18.冒険者ギルド
「冒険者ギルドへようこそ。どのようなご用件ですか?」
翌日、冒険者ギルドに来たネロは、登録すべく受付に向かう。そこには、二十代くらいの若い女性職員がおり、ネロに話しかけてきた。
「冒険者の登録がしたいんですが。」
「登録ですね。では、こちらの書類に記入をどうぞ。」
女性職員は、ネロに書類を手渡す。ネロはその書類に記入していく。しばらくして、記入を終えたネロは、書類を女性職員に提出する。
「・・・!五級魔法使いの方だったんですね!」
「はい。・・・あの、五級魔法使いが冒険者になるのは珍しいんですか?」
「そうですね。大抵が六級魔法使いですね。五級魔法使いの試験を受けるまでの修行や生活費を稼ぐためになることが多いです。」
(そうなんだ。知らなかった。)
<まあ、見習い魔法使いが冒険者として修行するのは俺の時代でもあったことだ。>
「・・・はい、確認は終わりました。特に問題ありません。では、これよりギルドカードを発行しますので、少々お待ちください。」
女性職員はそう言うと、奥の部屋に行く。しばらくして、職員はカードのようなものを持って戻ってきた。
「お待たせしました。こちらになります。」
女性職員はネロに、白いカードを手渡す。そこにはネロの名前と滑石という言葉が書かれてあった。
「・・・滑石?」
「それは、冒険者のランクになります。冒険者は、全部で十のランクに分けられています。」
女性職員は、冒険者も魔法使いや魔法同様、功績や実力に応じてランク付けがされており、それは十段階で分けられているという。
一番最初の駆け出しのランクが滑石で、それから石膏、方解石、蛍石、燐灰石、正長石、石英、黄玉、鋼玉、金剛石の順にランクが上がっていく。
一応、一人前と認められるのは方解石で、このランクまでを新人冒険者と言う。
真の一人前である蛍石、それより上の燐灰石は中堅冒険者と呼ばれ、このランクだと名指しの依頼をされることも多くなる。そして、正長石になれば、ベテランとして貴族にまで顔が知られ、彼らから指名がされるほどである。通常の冒険者なら、この正長石までが最高だが、稀にずば抜けた力を持つ者が、石英以上のランクとなる。
石英は一流、黄玉は超一流、鋼玉は英雄として、普通の冒険者とは違う破格の強さだという。そして、待遇も天と地ほどの差がある。ちなみに、最上位の金剛石は、設定されて一度も登録された者はいないのだという。そもそも、現在は石英が五人、黄玉が一人いるだけで、それ以上のランクの冒険者は不在の状態が続いているのだという。
<・・・驚いたな。このランク付けは、俺の時代の魔法使いの等級と同じ呼称だ。>
(え?そうなの?)
<ああ。だいたい、今の時代と似たようなものだ。見習い魔法使いが滑石で、最高位の大賢者が金剛石といった感じだ。当時の俺は、金剛石級魔法使いだった。一応、ランクの上では師匠と同格だ。ランクの上ではな。>
(そうなんだ・・・。)
クロの時代の名残が意外な形で残っていることに、ネロは驚く。一方、そんなことを知らない女性職員は、冒険者についての説明を続けていた。
「昇級は、ランクが低い場合は、依頼を規定数こなすか、ギルドマスターの推薦で行えます。まあ、推薦はまずありませんが。蛍石からは、依頼数以外に昇級試験があり、それを合格して初めて昇級できます。一応、そのランク以降でも、ギルドマスターの推薦があれば、パスできる可能性もありますが、先ほども言いましたが、まずありません。私が知る限り、一度もなかったですから。」
「なるほど。受けられる依頼に制限とかはありますか?」
「受注できる依頼は、自身と同じランクか、それより一つ下の依頼しか受けられません。もし、パーティで依頼を受ける場合、条件を満たせば一つ上のランクの依頼を受けることも可能です。」
「条件?」
「パーティのメンバーに、一つ上のランクのメンバーが半数以上いた場合です。例えるなら、五人パーティで滑石が二人、石膏三人なら、石膏の依頼を受けることができます。」
「なるほど。」
「ただし、蛍石以上ともなれば、半数では足りないでしょう。事実、失敗したケースも存在します。パーティが一人を除いて全滅した大惨事でした。なお、失敗した場合は、当然、違約金などのペナルティが発生します。」
「つまり、自分に合った依頼を受けないと、命やお金、信用を失うということですね。」
「その通りです。なお、依頼はそちらの掲示板にある依頼書をこちらに持ってきていただいて、問題ないと判断すれば受理します。」
「分かりました。」
「説明は以上になりますが、他に何かお聞きになりたいことはありますか?」
「・・・あの、ここでは魔物の死骸を換金できると聞いていたんですが?」
「可能ですよ。討伐依頼の魔物はもちろん、そうでない魔物も受け付けています。解体がされていなくても、状態次第では引き取らせてもらいます。」
「そうですか。では、これを買い取ってください。」
ネロは、ギルドに来る前に予め革袋に入れておいた魔物を解体した素材-肉は除く-を受付に置く。その量に、女性職員は驚愕する。
「!?こ・・・これは!?」
「僕がここに来るまでの道中に倒した魔物の素材です。」
「・・・これを・・・あなたが?・・・全部?」
「・・・そうですが?」
疑われているように感じたネロは、少し不機嫌になる。クロがいたとはいえ、命懸けで戦った成果なのだ。それを不審に思われて、気分を悪くしない者はいない。
「・・・いえ。微震級の魔物とはいえ、魔法使いが一人で戦うのは厳しいですから。」
「僕は、身体強化が使えますから。」
「ああ、内出系の魔法使いなんですね。なら、納得です。」
今、クロは認識阻害と隠蔽の魔法で姿を消しているため見えない。そのため、女性職員はネロを外出系の魔法使いと思ってそう発言したのである。外出系の魔法使いは、魔法は強力なものの、誰かが守らなければ戦えないというのがこの時代の常識である。逆に、内出系は、直接的な攻撃が得意であるため、魔物のランク次第だが、ソロでも戦える。ネロが身体強化が使えると言った途端、勝手に納得したのはそのためだった。
(・・・何だか、武器を持っていないと面倒なことになりそうだね。)
<・・・仕方ない。俺に対する認識阻害を姿を消すではなく、単なるショートソードという形に変更しておくか。これなら内出系と思って余計な不審は与えんだろう。>
(・・・そうだね。)
女性職員は、ネロの出したものを奥へと持っていく。しばらくして、彼女は革袋を抱えて持ってきた。
「換金が終わりました。計銀貨十枚と銅貨五十枚になります。」
(・・・相場が分からないけど、コモン亭に一年近くは泊まれるな。)
「ありがとうございます。」
ネロは、金の入った革袋を受け取ると、早速依頼を受けるべく、掲示板へと足を運ぶ。掲示板には、いたさんの依頼書が張られており、内容とランクが書かれていた。
「・・・どれがいいかな?」
<滑石の依頼を全部受けろ。ただし、討伐依頼だけだ。採取系や護衛系は除け。今は、お前の戦闘経験を積ませるのが最優先だ。>
「分かった。」
ネロは、ランクの部分に滑石と書かれた討伐依頼の依頼書を全部取ると、受付に持っていく。
「・・・あの、これを全部お一人で受けるつもりなんですか?」
「はい。」
「・・・失敗すれば、違約金が発生しますが、それでも受けますか?」
「はい。」
「・・・分かりました。」
女性職員は、渋々ながらも依頼を受理する。それを受けたネロは、依頼を達成すべくギルドを後にする。その様子を見ていた他の冒険者達は、駆け出しにすぎないネロが無謀なことをやろうとしていると笑うのだった。
なお、冒険者のランクは、モース硬度が元になっています。