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第5話 パンドラ

 

 俺は、真っ白い空間にいた。夢の中だ。


「こんな夢初めて見るなぁ、まるで現実だ」


 そんなことを思っていたが、後ろに気配を感じ振り向いた。


「誰だ!」


 そこにはフードを深くかぶり黒いローブを纏った見るからに怪しい男が立っていた。


「お気づきですか。アレクサンダー君。」

「誰だおまえ、なんで名前を知っている。」

「それは、観ていたからですね。いやはや、素晴らしかったですよ。グランドウルフたちとの戦い。

  おっと、申し遅れました。わたくし、『パンドラ』という組織の幹部をしております、マイズと申します。周りの方は私のことを『夢渡りのマイズ』なんて呼んでます。以後お見知りおきを」


 ゾクリと寒気がした。


「観ていた…?」

「はい。本来は少女の方に興味があったのですがね。君が邪魔をしてしまいましたので。その代わりに、君を観察させてもらいました」


 淡々と男は話す。


「入念に準備したんですがねぇ、少女の邪心に漬け込み瘴気を忍ばせ、邪心を悪化させました。そして、カオスフォレストへと誘導したんです。ですが!貴方という素晴らしい逸材を見つけることが出来ましたので…」

「だまれ」


 俺はマイズの言葉を遮った。


「瘴気を忍ばせ…?邪心を悪化…?つまり、今回の原因はおまえってことか…?」

「まぁ、そうなりますね」


 俺はどこから出したかもわからないショートソードをマイズの首元に向ける。

 夢だからなんでもありのようだ。


「俺の大切な人達に手を出す奴は誰であろうと許さない」

「ベタなセリフですね。」

「ベタでも構わないさ、これは警告だ。次お前を見つけたら殺してやる」


 殺気を放ちマイズを睨みつける。だが、マイズは怯まない。


「はぁ…子供なので簡単だと思ったんですがね。今回の少女の計画のように危ないところを助けて、洗脳でもすれば…」

「もうそれ以上喋るな。」


 そのままマイズを真っ二つにする。

 まるで煙だ、そのままマイズは消えていく。


「貴方が我々に敵対するなら、いずれ相対するでしょう。それまで腕を上げておくことですね」


 そう言いながらマイズは消えた。

 パンドラ…夢渡りのマイズ…あまりよろしくない組織のようだ、気をつけよう。

 そう思いながら、俺は目を覚ました。


 ◇◇◇


 目を開ける見知らぬ天井だった。今回はどうやら病院に運ばれたらしい。

 体を起こす。


「うぅ…まだダルいな…」


 グランドウルフに噛まれたところに痛みはなかった。傷跡だけ残っているってことは、治癒魔術か。


 部屋のドアが開いた。そこにはおしぼりと桶を持った少女がいた。また逃げるかな?

 そう思っていたら、持っていたものを落としてこっちに走ってきた。


「アレク!!」


 そのまま抱きついてきた。

 よかった、まだ嫌われていたらショックだった。


「目が覚めてよかった…このまま起きなかったらって思ったら怖くて…」

「心配かけてごめんね、エマ。ちゃんと生きてるよ」


 俺の胸で泣くエマの頭を撫でていると。ミシアとラルトが入ってきた。


「目が覚めたのね!よかったわ…エマを助けてくれてありがとう。」

「アレク。ほんとにありがとう。エマ、顔を上げて、アレクに言うことがあるだろ?」


 そう言いエマは顔を上げる。


「アレク…助けに来てくれてありがとう…。あたしね、お母さんたちがアレクばかり構っているの見て、ヤキモチ妬いたの…嫌な思いさしてごめんなさい」


 やっぱりそうだったか。

 エマはまだ6歳だ。親の愛を横取りされかねない敵が急に出てきたんだ。ヤキモチも妬くだろう。


「嫌な思いはしてないよ。僕はエマと仲良くなりたかったから。これでエマと仲良くなれるなら、命を懸けた甲斐があったよ!」


 そう言い笑顔を向ける。

 命という言葉を聞いて、エマの顔が暗くなる。


「大丈夫、また何かあったら僕が守るよ」


 エマは顔を赤らめながら頷いていた。


「ふふっ、エマったら照れてるわね。この1週間、つきっきりで看病してたもんね?」

「お母さん!」


 ミシアは笑いながらエマをからかう。守れてよかった。ほんとに命を懸けた甲斐があった。


 ミシアとエマが部屋から出ていくと、ラルトが近づいてきた。


「アレク」

「はい?」

「俺は、まだ早いと思うんだ」


 一瞬なにを言ってるのか分からなかったが、その顔が全てを物語っている。笑顔だが、冷や汗が出ている。


「君たちはまだ子供だ!節度を守って!」

「は、はい。心に誓って」


 よしとラルトは呟き部屋を出ていった。初めてラルトが怖いと感じた。


 ◇◇◇


 2日後、俺は退院した。

 1週間と2日、ほぼ寝たきりだったから身体が鈍っている。はやく、ローガンのところで体を動かしたい。

 今日は、ミーヤのところで魔術の勉強だ。色々聞きたいこともある。騎士団へ行く準備を進めている。


「騎士団へ行くの?」


 エマが話しかけてきた。

 目が覚めてからエマはずっと俺のそばに居る。少し前まで睨まれていたとは思えないほど、俺にベッタリだ。素直に嬉しい。可愛いし。だが、ラルトの目が怖いのが難点だ。


「うん、今日は魔術の勉強をするんだ」

「魔術…!!」


 エマは目をキラキラさせながらこっちを見ている。

 魔術に興味があるようだ。確かに、エマはハーフエルフだし、魔術の才能があるかもしれない。


「一緒に行く?」

「うん!お母さんに言ってくる!」


 そう言い走り去っていった。


 ◇◇◇


 エマと2人でミーヤの元を訪れた。


「おや、今日は2人ですか?」

「はい、エマが魔術に興味があるようで…」


 エマは俺の後ろに隠れてしまった、人見知りっていうのは本当だったようだ。


「エマ、魔術を教えてもらうんだろ?」

「う、うん…」


 渋々出てきた。


「エマちゃん!よろしくね!」

「は、はい!」


 ミーヤの元気に気圧され気味だが、なんとかなりそうだ。


「アレクは向こうで、魔力量を増やす訓練をしていてください。私はエマちゃんの適性を見ます」

「わかりました」


 そう言われ俺は奥へ向かった。


「さて!エマちゃん!君はどうして魔術を学ぼうと思ったのですか?」


 急な質問に、エマはオドオドしていたが、しっかり応えた。


「ま、守りたいんです。守られるだけじゃなくて。助けてくれた時の、アレクの姿は凄くかっこよかった。でも、あの時あたしは逃げることしか出来なかった…あたしがもし戦えていたらアレクがあんなに傷付く事もなかったんです。だから!あたしもいつかアレクの横に立って戦いたい!」


 その瞳に迷いはなかった。それを見てミーヤはエマの手を取った。


「素晴らしい理由です!その目標応援します!私の持つ全ての知識を教えましょう!」

「あ、ありがとうございます!」

「では!君の魔術の適性があるのか調べます!まず、少しだけ私の魔力を君に流します。魔術の適性がない場合、私の魔力は外へ漏れます。適性がある場合は君の中へ流れ込み魔力回路が目を覚まします。びっくりするでしょうが、体に害はないので心配はいりません。」


 ミーヤが説明し、目を瞑る。それにつられてエマも目を瞑る。

 エマは緊張していた。自分に適性が無ければ隣に立つことすら許されない。


「わっ!?」


 エマの眠っていた魔力回路が目を覚ました。


「よかった!エマちゃん!君にも魔術の適性があります!それではエマちゃん!あなたの好きな魔術属性はなんですか!?」

「か、風です!!!」


 エマは風を思い浮かべた、アレクがグランドウルフを弾け飛ばした時のような力強い、"強力"な風。

 するとエマの手のひらから小さな竜巻ができた。


「わぁ!すごい!これが魔術!」

「エマちゃん!さすがです!1発で成功とは、恐るべきエルフの血筋!!」


 初めての魔術にテンションが上がるエマ。そして、魔術の才能に興奮するミーヤ。

 エマの竜巻は次第に大きくなっていく。


「わわわわっ、ど、どうしたら…?」

「お、落ち着いて、大丈夫。感覚に身を任せて…」


 エマが感覚に身を任せた結果。竜巻は特大サイズになった。


「えぇ!?な、なにしてるんですか!?」


 俺は、異常を察知して、2人の元に駆けつけた。


「アレク!!いい所に!これをなんとかできませんか!?」

「無理です」

「も、もう限界です!!」


 そしてエマは魔術を発動し、巨大竜巻が室内訓練室を吹き飛ばした。

 すぐにローガンの怒声が聞こえてきたのは言うまでもない。


 ◇◇◇


 訓練場を吹き飛ばしてしまった俺たちは、座学へと切り替えた。そうだ、ミーヤに聞かなければいけないことがあった。


「ミーヤさん」

「どうしました?アレク」

「ミーヤさんは、『パンドラ』という組織を知っていますか?」


 パンドラと聞いた瞬間、ミーヤが顔を顰めた。


「アレク。その組織の名前をどこで聞いたのですか?」


 やはり、よろしくない組織らしい。夢で見た事をミーヤに話した。


「やはり、夢渡りのマイズですか…」

「知っているんですか?」

「ええ、私の夢にも1度現れた事があります。あまりに胡散臭かったので、丁重にお断りしましたが」


 どうやら、マイズは有能な魔術師や剣士の夢の中に現れ、天啓のようにパンドラへ勧誘するらしい。迷惑な話だ。


「正直な話ですが、パンドラについてはよく分かっていません。悪魔を信仰しているとか、世界征服を企んでいるとか、曖昧な情報ばかりです。なにやら怪しいことをしているのは確実なのですが、証拠がなく…」

「そうなんですね…」

「最近は妙な噂も流れてきてます。パンドラが人助けをしているとか」


 ミーヤの話によると、子供がピンチのときにパンドラメンバーが駆けつけ、助けるらしい。どこかで聞いた話だな。おそらくその後にパンドラは正義だーとか言って洗脳するんだろう。ろくな集団じゃない。


「関わらないのが身のためですね」

「そうですね」


 関わらない方針にした。


「2人で楽しそうになに話してるのー」


 エマが頬を膨らましながら、こっちを見ている。今の会話が楽しそうに見えたらしい。

 ヤキモチかな?可愛い。


第5話ご閲覧いただきありがとうございます!


詳しい設定について、補足パートを設けようかと思ってます!

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