第37話 レディア強襲
レディアの街、強襲の報告を受け、俺達は現場へ向かう。
「…!?街に火が…」
「もう街に侵入しているようですね…」
街からは既に火の手が上がっている。聞こえるのは戦いの音。騎士曰くローガン達が奮闘しているらしい。
「これは…アウルベアにカオスウルフ、リザードマンまで!」
「強襲してきたモンスターから闇属性の魔力を感じます。おそらく統率者が操っているのでしょう」
さすがベテラン魔術師、すぐに現場の状況を理解している。
街の人達は避難中だ、中には大怪我をしている人も。
「エマ!ミーヤさん!避難民を1箇所に集めてエリア・ヒールを!その後は風の防御魔術で避難民を守ってそのまま防御魔術を維持してくれ!」
「「了解!」」
「カルマとソフィアは俺と一緒に侵入してきた周囲のモンスターを狩るぞ!避難民は見つけ次第エマ達の所へ誘導を!」
「「了解!」」
幸いなのは、暴れているモンスターにS級がいないことだ。
だが、1つ明らかに大きい反応がある。SS級とまではいかないが、S級でもかなり上位。幼体キメラ級だ。
「くそっ…統率者か…」
俺はモンスターを狩りながら大きい反応に近づいて行った。
◇◇◇
ローガンは1体のモンスターと戦っていた。
「くそっ、人手が足りない、アレクはまだか…?」
「ローガンさん!大丈夫ですか!?」
「来たか!」
俺は怪我を負っているローガンに治癒魔術をかけた。
「すまんな、ちょっと厄介なことになってる」
「厄介ですか?」
「ああ、俺の目の前にいるあのモンスターはS級だ」
「ええ、ドラゴニュート、リザードマンの進化形態です」
「こいつの他にあと2体いる。おそらく称号持ちのアウルベアとカオスウルフだ。どちらもS級だろう。奥にいる強い気配を持つやつを守るように展開している」
確かに、大きい反応は4つ。残り3つの反応のうち2つは今、カルマとソフィアが対峙している。
「大丈夫ですよ。2体はカルマとソフィアが止めています」
「そうか…アレク、お前は」
「はい、1番大きい反応の所へいきます」
「……こいつの足止めは任せとけ。死ぬなよ」
「はい!」
俺は一直線に1番大きい反応の所へ向かった。そこにいたのは、
「やっぱり…カースリッチか…」
カースリッチ
スケルトン型のモンスターで魔術を扱う。ローブで身を包み、闇属性を纏っている。保有する魔力量は尋常じゃなく俺やエマ以上だ。
使う魔術も基本的に上級以上で物理攻撃が効きにくく、厄介この上なしのモンスターだ。特に闇属性魔術に特化している。
「まぁ、モンスターを統率できるモンスターは上位デーモンかリッチくらいだろ」
上位デーモンの反応が無いことはわかっていた。大方予想通りだ。だが、
「あの大量の瘴気…操られてるのか…?」
キメラ同様大量の瘴気が溢れ出ていた。
これがモンスターを操る特性なら、これはパンドラの仕業か。
「早くしないとな!」
カースリッチへ迫ろうとする。
しかし、カースリッチの足元に魔法陣が展開された。
「なんだ…魔法陣…?」
瞬間、魔法陣が発動し、カースリッチの姿が消えた。
「どこに行った…なっ…!?」
カースリッチが現れていたのは俺の遥か後方だった。
「転移の魔法陣…カースリッチが?いや、違う」
この魔力…はっきり覚えている。
〔ギリッ〕
歯を噛み締める。
「マイズ!!!!」
確信した、この一連の騒ぎはパンドラの仕業だ。
◆◆◆
(マイズさんバレてますよ?)
(目の前で魔法陣を使って気付かない訳なでしょう。それに彼が気付いたのは私が関与してるってだけです。どこにいるかはバレてませんよ)
この様子をマイズ達はどこかで見ていた。
◇◇◇
「冷静になれ…カースリッチの位置は?……最悪だ…」
カースリッチは後方に展開されている。エマとミーヤが防御魔術を張っている避難場所の目の前だった。
「くそっ!エマ!!」
俺は避難場所へ急いだ。
◇◇◇
〜ソフィアside〜
「このモンスターは手強そうですね」
そう言い剣を構えるのはソフィアだった。
相対するは、称号持ちのカオスウルフ。体格が3m程まで巨大化し、魔力量が増えた個体。
カオスウルフはグランドウルフの突然変異種で口から闇属性のブレスを放つ。動きは素早く捉えずらい、爪の鋭さは木を両断するほどと言われている。
「ファルモディア元男爵よりも強そうです。S級でしょうか…」
ソフィアは感覚を研ぎ澄ませ、状況を観察する。
(1番大きな気配はアレクさんが向かっていますね。他2つは、ローガンさんとカルマさんが…後方ではエマさんとミーヤさんが防御魔術で避難場所を展開しているんでしたよね…)
「このモンスターは私1人で倒す必要がありそうですね」
カオスウルフは痺れを切らし、ソフィアに襲いかかった。
「なかなか…速いですね…」
カオスウルフの牙がソフィアに迫っていたが、ギリギリで受け止めた。
「あの方達と肩を並べる存在であり続けるには、S級程度に負けてはいられません」
ソフィアの瞳には決意が現れていた。
◇◇◇
〜カルマside〜
「デカイな」
カルマが対峙するのは称号持ちのアウルベア。
アウルベアの全ての身体能力が大幅に強化されており、体格は5m程、太かった体は引き締まり、火魔術を扱うようになった個体。
アウルベアは一瞬でカルマの後ろに回り、その鋭い爪でカルマの頭を攻撃した。
「中々速いな」
アウルベアの爪がカルマに届く前に、剣で防いだ。
「S級か…手強そうだ。だが…負けてはいられない。アレクはもっと先へ行くだろう。あいつの隣で戦い続ける為に…おまえは俺の糧となれ」
カルマの纏う鬼纏が強さを増していく。
◇◇◇
〜エマside〜
「なに…あれ…リッチ?」
エマは目の前に急に現れたモンスターを見ていた。
「あれはカースリッチです!通常のリッチより強力な個体です!おそらくS級の中でも強力な方ですね…」
ミーヤはエマに説明をする。
2人は防御魔術を展開し、その内側にいる。防御魔術の強化に魔力を使っているため、カースリッチを相手にする余裕がない。
『〇△□✕%※〇△□✕%※』
カースリッチは魔術を発動した。
「エマ!!出力を上げてください!!」
「うん!!」
2人は防御魔術の強度を上げる。闇の玉が防御魔術に襲いかかる。
「…強いね…」
「はい…魔力は持ちそうですか…?」
「まだまだ大丈夫!アレクがこっちに向かってきてるっぽいから!」
エマはアレクの到着まで必死に耐える。
『〇△□✕%※〇△□✕%※』
もう一度闇の玉が飛来し、防御魔術に激突する。
「師匠!大丈夫?」
「えぇ…なんとか、このままずっと耐え続けるのはキツいですが」
『〇△□✕%※〇△□✕%※!』
「どんだけ魔力あるの!?」
「ほぼ無尽蔵でしょうね…」
「うっそ…」
最初の2発より倍ほど大きい闇の玉が防御魔術に迫る。
『リフレクト』
突如現れた光の壁に阻まれ、闇の玉が威力を増して跳ね返り、カースリッチに直撃する。
「ちょっとは効いたか?」
「「アレク!」」
なんとか間に合ったようだ、「リフレクト」意外と便利だよなぁ。
「遅い!」
「いや、これでも全力で来たんだけど」
「私は防御魔術に集中するから、あいつよろしくね」
「ああ、任せとけ」
そう言い俺はカースリッチと対峙した。
「な、なんですか…今の魔術は…魔術が、跳ね返った…?」
ミーヤが困惑気味にエマに尋ねた。
「あー、あれはイグナス先生の聖剣技を模倣した技なんだって」
「聖剣技を模倣した…?」
「うん、なんか色々性能が落ちて自分では劣化版だって言ってたよ」
「あれで劣化版…聖剣技を模倣するだけでも…」
「師匠!防御魔術に集中して!」
「あ、すみません!」
ミーヤは思う。
(聖剣技の模倣と言えど、新たな魔術を作り出した…?アレクの記憶にあるのは基本的な魔術の知識だけだった…という事は…あれは正真正銘、アレクの才能…)
恐ろしい才能だと、ミーヤは体を震わせた。
◆◆◆
(さぁ…あなたの力の片鱗…見させて貰いますよ…)
どこからか見ているマイズが静かに微笑んだ。
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