第47話 初代勇者と聖剣
初代勇者ギムレット。
1番最初に聖剣に選ばれた剣士、世界の救世主。魔神を打ち倒した英雄。その後は行方をくらました。ちなみにイグナスは14代目になるらしい。
これが一般的に知られている、勇者ギムレットの話だ。
「上位デーモンは俺を見て、『まるで初代勇者』と言ったんです」
「ほう…なるほどのぉ…」
俺達はモル爺から勇者の話を聞くために道場に来ている。
「結論から言うとの、勇者ギムレットはお主と同じ魔剣士じゃ」
「やっぱり、モル爺さんはその情報は誰から聞いたんですか?」
モル爺は純粋な人族、500年前の話を知るはずがない。
「そりゃ聞いたからじゃよ、勇者の仲間に」
「なるほど、勇者の仲間の1人はまだ生きているって話でしたね」
「その人物については話すことはできんぞ?」
「ええ、勇者について聞ければ大丈夫です」
勇者の仲間は素性を隠しているのか。何のためだろうか…
「勇者の話に戻すぞ?」
「はい」
「勇者は魔剣士じゃ、今イグナスの坊主が持っている聖剣はかつて勇者が使っていた剣じゃ、それはわかるな?」
「はい、有名な話です。聖剣が最初に選んだのがギムレットだと…あれ?ギムレットは魔剣士じゃ…」
魔剣士である限り、既に魔力を帯びた剣なんかいらない。自分で属性付与できるから。
「そういうことじゃ、かつてギムレットが使っていたのは、アダマンタイトでできた普通のロングソードじゃ。500年前は特にデーモンが多かった、じゃから属性付与が聖属性に偏るのも頷ける」
魔を打ち払う為に特に聖属性を使い続けた結果か。
「聖剣は勇者が聖属性を属性付与し続けた結果できた魔剣ということですか」
「その通りじゃ、中々に頭が回るのぉ」
なるほどな、確かに意外な事実だな。
「じゃあ、アレクはイグナス先生の次の勇者になるの?」
エマが不思議そうに聞いた。
「可能性はあったのぉ」
「聖剣は勇者の末裔からしか選ばれないって聞いてますけど」
「実際は違う。資格がある者が手にできる、血筋に関係なくのぉ。今まで資格があったのが勇者の血筋だったってだけじゃ」
血筋は関係ないのか。
「儂ももしかしたらって思ったんじゃが、お主は次代の勇者ではないじゃろ」
「俺も勇者の力なんていりません」
「ふぉっふぉっ、そうじゃろうなぁ。そもそも次代の勇者が決まった時点で聖剣の引き継ぎが始まる。イグナスの手から聖剣は離れるのじゃ」
今も尚イグナスの手にあるってことは、まだ次代の勇者は決まってないってことか。
「儂が話せるのはここまでじゃ!勇者の話って言うより聖剣の話であったな!」
「勇者が行方をくらましたっていうのはどうなんですか?」
「それは、儂にもわからん。聞いたが、あやつも語ろうとせなんだからのぉ」
あやつってのは勇者の仲間のことか。勇者がその後どうなったのかはわからないのか。
「ありがとうございました。参考になります」
「そりゃよかったわい」
どうやら俺の剣に属性を付与して戦うスタイルは初代勇者と同じなようだ。
魔神を倒せるほどの力はないが、戦闘スタイルに間違いはないようだな。
「アレクサンダー」
「はい?」
「お主は『英雄覇道』を歩む者じゃろう」
「英雄覇道?」
「そうじゃ、お主にそのつもりはなくても、あらゆる国や街を救っていくじゃろう。さも、勇者のように。ミアレスやレディアがいい例じゃ。当のギムレットも勇者になる気なんざ無かったと聞いておる」
ギムレットも勇者になる気は無かったのか。
「その道は険しく、辛い物じゃ…。忘れるな、お主には支えてくれる者達が沢山おる。周りを頼れ、自分で何もかも背負うでないぞ」
「はい、わかりました」
モル爺はカルマ、ソフィア、エマを見た。
「英雄覇道を歩むのは、なにもアレクサンダーだけの話ではないぞ?お主らもこの先アレクサンダーと共にあるのであれば、互いを助け、共に困難に立ち向かえ。良いな?」
「「「はい」」」
俺達は道場を後にした。
「なんかお年寄りの言うことって説得力あるよね!」
「年の功ってやつだな」
エマの言うことに俺が答える。モル爺を年寄り扱いするのはまだ早そうだが。
「英雄覇道か…」
俺はただ、自分の記憶を取り戻し、エマを生涯守りたいだけなんだ。求めるものは他にはない。
でも…
「俺の近くにいると、色んな困難があるらしい。お前ら、離れるなら今の内だぞ?」
俺は3人の顔を見る。
エマは頬を膨らまし、ソフィアは寂しそうな顔をしている。
「アレク、俺はお前だけを前に進ませる気は無い。共に歩むとパーティーを組んだ時に決めている。退屈な人生はつまらないだろ?」
そう言いカルマは俺の右肩を殴った。
「カルマさんと同じ意見です!私も共に歩みましょう!」
ソフィアはそう言うと左肩を殴った。
「そういうこと言うと嫌いになるから。私にとってアレクがいない人生はありえないの。アレクが嫌だって言ってもそばにいるから」
エマは後ろから俺に抱きついてきた。
「そうか…ありがとう」
俺は人に恵まれている。そうつくづく思わされるな。
◇◇◇
アレクサンダー達4人を見送り、モルガナは1人物思いにふける。
「アレクサンダー、新たな英雄覇道を歩む者か…。」
モルガナは勇者の仲間が言っていたことを思い出す。
「ギムレットは最後の最後で仲間を頼ることをやめたと聞く…」
その目は未来を見据えている。
「アレクサンダー、お主はギムレットと同じ道を歩むでないぞ…」
そう言い残し、モルガナは瞑想に戻った。
◇◇◇
俺達はカルマの家に戻った。
「こんなに早く終わらせてくるなんて思わなかったよ」
カルマの母パメラはそう言いながら晩ご飯を用意している。
「大したことないモンスターでしたし、原因も下らないことでした」
「Aランクを大したことないって…さすがと言うべきかしら」
そんなことを話しながらパメラは机に料理を並べた。
「アレクはもっと強いモンスターがいるって思ってたんでしょ」
「会長の指名クエストは"ついでに"高ランクモンスターがついてくるからな、少し期待していたよ」
「はぁ…やっぱり」
エマが呆れ気味に溜息をついた。
「仕方ないだろ、イグナス先生の監視がキツいんだ」
「アレクさんのことを思ってですよ!」
「そうだな」
イグナスは俺の事をなんだと思ってるんだ。好き好んでボロボロになってる訳じゃないのに。
「タカハシ村にはどのくらい滞在するのですか?」
用意された晩ご飯を食べながらソフィアが聞いてきた。
「カルマの剣も作ったし、クエストも終わったからなぁ…」
もうここですることは終わってしまった。
「会長にはゆっくりしてこいって言われてるからなぁ」
「学校もあるだろ」
「そうだよなぁ…あと3日程はここに居るか」
特にすることもないが、せっかくカルマの故郷にいるんだ、ゆっくりしてもバチは当たらないだろう。
「やったー!ファナと遊びたかったの!」
「私もご一緒してもいいですか?」
エマとソフィアはファナと遊ぶようだ。
「カルマ、俺達どうする?」
「どうしような」
退屈な3日が始まりそうだ。
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