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忘却の魔剣士~また、君を見つけるまで~  作者: KUZAKI
第六章 モルディオ帝国
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第74話 パンドラの攻勢

 

 俺はいつもの様に自室でエマとイチャイチャしている。

 今日でモルディオに来て丁度4ヶ月だ。アレイナがの予想していたパンドラが攻勢を仕掛けてくるまで残り2ヶ月だ。


「アレクは魔法陣書けるの?」


 俺の膝で寝ているエマが唐突に聞いてきた。


「書けるぞ。使ったことはないけど、どうした?」

「いやー、魔法陣とかも覚えた方がいいのかなぁって思って」


 エマが魔法陣に興味を持つのは珍しいな。設置型の魔術とかより、純粋に放出して使う魔術の方が好きなはずだが。

 前に「小細工は嫌い!」って言ってたし。


「アレイナが使っていたのか?」

「うん、なんか紙に魔法陣が書いてあってそこから魔術出てた」


 ほう、スクロールか。


「それは、『スクロール』だな」

「すくろーる?魔法陣が書いてある紙のこと?」

「そう、攻撃やサポートの魔法陣を予め書いてある紙のことをそう言うんだ。確かに、スクロールの1枚や2枚持っておいても悪くはないな」

「やっぱり便利なの?」

「確かに便利だが、魔法陣にもデメリットはある。まずは魔力が自己負担ってことだ」


 もし、超級のスクロールを中級の魔術師が使えば魔力枯渇で気絶するか、魔法陣自体が発動しない。


「他にも、魔法陣で発動する魔術は制御が効かない。ただ放出するだけって感じだ」


 この点については、エマからしたらもどかしい部分かもな。


「あとは…魔法陣の魔術は通常より多く魔力が取られるってとこだな」

「じゃあ、マイズはいっつも大量の魔力を使ってるの?」

「ああ、特に転移の魔法陣は超越級の魔力量に匹敵する。マイズがあんだけポンポン転移魔法陣を使えるのは異常としか言えない」


 ヤツ自身の魔力量がえげつないのか、魔力を肩代わりするなにかがあるのか。ただ、ヤツから感じる気配は圧倒的強者だ。


「ふーん。やっぱり魔法陣はいいや!向いてない気がする!」

「そうだな、エマはそのままが1番良いよ」


 エマなりに強くなる方法を色々考えていたのだろう。ただ、エマの強みは魔術を扱うセンスだ。魔法陣だと返って力をセーブしてしまう。


 俺とエマが部屋でゴロゴロしていると、誰かが扉をノックした。


「アレクサンダー様、エマ様、皇帝陛下がお呼びです。居間までお越しください」


 扉の向こうからは若いメイドさんの声がした。皇帝から呼び出し…なんだろうか。

 俺は扉を開け、若いメイドさんに礼を言った。


「シェリさんはいつまでもアレクサンダー様ですね。いい加減アレクと呼んでくれません?」

「それはできません。アレクサンダー様は皇帝陛下の大切なお客様です」


 若いメイドのシェリは、いつも俺達の身の回りの世話をしてくれている。一人で出来るからいらないと言ったのに。

 シェリはシャルの2つ上16歳らしい。成人してから王城でメイドの仕事をしているようだ。

 ちなみに、既婚者だ。


「えー」

「えー、ではありません。アレクサンダー様、エマ様、皇帝陛下がお待ちです」

「「はーい」」


 俺とエマはシェリに手を振り、居間へ向かった。


「人妻に手を出すのは良くないと思うよ?」

「どこをどう見て手を出してんだよ」


 エマがニヤニヤしながら言ってきた。普通の日常会話でも手を出したことになるのか?


「冗談だよ!アレクが一途なのは誰よりも知ってるから!」

「そうか、わかってくれてるようでなによりだ」


 エマは俺の腕にしがみつき、笑顔を見せた。居間の前に着くとジークが立っていた。


「アレク兄さん!エマ姉さん!」

「ん?ジーク、なんかピシッとしてるな。まるで皇族の様だ」

「いや、僕も皇族なので…。今日は他国の貴族が皇帝陛下への謁見があるんです。なので、皇族総出で謁見の間へ」

「なるほどな」


 皇帝に呼び出された事となにか関係があるのだろうか。俺とエマ、ジークは居間に入った。


「失礼します」

「来たか!アレク、エマ。ジークも準備はできたか?」

「はい!お父様!」


 居間には、みんな揃っていた。カルマとソフィアもいる。その中で見慣れぬ人物がいた。甲冑を身にまとい、腰には剣を挿している。皇帝と同年代ほどの中年の男、歴戦の戦士を思わせる風格だ。


「お?顔を合わせるのは初めてだったか?この男は、エルガノフ・ギザン。近衛騎士団の団長だ!」


 なるほど、この人がエルガノフ。ジークの元師匠であり、超越級の剣士。

 確かに、纏う空気は超越級そのものだ。


「お初にお目にかかる。アレクサンダー殿、紹介に預かった通り、近衛騎士団団長、エルガノフ・ギザンだ。よろしく頼む」

「アレクサンダーです。よろしくお願いします」


 俺とエルガノフは互いに握手を交わした。


「今日の謁見はエルガノフが護衛に入ることになっていてな。いつもは普通の近衛騎士なのだが、今日は自分が護衛したいと申し出てきてな」

「そうですか。それでは、私達はなぜ?」

「おお!そうだった!実は冒険者協会からアレク達に依頼が入ってな!重要なクエストらしい、受けてやってくれんか?」


 俺達は留学生ではあるが、皇族お抱えの冒険者と扱われている。指名クエストを依頼しようにも、皇族の許可がいるのだ。


「大丈夫ですよ」

「それはよかった!すぐに冒険者協会へ向かってくれ!」

「はい」


 さて、重要なクエストとはなんだろうか。


「いくぞ」

「うん!」「おう」「了解です」


 それぞれの返事を聞き俺達は冒険者協会へ向かった。


 ◇◇◇


 〜冒険者協会〜


「あれ?君達も来たんだ!」

「アレイナも呼ばれたのか?」


 冒険者協会に着くとアレイナがいた。


「うん!なんか重要なクエストがあるって連絡が入ってねー、話を聞きに来たんだ」

「俺達も同じだ」


 SS級も呼ばれるとなると、相当なクエストだろう。俺達の身に余る可能性もあるな。慎重にいこう。

 俺達は受付嬢から話を聞く。


「今回、ロレンスの古城の途中階層にて大量のSランクモンスターが確認されました」

「大量のSランク?」


 受付嬢の言葉に俺は首を傾げる。


「はい、確認できた数でも5体程はいるそうです」

「俺達はA級だが」

「はい、しかしあなた達はS級を単独撃破できる実力をお持ちです。現在モルディオの冒険者達はSランクに対応できる人が少ないです。そこで、SS級であるアレイナ様とS級並の力を持つアレクサンダー様達パーティーにお声かけさせて頂きました」

「なるほど。しかし、それでは俺達の働き損ですよ?自分の階級より上のモンスターを狩っても報酬は得られない」


 放置しておくと危険なのはわかるが、俺達は無償で戦う正義の味方でもなんでもない。別に報酬が欲しい訳じゃないが、それは通すべき筋ってもんだ。


「昨日、通信用魔導具でスアレの冒険者協会と連絡を取りました。今回は例外として扱う事が可能らしいので、報酬の件はご安心ください」

「例外…なるほど。了解です。では、今すぐ向かいます」

「ありがとうございます、ご武運を」


 俺達は冒険者協会を後にし、特異エリア:ロレンスの古城に向かった。


 ロレンスの古城に向かう道中…


「怪しいな」

「え?なにが?」


 俺の呟きにエマが首を傾げる。


「今回のクエストだ、S級クエストになぜ俺達が抜擢される?」

「さっき言ってたじゃん、私達ぐらいしか対応できないって」

「そうだな。だが、なぜ公式に報酬が出る?」

「スアレの冒険者協会から例外として許可を取ったって」


 エマは受付嬢の言葉を鵜呑みにしてしまっている。まぁ、普通に聞いていれば何も怪しいことは無い。だが、俺は知っている。


「例外はないんだよ」

「え?」

「俺達がキメラを倒した時に例外として報酬を得たか?」

「あ、そう言えば…」


 そう、ホグマンはルールを徹底している。スアレの冒険者協会から許可を得たという事はホグマンから許可を得たと同義。ホグマンは冒険者の命を守る為に絶対に例外は作らない。


「絶対に例外は作らないホグマン会長が、そんなことを許す訳がないだろ」

「なるほどね…」


 エマも納得したようだ。


「では、このクエストは嘘なのですか?」


 話を聞いていたソフィアが聞いてきた。


「それはわからない。だが、アレイナも呼び出したってことは恐らく本当に強敵はいるのだろう」

「報酬の嘘までついて私達を向かわせた理由とはなんでしょう…」

「確かにな、大量のSランク程度だったらアレイナ1人で余裕だろ」


 そう言ってアレイナを見る。


「うん!余裕だよ!昔SS級3体相手にした事あるからね!」

「そ、そうか…」


 アレイナの戦闘力は化け物だな。

 イグナスはSS級5体を瞬殺だったっけな。


「着いた」


 話をしていると、ロレンスの古城に着いた。中に入り、しばらくすると…


「俺達が向かわされ理由がわかったな…」

「そうだな…これは、瘴気…」


 ロレンスの古城には大量のSランクモンスター。そして、そのモンスター達は大量の瘴気を垂れ流していた。


「ねぇ、アレク。陛下達、今日謁見があるって言ってなかったっけ…」

「まずいな…」


 貴族の謁見…恐らく、パンドラだ。

 今の王城の戦力はエルガノフとジークくらいだ。しかし、


「エルガノフはパンドラと通じていたか…」

「そうですね。このタイミングで自ら護衛に名乗り出るという事は。そういうことでしょう」

「王城に戻りたいけど…このモンスターなんとかしないと!」

「受付嬢もグルだったか…。なにが5体程だ。10以上はいるじゃねぇか」


 こいつらを相手にしていたら、王城へ戻るのが遅れてしまう。ジーク1人でそれだけ持ち堪えるのは不可能だ。


「あと2ヶ月はあるはずだった…昨日も監視をしていたけど、特に変わった様子もなかった…私が出し抜かれた…?」


 アレイナはブツブツと自分の行動を見直している。


「アレイナ!反省はあとだ!目の前の問題を処理するぞ!」


 俺の言葉にアレイナはハッとした。


「そうだね!ごめん!」


 正面を向き、大杖を構える。さて、どうするか。俺が悩んでいるとアレイナが口を開いた。


「アレク、ここは私に任せて。あなた達はすぐに王城へ向かって!」

「さすがに数が多すぎるだろ!」

「大丈夫!SS級を舐めないで!」

「でも…」

「アレク。同じSS級のイグナスがSランク10体相手に負けると思う?」


 アレイナのその言葉に決心した。


「わかった…ここは任せる」

「うん!早く行って!」


 俺達は振り返りロレンスの古城を出ようとする。俺は言葉をかけるために再度振り向きアレイナを見た。


「無茶する…な…よ…。…ぐっ…!?」

「アレク!!」


 まただ。激しい頭痛…。今回はアレイナに会った時の比じゃない痛みだ。このタイミングで…。


「うぅ…くそっ…アレ…イナ……」


 そして、俺はまた知らない光景を見た。


 ◆◆◆


 とある場所、どこかの街だろうか、あちこちから火が上がり半壊状態だ。

 俺はボロボロで、男に抱きかかえられている。俺の体は青年ほどだ。


『早く行って!!!』


 そう叫ぶのは1人の女性。女性が相対するのは"禍々しい魔力"を持ったなにか。


『嫌だ!!嫌だ!!____!!!!』


 俺は女性に叫び、離れることを拒む。


『お願い!言うことを聞いて…アレク…。____、アレクを殴ってでも連れて行って…!』


 俺を抱えていた男の手が震え、涙がポツポツと落ちていた。俺を抱えたまま男は決心したように立ち上がる。


『ありがとう、____。アレク、____、この先は私より、あなた達の力が重要になってくるの』


『嫌だ!!降ろして!!____を助ける!一緒に戦う!!』

『ダメだ…!行くぞ…』


 ボロボロの俺を抱えたまま男は走った。


『アレク…大好きなアレク。私と____の大切な子供。お願い…生きて…』


『うあああああ!!!!』


 俺は泣き叫び、女性の背中を見ることしかできなかった。


 ◆◆◆


「うぅ…ダメだ…俺も…戦う…」

「アレク?」

「はぁ…はぁ…ダメだ!!俺も戦う!!」

「王城に向かわないと!!」

「離せ!!!」

「きゃっ…!」


 俺を抱え、王城へ向かわそうとするエマを突き飛ばした。


「俺も…戦う…助けないと…!また、死んでしまう!!」

「アレク…?」


 俺の頭の中では激情が渦巻く。キメラと会った時のように。精神に多大な負荷がかかる。


「はぁ…はぁ…母さん…俺は…また抱きしめて欲しい…ただ、それだけなんだ…母さん…」

「母さん…?アレク…」


 俺はアレイナの方に手を伸ばす。


 〔バチン!!〕


 エマが俺にビンタをした。


「しっかりして!!!あれはアレクのお母さんじゃなくてアレイナだよ!どうしたの…?また、知らない光景を見たの…?」


 エマのビンタで次第に視界が晴れていく。重くのしかかっていた幻影は消えた。


「はぁ…ふぅ…。ごめんな、もう大丈夫だ。ありがとう」

「よかった…頬っぺた大丈夫?」

「ああ、突き飛ばしてごめんな」


 俺はエマを抱きしめた。俺の体は震えている。


「早く…早く王城に向かわないと…うっ…」


 立ち上がろうとするが、震えて上手く立ち上がれない。


「くそっ…!」

「アレク、大丈夫?」


 そう言うのはアレイナだった。


「あ、ああ、すまない。取り乱した。大丈夫だ」

「無理しないで…アレク」

「アレイナ…?」


 震える俺を、アレイナが優しく抱きしめた。


「さっき抱きしめてって言ってたよね?私は大丈夫だよ。アレクは自分のやるべき事をやって?」


 ポロポロと俺の目からは涙が溢れる。なにか、暖かい気持ちになる。俺は、これを望んでいた。そんな気がする。


「もう大丈夫だ…ありがとう、アレイナ」

「どういたしまして!イケメンを抱けて役得だね!エマが拗ねてるから、もうしないよ?」

「ああ、結構だ」

「じゃ、防御魔術がもうそろそろ破られそうだから、早く行ってね!」

「おう、任せた」


 アレイナはモンスターに相対し、俺達はロレンスの古城を後にした。


「アレク…お母さんって…」


 俺の言葉を聞いていたエマが聞いてきた。


「ああ…母さんを見たよ。でも、顔はわからなかった…」

「そっか」

「今回と似たような状況の光景だったんだ。詳しいことは後で話すよ」

「うん、これが終わったら次は私が抱きしめてあげる!」


 そう言いエマは笑った。


「アレクさん、お体は?」

「心配ない、万全だ」

「無茶するなよ?」

「おう、余裕だ」


 カルマとソフィアにも迷惑をかけてしまったな。ここは、しっかり頑張らないとな。


 俺達は王城へと急いだ。


 ◇◇◇


 時は少し遡り、アレク達がロレンスの古城にいる頃。


 〜謁見の間〜


 〔ガキン!!〕

 金属のぶつかり合う音が謁見の間に響き渡った。


「エルガノフ団長…これは、どういうことですか…」


 ギリギリとエルガノフの剣を受け止めたのはジークバルトだった。エルガノフが振った剣の先はリオン皇帝の首だった。

 すんでのところでジークが殺気に気付き、剣を止めた。


「ジークバルト皇太子。随分成長なされた。喜ばしいことだ。だが、ここにいる皇族には息絶えてもらう」


 そう言いエルガノフは剣を引き、そしてその剣をリオン皇帝達皇族に向けた。


第74話ご閲覧いただきありがとうございます!


次話をお楽しみに!

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