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忘却の魔剣士~また、君を見つけるまで~  作者: KUZAKI
第六章 モルディオ帝国
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第78話 有り得た未来

 

「雷は、ジメッとした暖かい空気とか天気が不安定な時に発生しやすいんだ」

「ふーん」


 俺は今、エマに雷魔術の原理を教えている。


「水魔術の超越級で『テンペスト』って魔術があるだろ?あれは水蒸気で雨雲を発生させて、嵐を呼び起こす魔術だ。広範囲攻撃魔術だが、雷も落ちる」

「へー」

「だから、同じ条件を魔力で作り変えれば雷も発生するんだ」

「ふーん」


 イラッときた。


「おい、聞く気あるのか」

「あるよ。でも何言ってるのかさっぱりわからない」


 俺が言った原理をエマは理解できないようだ。


「雷が落ちる瞬間を見たことがあるだろ?」

「うん」

「雷が落ちる雨雲…なんかこうモクモクしたやつだ。あの雲を魔力に置き換える。イメージするのはジメッとした空気と不安定な大気…魔力の中で天気を作るイメージだな」


 俺が説明していると、エマは急に立ち上がった。


「わかんないからもういいや。アレクは寝てて、ご飯と飲み物取ってくる」

「あっそ」


 自分から聞いてきた癖に、なんだよ。時間はもう夕方か…確かに腹が減ったな。


 俺は仰向けに寝転がったまま目を瞑った。アレイナが言っていたことを思い出す。


「平行世界…有り得た未来…なにか…なにか思い出せそうな気が…」


 俺の意識は深く暗闇に沈みこんだ。


 ◇◇◇


 〜エマside〜


「はぁ…ちょっと怒りすぎちゃったかな…仲直りしないと…」


 私はアレクの分の夕飯を貰い、アレクの部屋に来た。


 〔コンコンッ〕

「アレク?ご飯持ってきたよ」


 返事がない…寝てるのかな?


「入るよ?」


 私はそのまま部屋に入った。


「エマさん…?」

「え?さん?…アレクどうしたの?てか、なんで立ってるの!寝てなきゃ!…わっ…」


 寝ているはずのアレクは起き上がっていて、泣きそうな顔で私に抱きついてきた。


「どうしたの…?なんかおかしいよ…んっ…」


 次はキスをしてきた。


「ちょっとアレク…今はそんな気分じゃ」

「俺の知らない幼いエマさん…そうか…俺は…」


 さっきからアレクがずっと上の空だ。ブツブツとおかしなこと言ってる。


「そうだ!プライドは!あいつはどうなっていますか!?」

「え、え?プライド…って七つの大罪の?」

「はい!」

「ミアレスの地下で封印されているじゃん。さっき自分で言ったことだよ…?」


 すると、アレクは少し安心したように胸をなでおろした。


「ねぇ、アレク…さっきからどうしたの…?おかしいよ…」


 私がそう言うとアレクはジッと私を見てきた。


「俺とエマさんは恋人同士ですか?」

「な、何言ってるの…当たり前じゃん…幼馴染で恋人…私はアレクの隣で戦うって約束したよ」

「そうですか…」


 アレクは泣きそうな嬉しそうな顔で笑っていた。なんだろう…この感じ…。


「そうか…上手くいってるか…」


 すると、扉からはカルマとソフィアが入ってきた。


「アレクの様子を見に来たが…もう立っていいのか?」

「アレクさん?」


 アレクは2人をジッと見ていた。


「あなた達は…誰ですか…?」

「ちょっとアレク!冗談でもひどいよ!」

「まて、エマ。これはいつものアレクじゃないだろ。気配も…別人だ…」

「そうですね。彼の纏う空気は…滅級…」


 カルマとソフィアはブルブルと身体を震わせていた。確かに言葉遣いや態度はいつものアレクじゃないけど、アレクはアレクだよ…。


「俺はカルマ。鷹剣流元滅級剣士モルガナの孫で弟子だ」

「私はソフィア・イグナシア。虎剣流超級の剣士です」


 2人の自己紹介を聞いてアレクは目を大きく見開いた。


「カルマ…ソフィア・イグナシア…!と言うことはまだイグナシアは存在している…!それに、2人共超級…見た感じ壁が見えている…」

「当たり前でしょ…?」


 何を当たり前なこと言ってるんだろ…。するとアレクはまたブツブツと独り言を言い出した。


「そうか…俺は必要ないか…」


 アレクは目を閉じなにかを考え出した。そして、何かを決心したように。私達を見た。


「良いですか。よく聞いてください。1年以内にイグナシアのスアレへパンドラが侵攻を始めます。どうか、イグナシアを守ってください」

「え…?ちょっと…パンドラの侵攻…?」


 困惑する私を見て、アレクはぎゅっと、抱きしめてくれた。


「暖かい…ちゃんと生きてる…。エマさん…俺をよろしくお願いします…」

「アレク…!?」


 アレクはポロポロと涙を流して、ぐったりと倒れた。なんとかもう一度ベッドに寝かしてあげた。


「今のは…なんだったのでしょう…」

「泣いてた…」

「アレイナが言っていたことはあながち間違いじゃ無いのかもな」


 カルマが言った言葉に私達はハッとした。


平行世界(パラレルワールド)のアレク…?」

「そんな事ってあるんですか…?」

「だが、今のは間違いなく俺達の知るアレクじゃなかった。それに、スアレへパンドラが侵攻すると確信を持って言っていた。まるでそれを知っているかのように」


 確かにさっきのアレクは侵攻すると言い切ってた。なら、本当に…。


「アレクさんは、本当に何者なのでしょう…」

「何者でもないよ…私の大好きな恋人で、ソフィアとカルマにとっては大切な親友で戦友…それだけだよ」

「そうだな」

「そうですね…」


 静かに眠るアレクの頬にキスをした。


 ◇◇◇


 〜アレクサンダーside〜


「お前は誰だ」


 沈みこんだ意識が段々明るみを増していく。そんな俺の意識の中には一人の男が立っていた。


「俺はお前だよ。有り得た未来の俺」


 そう言うと男は俺の頭を鷲掴みにした。


「どうやら俺は必要なかったようだ。お前はこれからは頭痛に苦しみ、知らない光景を見ることはない」

「平行世界…本当に存在したのか」

「"雷神"…いや、今は"忘却の魔剣士"だったな。死んでもエマさんを守れ」


 こいつは何を当たり前のこと言ってやがる。それに大人な俺の顔でエマさんって言ってるのなんだか笑えるな。


「当たり前だ。エマだけじゃない、俺の大切は全てを俺は命に変えても守る」

「今のお前には大切な仲間が沢山いる。たまに頼ることを忘れるなよ」


 平行世界(パラレルワールド)の俺は静かに消えていく。


「お前が全てを終わらせた時に、お前は全てを思い出すだろう。それとささやかなプレゼントも用意しておいた」


 最後にそう言い残し消え、俺の意識は戻った。


 ◇◇◇


「あれ…俺はいつの間に寝てたんだ…」


 気が付くと辺りは真っ暗になっていた。


「えっと…なんか夢で…なんだっけ…」


 意識の中の出来事を思い出そうとするが、断片的にしか思い出せない。


「んっ…アレク…?起きたの…?」

「エマ、添い寝しててくれたのか」


 俺の隣ではエマが寝ていた。いつの間に潜り込んだのやら。


「うん…アレクの様子が変だったから。心配でね」

「そうか、ありがとな」


 エマの頭を撫でると嬉しそうに笑った。今日の喧嘩なんてお互いもうどうでも良くなっている。


「様子が変だったのか?」

「うん、なんかね…」


 エマは俺が気を失っている間の話をした。


「俺じゃない俺…スアレへパンドラが侵攻…」


 訳が分からん、頭がこんがらがってきた。


「カルマは平行世界のアレクなんじゃないかって言ってたよ?」

「平行世界の俺…?確か、大人になった俺と夢で会話していたような…?」

「そうなんだ、どんな話したの?」


 なんだったっけか…。


「エマさん」

「え?それだけ?」

「いや違う、それが一番印象に残ってたんだ。えっと…確か、俺はもう知らない光景を見ることはないって」

「そっか、アレクの記憶にも関係ある事かと思ったけど、平行世界なら違うよね」

「そうだな」


 確か、最後になにか言っていた気がする…。思い出せない。


「あとは、仲間を頼れってさ」

「違う世界のアレクはちゃんとしてるんだね」

「いや、俺もちゃんとしてるだろ」

「えー?」

「なんだよ…」

「1人で抱え込まないでね。周りを頼ってね」


 そう言いエマは俺の胸に顔を埋めた。


「どうした?」

「あの時のアレクは私を見て泣いてたの、すごく寂しそうな悲しそうな顔…。アレクにあんな顔させたくないな…」

「そうか…ちゃんと仲間を頼るよ」

「うん…」


 俺はエマを抱きしめた。


 〔グゥーーー〕

「……腹減った」

「すごいお腹鳴ったね、キッチンまだ空いてたらなにか作ってくる」

「おう、ありがとう」


 エマはそそくさと部屋を出ていった。


「はぁ…今日は色々と情報が多すぎる…」


 最上位デーモン…七つの大罪…平行世界…。


「とりあえず今はスアレを守ることだな」


 1年以内にパンドラがスアレに侵攻してくる。平行世界では、おそらく防衛に失敗して滅亡したんだろうな。


「強くならないと…」


 雷魔術を早く完璧に扱えるようにならないとな。七つの大罪や天滅級を相手にするには必要不可欠だ。

 しばらくするとエマが戻ってきた。


「やっぱり王城には一流の食材が揃ってるね!」


 エマが作ってきたのは鶏肉のローストとガーリックトースト、クリームシチューだ。

 またエマの料理の腕が上がっている…。

 1口食べる。


「…」

「どうしたの?」

「味がしない…」

「まだ後遺症が残ってるんだね、我慢して食べて」

「はい…」


 無味無臭の絶品料理を全て平らげて、俺は再び眠りについた。

 今日はエマも一緒に寝てくれるようだ。この時間が1番幸せを感じるな。


 ◇◇◇


 事件から翌日、俺の体もある程度回復した頃リオン皇帝から呼び出された。後日お礼をって言っていたやつだろう

 俺達は謁見の間に入った。


「アレク、エマ、カルマ、ソフィア。そして、この場にはいないがSS級冒険者アレイナ。此度は我が国モルディオを救ってくれたこと、心から感謝申し上げる。本当にありがとう」


 リオン皇帝がそう言うと、皇帝一族とラング、その場に居た貴族達が一同に頭を下げた。


「エルガノフの凶行、パンドラの侵略、俺達だけでは守りきる事はできなかっただろう。これは感謝の気持ちだ、受け取ってくれ」


 そう言い渡してきたのは金貨がどっさり入った袋と1枚の手紙だった。


「これは?」

「冒険者協会へ君達のランクアップの推薦状だ。特にアレク、君は超越級に完勝して魅せた、ただの超越級じゃないクリーチャーと化しさらにパワーアップした相手をだ」


 勝ってみせたがあれはまだ未完の技を使ってだ。雷魔術を使わず全力を出し切った場合だとどうだろうか…。おそらくギリギリ勝つかギリギリ負けるかだ。完勝とは言えないかもな。


「エマ、カルマ、ソフィアもSランク相当のクリーチャー複数相手に余裕で勝利していた。妥当な評価だと思う。ランクアップすれば君達の行動範囲も広がるだろう。それは君達だけでなく、国にとっても有益な事だ。受け取ってくれるな」

「はい、有難く頂戴致します」

「うむ。金貨は1人50万G入っている。本当は100万Gを出したい所だが、国の金庫も限界があってな。すまない」

「い、いえ…50万Gも頂いてそれ以上なんてとても…」


 十分すぎる額だ。総額200万G、2年は遊んで暮らせる。


「皇帝陛下にお話があるのですが、宜しいでしょうか」

「どうした?」


 1年以内にパンドラがスアレに侵攻してくる…。1年以内…明日かもしれないし、1年先かもしれない。


「留学は中止し1ヶ月後にイグナシアに戻りたいのですが…」

「え…」


 シャル、リラ、ジークがショックを受けてしまっている…。心苦しいが仕方ないんだ。


「留学を中止…それはどうしてだ」

「確かな筋の情報から、1年以内にパンドラがスアレに侵攻するという情報を得まして。なるべく早く戻り、防衛に備えたいのです」

「なんと…!次はイグナシアか…。確かな筋というのは?」


 平行世界の俺なんて言っても信じられないよなぁ…。


「それは…」

「よいよい、アレクが信用している者ならば大丈夫であろう」


 信用っていうか、なんというか。まぁ、信じてみる価値はあるってもんだ。


「承った。俺達としては名残惜しいが、致し方ない…。1ヶ月後イグナシアに戻ることを許そう」

「ありがとうございます」


 モルディオでやる事は正直もうない。ジークを鍛えながらのんびりするつもりだったが、それをパンドラは許してくれないようだ。


 リオン皇帝の話も終わり、俺達は各々のやる事に戻った。

 モルディオで過ごすのも後1ヶ月、やりの残しのないようにしよう。


第78話ご閲覧いただきありがとうございます!


次話をお楽しみに!

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