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忘却の魔剣士~また、君を見つけるまで~  作者: KUZAKI
第四章 冒険者学校 その2
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第38話 それぞれの戦い

 

 〜ソフィアside〜


「くっ…」


 ソフィアはカオスウルフの素早さに翻弄されていた。


「この体格で、このスピードはやりづらいですね…さて、どうしましょうか」


 翻弄されながらもソフィアは落ち着いていた。それは、この1年でそれなりの修羅場を潜ってきた経験からなるものだ。ゆっくり、しかし、着実にソフィアの才能が開花していく。


「目では追えませんね。残像でしか見えない」


 カオスウルフの連続攻撃を捌きながら、冷静に戦況を見極める。


 かつて、アレクサンダーとの訓練で聞いた事があった。


『アレクさんはどうしてそんなに反応が良いのですか?』

『反応が良い?俺は遅い方だと思うが』

『ご謙遜なさらないで!あなたの反応速度は私より明らかに速いです!』

『まぁ、目に頼りすぎないってことかな?たぶん』


 その時のアレクサンダーの言葉は当時のソフィアにはよく分かっていなかった。"目で追えない敵"と戦闘したことがなかったから。


 今、ソフィアはアレクサンダーの言葉を実感していた。


「目に頼りすぎない…なるほど…目は頼れない、なら」


 そう言いソフィアは目を閉じた。

 カオスウルフが襲いかかる。


「ぐぅ…!」


 気配のみでなんとか躱すが、躱しきれず身体中に爪や牙の傷を負う。強力なブレスも掠めてしまう。ダメージは大きい。


『目に頼りすぎないですか?』

『ああ、ソフィアも日常的に気配を感じているだろ?中には気配を隠す奴もいるが、モンスターは基本的に強力な気配を放つ。あとはわかるだろ?』


「そうですか…これが、目で追えない敵を捉える方法…」


 ソフィアは感覚を研ぎ澄まし、敵の気配のみを感じ取っていた。


 ソフィアの長所は、素直に取り入れ、実践するところ。その性格が、功を奏し、新たな力を開花させた。

 アレクサンダーが教えたのはただ気配を感じ取り反応するだけの方法。しかし、ソフィアが身につけたのはまた別の力だった。


『無我の境地』


 心を無にして、半径2m以内に入ってきた物を問答無用で斬り伏せる、居合の境地。


「ふぅ…」


 ソフィアは「無我の境地」を展開し、居合を構える。

 本来、虎剣流に居合はない。しかし、ソフィアの研ぎ澄まされた感覚は新たな技も生み出した。


 カオスウルフが襲いかかってくる。


「ここ!!」


 ソフィアの斬撃がカオスウルフの前足を両断した。


「やはり未完の技、一撃とはいきませんか…しかし、機動力は奪いました…『無我ノ一太刀』とでも名付けましょうか…」


 機動力を奪ったが、ソフィアも満身創痍。血を流しすぎて、フラついてしまっている。


「そこで、じっとしていなさい」

「虎剣流『虎斬断頭』」


 ソフィアはカオスウルフの首を切り落とした。


「S級…勝てました…。あとは、任せましょう…」


 ソフィアは建物の影に隠れ、座り込んだ。


 ソフィアの勝利だ。


 〜カルマside〜


「機動力、腕力共にこいつの方が上か。さて、どうしたものか」


 アウルベアの拳を捌きながら考える。


「素早いが対応できない訳では無いな」


 そう言うとカルマは次第に反撃し始めた。そして、気がつくとアウルベアの拳はボロボロになっていた。


「鷹剣流『疾風』」

「…硬いな…」


 カルマの剣がアウルベアの腹部に炸裂するが、硬い皮膚に阻まれた。


「グェェェェエ!!」


 アウルベアは吠えると、全身を火で纏った。


「なるほど、属性武装か。余計硬くなった」


 アウルベアは一瞬でカルマに肉薄し拳を放った。


「ぐっ…熱い…」


 拳を剣で捌くが、火の余波がカルマにダメージを与える。

 次第に体力を奪われ、強烈な一撃がカルマの鳩尾に入る。


「かはっ…!」


 カルマは後方に突き飛ばされ建物に激突する。


「うぅ…くそ…」


 強い振動に意識が朦朧とする。


「俺達は…どんなに格上だろうが…勝利してきた。血だらけになりながらも…死にかけながらも…」


 カルマは立ち上がり、剣を構える。


 アウルベアが迫ってくるのが見えた。


「俺達に…敗北はない…!」

「鷹剣流 奥義『鷹神剣舞(おうしんけんぶ)』」


 カルマの目にも止まらない神速の無数の斬撃が、迫ってきたアウルベアをバラバラに切り刻んだ。


「……刃こぼれ…超越級は遠いな…」


 カルマの勝利だ。


 〜アレクサンダーside〜


「やっぱ強いなぁ」


 俺はカースリッチに対して攻めあぐねていた。

 原因はわかっている。


「あの無駄に硬ぇシールドだよな…それに」


 後ろから迫ってきたカオスウルフを斬り伏せた。


「周りのモンスター共が鬱陶しい…」

「アレク…」


 どうしたものか。エマの手前カッコイイ所を見せたいが、上手くないかないものだ。


 周りのモンスターをどうにかしないとな…


「おー!アレク!やってるか!」

「ローガンさん!?ドラゴニュートは!?」

「なーにあんくらいちょちょいのちょいだ!!」


 S級をちょちょいのちょいか…さすが元S級中位。


「ローガンさん!周りのモンスター任せて良いですか?」

「おー、任せとけ!カルマとソフィアはまだか?」

「みたいですね、心配はしてませんが」


 そんな話をしていると1人の騎士が駆けつけてきた。


「ほ、報告です!カルマさんとソフィアさん、どちらも"炎獄"のアウルベア、"黒牙"のカオスウルフの討伐完了とのことです!!」


 嬉しい知らせに思わずニヤける。


「カルマ!ソフィア!さすがだね!2人は?」


 エマが騎士に聞いた。


「どちらも出血が酷いので、現場の騎士が手を貸しながらここへ向かってるとのことです!」

「そうか、なら着いたら防御魔術に入れて治癒魔術を使ってやってくれ」

「手助けはいらんのか?」


 ローガンが聞いてきた。


「相手はカースリッチです。物理攻撃は効果が薄いので、それに出血が酷かったら動けないでしょう」

「それもそうだな!周りのモンスターは任せとけ!あの骸骨野郎ぶっ飛ばせよ!」

「はい!」


 俺はもう一度カースリッチと対峙した。


「まずは…あのシールドか…」


 カースリッチを囲むようにドーム型のシールドが展開されている。あれが硬すぎてダメージが通らない。だが、方法が無いわけではない。


「剣は使いたくないな」

『属性武装:聖』


 俺はそのまま、カースリッチに肉薄する。

 両手に聖属性を集中させる。


「おっらぁ!!!!」


 力いっぱいシールドを殴った。


「ア、アレク…?」

「なんか…すごいですね…」


 どうやら周りはドン引きだ。なんかショック。


「もういっちょ!!!!」

 〔バリン!!〕


 カースリッチを護っていたシールドが砕け散る。

 纏っていた魔力をそのまま剣に…。


「我流『龍牙一閃』」


 光の一閃がカースリッチを捉える。しかし、


「なっ…分身…?」


『〇△□✕%※〇△□✕%※』


 カースリッチは分身だった。


「アレク!後ろ!」


 エマの声を聞き後ろを見ると闇の玉がすぐそこまで迫っていた。リフレクトは間に合わない。


「ぐうぅ…!!」


 闇の玉を剣で受け止める。


「押し…潰される…!」


 俺は身体中から聖属性の魔力を放出した。


「うおぉ…ここだ!」


 拡張された光の太刀筋が闇の玉を真っ二つにした。


「はぁ…はぁ…分身か。厄介だな…」


 目の前には大量のカースリッチがいた。

 魔力を感知すれば、本物を見極められる。

 俺はサーチを展開した。


「そこだ」


「超級聖魔術『ホーリー・オーバーレイ』」


 俺の光線はカースリッチに直撃した。

 しっかりダメージは入ったようだ。


「よし、分身はなんとかなるな」


 超級じゃ、消しきれないか。


『〇△□%※〇%※』


 カースリッチが何かを発動したが、何も起こらない。


「んぐっ!がはっ…」

「アレク!?」

「あの魔術は…」


 俺は吐血した。肺が焼け爛れるように痛い。

 頭もクラクラする。


「ポイズン・ダストか…」


 俺は自分に治癒魔術を施した。

 しかし、治したそばから肺に毒が入る。


「ぐぅ…ゲホッゲホッ…」

「ダメ……アレク!私も!」

「ダ…ダメだ!!」


 こっちに来ようとするエマを止めた。


「なんで!」

「エマ、おまえの仕事はなんだ…防御魔術を解けば力が落ちて、後ろの避難民達に危険が及ぶだろ…」

「冷静じゃなかった…ごめんなさい…」

「気にするな…後で好きなだけイチャイチャしてやるよ」

「もう!」


 エマが顔を真っ赤にして防御魔術の維持に戻った。


「まずいな…このままじゃローガンさんのとこにも毒が…」


 確か、ポイズン・ダストは闇属性だったよな。なら、


「超越級聖魔術『聖域』」


 辺り一体の地面を光が覆う。


「超越級!?アレク!限界突破は!」

「わかってますよ。使いません」


 もう限界突破は使わない、今ある力全てだ。


「聖域には、魔を弱体化させる効果がある」


『〇△□✕%※□✕%※!』


 カースリッチが闇の光線を放ってくる。捨て身の俺の肩を貫く。


「ぐっ…はっ、弱体化して手元でも狂ったか…?」


『!?』


「逃げんなよ?」


 試してみるか。


属性付与(エンチャント):聖』


 聖属性を剣に纏わせる。


「まだまだ、出力を上げろ…!」


 俺の頭には、イグナスの一撃があった。俺の中で最強はイグナスだ。イグナスが初めて見せた聖剣技。


 神々しい光が当たりを包む。


 __


 エマの後ろで避難していた子供が口を開いた。


「うわぁ…まるで、勇者様みたい…」


 すると、隣にいる男がニヤケながら答えた。


「ははっ…そう、まるで勇者みたい…だね」


 __


 俺の魔力は限界まで高められた。


「綺麗さっぱり消えちまえ」


『聖滅』


 振りかざされた剣は光を伴い、カースリッチに直撃した。

 地面からは巨大な光の剣が突き出した。


 カースリッチは綺麗さっぱり消滅した。


「はぁ…はぁ…威力は半分くらいしか出てないか…あの人はバケモンだな…」


 エマとミーヤは防御魔術を解き、ほっと一息ついた。


 まだだ。まだ終わっていない。

 カースリッチが消滅し、瘴気で操っていた痕跡が残っている。そこを辿れば…


「そこだ!!!」


 俺は光線を避難民に向けて放った。


「アレク!なにしてるの!?」


 エマが困惑している。


「うわ!!っと!やっぱバレちゃったね」


 体を覆うローブを纏い、フードを深く被っている。フードには謎の紋章。パンドラだ。


「逃がすか!」


 俺は光線を放つが弱い。魔力をほとんど使ってしまったからだ。


「逃げさせてもらうよ!マイズ!飛ばしてくれ!」

「はいはい」


 建物の影からマイズが出てきた。

 モンスターを操っていた男をマイズが逃がした。


「くそっ!マイズ!」

「そんな呼ばなくても聞こえていますよ」


 マイズは正面に移動していた。魔法陣をまだ仕掛けていたのか。


「それでは、また会いましょう。忘却の魔剣士、アレクサンダー…」

「まて!!」


 マイズは魔法陣を発動し、消えた。


「くそっ…」

「アレク!マイズって…」

「ああ、昔、エマを狙ったパンドラの幹部だ」


 駆けつけたエマに説明した。あいつらは初めから逃げる算段をつけていた。俺に見つかるのをわかっていたんだ。


「まぁ、逃げられたもんは仕方ないか…」

「うん!お疲れ様!アレク!」


 街中から歓声があがっている。避難民達は涙を流しながら感謝していた、こういうのも悪くないな。


 ◆◆◆


 薄暗い部屋に2人の男がいる。


「やっぱりバレましたね!マイズさん!」

「まぁ、彼なら気付くと思っていました」

「ずいぶん彼のこと買っているんですね?」

「ええ、ブエイム君よりかはね」

「ひどいですよ!」


 1人はパンドラ幹部マイズ

 もう1人はモンスターを操る男ブエイム


「それで、今回の結果を得てどうしますか?」

「ええ、十分情報も集まりましたし。そうですね…2か3年後くらいに計画を実行しましょうか。念には念を入れてね」

「わかりました!ボスにも伝えときます!」


 そう言って、ブエイムは走り去っていった。


「ふっ…アレクサンダー君…思ったよりも成長が早いですね。上等ですよ」


 マイズは不気味に笑った。



第38話ご閲覧いただきありがとうございます!


次話をお楽しみに!

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