第94話 王城の門番
「ん?アレクとエマがダンジョンから出てきた?それに、アレクの気配が弱まっておる…ガーゴイルにやられたか…あれほど気をつけろと…」
家で寛いでいたアルはすぐに2人の気配を察知した。しばらくして、ボロボロのアレクを担いだエマが家に戻ってきた。
「アル!おかしいの!治らないの!」
「落ち着け、落ち着いて話すのじゃ」
「魔術の反射がアレクに直撃しちゃって…それでその場から離れて治癒魔術をかけたんだけど…治るのに治らなくて…」
「治るのに治らない…」
エマの説明を聞いてアルはアレクを見た。
「これは、呪術じゃ。ガーゴイルが魔術を反射した時、呪術の効果を付加する場合があるのじゃ」
「じゅ、呪術…」
呪術と聞きエマの体が震え始める。エマは思い出していた、学生最強決定戦の後、呪術にかかり次第に冷たく死にゆくアレクの姿を。
「あ…あぁ…いや…いやだ…アレク…お願い…」
「ま、待て待つのじゃエマ!どうした!」
「ア、アレクがまた死んじゃう…次はアリアの力もない…死んじゃう…」
「また…?アリアの力…?まぁようわからんが安心せい。解呪くらい妾ができる」
「ほ、ホントに!?お願い!アレクを助けて!」
「言われんでもやるわい」
アルはアレクの体に手を置いた。
「『解呪』」
「解呪はした、治癒魔術をかけてやれ」
「う、うん…」
エマが治癒魔術をかけると焼け爛れた皮膚は綺麗に戻った。そして、再び焼け爛れることはなかった。
「よかった…よかったよぉ…アル…ありがとう…」
泣きながら抱きつくエマの頭をアルは優しくなれた。
「うっ…やっちまった…」
「アレク!!」
「無様じゃのう。アレク。どうせ安直な指示で動いたのじゃろう。相手がどんな技を使うのかもわからずに、未知を相手にする場合慎重に対応するのは常識じゃ。次は解呪せんぞ。肝に銘じておけ」
「おう…」
こればっかりは反論できない。100%俺が悪い。
「じゃが、敵の技の本質に気付き、咄嗟でエマを守ったのは評価に値するぞ。よくやった」
アルは俺の頭を撫でた。
「あまり無茶をするんじゃないぞ」
「ああ、気をつけるよ」
「うん」
今日のところは切り上げ、家でゆっくり休んだ。
「エマ、アレクが"また"死ぬとはどういう事じゃ?」
さっきエマが口走ったことを気にしているようだ。蘇生魔術も始祖の龍の知識には無いのか。
「アレクは1回死んでるの。弱りきったところに呪術をかけられてね」
「蘇生したのか?」
「うん、私達の親友…アリアって言う光の神子の力で蘇生したの」
その話を聞いてアルは首を傾げる。
「光の神子の力にそんな力は無かったはずじゃが」
「ゴホッ…アリアは、予言の力を駆使して自分で蘇生魔術を作ったんだ。仕組みはわからん…」
「ほう。予言の力を使って…」
「なんでも俺かエマが死ぬ未来を予言してピンポイントで発動するようにしたらしい。条件はその時に俺とエマが2m以内に居ること。蘇生魔術なら100%の的中率を誇る予言でも死の未来を回避できるらしい」
すると、アルは顎に手を当て深く考え込んだ。
「予言を覆す…世の理を覆すという事か…運命を覆すと言ってもいい…。そうか…じゃからアレクとエマは…」
「アル?」
「いや、なんでもない」
アルはなにやらブツブツと言っているがなにかあるんだろうか。
「今日はゆっくり休むのじゃ」
「おう」
「はーい」
ダンジョンの攻略は辞めて今日はゆっくり休むことにした。
◇◇◇
あれから1週間、5戦組み手をしてからダンジョンに潜るのが日課になっていた。休みはない、毎日同じ繰り返しだ。
ガーゴイルに何度も挑んでいるが、思うようにいかない。魔術を反射する力を持つんだ、魔術師にとっては天敵だろう。
自分で使う分には良いが敵に使われるのは厄介この上ないな。
「さて、どうしようか」
「魔術がダメなら物理で行くしかないと思うけど」
「そりゃそうだが…」
俺は剣術を封印してるし、エマは魔術が中心だ。格闘魔術も拳に属性を付与して成り立つものだ。
「あの障壁は俺達の最大技でも壊れることはなかった。力押しはできないな」
「んー、そう言えば無属性魔術って反射するの?」
無属性魔術か…。
「大概に放出する様なのは反射するぞ」
「じゃ、強化魔術は?」
「……どうだろうな」
強化魔術は体を内側から強化する無属性魔術だ。もしかしたら。
「よし、殴ってみろ」
俺はリフレクトを張った。
「いくよー、えい!!」
〔バリンッ!!〕
「…マジか」
「簡単な事だったね」
まぁ、俺のリフレクトは物理に対してはただの魔力の壁でしかない。本物は物理も跳ね返してしまうからマジで反則技だな。
だが、ガーゴイルのリフレクトはどうだろうか。
「物は試しだ。危なかったら一旦引こう」
「うん!」
俺とエマは強化魔術のみを施し、ガーゴイルに迫った。本来は強化魔術の上に属性武装を纏うのだが、なんだか変な感じだ。
ガーゴイルの眼前に迫り頭上まで高く跳躍した。
「おらぁ!!」
「はあぁ!!」
〔ガンッ!!〕
反射しない…。だが、破れない。まだ足りないか。
「反射しない!エマ!もう1発!」
「わかった!」
「おらぁ!!」
「はあぁ!!」
もう1発殴ると障壁にピキピキヒビが入った。
「破れる!もう1発…」
「アレク!避けて!」
もう1発殴ろうと思ったが、ガーゴイルの槍が迫っていた。槍には闇属性が付与してある。おそらくこれにも呪術が込められているだろう。
呪術の使用者は死ぬのが普通だ。だが、なぜこのガーゴイルは死なない?人工的に作られたモンスターだからか?
「危なかった…」
「焦らないで慎重にいこ!」
「おう。強化魔術で破れることはわかった、俺かエマがあと1発お見舞いすれば破れそうだ」
「うん、だけどガーゴイルもそれをわかってるみたいだね。厳戒態勢って感じ」
ガーゴイルは槍を構え、完全に迎撃体制に入っている。戦い始めたときは腕振ったり踏み潰そうとするだけだったが、こっからってことだろうな。
「リフレクトが破れたあとはどうする?」
「そのまま強化魔術で攻めよう。いつどこにリフレクトを出されるかわからないからな」
「わかった!ガーゴイルの体岩で出来てるっぽいけど、核があるのかな?」
「たぶんな、まぁ全部砕けばいい話だ。俺がリフレクトを破る。破れたら瞬間に最大のパンチをお見舞いしてやれ」
「わかった!いこ!!」
同時に飛び出し、俺は高く跳躍した。
「いい加減ぶっ壊れろ!!!」
〔バリンッ!!〕
障壁が砕け散る。
「はあぁ!!!」
エマの渾身の一撃がガーゴイルに炸裂する。岩でできた体はボロボロと崩壊し、左胸にある赤い石が露出した。
俺は2体目のガーゴイルを足止めしながら様子を見ている。
「再生してるぞ!早く石を!」
「わかってる!」
エマは赤い石を砕いた。ガーゴイルの再生は止まりそのまま石屑になった。
「あと1体だよ!サポートは?」
「いらん」
「おっけー」
俺は残り1体のガーゴイルと向かい合う。リフレクトが無くなればこっちのもんだ。
『ガアアアアア!!!!』
ガーゴイルは叫び強烈な突きを俺に放った。
「おらぁあ!!!!」
俺も応戦し拳で応戦した。強い衝撃がダンジョンに響く。そして、ビキビキと音を立てガーゴイルの槍が砕け散った。ガーゴイルは警戒して大きく後退する。
「お前らの核の位置は覚えてるぞ。よっこらしょ!!!」
俺は地面に転がっているエマが倒したガーゴイルの巨大な槍を持ち上げた。
ガーゴイルは素手で俺に向かって突っ走ってくる。
俺は大きく振りかぶり強化魔術を最大まで高める。
「死ねぇぇ!!!」
ガーゴイルの左胸目掛けて思いっきり投擲した。槍は物凄いスピードで一直線にガーゴイルに向かう。
がむしゃらに突進してきたガーゴイルでは躱すことが出来ず、槍は左胸を貫きそのままダンジョンの外壁に突き刺さった。
「ふいー。良いストレス発散になった」
「やりすぎじゃない?槍壁に突き刺さってるよ?」
「良いんだよ、どーせ俺達しかこないんだ」
「そう?」
さて、やっと王城を探索できる。
「一旦戻る?」
「いや、少しだけ覗いていこう」
俺とエマは王城の門を潜った。
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