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第4話 アレクとエマ

 

 エマが帰らない。

 そう涙目に慌てるミシアの姿が玄関前に見えた。


「いつもは日が落ちる前にちゃんと帰ってくるの!約束を破ったことは今まで1度もないわ…なにか事件に巻き込まれてたら…」


 そう話すミシアはポロポロと泣き出した。ラルトは少し前に帰ってきて、すぐ捜索に出ていったそうだ。向かいにある俺が倒れていた森を捜索しているらしい。


「わかりました。では、僕は騎士団に連絡をします。その後は僕もできる限り探してみます!ミシアさんはエマが帰ってきた時のために家に居てください!」

「ダメよアレク!あなたも子供でしょう!あなたまで行方不明になったら…」


 ミシアの不安はわかる、でも、騎士団まではそこそこ距離がある、足が早い俺が行かなければ。


「大丈夫ですよ!無理はしませんから!家で待っててください」


 そう言いミシアに笑顔を見せる。


「……わかったわ。取り乱してごめんなさいね。エマをお願いね!」

「はい!」


 強化魔術を施し全速力でローガンの元へ向かった。


 ◇◇◇


「うーん…どうすればお母さんたちはあたしを見てくれるかな…。」


 そう言いながら歩みを進めるエマ。そこはレディアの中心街だ。


 ラルトたちが住むこの街の名前はレディア。

 領主「ハネス・レディア伯爵」が統治する街だ。ラルトたちの家は中心街から北西に外れたところにありラルトの仕事柄、森の麓に家を構えたらしい。


 ローガンの屋敷兼騎士団駐屯所は中心街から北東に外れた所にある。

 問題はその横にある、大量のモンスターが蔓延る「カオスフォレスト」魔物の森があることだ。

 カオスフォレストには低ランクから高ランクまで様々なモンスターが生息している。

 モンスターが数多く生息する場所を「特異エリア」という。


「お母さんたちがいけないんだ!あのアレクサンダーとかいう奴にばっかり!あたしが迷子になれば、お母さんたちはあたしのこと見てくれるよね…」


 そう呟きながら歩くエマ、向かう先は、魔物の森だった。


 エマは山育ちだ、ラルトの仕事について行ったり、遊ぶ場所は森であるこどが多い。エマも魔物の森を知らない訳では無い。だが、ラルトたちは魔物の森の詳しい場所を話していなかった。場所を話さなければ、好奇心に任せて入ることはない、そう思っていたから。それが裏目に出てしまった。

 エマはいつもの森に入るテンションで魔物の森へ入ってしまった。


「うぅ…なにここぉ…なんか気味悪いなぁ」


 エマは震える体を抑えながら歩く。


「探してくれてるよね…?見捨ててないよね…?」


 頭に浮かぶのは、食卓を囲むミシア、ラルト、アレクの3人。その中にエマはいない。


「ぐすっ…お母さん…お父さん…」


 泣きながら歩くエマの周りには無数の影が忍び寄っていた。


 ◇◇◇


 時は少し遡り、騎士団駐屯所。


「ごめんください!!ローガンさん!!ミーヤさん!!アレクサンダーです!!!」


 大声で叫ぶ、もしものことがあったらと考えると、一刻を争う。


「んぁ?どーした?坊主」


 もぐもぐと口を動かしながらローガンがでてきた。晩御飯の途中だったらしい。


「エマが行方不明です!!捜索のお手伝いお願いします!!」

「エマって言えば、ラルトんとことお嬢ちゃんか!そりゃ一大事だ!大至急支度する!そこで待ってろ!」


 そう言い屋敷の中に入る。


 ほっと一息ついた、騎士団が捜索すればすぐに見つかるだろう。だが、不安は拭えない。

 少し離れたとこに見えるカオスフォレスト。なんだか嫌な予感がする。


「キャーーーーー!!!!」


 カオスフォレストから少女の叫び声が聞こえた。不安は的中した、エマの声だった。


「まじかよ…。すみませんローガンさん、このショートソード借りますね…!」


 そう言い残し、庭に立て掛けてあったショートソードを持って森へと入っていた。


 ◇◇◇


 エマの周りにいるのは狼型のモンスター「グランドウルフ」

 1個体は大したことはないが、このモンスターの特性は集団で狩りをすること。

 20匹以上いた場合は高ランククエストとして、中堅、ベテラン冒険者に討伐依頼が来るほどだ。


「な、なんで…?ここら辺でモンスターが居るのって、魔物の森だけじゃ…まさか…」


 エマは誤ってカオスフォレストに入ってしまったと気づいた。

 エマを取り囲むウルフの数は明らかに10匹以上いる。


「助けて…お父さん…」


 痺れを切らした1匹のグランドウルフがエマに向かって飛び出した。


「誰か助けて!!!!」


 そう叫ぶエマ。すると、強風とともにグランドウルフが弾け飛んでいた。


「はぁ、はぁ、助けに来たよ、エマ」


 そこには自分と同じぐらいの歳の黒髪の少年が立っていた。


「大丈夫?怪我はしてない?」

「アレク…あたし…」

「言わなくてもわかってるよ。でも、ごめんなさいを言う相手は僕じゃないよ。わかるね?」


 そう言い苦笑いを浮かべるアレク。


「よく聞いて。今僕が通ってきた道がわかるかい?」


 そう指さした方向は薄く光っていた。

 生活魔術ライトの応用だ。


「あの光を辿っていけば騎士たちの所に行ける。そしたら、騎士たちにここの事を伝えて欲しいんだ」

「で、でも!それじゃ、アレクが…」

「僕は大丈夫だよ!エマは知らないと思うけど僕はすごく強いんだ!」


 虚勢だ。グランドウルフの集団相手に俺でどこまで出来るのか、正直わからない。


「でも…」


 渋るエマに俺は笑顔で手を差し伸べた。


「エマ、君はあの時、死にかけの僕に手を差し伸べてくれたね。この命は、君に救われたと言ってもいい。だから今度は、僕が君を助ける番だ。」


 そう言い、背中のショートソードを抜き、グランドウルフに相対した。

 今にも襲いかかってきそうだが、なぜか襲いかかってこない。


「さぁ!早く行って!!」


 その声を合図にエマは走り出した、光の射す方へ。


「さて、どうするか…」


 そう呟き囲まれていた一角を風魔術で崩した。そこを、全速力で駆け抜け最悪の状況は脱した。だが、これで終わるわけが無い。無数のグランドウルフが俺を追いかけてきた。


「ん?」


 なんだか、奴らに違和感を覚える。その違和感の答えはすぐにわかった。


「チッ…数が増えてる」


 グランドウルフは知能が高く、独特な感覚を持っている。相手の力量を感じ取る能力だ。そして力量に応じて味方の数を増やすのだ。

 その数は明らかに20匹は超えている。


「光栄な事だ。はぁ、6歳児に対してこの仕打ちか、この街は理不尽だらけだな…」


 そう呟き、その場に止まる。


「先回りされたか。」


 再び囲まれてしまった。もう一度風魔術で一角を崩そうとするが、躱されてしまう。


「同じ手は通用しない…か。覚悟を決めるか」


 そう言い俺は強化魔術を全身に巡らせた。


 ◇◇◇


 エマは光の道を走る。はやくしなければアレクが死んでしまう。

 そんな思いに駆られながら、ただひたすら走る。すると、前から声が聞こえた。


「この光の道は…?」

「おそらく、アレクの魔術でしょう。ライトにこんな使い方が…」


 数人の騎士を引き連れたローガンとミーヤだった。その中にはラルトもいた。


「お父さん!!!」


 エマは叫びラルトに向かって走り抱きついた。


「エマ!?無事でよかった、ほんとに…」

「お父さんごめんなさい…ごめんなさい…」


 泣きながらラルトに謝る。


「無事でよかった…お母さんも俺もすごく心配したんだぞっ…それで、アレクはどこに?」

「はやくアレクを助けて!お願い!」


 エマの切羽詰まった様子に、ローガン達は嫌な予感がした。


「お嬢ちゃん、坊主…いや、アレクは?」

「あたしがモンスターに襲われそうなとこを助けてくれたの、そのままあたしを逃がしてくれて。アレクは狼のモンスターと戦ってる!」


 狼のモンスター、グランドウルフであることはローガンたちはすぐにわかった。


「それで、その狼の数は…?」

  (頼む…!少しと言ってくれ…!)

「た、たくさん…」


 ローガン達の顔が青ざめた。


「時間は一刻を争う!急ぐぞ!」

「ローガン!俺もいく!」


 指示を出すローガンにラルトは言った。


「お前はダメだ!娘を安全なとこへ連れて行け!」

「でも、あの子は俺たちの家族だ!」

「それでもダメだ!おまえになにができる!娘の安全だけを考えろ!大丈夫だ。アレクは俺に任せとけ」

「わかった…」


 ラルトはローガンを信じ、エマを家へ送る。


「死ぬんじゃねぇぞ、アレク」


 ローガン達は光が続く方へ向かった。


 ◇◇◇


「はぁ、はぁ、はぁ、強いな…。」


 俺はグランドウルフの連携技に苦戦していた。数は少しづつ減らしている。だが、減った気がしない。


「魔力も、もたないな…」


 ミーヤの言葉を思い出す…


『いいですか?君は確かに魔力総量は多い。でもそれは将来性の話です!今でも君は並の人より少し多いですが、今はそこまでです。勘違いしないように!』


「なんとか魔力を節約しないと…うっ…」


 俺の視界が歪む。

 魔力枯渇1歩手前だ。

 その隙をグランドウルフたちは見逃さなかった。


「しまった…」


 1匹が俺の右肩に噛み付いた、もう1匹は左太ももに。


「ぐっ…おらぁ!!!」


 なんとかその2匹を風魔術で引き離した。だが、それで魔力量は深刻なものになってしまった。グラグラ視界が歪む。

 色んな思いが駆け巡る。ここで俺が死ねば、エマは自分を責めるだろう、ミシアとラルトも悲しむだろう。

 あの家族は俺の命の恩人だ。まだ、恩返しもできていない。ローガンやミーヤに教わることもまだたくさんある…!

 死ねない。死ぬ訳にはいかない…!


「あぁぁぁぁああああ!!!!!!」


 俺の雄叫びがカオスフォレストに響き渡る。

 次の瞬間、俺の体に、魔力と体力が溢れてきた。黄色の瞳には光が増し、やがて金色へと変化した。


「かかってこいやぁ!犬畜生共がぁぁぁあ!!!」


 俺は、溢れる魔力に身を任せグランドウルフの群れに突っ込んでいった。

 そこからの記憶は正直曖昧だ。断片的にグランドウルフの群れを蹂躙したのを覚えている。


 俺が無意識に発動したこの技は名は『限界突破』

 読んで字のごとく、限界を超えた魔力と体力を引き出すことができる。

 だが、その使用時間が長ければ長いほど返ってくる代償は大きい。


「はぁ、はぁ、はぁ、終わったか…」


 気が付いた時にはグランドウルフの群れを蹂躙し尽くしていた。

 そして、技の代償が来る。


「がはっ…!!はぁ、はぁ、まぁ、これだけ…して…何もなしなんて…都合のいい事はないか……」


 技の発動時間は僅か15秒

 だが、子供の体でその時間は長かった。


 吐血した。それだけではない。全身を駆け巡る焼けるような痛み。声すらでない。聞こえるのは早くなっていく心臓の鼓動だけ。

 やがて、視界も真っ赤に染まっていく。そのまま、俺は力尽きた。


 ◇◇◇


「こっちです!こっちから声が!!」


 ミーヤはアレクの雄叫びを聞きその方向へ走っていた。

 充満する血の匂いに顔を顰めがらその先へ進む。


「ここです!!」


 その光景に、ローガン達は絶句した。

 大量のグランドウルフの死体。数は余裕で20を超えている。

 魔術で焦げたもの、胴体を真っ二つにされたもの。その戦いが想像を絶するものだと感じ取れる。


「アレク…?」


 ミーヤは大量の死体の奥にある木の根元にもたれかかるようにして座っているアレクの姿を発見した。


「アレク!?これは…まさか…魔術の代償…?」


 ミーヤはアレクの姿を見てなにをしたのかすぐに気づいた。目から、鼻から、口から、耳から、血が流れている。

 それだけではない、肩と太ももから大量の血が流れている。グランドウルフに噛み付かれたところだ。


「傷口を塞がないと…『エクストラ・ヒール』」


 発動したのは上級治癒魔術。あっという間に傷口は塞がった。だが、


「ダメだ血を流しすぎてる…」


 アレクの胸に耳を当てる。


「心臓の音が弱くなってる、急がないと。ローガン隊長!私はアレクを医者のところまで連れて行きます!」

「あぁ!行ってこい!時間はないぞ!お前の足が1番速い!」

「はい!」


 強化魔術を施し、来た道を全力で戻る。


「アレク…頑張って…もう少しですから!」


 医者に連れていかれたアレクはなんとか一命を取り留めた。家で待っていたラルト、ミシア、エマの3人は、アレクの状態をミーヤから聞き急いでアレクの元へ駆けつけた。

 服や顔に残る血の跡を目の当たりにして3人は泣き、一命を取り留めたことを聞き、安堵した。


 こうして、エマの家出騒動は幕を閉じた。


 ◇◇◇


「ふむ、これはなんとも…」


 グランドウルフの死骸を見るローガン。


「隊長!死骸の数、数え終わりました!」

「数は?」

「それが…その数、40…」

「40!?」


 ローガンが驚くのも当然だ。グランドウルフは相手の力量を見て味方の数を決める。その能力は潜在能力まで見ることが出来ると言われている。

 つまり、死骸の数は


「アレクの潜在能力の高さか…しかも、その数に瀕死ながらも勝っている。なんとも恐ろしい子供だ…。

  ん?待てよ?確か、ラルトんとこの嬢ちゃんを追いかけていたウルフの数も20匹を超えていたって話だったな…。ははっ!これは将来が楽しみで仕方ないな!」


 将来に想いを馳せながら、ローガンは家路についた。


第4話ご閲覧いただきありがとうございます!

また次回をお楽しみに!

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