩みがある時は、いつもネロは、学校が訓練場として指定しているこの森に足を運んでいた。


 (・・・いつか・・・覚悟はしていたけど・・・とうとうその日が来た・・・。)


 魔法学校に入学して三年。魔法が使えない体質と宣告されながらも、他に方法がないかと死に物狂いで探したり、魔法の練習も勉強も休まず続けた。だが、知識は増えたものの、結局魔法を使うことはできなかった。


 (・・・学校をやめた後はどうしよう?・・・やっぱり、故郷に戻ろうかな?・・・でも、皆に魔法使いになるって言って故郷を出たのに・・・退学したなんて言えない。でも、知識はあっても魔法が使えない僕に働き先なんて・・・。)


 大見得切って故郷を出たのだから、退学させられて戻るなど恥ずかしいことだとネロは思っていた。本当なら帰りたくはない。だが、だからといって、三年間、魔法についての勉強はしてきたが、それ以外のことは疎かになっていた自分に他の働き先を見つけるのは難しかった。結局、選択肢は一つしかなかった。


 (・・・やっぱり故郷に帰るしかない。・・・恥ずかしいけど・・・他に選択肢なんてないんだ・・・。)

 <・・・。>

 「?」


 もう恥を忍んで故郷に帰るしかないと思ったその時、ネロの耳に何かが聞こえてきた。それは、音のようにも声のようにも聞こえたが、はっきりとは分からなかった。


 (・・・何だろう・・・今のは・・・?)


 ネロは、自身の耳を頼りに、音の発生源を探ろうと思い、道を外れて森の中へと入っていく。茂みがネロの服や肌を傷付けるものの、ネロはそんなことは気にせず歩みを進めていく。

 しばらくして、ネロの前に洞窟が姿を見せる。


 「洞窟?こんな所に?」


 ネロは、目の前の洞窟の存在に驚く。今までこの森に何十回、何百回と入ったことがあるが、こんな洞窟を見たことがなかった。


 「・・・あの音は、この先から聞こえてくるみたいだ。」


 本来なら、教師を連れてくるべきである。突如として現れた、得体のしれない場所なのだから。

 だが、ネロは何故か、ここに入らなければならないように感じていた。


 (・・・何だろう。呼ばれているような気がする・・・。)


 ネロは、何かに誘われるかのように、洞窟に入っていく。すると、洞窟は、ネロが入ると同時に消えてしまった。まるで、最初から何もなかったかのように。











 洞窟に入ったネロは、洞窟の中を進んでいた。洞窟は、灯りになるものはなかったものの、壁や天井から露出している鉱石が発光しているため明るく、おかげでネロは、転ぶこともなく進むことができた。


 (・・・本当にここは何なんだろう?ただの洞窟じゃない・・・。そもそも、この発光している鉱石、これは何だろう?蛍光石・・・じゃなさそうだし。・・・分からないな。)


 洞窟の様子にネロは不審がるも、歩みを止めることはなかった。まるで、身体が自分ではなく、誰かに操作されているかのような感覚だった。

 しばらくして、ネロは洞窟の一番奥に辿り着く。そこは、今までの明るい洞窟の道とは違い、薄暗い部屋のような場所で、部屋の中央には台座のようなものがあった。そして、台座の上には、剣が突き刺さっていた。


 「・・・あれは・・・剣?」


 台座に刺さる剣を見たネロは、困惑する。剣は、刀身から柄の部分まで全て黒一色で、まるで夜の闇が剣の形をしているようだった。

 そして、その剣からは、ただならぬ何かを感じた。

 「あんな剣、見たことない。・・・魔剣かな?」


 ネロは、図書室で読んだ本に書かれていた魔剣のことを思い出す。魔剣、腕のいい魔法使いだけが作ることができる、人智を超えた力を引き出せる剣の総称。ネロは、目の前の黒い剣を魔剣の類だと推察する。


 「・・・この変な洞窟は、この魔剣を封印するための場所なのかな?」

 『・・・ようやく来てくれたか。』

 「!?」


 突然声をかけられ、ネロは周囲を見渡す。


 「・・・誰だ?」

 『・・・ここだ。』


 ネロは声のした方を向く。そこには、ローブを着た一人の男性が立っていた。男性は、穏やかな表情をしているものの、姿は朧げで、まるで幻のようであった。


 「・・・霊体?・・・ゴースト!?」


 目の前の男性の正体を推察したネロは身構える。

 ゴーストとは、現世に未練のある人間の魂が留まった成れの果てである。

 それを知っていたネロは、男性に対して警戒感を強める。


 『慌てなくてもいい。私は君に危害を加えるつもりはない。』

 「・・・。」


 男性は優しくネロに諭す。その様子を見たネロは、稀に会話が成立する珍しいタイプのゴーストだと認識し、若干だが警戒を解く。


 「・・・あなたは・・・何者なんですか?」

 『私の名はシキ。かつては大賢者と呼ばれた者だ。』

 「・・・シキ?」

 (・・・聞いたことのない名前だ。本当にそんな凄い人なのかな?)


 聞いたことのない名前に、ネロは首を傾げる。学校の図書室の本を粗方読んだと自負するネロだが、シキという名前は書かれていなかったはずである。


 「・・・その、すみません。僕は、あなたの名前は知りません。」

 『・・・そうか。それも仕方のないことだな。だが、そんなことは重要ではない。私は、君のような存在が来てくれる時を待っていた。そのことが一番重要だ。』

 「・・・僕を待っていた?どういうことです?」

 『・・・近い将来、この世界に大いなる災いが起きる。それを止められる人間を待っていた。その人間に託したい。この魔剣を。』


 シキはそう言うと、台座に刺さった剣を差す。


 「・・・僕に、あの剣を?」

 『そう。あの剣を託せる者が現れた時、この空間の入り口が開くように私が魔法を施していた。ここに君が現れたということは、これを託せる者が現れたということだ。・・・そして、同時にこの力が必要になる時が来たということだ。』


 シキは、嬉しくも悲しそうな表情でネロに言う。


 『君に託したい。私が作った最強の魔剣を。そして、世界を救ってほしい。』

 「ま・・・待ってください!どうして才能もない僕なんかに?」


 ネロは、シキの言うことが理解できなかった。シキはまるで、自分が魔剣を持つに相応しい人物と思っているようだが、ネロはそんなこと思ってもいなかった。

 歴史に名を遺した偉人の中には、魔剣の持ち主が何人もいた。ネロにとって魔剣持ちとはそれほど凄い人間なのだ。対する自分は魔法が使えない落第生である。そんな自分が魔剣を持つに相応しいなどネロはとても思えなかった。


 『何を言っている?君は素晴らしい資質を秘めている。しっかり学び、修行すれば、いずれは私をも超えるだろう。』

 「買い被りすぎです!僕は魔法が使えないんです!僕は魔力回路が異常で・・・!」

 『異常?・・・別に異常はなさそうだが?回路が弱いわけでも流れが悪いわけでもない。』

 「・・・僕の魔力回路は、閉じているんです。これじゃあ魔法が・・・。」

 『?変なことを言う。魔力回路を操作すればいいだけだろう。何故それをしない?』

 「!?あなたは何を・・・?」


 ネロは、シキの言うことが理解できなかった。魔力回路は生まれつき形が決まっており、変更はできない。それが魔法使いの常識である。


 「・・・魔力回路は変更ができないんじゃないんですか?」

 『・・・本気で言っているのか?誰がそんな出鱈目を・・・?』


 ネロの言葉を聞き、シキは困惑する。


 『魔力回路の操作は、魔法使いにとって初歩だ。本当に知らないのか?』

 「・・・はい。学校でもそう習いました。」

 『・・・何ということだ。彼らに託したことで安心していたが・・・このようなことになっていたとは。これも、私の過ちだな・・・。』

 「?」

 『・・・少年、名は?』


 シキは、先ほどまでの嘆いた表情から一転、真剣な面持ちでネロを見る。


 「・・・ネロです。」

 『ネロ。君は大きな誤解をしている。君は決して魔法の使えない人間ではない。寧ろ、君こそ魔法を使うのに最も長けている人間だ。』

 「・・・どういう・・・ことです・・・?」

 『・・・詳しく話したいのは山々だが、どうやら時間がないようだ。』

 「何を・・・?・・・!?」


 徐々に、ただでさえ薄かったシキの姿が更に薄くなり出した。


 『・・・私がこの場に留まれるのはこれで限界だ。・・・後は、私の弟子がお前を導いてくれるだろう。』

 「・・・弟子?」

 『・・・クロ。この少年が君の相棒となる。助けてあげなさい。』


 シキは魔剣に言葉をかけると、再びネロの方を見る。


 『・・・大丈夫。自分を信じなさい。自分の中にある可能性を。その可能性で、世界を・・・。』


 そう言い残すと、シキは完全にその場から消えてしまうのだった。


 「・・・消えちゃった。」


 一人残されたネロは、シキの言葉を思い出していた。


 『ネロ。君は大きな誤解をしている。君は決して魔法の使えない人間ではない。寧ろ、君こそ魔法を使うのに最も長けている人間だ。』

 『・・・大丈夫。自分を信じなさい。自分の中にある可能性を。その可能性で、世界を・・・。』


 「・・・いきなりあんなこと言われたって・・・。」

 <・・・師匠の言葉をお前は疑うのか?>

 「!?」


 突然、シキとは違う男の声が聞こえ、ネロはまたもや周囲を見渡す。


 「・・・誰だ?シキって人じゃ・・・ない・・・?」

 <・・・ここだ、ここ。お前の目の前にいるだろが。>

 「目の前?」


 目の前にいるとの声の主に、ネロは目の前を見る。そこには、シキが自身に託すと言った黒い剣があるだけだった。


 「・・・まさか・・・あの剣が喋っているんじゃ・・・?」

 <そのまさか、だ。>

 「!?」


 魔剣から声が放たれ、ネロは驚愕する。


 「・・・本当に・・・君が・・・?」

 <何度も言わせるな。お前の前にいる剣。それが俺だ。いい加減分かれ。>


 魔剣は呆れた様子でネロに告げる。


 「・・・魔剣を見ること自体初めてだけど、まさか喋るなんて・・・。」

 <まあ、喋る魔剣は滅多にないだろう。俺が人間だった頃でもそうだからな。>

 「人間だった?・・・君は・・・一体・・・?」

 <おいおい、師匠が言ってただろうが。俺はクロ。今はこんな姿だが、元々は師匠の許で修行していた魔法使いだったんだぞ。>

 「魔法使い!?君、魔法使いだったの!?」

 <ああ。しかも、俺の実力は師匠の弟子の中ではトップクラスだった。>


 クロの名乗る魔剣は、自分の正体を語り出す。元々は貧民街に住んでいた孤児であり、餓死寸前だったところをシキに拾われ弟子になったのだという。シキには他にも大勢の弟子がおり、自分は魔力が少ないため、最初は付いて行けないだろうと思われていたが、血の滲むような修行の末、一番弟子になったのだという。


 「・・・凄いな、クロは。皆から駄目だって言われても諦めず、一番になるなんて。・・・僕なんて、どんなにやっても人並みにすらなれないのに・・・。」

 <・・・さっきからお前は自分を卑下しすぎだ。師匠も言ったが、お前は正しい魔法の使い方を知らないだけで、知ればちゃんと伸びる。師匠を信じろ。>

 「・・・でも、魔力回路の操作なんてどうやればいいのか・・・。」

 <安心しろ。俺がちゃんと教えてやる。俺が正しい魔法の知識を叩き込んでやるぜ。>

 「・・・正しい魔法を知ることができれば・・・僕は、本当に魔法が使えるようになるのかい?」

 <ああ。俺が保証してやる。必ずお前が魔法を使えるようにしてやる。>


 自信満々に言ってのけるクロ。そんなクロの言葉に、ネロも少しずつだが元気を取り戻していく。


 「・・・分かった。シキさんと君を信じてみるよ。それで、どうやって教えてくれるんだい?」

 <俺を持て。そうすればお前の頭に知識を送れる。>

 「・・・分かった。」


 ネロはクロに言われた通り、クロの柄を握る。


 <・・・それじゃあ行くぞ。ちょっと頭に負荷がかかるだろうが、まあ死にはしないから安心しろ。>

 「え?負荷?」

 <それと、この時代のことを知りたいから、ついでにお前の記憶を覗かせてもらうぞ。>

 「え?覗く?」


 困惑するネロだったが、突然、ネロの頭の中に知らない情報が流れ込んできた。


 「!?」


 情報はネロの脳内に浸透していく。あまりの情報量に、ネロは思わず意識を失い、その場に倒れ込んでしまう。


 <!?おい!大丈夫か!?>


 クロは慌ててネロに呼びかけるも、ネロは目を覚まさない。


 <・・・ミスったな。普通の人間の情報処理能力を超過してたか。おかげで俺の知識の一割も伝えられなかったな。・・・まあ、最低限の魔法の基礎は伝えることができた。とりあえずはこれで良しとしよう。>


 クロはそう言うと、台座から勝手に抜けると彼の手に納まる。


 <・・・少し、身体を借りるぞ。>


 すると、ネロは突然起き上がる。だが、どこか様子がおかしかった。


 「<・・・何だこれは?魔力は申し分ないが、身体が弱すぎだ。・・・これは鍛えなおさないとな。>」


 ネロは意味の分からないことを言うと、台座の側に置かれていた鞘に剣を納め、腰に差す。


 「<・・・さて、そろそろ外に行くか。こいつの頭から、この時代のことはだいたい分かったが、やっぱり直接この目で見ないとな。>」


 そう言うと、ネロは元来た道を歩いて行くのだった。

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