第34話 懐かしき我が家
「それで、レディア伯爵。カオスフォレストの様子は?街への被害などは」
街道にAランクモンスターが出現していた。急を要する可能性がある。
「レディア伯爵だなんて、ハネスでいいよ」
「では、ハネス様。街への被害はありますか?」
「いや、今のところはないよ。ローガン達騎士団が頑張ってくれててね。街への被害はゼロだ」
なるほど、街道にいたアウルベアは討ちもらしかな?ローガンに問ただそう。
「なるほど、では、騎士団と協力してカオスフォレストへの調査を進めます。」
「そうしてくれると助かるよ。最近特異エリアの様子がおかしいとあちこちで騒いでいる。細心の注意を払うように」
「お心遣い感謝します。では、私達は騎士団と話をしますので、失礼します」
「君達の活躍を期待しているよ」
そうだ、あれも言っとかなきゃいけないな。
「はい。あ、あと衛兵の再教育をした方がいいかもしれませんね。詳しくはディアナさんに聞いてください」
そう言い悪戯な笑顔を浮かべてハネスの部屋から出た。すぐにディアナが呼ばれていた。
「やっぱり偉い人と喋るのは疲れるな」
「アレクさんがリーダーですから、しっかり頼みますよ!」
クエストの依頼人やパーティーでどこかへ赴く時はリーダーが話すのが基本だ。
他のメンバーが出しゃばって喋るとリーダーの泊がつかないとか。そんなのいいのに。
「この後はどうするの?」
エマがうずうずしながら聞いてきた。
早く両親に会いたいんだろう。
「ミシアさんとラルトさんのとこに行くよ。カルマも休ませたいしな」
「やったー!!」
「す、すまんな…」
確か今日はラルトも休みの日だったっけ。ちょうどいいな。
俺達は俺とエマの実家へ向かった。
森の麓にポツンとある家。
大きくも小さくもない。ミシアによって綺麗に手入れされた庭と玄関は自慢できる。
「ちょ、ちょっとエマさん!そんなこっそり…」
「お母さんとお父さん驚かすの!ソフィアとカルマは外で待ってて!すぐ呼ぶから!アレク!行こ!」
「あ、ああ…」
大丈夫だろうか。
ミシアはともかくラルトはまだ26歳で若い。娘も独り立ちして、美人で若い奥さんと2人っきりの家…今日は朝から休み…まずいな…。
「…あれ…?リビングには居ないね?まだ寝てるのかな…?」
「エ、エマ…やめとこう…」
「…なんで?驚かそうよ…!」
「知らないからな…」
もう昼前なのにリビングに居ない。つまりは寝室だ…ミシアはいつも早起きで朝ご飯を用意している。
これは…
エマと俺は寝室の前にきた。
「…あっ…!…あなた…!」
「はぁ……ミシア…!…!」
やっぱり…
軋むベッドの音、2人の荒い息。壁の薄いこの家では2人がナニをしているか一目瞭然だ。
しかも、扉が少し開いておりエマはその様子をガン見してしまった。エマの顔を見る。
「ア、アレク…これって……」
「はぁ…だから言っただろ、やめとけって…」
エマはこれ以上にないくらい顔を真っ赤にしてそのまま2人の寝室を後にした。これは、エマの妹か弟ができるのは早そうだな。
「大丈夫か?」
「う、うん…ちょっとビックリしちゃった。そうだよね…私もああやって産まれて…」
自分で言いながらまた顔を赤くしている。
そのまま、家を出た。ソフィアとカルマが首を傾げていたが。まぁ、わざわざ言う必要はないだろう。
気を取り直して、玄関をノックした。すると、奥から慌てたような音を立ててミシアが出てきた。
「どちら様……エマ!?アレク!?どうしたの!?」
ミシアは驚いているが、若干息が上がって髪も乱れてる。その顔は紅潮していた。まぁ、事後だろう。
「た、ただいま…お母さん…」
「エマとアレクだって!?」
声を聞きラルトが慌てて出てきた。
「ただいま…お父さん…」
「おかえりなさい!どうしたの?お休み貰ったの?」
「違うよ。依頼でレディアに用があったから、顔だそうかなって」
「そう!アレクもおかえりなさい!1年で2人とも大人っぽくなったわね。後ろの2人はお友達?」
そう言うとミシアとラルトは後ろを見た。
「はい、俺とエマのパーティーメンバーで親友です」
「そう!いらっしゃい!お名前は?」
「ソフィア・イグナシアです!」
「カルマです」
2人は自己紹介した。
「イ、イグナシア!?王女様では…」
「今の私は一介の冒険者で、エマさんの親友です。お気になさらず」
「は、はぁ…」
ラルトは狼狽えているな。
「そう!いらっしゃい!ソフィアちゃん!カルマくんも!」
「はい!お邪魔します!」
「お邪魔します」
さすがミシアだ。フレンドリーこの上なしだな。ラルトはまだぎこちないが。
「エマ…よく帰ってきてくれた…」
そう言いラルトがハグしようとするとエマがそれを手で制した。
「やめて…お父さん…リビング行ってるね」
「エ、エマ…?」
ラルトが泣きそうだ。可哀想だが、親のその行為を目の当たりにした娘の気持ちは複雑だろう。
「エマったらどうしたのかしら。反抗期?」
「あ、あの、ミシアさんラルトさん…」
そう言い俺は2人の耳元に口を寄せた。
「あの…ああいう行為は…夜の方が…」
「「へぇ!?」」
2人は驚き顔を真っ赤にしている。
「き、聞こえてたのかい…?」
「まさか、お友達にも…?」
「いえ、俺とエマは特別耳がいいので…」
そういうことにしておいた。
ミシアとラルトは顔を赤くしながらリビングに向かった。ここで言っておかないと、また帰ってきた時に同じことになりかねない。
「お母さんお腹空いたー」
「でも、今日来るなんて知らなかったから食材ないわよ?」
「それなら、俺が出しますよ」
そう言い俺は魔導袋からワイバーンの肉と諸々の調味料を出した。
「わぁ!立派なお肉ね!これなら十分!ちょっと待っててね!すぐに作るから」
「やったー!1年ぶりのお母さんのご飯だ!」
「エマさんからはかなりの料理上手だとお伺いしています。楽しみです!」
「ふふっ、そんなに期待しないでね?」
一次はどうなるかと思ったけど、なんとかいつも通りに戻ったようだ。
「エマ…」
「あ、うん…」
ラルト意外は。
「カルマ、飯食えるか?」
「ワイバーンの肉ならいくらでも食える」
「体調不良はどこにいったんだよ…」
しばらくして、ミシアお手製のワイバーンの肉フルコースが机の上に並んだ。それを1口エマが食べた。
「んーーー!!!!」
エマは目を輝かせて脚をバタバタさせている。可愛い。
ただでさえ美味いワイバーンの肉がミシアの手によって調理されたんだ。宮廷料理人なんて目じゃないだろう。すると、ソフィアとカルマも食べだした。
「これは…すごい…是非宮廷料理人に…」
「………」
ソフィアはミシアをスカウトしだした。
カルマは無言で食べ続けてる。その目には薄ら涙が見える。すごいな。
「いつか恋人をここへ連れてきます。是非料理を教えてやってほしい」
「あらあら、大人気ね」
カルマがなんか言っていたが気にしない。
俺も食べ進める。手が止まらない。エマもこの領域に踏み込むことができるだろうか。将来が楽しみだ。
あっという間に昼食を終えた。
「お、おなかいっぱい…」
「欲張って食いすぎるからだ」
俺とエマはソファに座り、エマは俺の膝に頭を置いて寝転がった。エマは少しして寝息をたて始めた。お腹いっぱいだから仕方ないな。
そんなエマを見ていると俺も次第に眠くなり、そのまま眠った。
「ふふっ、相変わらず仲良しね」
ミシアは2人に毛布を掛けた。
「2人はいつもこんな感じなの?」
カルマとソフィアに2人の様子を尋ねる。
「はい、いつも2人でベッタリですよ。王都でアレクは結構モテるので、エマはそれを警戒してるのかも知れません」
「確かに、アレクさんは女性にモテますね」
アレクはモテるその言葉にミシアはドヤ顔していた。
「エマはどうだ?」
次はラルトが聞いた。
「エマさんは誰しもが認める美貌ですよ。街を歩けば沢山の男性が目で追っています。ご両親に似たのでしょうね」
「て、照れるなぁ」
ソフィアはクスクスと笑いながら答えた。
「でも、エマはモテるって言うよりも高嶺の花って感じですね。それに、最強の魔剣士が常に隣にいますから」
「それは良い悪い虫除けになっているかもね」
「ラルトさんはアレクさんの事をお認めになってるんですか?」
ラルトは複雑そうな顔をしながらソフィアの言葉に答えた。
「大切な娘でもいつかは、誰かの嫁に行くだろう。それなら、俺が最も信頼を置き、大切にしている男が良い。それに当てはまるのは…アレクだけだろうね」
娘を想う親の顔をラルトはしていた。
「アレクは素性こそ不明だが、あの子の幼少期を共に過ごして分かっていることはある。あの子は誰よりもエマを想い、エマを守ることに関しては命を懸けている。そんな子に娘を任せたいと思うのは当然だろ?」
「あなたもそんなこと考えれるようになったのね」
ミシアとラルトは2人の未来を案じている。子の幸せを願うのは親として当然の事だと。ソフィアとカルマは暖かい気持ちになっていた。
そうか…ラルトはそんな風に…
「だってさ、エマ…」
「もう…」
毛布を掛けられた時に起きていたなんて、言えるわけないよな。
しばらくして、2人で起きたふりをした。
◇◇◇
俺達は夕方に騎士団に顔を出す予定だ。本格的な調査は明日から。
俺達はミシアとラルトにこれまでの冒険の話を聞かせた。
試験でソフィア、カルマと出会ったこと。ヤバい貴族に逆恨みされたこと。キメラとの戦闘、ミアレスで、親友と出会い、亡くし重症を負ったこと。ミシアとラルトは黙って聞いていた。
「中々濃密な1年を過ごしたみたいだね」
「はい、でもそのお陰で成長出来ています。これからも成長していきます」
「無茶は、しないでね…?」
ミシアの手が震えている。俺とエマがミアレスで死にかけたこと、俺の片腕が無くなっていたことがショックだったみたいだ。
「無茶はするかもしれません。でも、死ぬ気はありません」
「うん、私達はもう弱くないよ、お母さん」
「そう?なら、また元気な姿で帰ってきてね?」
「うん!」「はい!」
俺とエマは元気に返事をした。
そうだ、2人には言っておかなければいけない事があった。
俺の血筋についてだ。まぁ、2人なら心配ないだろう。
「1年の冒険で俺の素性について1つわかったことがあります」
「そうか!どんなことだい?」
ミシアとラルトはこっちをジッと見る。拒絶されないと分かってはいるが、やっぱり緊張するな。
「俺は、人間と魔族のハーフです」
「あらそう!なら寿命が長い分エマとも一緒にいれる時間が多いわね!」
「うわぁ…じゃ人族の俺が1番先に死ぬじゃん…」
唖然とした。もう少し色々あるかと思ったが。
「あの、ハーフエルフの寿命ってどのくらいなんですか?あと、魔族とのハーフも」
これは大事な事だ。聞いておかないと。
「そうね。長寿種族のハーフは純血の半分くらいの寿命を持つわよ。魔族は例外なく1000年以上生きる種族だから、アレクは500年くらいね。エルフも1000年以上生きるわ。エマも500年、アレクと同じぐらいね」
「そうですか。ちなみにミシアさんはいく…」
「ん?」
「いえ…」
やばい、食い気味に来た。笑ってる、笑ってるけど圧がすごい。年齢には触れてはダメだ。まだ死にたくない。
「あ、あの!獣人族の寿命はどのくらいですか!」
ソフィアも気になったようだ。
「そうねー、獣人族は戦士が多いから戦いで命を落とすことが多いけど、単純な寿命は300年くらいって聞いてるわ」
「そ、そうですか…よかった、私も皆さんと少しは長く居られそうです」
「ソフィアちゃんは獣人族とのハーフなのかい?」
ラルトは何食わぬ顔で聞いた。
「ええ、複雑な事情はありますが。見た目はほとんど人族なのであまりバレません」
「ちなみに、俺も魔族とのハーフです」
「そうかい。なら俺が1番先に死ぬね。みんな泣いてくれ」
「は、ははっ…」
ラルトが悲観して拗ねてしまった。
「ああ、そう言えば、ミーヤさんも魔族とのハーフよ」
「やっぱりー、師匠ずっとちっちゃいまんまだもん」
「怒られるぞ…」
やっぱりミーヤも他種族のハーフだったか。成長したかな?あんまり期待はしないでおこう。なにをとは言わないが。
第34話ご閲覧いただきありがとうございます!
次話をお楽しみに!




