第28話 3つの滅級聖魔術
「なんで俺たちを縛るんだ!アリア!」
「アリア!どうして!」
アリアのホーリー・チェインで俺達は動きを封じられた。
「2人は見てて…あいつは私が倒すから…」
「ダメだ!俺が不甲斐なくてごめんな!まだ戦えるから!」
「私もごめん!もうやられないから!お願い!」
俺達は必死に懇願する。これ以上アリアに魔力を使わせたくない。
「…。」
「「アリア!」」
アリアは黙って、ベリウルに歩いていった。
「ククッ超越級聖魔術…効きましたよ…。しかし、相当な魔力を使ったのでしょう。顔色が悪いですよ?」
ベリウルはニヤニヤしながらアリアを挑発する。
「あなたと話すことはないわ。ただ、殺すだけ。この命に変えても」
「死に体のあなたがなにをできると!?」
「超越級聖魔術『聖域』」
ベリウルを中心に大きな光が地面から溢れる。
「ぐっ…魔を弱体化させる魔術ですか…」
「『ホーリー・チェイン』」
アリアはベリウルの体を縛った。
「ゴホッゴホッ!!ゲホッ!!」
アリアは吐血し、血が飛び散る。
「クハハ!!無様ですね!私を拘束してどうすると!?あなたの残りの魔力では攻撃魔術すらろくに撃てないようですが!?」
アリアの行動をベリウルが嘲笑う。
「やめてくれ…たのむ…!アリア…!」
「もうやめて…お願い…」
俺達はただ、アリアを見ることしかできない。
「それは…!」
アリアは魔導袋から大量のポーションを取り出した。そして、それを全て飲み干した。アリアの体からとてつもない量の魔力が溢れかえる。
「これで、あなたを殺せる。ベリウル」
「く、くそっ!…!?拘束が解けない!?」
「あなたは、私の大切な人達を傷つけすぎた」
アリアの目から血が流れ始める。魔力過剰摂取による、魔力過多。体が悲鳴をあげている。
「アレク、エマ、そしてお母さん。許すことはできない。覚悟して」
「くそっ!くそっ!解けないぃぃ!!!」
アリアは両手をベリウルに向けた。
「やめろ!アリア!やめてくれ!」
「アリア!!」
アリアはこっちを向いて、優しく微笑んだ。
「滅級聖魔術『聖痕』」
アリアの手から想像を絶する量の魔力の聖魔術が放たれる。聖魔術の滅級は物体に影響しない。魔を滅するのみ。女神の塔は凄まじい光に包まれた。
しばらくして、光が鎮まり、俺たちの拘束が解けた。目の前にはアリアが倒れている。
「「アリア!!!」」
俺達はアリアの元に駆けつけ。俺はアリアを抱きかかえた。
「ふふっ…全部使い切っちゃった…でも、後悔は、無いよ…2人を守れたんだもの…」
「アリア…ポーションは…?なにか…方法は…?」
アリアの残りの魔力が減っていく。
「無いよ…ここまでくれば…あとは、ね…?」
「アリアぁ…嫌だよ…」
「ふふっ…情けない顔…。人族はね…短い人生だけど…後悔のない様に生きるの…。2人はハーフだから…これからの人生は長い…。色んな困難があるだろうけど…2人なら大丈夫…乗り越えられる…」
「アリア…ダメだ…」
涙が溢れて止まらない。救う方法を必死に考えるが、なにも思いつかない。
「2人に出会ってからは…今までの12年間より、濃密な日々を過ごせたわ…。同年代の親友ができて…一緒に遊んで…それと、恋もできた…。ふふっ…叶わないから、想いは…エマに託すね…?」
「…」
アリアは悪戯な笑顔を向けてくる。言葉が見つからない。俺達はただ涙を流していた。
アリアは両手で俺とエマの頬を触った。
「泣かないで…私はいつも、見守ってる…」
「ああ…私の親友…大好き…」
アリアの手は力を無くし、地面に落ちた。その顔は安らかに微笑んでいた。
「ぅぅ…うあ…ダメだ…アリア…」
「アリアぁ…」
俺達はただ、泣いていた。
『危なかったですね。いやはや、滅級にしては威力がお粗末では?』
腹の底に響くような声が俺たちの耳に入る。
「ああ、神子は死にましたか。無様ですね。自らの命を懸けながらも、中途半端な滅級で討ち損じるとは。無様で、愚かですね」
ベリウルは消滅していなかった。だが、不思議と冷静だった。
命を懸けたアリアを馬鹿にされても。冷静だ。
俺達は、冷静に"怒り狂っていた"。殺気を込めた目でベリウルを睨む。
「あなた達も愚かな神子と同じ所に送ってあげますよ」
ベリウルの言葉は最早俺達の耳には入ってこない。
「アリアは道を示してくれた。エマ、いいな?」
「うん」
「「ありったけの力を」」
『限界突破』
俺とエマの体から想像を絶する量の魔力が溢れ出す。
それは、ベリウルも戦慄するほどに。
「な、なんだ…?あなた達のどこに…そんな力が…」
黄色の瞳と緑色の瞳は光を増し金色へと変化した。限界を超えて引き出した魔力量は昔の比ではない。
「大丈夫だ、アリア。こいつのトドメは代わりに刺しといてやる。安心して眠ってくれ…」
俺は右手をエマは左手をベリウルに向けた。
「に、逃げなくては…!か、体が動かない…私が…恐怖している…?」
「もう…あなたは死んで…その魂ごと…」
俺とエマの魔力の全てが俺の右手とエマの左手に凝縮されていく。
死んでもいい。全てをこのクズに。
「「滅級聖魔術『聖痕』」」
2つの滅級聖魔術がベリウルを襲う。果てしない量の光の奔流がベリウルに入り込み、静かに消滅していった。
俺の隣でエマが倒れる。
「エ…マ…アリア……」
壁にもたれ座った。
気絶したエマを膝に置き、冷たくなりつつあるアリアを抱きかかえ、俺も眠るように気を失った。
◇◇◇
しばらくして、イグナスが地下へ駆けつけた。
「アレクサンダー…エマ……アリア……」
イグナスは3人を抱きしめ、涙を流した。
「がんばったな…」
イグナスはアリア付きの騎士を呼び3人を運んだ。
アリアの遺体は安置所へ。アレクサンダーとエマは緊急治療を受けた。
2人の容態は最悪で、イグナスが駆けつけた時には2人とも心臓が止まっていた。蘇生処置を施し、最悪は免れたが、依然油断を許さない状況だった。
光の神子の死去は、ミアレスを悲しみで覆った。その仇は友人の魔剣士と魔術師が討ったと伝えられた。
アレクサンダーとエマは英雄のような扱いを受けるだろうが。エマは2週間アレクサンダーは3週間、目を覚まさなかった。
その間にアリアの葬儀は恙無く行われていた。
〜3週間後〜
「おはよ、アレク。よく眠れた?」
「エ…マ……」
喉がガラガラで上手く声が出ない。
起き上がろうとするも、上手く力が入らない。
「無理しないで、起きたばかりだから」
「どのくらい経った…?」
「3週間」
どうやら寝すぎてしまったようだ。体に違和感を覚える。
「左腕が…」
「うん…部位欠損は、超越級じゃないと治せないの。でも、イグナシアに1人いるみたい」
「そうか…」
「エマは…いつ?」
「私は1週間前…」
エマは1週間でだいぶ回復したようだ。よかった。
「アリアのお葬式は、私達が寝ている間に終わっちゃったみたい」
「そうか…アリア…」
俺の目からは涙が溢れる。
「私はもう、涙枯れちゃった」
エマは起きた時に、三日三晩泣き続けたらしい。
「アリアに…会いたい…」
「うん…私も…」
かけがえの無い親友を失った。心にポッカリ穴が空いたようだ。
泣き続ける俺をエマが優しく抱きしめてくれた。
俺は2日後、退院した。
◇◇◇
「左腕無くて不便?」
「んーそうだな、左で何かしようって考えても、なにもないから違和感はあるな」
「そっか、イグナシアに戻ったらすぐ治すようにイグナス先生が掛け合ってくれたみたいだよ」
「ああ、改めて礼を言わなきゃな」
俺達は今日ミアレスを発つ。
「さぁ、アリアにお別れを言おう」
俺達はアリアの墓の前にいる。
「じゃ、アリア。またくるね」
「またな、アリア」
エマはアリアの墓にアリアが大好きだった桜色の花を供えた。涙はもう流さない。情けないと言われてしまう。
俺達はアリアの墓を後に馬車へ乗り帰路についた。
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