第38話 それぞれの戦い
〜ソフィアside〜
「くっ…」
ソフィアはカオスウルフの素早さに翻弄されていた。
「この体格で、このスピードはやりづらいですね…さて、どうしましょうか」
翻弄されながらもソフィアは落ち着いていた。それは、この1年でそれなりの修羅場を潜ってきた経験からなるものだ。ゆっくり、しかし、着実にソフィアの才能が開花していく。
「目では追えませんね。残像でしか見えない」
カオスウルフの連続攻撃を捌きながら、冷静に戦況を見極める。
かつて、アレクサンダーとの訓練で聞いた事があった。
『アレクさんはどうしてそんなに反応が良いのですか?』
『反応が良い?俺は遅い方だと思うが』
『ご謙遜なさらないで!あなたの反応速度は私より明らかに速いです!』
『まぁ、目に頼りすぎないってことかな?たぶん』
その時のアレクサンダーの言葉は当時のソフィアにはよく分かっていなかった。"目で追えない敵"と戦闘したことがなかったから。
今、ソフィアはアレクサンダーの言葉を実感していた。
「目に頼りすぎない…なるほど…目は頼れない、なら」
そう言いソフィアは目を閉じた。
カオスウルフが襲いかかる。
「ぐぅ…!」
気配のみでなんとか躱すが、躱しきれず身体中に爪や牙の傷を負う。強力なブレスも掠めてしまう。ダメージは大きい。
『目に頼りすぎないですか?』
『ああ、ソフィアも日常的に気配を感じているだろ?中には気配を隠す奴もいるが、モンスターは基本的に強力な気配を放つ。あとはわかるだろ?』
「そうですか…これが、目で追えない敵を捉える方法…」
ソフィアは感覚を研ぎ澄まし、敵の気配のみを感じ取っていた。
ソフィアの長所は、素直に取り入れ、実践するところ。その性格が、功を奏し、新たな力を開花させた。
アレクサンダーが教えたのはただ気配を感じ取り反応するだけの方法。しかし、ソフィアが身につけたのはまた別の力だった。
『無我の境地』
心を無にして、半径2m以内に入ってきた物を問答無用で斬り伏せる、居合の境地。
「ふぅ…」
ソフィアは「無我の境地」を展開し、居合を構える。
本来、虎剣流に居合はない。しかし、ソフィアの研ぎ澄まされた感覚は新たな技も生み出した。
カオスウルフが襲いかかってくる。
「ここ!!」
ソフィアの斬撃がカオスウルフの前足を両断した。
「やはり未完の技、一撃とはいきませんか…しかし、機動力は奪いました…『無我ノ一太刀』とでも名付けましょうか…」
機動力を奪ったが、ソフィアも満身創痍。血を流しすぎて、フラついてしまっている。
「そこで、じっとしていなさい」
「虎剣流『虎斬断頭』」
ソフィアはカオスウルフの首を切り落とした。
「S級…勝てました…。あとは、任せましょう…」
ソフィアは建物の影に隠れ、座り込んだ。
ソフィアの勝利だ。
〜カルマside〜
「機動力、腕力共にこいつの方が上か。さて、どうしたものか」
アウルベアの拳を捌きながら考える。
「素早いが対応できない訳では無いな」
そう言うとカルマは次第に反撃し始めた。そして、気がつくとアウルベアの拳はボロボロになっていた。
「鷹剣流『疾風』」
「…硬いな…」
カルマの剣がアウルベアの腹部に炸裂するが、硬い皮膚に阻まれた。
「グェェェェエ!!」
アウルベアは吠えると、全身を火で纏った。
「なるほど、属性武装か。余計硬くなった」
アウルベアは一瞬でカルマに肉薄し拳を放った。
「ぐっ…熱い…」
拳を剣で捌くが、火の余波がカルマにダメージを与える。
次第に体力を奪われ、強烈な一撃がカルマの鳩尾に入る。
「かはっ…!」
カルマは後方に突き飛ばされ建物に激突する。
「うぅ…くそ…」
強い振動に意識が朦朧とする。
「俺達は…どんなに格上だろうが…勝利してきた。血だらけになりながらも…死にかけながらも…」
カルマは立ち上がり、剣を構える。
アウルベアが迫ってくるのが見えた。
「俺達に…敗北はない…!」
「鷹剣流 奥義『鷹神剣舞』」
カルマの目にも止まらない神速の無数の斬撃が、迫ってきたアウルベアをバラバラに切り刻んだ。
「……刃こぼれ…超越級は遠いな…」
カルマの勝利だ。
〜アレクサンダーside〜
「やっぱ強いなぁ」
俺はカースリッチに対して攻めあぐねていた。
原因はわかっている。
「あの無駄に硬ぇシールドだよな…それに」
後ろから迫ってきたカオスウルフを斬り伏せた。
「周りのモンスター共が鬱陶しい…」
「アレク…」
どうしたものか。エマの手前カッコイイ所を見せたいが、上手くないかないものだ。
周りのモンスターをどうにかしないとな…
「おー!アレク!やってるか!」
「ローガンさん!?ドラゴニュートは!?」
「なーにあんくらいちょちょいのちょいだ!!」
S級をちょちょいのちょいか…さすが元S級中位。
「ローガンさん!周りのモンスター任せて良いですか?」
「おー、任せとけ!カルマとソフィアはまだか?」
「みたいですね、心配はしてませんが」
そんな話をしていると1人の騎士が駆けつけてきた。
「ほ、報告です!カルマさんとソフィアさん、どちらも"炎獄"のアウルベア、"黒牙"のカオスウルフの討伐完了とのことです!!」
嬉しい知らせに思わずニヤける。
「カルマ!ソフィア!さすがだね!2人は?」
エマが騎士に聞いた。
「どちらも出血が酷いので、現場の騎士が手を貸しながらここへ向かってるとのことです!」
「そうか、なら着いたら防御魔術に入れて治癒魔術を使ってやってくれ」
「手助けはいらんのか?」
ローガンが聞いてきた。
「相手はカースリッチです。物理攻撃は効果が薄いので、それに出血が酷かったら動けないでしょう」
「それもそうだな!周りのモンスターは任せとけ!あの骸骨野郎ぶっ飛ばせよ!」
「はい!」
俺はもう一度カースリッチと対峙した。
「まずは…あのシールドか…」
カースリッチを囲むようにドーム型のシールドが展開されている。あれが硬すぎてダメージが通らない。だが、方法が無いわけではない。
「剣は使いたくないな」
『属性武装:聖』
俺はそのまま、カースリッチに肉薄する。
両手に聖属性を集中させる。
「おっらぁ!!!!」
力いっぱいシールドを殴った。
「ア、アレク…?」
「なんか…すごいですね…」
どうやら周りはドン引きだ。なんかショック。
「もういっちょ!!!!」
〔バリン!!〕
カースリッチを護っていたシールドが砕け散る。
纏っていた魔力をそのまま剣に…。
「我流『龍牙一閃』」
光の一閃がカースリッチを捉える。しかし、
「なっ…分身…?」
『〇△□✕%※〇△□✕%※』
カースリッチは分身だった。
「アレク!後ろ!」
エマの声を聞き後ろを見ると闇の玉がすぐそこまで迫っていた。リフレクトは間に合わない。
「ぐうぅ…!!」
闇の玉を剣で受け止める。
「押し…潰される…!」
俺は身体中から聖属性の魔力を放出した。
「うおぉ…ここだ!」
拡張された光の太刀筋が闇の玉を真っ二つにした。
「はぁ…はぁ…分身か。厄介だな…」
目の前には大量のカースリッチがいた。
魔力を感知すれば、本物を見極められる。
俺はサーチを展開した。
「そこだ」
「超級聖魔術『ホーリー・オーバーレイ』」
俺の光線はカースリッチに直撃した。
しっかりダメージは入ったようだ。
「よし、分身はなんとかなるな」
超級じゃ、消しきれないか。
『〇△□%※〇%※』
カースリッチが何かを発動したが、何も起こらない。
「んぐっ!がはっ…」
「アレク!?」
「あの魔術は…」
俺は吐血した。肺が焼け爛れるように痛い。
頭もクラクラする。
「ポイズン・ダストか…」
俺は自分に治癒魔術を施した。
しかし、治したそばから肺に毒が入る。
「ぐぅ…ゲホッゲホッ…」
「ダメ……アレク!私も!」
「ダ…ダメだ!!」
こっちに来ようとするエマを止めた。
「なんで!」
「エマ、おまえの仕事はなんだ…防御魔術を解けば力が落ちて、後ろの避難民達に危険が及ぶだろ…」
「冷静じゃなかった…ごめんなさい…」
「気にするな…後で好きなだけイチャイチャしてやるよ」
「もう!」
エマが顔を真っ赤にして防御魔術の維持に戻った。
「まずいな…このままじゃローガンさんのとこにも毒が…」
確か、ポイズン・ダストは闇属性だったよな。なら、
「超越級聖魔術『聖域』」
辺り一体の地面を光が覆う。
「超越級!?アレク!限界突破は!」
「わかってますよ。使いません」
もう限界突破は使わない、今ある力全てだ。
「聖域には、魔を弱体化させる効果がある」
『〇△□✕%※□✕%※!』
カースリッチが闇の光線を放ってくる。捨て身の俺の肩を貫く。
「ぐっ…はっ、弱体化して手元でも狂ったか…?」
『!?』
「逃げんなよ?」
試してみるか。
『属性付与:聖』
聖属性を剣に纏わせる。
「まだまだ、出力を上げろ…!」
俺の頭には、イグナスの一撃があった。俺の中で最強はイグナスだ。イグナスが初めて見せた聖剣技。
神々しい光が当たりを包む。
__
エマの後ろで避難していた子供が口を開いた。
「うわぁ…まるで、勇者様みたい…」
すると、隣にいる男がニヤケながら答えた。
「ははっ…そう、まるで勇者みたい…だね」
__
俺の魔力は限界まで高められた。
「綺麗さっぱり消えちまえ」
『聖滅』
振りかざされた剣は光を伴い、カースリッチに直撃した。
地面からは巨大な光の剣が突き出した。
カースリッチは綺麗さっぱり消滅した。
「はぁ…はぁ…威力は半分くらいしか出てないか…あの人はバケモンだな…」
エマとミーヤは防御魔術を解き、ほっと一息ついた。
まだだ。まだ終わっていない。
カースリッチが消滅し、瘴気で操っていた痕跡が残っている。そこを辿れば…
「そこだ!!!」
俺は光線を避難民に向けて放った。
「アレク!なにしてるの!?」
エマが困惑している。
「うわ!!っと!やっぱバレちゃったね」
体を覆うローブを纏い、フードを深く被っている。フードには謎の紋章。パンドラだ。
「逃がすか!」
俺は光線を放つが弱い。魔力をほとんど使ってしまったからだ。
「逃げさせてもらうよ!マイズ!飛ばしてくれ!」
「はいはい」
建物の影からマイズが出てきた。
モンスターを操っていた男をマイズが逃がした。
「くそっ!マイズ!」
「そんな呼ばなくても聞こえていますよ」
マイズは正面に移動していた。魔法陣をまだ仕掛けていたのか。
「それでは、また会いましょう。忘却の魔剣士、アレクサンダー…」
「まて!!」
マイズは魔法陣を発動し、消えた。
「くそっ…」
「アレク!マイズって…」
「ああ、昔、エマを狙ったパンドラの幹部だ」
駆けつけたエマに説明した。あいつらは初めから逃げる算段をつけていた。俺に見つかるのをわかっていたんだ。
「まぁ、逃げられたもんは仕方ないか…」
「うん!お疲れ様!アレク!」
街中から歓声があがっている。避難民達は涙を流しながら感謝していた、こういうのも悪くないな。
◆◆◆
薄暗い部屋に2人の男がいる。
「やっぱりバレましたね!マイズさん!」
「まぁ、彼なら気付くと思っていました」
「ずいぶん彼のこと買っているんですね?」
「ええ、ブエイム君よりかはね」
「ひどいですよ!」
1人はパンドラ幹部マイズ
もう1人はモンスターを操る男ブエイム
「それで、今回の結果を得てどうしますか?」
「ええ、十分情報も集まりましたし。そうですね…2か3年後くらいに計画を実行しましょうか。念には念を入れてね」
「わかりました!ボスにも伝えときます!」
そう言って、ブエイムは走り去っていった。
「ふっ…アレクサンダー君…思ったよりも成長が早いですね。上等ですよ」
マイズは不気味に笑った。
第38話ご閲覧いただきありがとうございます!
次話をお楽しみに!




