第63話 モルディオ一家
リオン皇帝に呼ばれた為、来客用の部屋に入った。
「失礼します」
「来たな4人とも!座ってくれ!」
リオン皇帝が元気に出迎えてくれた。
横には子供たちと皇后が座っている。
俺達は正面に座った。
子供たちはソワソワしたいるな。
「帝都はどうだったかな?」
唐突にリオン皇帝が聞いてきた。自慢の帝都なんだろう。
「そうですね。城塞都市なだけあって武具屋が沢山ありました。スアレでも3店舗ほどしか無いのですが」
「気付いたか!モルディオは鉱脈が多くてな、質の良い武器を量産できるのだよ!」
確かに、モルディオ帝国は山が多い。鉱脈も沢山見つかるのか。
「あとは…そうですね、私の偽物が居ましたね」
「ははは!出くわしたか!俺の耳にも入っていたんだが、君達が対処するだろうと放っておいたのだが、上手くやってくれたみたいだな!」
「はい、3人がキレてしまいまして…手を焼きました…」
そう言うと、横の3人が立ち上がった。
「アレクがキレたんでしょ!?」
「私は抑えましたけど!」
「俺もキレてないぞ」
全否定だ。手を出したのは俺だがみんなキレていたのは本当だろ。
「ガッハッハッ!!仲の良いことだ!」
俺達の漫才がウケたようだ。よかった。
「お父様…そろそろ」
横に座っていた同年代らしき白髪の女性が皇帝に声をかけた。
「おお!すまんすまん!俺の家族だ!1人ずつ自己紹介しなさい」
リオン皇帝がそう言うと、声をかけた白髪の女性がこっちを見た。
「初めまして、モルディオ帝国第1皇女、シャルロッテ・モルディオと申します。気軽にシャルとお呼びください」
立ち上がり優雅に礼をした。
この人がシャルロッテ、皇帝が自慢するのも頷けるほどの美貌だ。エマほどではないが。
白の膝下まであるマント、腰には白いロングソードが挿してある。確か冒険者だったっけか。
この格好、俺の黒に対してだろうか。
「忘却の魔剣士様、暴嵐の魔術師様、神速の剣士様、風雅の剣士様、お目にかかれて光栄です。」
ん?俺とエマの2つ名はわかるが、カルマとソフィアの2つ名も既にあるのか…。
「シャ、シャルロッテ様…2つ名で呼ばれるのは少し恥ずかしいので、ご遠慮願えますか…」
「あ、申し訳ございません!」
俺の言葉を聞いて、シャルロッテは口を抑えて謝った。
「アレクサンダー様、私の事はシャルとお呼びください」
「え?あ、シャル様…」
「シャルです、敬語も必要ありません」
チラッと皇帝を見ると頷いていた。
良いってことか。
「じゃあ…シャル…」
「はい!」
シャルは満面の笑みになった。この笑顔にどれだけの男がやられるだろうか。
「シャルも俺の事はアレクと呼んでくれ。」
「私もエマでいいよー」
「私もソフィアで構いません」
「俺もカルマでいい」
「はい!よろしくお願いします!」
感激と言わんばかりの顔で笑っている。喜んでもらえたようでよかった。
「お姉様ばかりずるいよ!私は第2皇女のリラ・モルディオ!みんなと同じ11歳だよ!リラって呼んで!私も呼び捨てで呼んでいい?」
赤みがかった茶髪を肩口に揃えた明るい女性、リラ・モルディオが自己紹介した。
ドレスを着ているが、おてんば娘感が溢れ出ている。
「ああ、よろしくな、リラ」
「わぁぁぁ…アレクサンダー様に呼び捨てで呼ばれちゃった…」
すごい興奮しているが大丈夫だろうか。
さっきのおてんば感はどこに行ったのだろうか。
「ほら!ジークも」
「う、うん…」
リラに服を引っ張られ明るい茶髪の男の子がこっちを見た。
「ジ、ジークバルト・モルディオです…第1皇子で、皇太子です…。ぼ、僕もジークと呼んでください…」
「ああ、よろしくな、ジーク」
「は、はい!」
かなり弱気な性格だな。皇太子なのに大丈夫だろうか。
それを何とかするのが俺の役目か。
「うむ!それで、俺の隣にいるのが最愛の妻だ!」
リオン皇帝は隣に座る白髪の女性の肩を抱き寄せた。
「オリビア・モルディオです。よろしくね?」
「よろしくお願いします。皇后陛下。」
「あらっ、あの子達みたいに愛称で呼んでくれないのかしら?」
「か、勘弁してください…」
皇后に対して愛称で呼べる訳ないだろ…
「ガッハッハッ!!オリビア!あまりアレクサンダーをいじめてやるな!」
「ふふっ、ごめんなさいね」
「は、はい」
リオン皇帝よりもオリビアの方が強敵だ。
「4人の部屋は王城に用意してある!自分の家のように思ってくれて構わんぞ!」
「王城!?よろしいのですか…?」
「遠慮するでない!そっちの方が動きやすいであろう!」
「は、はい」
「アレクサンダーの部屋はシャルの隣だ、後で案内してもらうがいい」
リオン皇帝がニヤニヤしている。
なにか狙ってるなこれ…
シャルの隣でもなにもないぞ。
その後は喋りながら昼食を楽しんでいる。
「アレクは、どうして忘却の魔剣士なんですか?」
唐突にシャルが聞いてきた。
「忘却ってところか?」
「はい」
「忘れっぽいからじゃないか?」
「そんなことなんですか!?」
シャルは素直で面白いな。
「アレク、悪い顔になってる。真面目に話してあげたら」
「はい、すみません」
エマに怒られてしまった。
「俺は、生まれてから6歳までの記憶が一切ないんだ」
「記憶が…しかし、6歳までであれば大して…」
「その6歳までが謎なんだ。目が覚めて、見知らぬ森で倒れていた。ブカブカの服を着て。エマが見つけてくれて、保護されて、俺は自分の名前はなんとか思い出したんだ」
ふむふむと一生懸命俺の話をシャルは聞いている。
「1番の謎は、当時6歳の俺にはすでに剣術と魔術の心得があったんだよ。体に染み付いていたって感じだ」
「6歳なのに…?」
「謎だろ?それに、自分で言うのもなんだが、6歳の時から精神は熟達していたんだ。当時から今みたいな感じってことだな」
そう、当時から何故か俺は大人びていた。それ相応の知識もあった。6歳なのに。
「それは不思議な話だ。俺もそんな事例は聞いたことが無い」
リオン皇帝は顎に手を当てながら言った。
「忘却の魔剣士って言うのは誰が付けたの?」
飯を頬張っているリラが聞いてきた。
「ミアレスの光の神子だよ。俺の元想い人だ」
「元想い人?」
「まぁ、その話は有名なんじゃないかな?」
「あっ…ごめんなさい…」
「謝ることじゃないよ、過去の事だ」
リラは俺の言葉の意味を察したのだろう。
ミアレスでの戦いは有名らしい。光の神子が死んだということも。
「その、光の神子が予言を出した時に、忘却の魔剣士って出たらしいんだ」
「なるほど、それで忘却の魔剣士…」
少し暗い雰囲気になってしまった。
「そういえば、カルマとソフィアの2つ名っていつからついたの?」
エマが不思議そうに聞いた。
「丁度、学生最強決定戦が終わったあとくらいですかね?」
「うん!上位4人の名前はモルディオにもすぐに伝わってきたよ!アレクとエマは2つ名があるから、その時の戦いを見てた人が勝手に付けたんじゃないかな?」
シャルとリラが答える。
2人とも2つ名が欲しいって言ってたから丁度いいな。
「どうだ?神速の剣士様?」
「やめてくれアレク…なんかむず痒いな…」
「風雅の剣士はどう?ソフィア」
「エマさん…恥ずかしいです…」
2人はしっかり俺達の気持ちを理解してくれたようだ。
2人の2つ名をからかいながら昼食を楽しんだ。
昼食も済まし、この後なにをしようかと考えていると、リオン皇帝が口を開いた。
「アレク、この後シャルに稽古を付けてはくれんか?」
皇帝はいつの間にかアレク呼びになっていた。
「はい、大丈夫ですよ」
「良いのですか!?」
「ああ、訓練場に案内してくれるか?」
「はい!もちろんです!」
この後はシャルに特別指導か、イヤらしい意味ではない。そのままの意味だ。
「エマは魔術部門を見学に行って感想を聞かせて欲しい」
「はい!」
「カルマとソフィアは剣術部門へ」
「「はい」」
午後からのそれぞれの予定が決まった。
「エマ、あんまりいじめるなよ?」
「いじめないよ!シャル!アレクに嫌なことされたらすぐ私に言ってね!」
「え!?は、はい!」
「嫌なことなんかしねぇよ」
エマはラングに連れられ、魔術部門の訓練場に向かった。
「カルマとソフィアも、しっかりやれよ」
「アレクさんの方が心配です」
「アレクのバケモノ訓練はやめとけよ」
「やらねーよ」
2人は騎士に連れられ、剣術部門の訓練場に向かった。
「さてと、俺らも行くか」
「はい!」
シャルは嬉しそうに返事をした。
「えー、お姉様ずるいー」
「リラは戦えないでしょ」
「えー」
リラが駄々こねてるな。俺達と同い年なはずだが。
まぁ、こういう子供っぽいのも可愛さの1つか。
「リラ、1年もあるんだ。俺と一緒にいるのも飽きるくらいになるさ」
「飽きないと思うよ?」
「そうか?」
俺はそう言うと、後ろでモジモジしているジークに目を向けた。
「ジークもな、なにか教えて欲しいことがあれば遠慮なく言ってくれ」
「は、はい!」
ジークは最初から最後まで緊張しっぱなしだな。
俺とシャルは訓練場に向かった。
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