第8話 特待生試験 上
俺たちは今、試験会場の控え室にいる。
さすが今回のメインイベント、外は昨日より盛り上がっている。
今年の受験者数は、魔術部門が34人、剣術部門が46人。総勢80人で合否を競う。もうすぐ開会式が始まる。
「はぁ、はぁ、どどどどどうしよう。」
エマがパニック気味になっている。今まで人目に晒されることがなかったため、極度に緊張してしまっているようだ。
「落ち着けって、俺たちなら余裕だ」
「アレクは余裕でいいね!?私は余裕じゃないの!」
怒られてしまった。さっき受験者たちがウォーミングアップする訓練場を覗いてきたが、正直俺たちが受かる確率は100%だ。
だが、エマがこのままじゃ、ちょっと怖いな。
「エマ、今日頑張ったら、明日一緒に買い物に出かけよう。服欲しいんだろ?」
さすがに、もう物で釣られるほどちょろくないか…
「ほんとに!?アレクが買ってくれるの!?」
…ちょろ。エマの体の震えは収まったようだ。
◇◇◇
『さぁ!やって参りました!王立冒険者学校創立20周年!!!!メインイベント!!!特待生試験だぁ!!!!』
実況者の声が試験会場に響き渡る。
『それではさっそく入場していただきましょう!!!受験生たちです!!!!』
盛大なアナウンスと盛大な音楽と共に俺たちは試験会場に入場した。
そこは試験会場とは名ばかりの、スタジアムだった。中央は丸型の武舞台に、その周りを囲うように観客席が設けられている。武舞台の周りには様々なギミックが設置されている。あれが試験内容だろうか。
割れんばかりの歓声がスタジアムを埋め尽くす。観客席の真正面には国王が座っていた。
その他にも、騎士団関係者や魔術協会関係者などが俺たちを品定めに来ている。
『それではさっそくですが!試験内容を説明します!!まずは魔術部門から!!!!
魔術部門は3つの試験の合計点数で順位を決めます!!!
1次試験!!早撃ちタイムアタック!!!!
10個の的をスタジアムに用意するので、それを右から順に撃ち落としてください!1個目の的を倒した瞬間から10個目の的を倒した瞬間までの時間を計測させてもらいます!!
2次試験!!VS冒険者!魔術組手!!!!
各々にC級冒険者を用意しました!!現場で活躍する冒険者と魔術組手をしてその力を公平に採点してくれます!!!勝てれば尚良し!勝者は現れるのか!?
そして!最終試験!!魔術威力測定!!!!
読んで字のごとく!自分の得意な魔術を全力で使ってください!!最新の威力測定器が最大100まで魔術の威力を測ってくれます!!!!
説明は以上です!!
選ばれし子供たちの中から更に逸材は現れるのか!?
さぁ!!猛ろ!!!若人たちよ!!!君たちの健闘を祈る!!!』
実況者からのルール説明が終わった。
会場のボルテージは最高潮だ。3つの試験の総合得点か、シンプルでいい。
受験生たちは控え室に戻って行った。
◇◇◇
俺の番号は11、エマの番号は12だ。
1次試験は1から順番に試験を受ける。
2次試験からは、暫定順位で下から順番に試験を受けるようになる。
最終試験も同様に、暫定順位で下から順番だ。
「緊張してる?」
エマが問いかけてきた。
「俺?緊張なんかしないよ」
「そう?じゃ、私に負けないように気をつけてね?」
挑発的な笑顔で言ってきた。
「負けないように頑張るよ」
そんなことを話しながら試験の様子を見に行く。
『エントリーナンバー8番!!オッサム君!!!始めてください!!』
「我が体内に宿りし、純然たる魔力よ!我が願いに応え、その力よ顕現せよ!!」
なんだあれ。詠唱?
魔術を発動するのに詠唱は必要ないはずだが。
「あの子何やってるの?」
「なんだろうな、たぶん痛い感じになっちゃったんだよ。気にするな」
「私もやったほうがいい?」
「やめてくれ」
そんな話をしながら、自分の番を待った。しばらくして、順番が回ってきた。
「がんばってね!」
エマの激励に手を振って応えた。
『次の受験生は!!エントリーナンバー11!!アレクサンダー!!!なんと!!彼の師匠はあの"爆炎の魔術師"ミーヤです!!ミーヤが創立時に残した4秒という記録は未だ破られていません!!師を超えることが出来るか!?現在の暫定1位は9.8秒でオッサム君です!!』
ミーヤはすごい人なんだろうとは思っていたが、まさかそんな2つ名まであったとは。
まてよ、創立時?ということは、ミーヤは30代だったのか。ローガンより年上じゃないか。見た目は完全に10代なのにな。どこかの種族のハーフかな?
『それでは!始めてください!!』
ふぅ、と一つ息を吐く。スタジアムには静寂が訪れた。
「よし」
手のひらに火魔術を生成し、凝縮する。そして、その火を拡散させ、右から順に的を射る。
〔タタタタタタタタタタン〕
一瞬で全ての的を撃ち落とした。
『え…?』
実況者も困惑していたが、すぐに記録を見た。結果は、
『い、い、い、1.6秒!?』
一瞬会場が静まりかえったが、すぐに大歓声があがる。
『なんと!師であるミーヤの記録を易々と超え!!記録を塗り替えた!!!!これで暫定1位はアレクサンダー君だぁ!!!!』
大歓声に包まれながら退場した。
「ヒントありがとっ!!」
そう言ってエマがスタジアムに上がった。
「「おぉ…」」
エマがスタジアムに上がると観客席からは感嘆の声が漏れる。
エマの美しさは誰しもが認めるものだ。レディアの街では、郊外の天使なんて呼ばれてたほど。自慢の幼馴染だ。本人は気付いていないが。
『おっと。綺麗なお嬢さんが登場しました!エントリーナンバー12!!エマ!!なんと!エマさんと先程大記録を叩き出したアレクサンダー君は幼馴染だそうです!!ミーヤという同じ師から師事を受け!共に育ってきました!師の記録を超え!幼馴染を打ち破ることはできるでしょうか!!』
「がんばるぞぉ」
『それでは!始めてください!!』
エマは俺と同じように手のひらに風魔術を生成し、凝縮する。
「おりゃ!」
手のひらの風魔術を拡散させた。
右から順に的を射る。
〔タタタタタタタタタガッ〕
「やばっ!」
最後の1発を掠めてしまった。
冷静に狙いを定め、最後の的を撃ち落とした。
記録は、
『2.4秒!!!!』
大歓声があがる。
『惜しくもアレクサンダー君の記録を破ることはできませんでしたが!師匠の記録を超えることはできました!!エマさん!暫定2位です!!』
エマは拍手に包まれながら退場してきた。
「詰めが甘いな」
ドヤ顔で迎えた。
「くやしいぃ…」
「あと2つあるさ、がんばろう」
悔しがるエマの頭を撫で控え室に戻った。
控え室に戻ると突然受験生達に囲まれた。
「アレクサンダー君!さっき凄かったですね!どうやったんですか!?」
「か、かっこよかったですぅ」
「ふっ、どうやら君が僕のライバルだと認める時が来たみたいだ」
女の子からの声援は素直に嬉しいが。あまりガヤガヤしたのは好きじゃない。ライバルとか変なことを言ってる奴もいる。
エマに助けを求めようと思ったが、エマも大勢に囲まれていた。エマの目がクルクル回っている。人見知りからしたら地獄だろう。仕方ない。
「す、すまないが、次の試験に備えたい。エマと話をさせて貰えないか?」
「あ、ごめんよ!次の試験も頑張ろう!」
「おう」
なんとか、抜け出せた。エマが限界を迎えそうだ。
「ちょ、ちょっといいか?次の試験についてエマと話したいんだ!」
そう言うと退いてくれた。エマの腕を掴み控え室をでた。
「ト、ト、トカイ。コ、コワイ」
エマが壊れてしまった。
◇◇◇
念の為、俺達より後の受験生の試験を見ていた。
1次試験の結果は、俺が暫定1位、エマが2位となった。
「次は魔術組手だよね?」
「うん、相手はC級冒険者だって」
「勝てるかなぁ」
「どーだろ、まぁ、ミーヤさんよりは弱いはずだけど」
そんな会話をしながら自分の番を待つ。
試験中の受験生達を見ているが、善戦する人から全く歯が立たない人までいる。冒険者達も厳しめに採点しているみたいだ。
半端なやつを受からせない為だろう。それだけ特待生は特別ということだ。
しばらくするとエマの番が来た。
「いってくるね!」
「ぶっ飛ばしてこい」
そう言って送り出した。
エマがスタジアムに上がると大歓声だ。もはや、エマがメインのようになっている。
どこまで、できるかな。あの冒険者は
『次の受験生は1次試験で素晴らしい記録を出した、暫定2位!エマ!!現場で活躍する冒険者相手にどこまで出来るか!?』
「よ、よろしくお願いします」
「そんなに緊張しなさんな!全力でかかって来なさい!」
「はい!」
2人は強化魔術を施す。
相手の体格はエマの倍はある。
『それでは!始めてください!!』
戦いの合図だ。
「さぁ!どこからでもかかって…んあ!?」
エマは合図がなった瞬間、全力で距離を詰め、相手に肉薄した。
「いいスピードだが!それは無謀じゃないか!?」
相手の拳がエマの顔を捉えようとする。しかし、
「なんだ!?」
冒険者の視界からエマが消えた。しゃがんだのだ。これはかつて、俺がローガンに使った技と同じだ。
体格差を活かした立ち回り。完璧だ。
「ぐはっ!?」
エマの肘が冒険者の鳩尾にめり込んでいた。そのまま倒れる。冒険者は立てない。
『き、決まったぁー!!エマさんの肘打ちが相手の鳩尾に炸裂!!!正に電光石火!!文句なしの満点です!!!』
ふぅと一息つきながらエマが戻ってきた。
「おつかれ」
「ありがと!アレクも頑張ってね!」
「おう!」
スタジアムに上がるととてつもない大歓声が上がった。
『さぁ!さぁ!きました!現在暫定1位!!!1次試験では凄まじい記録を叩き出した!!今回の注目株!!アレクサンダー!!!! 幼馴染のエマは先程素晴らしい戦いを見せてくれました!彼はどのような戦いを魅せてくれるのでしょうか!!』
「はぁ、そんな期待されてもなぁ…」
そう呟きながら舞台へ上がり、冒険者を一瞥し、ポケットに手を突っ込んだ。
「お、おい。坊主、調子が良いからってナメすぎじゃないか…?」
「ふぁ…あぁ?あぁ、すみませんね。寝不足なもんで。好きな子と同じ部屋ってのはドギマギしちゃいますね」
あくびしながら応えた。
「クソガキが…」
うわぁ…睨まれた。ブチ切れだ。怖い。挑発作戦大成功だ。
『それでは!始めてください!!』
戦いの合図だ。
「大人を舐めるな!!」
相手は速攻仕掛けてきた。なかなかのスピードだ。
「ミーヤさんの方が速いですね」
「クソガキがぁ!」
冒険者は腰を落とし正拳突きを俺の顔面に放つ。
ギリギリまで引き付けて。上体を反らし躱す。
「おっと」
「なに!?」
冒険者は渾身の正拳突きを躱され驚愕する。
俺はそのまま身体を捻り、両手を地面に付いた。そして、勢いそのままに腰を落とした冒険者の頭へ蹴りを入れた。
卍蹴りだ。さらに、相手の頭を足首に引っ掛け、そのまま地面に叩きつけた。
〔バコォォォン!!!〕
えげつない音がスタジアムに響いた。
…死んでないよね?
「ぐぁ…」
よかった生きてるみたいだ。
『完璧に決まったぁ!!!正に一撃必殺!!!C級冒険者を瞬殺だぁ!!!今回も文句なしの満点です!!!
暫定1位は変わらずアレクサンダー君です!!』
「ちょっとやりすぎたかな」
泡を吹き、担架で運ばれる冒険者を横目に思った。あとで謝っておこう。
残すは最終試験だけだ。
第8話ご閲覧いただきありがとうございます!
次回をお楽しみに!