1.劣等生と言われた少年
新しい作品になります。
今度の主人公は、W主人公ものになります。遊〇王の遊〇と闇〇戯みたいな感じをイメージすれば分かりやすいかと。
「・・・ネロ君。これ以上、君をこの学校に在学させるわけにはいかない。早々に退学してもらおう。」
「・・・退学・・・ですか・・・?」
多くの本が所蔵された部屋に、二人の人物が話をしていた。一人は豊かな髭を蓄えた老人で、優しそうに見えるものの、その表情には憂いが見えた。もう一人は、黒髪の少年で、黒いローブを着ていた。ネロと呼ばれた少年は、愕然とした様子で、老人の話を聞いていた。
「君がこの魔法学校に入学して、早三年だ。確かに、君の魔法に対する探究心は素晴らしい。座学ではこの学校でもトップクラスだ。・・・だが、肝心の魔法が全く使えないとなると、これ以上君を在学させておくわけにはいかない。同年代の生徒達は、とっくに上のクラスにいるのに、未だ君だけ入学生と同じDクラスだ。」
「・・・すみません、校長先生。」
「君のせいではない。君には、並外れた魔力があった。魔法使いになるための努力もしてきた。・・・だが、根本的に才能がなかった。それだけだ。」
「・・・。」
校長と呼ばれた老人の言葉に、ネロは絶望した様子で何も言えなかった。
「今からでも遅くはない。別の道を進むといい。幸い、君は魔法以外の成績は優秀だ。他の道に進んだとしても潰しが利く。」
「・・・。」
「だが、いきなりそう言われて、受け入れられるものでもないだろう。最後に一回だけ、試験を行う。その試験で結果を見せることができれば、退学の件は取り消そう。だが、結果が同じであるなら・・・残念だがこの学校を去ってもらおう。」
「・・・分かりました。」
「では、行くといい。」
校長は話を終えると、机にある書類に目を通し始める。それを見たネロは、一礼すると部屋を出て行くのだった。
(・・・残酷なことだ。まさか、魔力回路が閉じたままという異常な体質だったとは。そうでなければ、今頃はAクラス・・・いや、飛び級で卒業して魔法使いになっていたかもしれないというのに・・・残念だ。・・・今後、このようなことがないよう、入学時の適性試験に魔力回路の精密検査も入れんといかんな。)
校長は自身の仕事をしながら、ネロのことを惜しむのだった。
「よお、ネロ。校長から呼び出しがあったそうだな?」
「何言われたんだよ?」
校長の部屋から出たネロは、同じくローブを着た少年達に声をかけられる。彼らは、どこか意地悪そうな顔をしていた。
「・・・今度の試験に落ちたら・・・退学だって・・・言われた。」
ネロは、辛そうに言う。それを聞いた少年達は、意地悪そうな笑顔を浮かべて笑い出す。
「そうか!とうとう退学か!」
「あのジジイもようやく決めたか!正直、三年も置いとくなんてどうかしてると思ったが、やっと退学にしたのか!」
「・・・まだ・・・まだ退学になるって決まったわけじゃないよ!今度の試験に受かれば・・・!」
「受かる?魔法が使えない体質のお前が、どうやって受かるんだよ?」
「・・・。」
少年達の暴言に反論するネロ。だが、少年が続けざまに放つ言葉に黙るしかなかった。
「まあ、お前は魔法の知識だけはあるからな。魔法使いの雑用ならなれるかもな。」
「いいね!魔法使いの雑用!新しい夢だな!」
少年達は、ネロのことを散々馬鹿にすると、また大笑いする。ネロは、それ以上この場にいたくないと思い、その場を去るのだった。
この少年ネロは、魔法使いに憧れていた。小さい頃に読んだ魔法使いの活躍する本に影響され、魔法使いになるのだと家族や周囲の人々に話していた。
彼が十二歳の時、魔法使いを育成する魔法学校の適正試験を受け、膨大な魔力があることから入学を認められ、見事入学することができた。
だが、入学時の期待とは裏腹に、彼は一向に魔法を使うことができなかった。最も簡単な初歩的な魔法でさえ彼は使えなかったのだ。
おかしいと思った教師は、精密検査を行った結果、ネロは魔法を行使するために必要な魔力回路に先天的な異常があることが判明した。
魔力回路とは、魔力を身体中に循環したり外に放出させたりする魔法を使うために必要な器官で、この回路がどのような構造かで、得意な魔法が決まる。ところがネロは、生まれつきこの魔力回路が開いていなかった。外に出すこともできなければ、体内に流すこともできなかった。これではどんなに魔力があっても、魔法を使うことができない。これが、彼が魔法が使えない理由だった。
同年代の子供と比較にならないほど圧倒的な魔力を持ち、将来を期待されていたネロは、一転して教師達からは同情、悪意ある一部の生徒達からは嘲笑される存在に落ちてしまった。その生徒達は、暴力こそ振るわなかったものの、ものを隠したり、教科書を目の前で破いたり、ことあるごとにネロを罵倒したりした。それは、他の生徒が引くほどであった。
そんな目に遭いながらも彼は、必死に魔法が使えるよう頑張った。三年間、欠かさず練習を続け、魔法に関する勉強も怠らなかった。その甲斐あって、魔力量と座学に至っては校内トップの成績を修めることができた。だが、肝心の魔法は何も習得することができず、彼の努力が意味を成すことはなかった。どんなに魔法の知識があろうとも、魔法が使えない人間に価値など見出されなかったのだ。
それでも教師達は、ネロの魔法に対する熱意を個人的には評価しており、色々な面で配慮していた。もっとも、それがまたネロを快く思わない生徒達の反感を買い、彼が更に虐められる原因となっていたが。
だが、ついに校長は、これ以上ネロを学校に置いてはおけないと判断した。三年間、全く進歩が見られないのもそうだが、それ以上に、ネロの人生を無駄にさせたくはなかったからだった。このまま無駄なことを続けていても、ネロの役には立たない。ならいっそ、魔法使いは諦めて、別の道を探す方がいい。それなら早い方がいいと判断したのだ。
この決定に、ネロを虐めていた生徒達は歓喜した。彼らにとっては、劣等生でありながら教師から目をかけられているネロが気に入らず、常日頃から「学校をやめろ」と言っていた。その願いがようやく叶うのだ。喜ぶのも当然である。
だが、彼らはまだ知らなかった。劣等生と思っていた少年が、後に世界を揺るがすほどの魔法使いになることを。