17.アド到着
ウルフを倒し、ステーキでクロとひと悶着があったものの、ネロは、その後もアドに向けて歩みを進めた。
途中で微震級の魔物に何度も遭遇することがあったが、クロの指示の下、適切に対応することができた。そして、魔物の解体も、ある程度綺麗にできるようになっていた。
そして、十日後。ついにネロは、目的地であるアドの町に到着した。
「・・・着いた。あれが、アドの町だ。」
<・・・なかなか大きいな。>
アドの町。別名冒険者の町とも呼ばれ、ネロが暮らすファス王国の冒険者ギルドがある町でもある。冒険者達が大勢行き交い、その冒険者の落とす金で経済が成り立つ、まさに冒険者の町である。同時に、ここは魔物の棲息地に隣接する地で、魔物との防波堤としての役割もある重要な場所でもある。国の騎士団も常駐しており、有事の際は冒険者と合同で当たることもあった。
ちなみに、冒険者ギルドの本部は、こことは別の国、フィフス共和国にある。それだけ冒険者ギルドは大規模で、影響力のある組織なのだ。
「まずは、冒険者ギルドに行って、冒険者登録をしよう。」
<それも大事だが、今まで解体してきた魔物の素材を売却するのも忘れるな。金は幾らあっても困ることはないからな。>
「分かってるよ。じゃあ、行こう。」
ネロは、町に入るべく入り口の門に向かう。すると、門の側にいる兵士がネロを制する。
「失礼ですが、この町に入る際は、身分証の提示をお願いします。」
「身分証?・・・あの、魔法使いの証明証でもいいですか?」
「証明証?・・・ああ、魔法使いの方ですか。なら、それでも構いません。」
「・・・これを。」
「・・・!五級!?・・・あの、どこかの貴族の親戚の方ですか?」
証明証を確認した兵士は、ネロが五級魔法使いということに驚いた様子で、彼が貴族の縁者か尋ねてきた。
「・・・いいえ。僕は、田舎の村出身です。この間まで、魔法学校にいましたけど。」
「・・・そうですか。すみません。この町に来る五級以上の魔法使いは、大抵が貴族の関係者なものでして。」
「そうだったんですか。一応、貴族の方に知り合いはいますが、僕自身は貴族でもなんでもありません。」
「分かりました。では、確認は終わりましたので、どうぞ、お通りください。」
確認を終えた兵士は、ネロを町に通すべく、道を譲る。ネロはそのまま町に入ろうとする。
<ネロ。この町のどこに冒険者ギルドや宿があるかを聞いておけ。今の俺達は、この町については素人だ。>
「!・・・あの、この町に冒険者ギルドがあると聞いたんですけど、どこにありますか?」
「冒険者ギルドでしたら、この門を抜けて真っ直ぐ行けば、大きな建物があります。そこが、冒険者ギルドです。看板がありますから、行けば分かるかと。」
「ありがとうございます。あと、宿がどこにあるかも教えてくれませんか?」
「宿でしたら、この町に三件あります。一つ目は庶民向けのコモン亭。値段は控えめですが、サービスはいいですし、食堂が一緒にあり、料理もおいしいと評判の宿です。門の近くにあるのですぐ分かります。二つ目はミディの店。商業区の中にあります。・・・ですが、ここはあまりお勧めしません。コモン亭より値段は張りますが、あまりサービスはよくありません。特に、食事が・・・。三つめは、プレミーホテル。この町一番の宿です。この町の富裕層の暮らす区域にあります。サービスも食事もいいものですが、値段は張ります。私のお勧めは、やはりコモン亭ですね。」
「ありがとうございます。それではコモン亭に行ってみます。」
「いいご滞在を。」
ネロは、道を教えてくれた兵士に礼を言うと、町に入るのだった。
「いらっしゃいませ、コモン亭にようこそ。」
コモン亭を見つけ、店内に入ったネロに、受付の少女が笑顔で挨拶をする。
「・・・泊まりたいんですけど、一泊幾らですか?」
「一泊でしたら、銅貨三枚ですね。お食事は別途料金となり、宿に併設している食堂で摂ってもらいます。」
「・・・では、とりあえず二泊でお願いします。」
ネロは、銅貨を六枚受付に置く。
「ありがとうございます。鍵はこちらになります。あと、お風呂は料金に入っているので、ご自由にご利用ください。」
「分かりました。」
鍵に書かれた部屋番号の部屋にネロは向かい、部屋に入る。部屋の中は、掃除が行き届いていて綺麗で、ベッドのシーツも綺麗に洗濯されていた。
「・・・思っていたより綺麗だ。」
<・・・ああ。あの兵士の言っていた通りだな。>
「・・・とりあえず、今日は休んで、明日登録に行こうかな。」
<それがいい。野宿は体力がそこまで回復しないからな。今日はしっかり休んで、明日に備えておけ。>
「うん。それじゃあ僕、お風呂に入ってくるよ。水温めて身体拭くだけなんて、さすがにキツかったから。」
<おう。行ってこい。>
クロの部屋に置き、ネロは風呂に行ってしまう。一人-一本?-残されたクロは、今後の予定を考えていた。
<・・・冒険者登録を済ませれば、まずは魔物の棲息地へ行ってネロを鍛えるとしよう。路銀も十分に稼いでおかなければな。・・・!>
その時、クロは、見知った気配を感じ取っていた。この時代にはあり得ない存在。だが、その気配がする理由をクロは知っていた。
<・・・あそこだな。誰かは知らんが、会いに行かなければな。>