第29話 帰還
俺達はイグナシアに帰るため馬車に乗っている。ミアレスでの出来事は一生忘れることは無いだろう。忘れてはいけない。
親友との永遠の別れ…想像以上に辛いものだ。もう二度と経験したくない。
「アレクサンダー、エマ、ミアレスでは色々とありがとう」
イグナスが俺達に礼を述べた。
「礼を言われることはしてない。アリアを救えなかった。俺達はまだ、弱い」
「うん…ごめんなさい」
ミアレスを救う…結果的にそうなったけど、助けられたかもしれない。責任が重くのしかかる。
「アリアは、最初から自分の死を予言していた。お前達のせいじゃない、覚悟はアリアも出来ていたはずだ」
「予言してたのか…」
結局予言通りになったってことかまだ予言をもった人物は現れてない。現れるまで光の神子は空席になる。
そして、滅級の魔術師は世界からいなくなった。
俺とエマは滅級を使ったが、あれは一時的な物で公式的に滅級魔術師とは認められない。
まぁ、1発放って死にかけてたら世話ないわな。
「そうだ、これをアリアからおまえらに預かっていた」
イグナスが出したのは一通の手紙。
「これは…?」
「アリアからの遺言とお前達に関する予言だ」
そういえば、ミアレスに来る条件で予言を聞くってことになってたか。遺言…自分の死を予言していたからこそか。
早く渡してくれればいいものを。
まずは遺言からだ。
『アレクとエマへ
この手紙は叔父様に帰りの馬車で渡してもらうようお願いしたの。叔父様を責めないでね?
明日、私は死ぬことになる。でも、あまり怖いと思わない、あなた達がそばに居てくれるから。
私が死ぬ事で、2人が責任を感じてしまうかもしれない。でも、これは私が選んだ結末。自分を責めないでね。
なにを書こうかなって考えてたけど、あまり思いつかないね!1ヶ月間ずっと一緒にいて2人のことが大好きで堪らなくなったわ!
悔いがあるとすれば2人の結婚式とか子供とか見れないことかなぁー、どうせエマはこの手紙見て顔赤くしてるでしょ?
アレクはモテそうだから、お嫁さん3人ぐらい娶っちゃう?それだとエマが嫉妬しちゃうから女の子とは程々にね?できれば、私とも結婚してほしかったなーなんて!
エマは、変わらずアレクのことが大好きなんでしょ?人の目の前でいつもベタベタしてるし!私も大好きなのに!もし他の男にうつつ抜かしたら化けて出るからね!大丈夫だと思うけど!
って私2人の恋愛事情ばっかりだね!怒らないでね!
エマには言ったんだけど、この先の人生なにがあるか分からない。悔いなく死ぬなんてことは有り得ないの。だから、なるべく悔いが少なく済むように生きるの。あなた達2人の寿命は長い。
自分の気持ちに素直になってね?
私はあなた達と出会えて本当によかった!
私の、親友。最高の親友。2人とも大好き!またね!』
「なんだよ…これ…またねって…」
「余計なお世話ばっかり…アリアらしい」
俺達はアリアが死ぬ直前の言葉を思い出し、涙が溢れた。枯れるほど泣いたはずなのに。手紙の最後に文があるのを見つけた。
『裏に2人の予言書いてるから見てね!』
俺達は手紙を裏返して、予言を見た。
『アレクとエマはこの先ずっと一緒に居るよ!そして!また私達は出会うでしょう!なんちって』
「「え?」」
これが、予言…?
イグナスを見た。
「あー、なんだ、アリアが言うには、2人を予言した結果、要約するとそれらしい」
俺とエマは顔を見合わして笑った。
100%当たると言われる光の神子の予言だ。これ以上信用できる言葉はない。
「俺達はずっと一緒みたいだな」
「こんな予言無くてもずっといるよ!余計なお世話ばっかり!」
「また出会えるらしいぞ」
「それは嬉しいけど!」
そう言い笑いあった。光の神子、アリア・ミアレス。
俺達の生涯の親友だ。
◇◇◇
「アレク!起きて!見えたよ!」
「んあ?なにが?」
「イグナシア城!帰ったてきたよ!」
約2ヶ月ぶりか、たった2ヶ月でも懐かしく感じるもんだな。
「どこいく?」
「無性にカルマとソフィアに会いたい気分だ」
「私も…!早く行こう!」
「報告は俺がしとく、早く行ってこい」
ホグマンへの報告をイグナスに任し、俺達は冒険者学校の訓練場に向かった。
〔カンッ!カンッ!〕
木剣のぶつかり合う音が聞こえる。
「やっぱここにいたか…」
訓練場の扉を開けた。
「ソフィア、もっと本気で来てくれ」
「カルマさん…それは嫌みですか…?」
そこには元気な2人の姿があった。
俺達の親友、イグナシアの親友だ。呼ぼうと思ったが声が出ない。涙が溢れる。
俺とエマはそのまま走ってカルマとソフィアに抱きついた。
「わっ!アレクさん!?エマさん!?」
「びっくりしたな。帰ってきたのか」
泣きじゃくる俺達に2人は困惑する。
「エマさんまで!ど、ど、どうしたんですか!?」
「どうしたんだ…?アレク!?…腕が…」
「頼む…お前達は…どこにもいかないでくれ…」
「ソフィアぁ…カルマぁ…うぅ…ひぐっ…」
カルマとソフィアは困惑し、落ち着くよう諭した。
なんとか落ち着きを取り戻した。話をしに、俺の部屋に来た。
「まずは、アレク。お前の腕だ。左腕が肩の先から無いだろう」
「ああ、上位デーモンとの戦闘でな。」
そう言って俺はマントを脱ぎ、上の服を脱いだ。
2人は俺の腕を見て絶句している。ソフィアとカルマは複雑な顔をした。
「やっぱり、俺達も一緒に行っていれば、アレクの腕も」
「いや、正直上位デーモンの本気は俺とエマじゃ太刀打ちすらできなかった。成体キメラ級だ」
「でも、倒したんですよね?イグナシアまで話は来てますよ!忘却の魔剣士と灰色の魔術師がミアレスを救ったって!」
ソフィアの言葉に俺とエマは俯いた。そして、事の経緯を2人に話した。
アリアのこと、その最後。俺とエマの命を懸けた滅級聖魔術のこと。
「そんなことが…そこまで強かったのか上位デーモンは」
「ああ、まるで赤子の手をひねるようだった。遊びのように左腕をちぎられた」
「私の、目の前でね…アレクが死んでしまうって、怖かった」
「アリアさんが助けてくれたんですよね…命を懸けて。私もアリアさんに会ってみたかったです…」
「ソフィアとアリアなら相性良さそうだな」
まだ、俺達は上位デーモンを相手にできるほど、強くはない。
「もっと強くなろうな!」
「うん!」
「もちろんだ」
「はい!」
それぞれの返事を聞き、再度決意した。
「とりあえず、近況報告を聞きたいんだが2ヶ月で変わったことあるか?」
2人について、近況を聞くのは大事な事だ。
「それが、アレクさんとエマさんがミアレスに行って1ヶ月後くらいに、緊急クエストが発令されたんです。」
「緊急クエスト?ペースが早いな」
「【大量発生したワータイガーの討伐】ってクエストだ。」
ワータイガー、二足歩行のデカい虎型のモンスターだな。確かランクはB級。
「それで私達はそこそこ活躍して、冒険者ランクがアップすることになりまして、今はホグマン会長に保留してもらってます。ホグマン会長曰く、アレクさんもエマさんも帰ってきたら上がるだろうって」
「なるほどな、今回の上位デーモン討伐をクエスト扱いにするのか」
すると俺の部屋の外から声が聞こえた。
「おーい、アレクサンダー、ちょっといいかー?」
いつものだるそうな感じに戻ったイグナスの声だ。
「いいぞ」
「おー、丁度いいな全員揃ってるなー、冒険者協会にきてくれー」
さっそく呼び出しだ。
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