13.ネロの出立
ここから新章突入です。戦闘多めで、ヒロインも登場します。
「・・・今日で、この部屋ともお別れだね。」
ネロは、今まで自分が使っていた部屋を見渡しながら感慨深そうに呟く。三年間使ってきたのだから、半ば愛着もあった。だが、それも今日で終わり。この部屋を出て行かなければならないのだ。
<それで、今後の予定はどうする気だ?>
「冒険者ギルドのあるアドの町に行く。そこで、冒険者になる。」
<冒険者か。俺の時代もあったな。お前の記憶を見るに、やってることも俺の時代と変わらないようだ。なら、いい選択だ。あれはいい修行になるし、金も稼げる。それに、冒険者なら、他の町への移動も容易だろう。>
「それじゃあ、町で準備をしたら、アドに行こう。アド行きの馬車が出ているんだ。」
<馬車?そんなもの使わないで、自分の足で行け。それも修行だ。>
「え?・・・この町からアドまで歩くと十日以上はかかるけど・・・?」
<その期間も修行に使う。歩くことで足腰を鍛えられるし、外には魔物がいるはずだ。冒険者になる前のいい腕試しになる。実戦に勝る修行はない。>
魔物。正式には魔法生物と呼ばれる生命体である。この世界にいる生き物は、魔力を持って生まれてくる。だが、それを使うには訓練が必要である。だから、魔法学校が存在し、訓練を受けて魔法が使えるようになるのだ。だが、魔物と呼ばれるこの生き物は、生まれながらに魔法を使うことができた。おまけに知能も高く、見た目は兎のような小さな魔物でも頭がよく、人間の急所を的確に突いて襲うことができるのだ。故に、魔物は人々から恐れられ、魔物が現れたとなれば、軍隊や魔法使いが討伐に向かうのだ。
そして、魔物は、その危険性と強さで魔法のようにランク分けされている。一般人にも広く知れ渡っているが、ネロは学校で、更に詳細に習っていた。
魔物の脅威度ランク
終焉級:世界の危機。人類を滅亡に追いやれるほどの存在。現在該当する魔物は確認されていない。
激震級:大陸の危機。複数の国が対応しなければならない。高位ドラゴン以上などが該当。
烈震級:国の危機。国が総力を挙げて対応しなければならない。成体ドラゴンなどが該当。
強震級:大都市の危機。兵士が最低一万人以上必要。若いドラゴンなどが該当。
中震級:小規模の都市の危機。兵士が最低千人以上必要。飛竜などが該当。
弱震級:村の危機。兵士が最低百人以上。オーガなどが該当。
軽震級:一般人では対処不可。武装した兵士が最低十人以上必要。グレーベアーなどが該当。
微震級:最弱のランク。一般人でも装備次第で対処可能。ゴブリンなどが該当。
町の街道付近は、定期的に軍隊が掃討を行うため、魔物はあまりおらず、いたとしても微震級の魔物くらいしかいない。だが、魔物には違いはなく、クロは、経験の浅いネロに、野外での活動や魔物との戦いに慣れた方がいいと思い、護衛が就く馬車ではなく、徒歩で行くことを提案したのだ。
「・・・そうだね。少しでも強くなるためには、馬車に乗るより自分で移動した方がいいね。」
<決まりだな。では行くか。旅に必要なものは分かるか?>
「それくらい分かるよ。保存食に野宿用のテント。あとは、着替えとか。」
<・・・おいおい、それではまだ足りないぞ。とりあえず、俺の言ったものを買え。それで大丈夫だ。>
「分かった。・・・それじゃあ、行こうか。」
ネロは、部屋から出ると、もう一度部屋の方を見る。
「・・・さようなら。」
部屋に別れを告げると、ネロは寮を後にするのだった。
「・・・こんな感じでいいかな?」
ネロは、クロの指定されたものを購入した。保存食と野宿用テントと着替えはもちろんのこと、この大陸の地図、回復ポーションや魔力回復ポーション、複数の小さめのナイフ、他にも色々と購入した。
<ああ。地図は当然として、傷を癒す回復薬と魔力の回復手段は必要だ。あと、万が一に備えての暗器だ。>
「暗器って・・・。」
<馬鹿にはできんぞ。目を狙えば視覚を封じ、動きを止めることができるし、毒を濡れば格上の敵を倒すことも不可能ではない。それに、戦闘以外にも用途は多々ある。>
「なるほど。・・・でも、他にもこんなものも買うなんて思わなかったよ。」
<お前は旅をしたことがないから変に感じるが、旅の必需品だ。>
「・・・僕には経験が足りないからね。君の判断を信じるよ。」
ちなみに購入費用だが、それは卒業の際に学校から支給された支度金で賄った。魔法学校は、卒業生に支度金を渡す。試験の成績が良ければ、金額も多くなる。ネロは一番で卒業したため、他の生徒だと銀貨一枚のところ、金貨一枚が支給されていた。
なお、硬貨は銅貨、銀貨、金貨、白金貨の四種類あり、銅貨百枚が銀貨一枚に、銀貨百枚が金貨一枚、金貨百枚が白金貨一枚に相当する。一般の人間が一人暮らしなら、金貨一枚あれば一ヵ月生活には困らないとされているため、ネロのもらった支度金は、相当な額と言えた。
おまけに、ネロは卒業生ということで、割引までしてもらったため、所持金に余裕ができていた。今のネロは、下手な一般人よりお金持ちなのだ。
<買い物はこれでいいだろう。そろそろ行くとしよう。>
「・・・でも、これだけのものを持って移動するのはキツイかもしれない・・・。」
<何を言っている。これも修行の一環だ。前にも言ったが、お前はもっと身体を鍛えるべきだ。出会った直後よりはマシだが、それでもまだお前は弱いぞ。最低でも、それくらい軽々と背負えるようになれ。>
「・・・そうだね。これくらい持てないと、一人旅なんて無理だね。分かった。持っていくよ。」
<ああ。さすがにそのまま持っていくのは酷だろう。身体強化くらいは使ってもいいぞ。>
「それなら何とか持てそうだよ。」
ネロは、荷物の入ったリュックサックを背負う。かなりの重量で、少し倒れ掛かるものの、身体強化を使い、何とか持ち堪える。
<では、行くか。町に向かいながら、お前に今後使えそうな魔法や技術を教えていくとしよう。>
「うん。よろしく頼むよ。」
準備を整えたネロは、町の出入り口である門を潜り、外の世界へと旅立っていくのだった。
魔物の脅威度の元ネタは、昔の地震の震度です。