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忘却の魔剣士~また、君を見つけるまで~  作者: KUZAKI
第二章 冒険者学校 その1
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第19話 魔の手

 

「こ、これは…」


 焼け焦げたキメラの残骸。森から更地と化した現場を見て、冒険者は唖然としていた。


「この子達がキメラを1体倒したのですか…?」


 思わずイグナスに聞いた。


「あー、まぁそれはキメラの幼体だがなー。幼体だとS級ぐらいだろ」

「いや、S級でも十分やばいですけど…」

「まぁそれはいいから、こいつら冒険者学校の医務室へ運んでやってくれー」


 イグナスの指示により4人は医務室へ運ばれる。


「イグナスさんはどちらへ?」

「んあ?ちょっと気になることがあってなー、そっちは任せるぞ」

「は、はい」


 イグナスはそのまま魔龍連山を後にした。向かった場所は冒険者協会の裏路地。


「ナーシャちゃん」


 そこにはホグマンの秘書ナーシャが居た。


「イ、イグナス・ブレイド…!」

「なー、気になってたんだけどさ、おまえだれ?」

「何を、私はナーシャ…」

「側はな、中身を聞いてんだ」


 するとナーシャはニヤリと笑い、全身から瘴気が流れる。


「いやはや、まさか看破されるとは。さすが勇者の末裔。『剣聖』イグナス・ブレイド」


 そう言うとナーシャの体から禍々しい魔力を持ったなにかが分離した。ナーシャはその場に倒れる。


「おまえ…デーモンか…?」

「御明答。参考までにどこで気付いたか聞いても?」

「いつも慎重なナーシャが、S級中位しかも2人のパーティーだけを呼ぶなんてのは有り得ない。そして、俺を呼ぶ時、彼女の声は震えていた」

「そうですね。貴方を呼ぶ予定はなかった。あの時は強く抵抗されてねぇ、一時的に意識を奪われてしまった」

「目的はなんだ」


 イグナスの瞳に殺意が篭もる。


「うーん、そうだね。簡単に言うとアレクサンダー君の剣術のレベルを知りたかったってとこかな」

「アレクサンダー…?」

「そう、アレクサンダー君のパーティー全員を『アレクサンダーは剣士』って思い込ませた。まぁ、結局エマ君のエリア・ヒールで解かれたみたいだけど」

「思い込ませただと?」

「時間がなかったからね。簡単な洗脳魔術さ、完璧じゃない。それに、彼の剣術はそこまでだったよ。あの歳で超級はすごいが、そこまでだ。剣術ならカルマ君の方が上だね」


(そうか、このデーモンはアレクサンダーが我流の使い手だと言うことを知らない…)


 そう思いながらイグナスはデーモンの話を聞く。


「それに比べてエマ君の魔術は!!!……おっと、これ以上のお喋りは召喚主が許さないらしい。この辺でお暇させてもらうよ」

「逃がすか!」


 イグナスは剣を抜き、デーモンへ振りかざした。しかし、デーモンの足元には魔法陣が展開されていた。


「それでは、また会おう」


 そう言ってデーモンは消えた。


「転移かー、会いたかねーよ」


 その場に倒れるナーシャを抱え冒険者協会へ入り、ホグマンの所へ向かった。


 ◇◇◇


「ねーアレク!キメラの討伐賞金いくらかな!?数十万!?数百万!?いくらだろうね!!」


 俺とエマはホグマンから呼び出しを受けた。


 あの後俺達は無理が祟って、全身筋肉痛に泣き叫び、エマは魔力枯渇で動けなかった。

 イグナスが連れてきた冒険者に運んでもらったらしい。ありがたい。今も体は少し痛むが我慢できる。エマも魔力は回復したらしい。

 俺達が医務室に運ばれた後、期待のルーキーがボコられたと聞いて野次馬が集まったらしいが、相手がキメラと聞いて立ち去って行ったそうだ。なにがしたいんだか。


「ねー聞いてる?討伐賞金!」


 エマは討伐賞金の為に呼ばれたと思っているらしい。


「エマ、討伐賞金は出ないぞ」

「なんで!?」

「あのキメラがD級以下に見えるか?討伐賞金が貰えるのは自分のランクより下のモンスターだけだろ」


 新人冒険者が無理をしない為のルールだな。過去、新人冒険者が賞金欲しさに強敵へ挑み死ぬ。そんなことが続いたらしい。


「死にかけたのにー?」

「死にかけたのにだ。それにあのキメラは幼体だった。成体が相手だと俺達は瞬殺だっただろうな」

「確かに、今思えば最初に出くわしたときは、動くことすらままならなかった…。幼体であの強さだなんて」

「まぁ、でもA級以上の強さのモンスターに勝ったことに変わりは無いからな。次は成体に勝てるようにがんばろうぜ」

「うん!」


 そんな話をしていると冒険者協会についた。


 ◇◇◇


「アレクサンダーです。入ってもいいてますか?」

「いいぞ」


 会長の部屋に入ると、会長ともう1人居た。


「よー、おまえらー」

「なんだ、イグナス先生か」

「なんだってなんだよ、命の恩人に向かってー。まぁいいけど」

「「いいんだ!」」


 俺とエマは応接用のソファに座る。話ってなんだろうか、厄介事な気しかしない。


「まずは、今回のキメラ討伐ご苦労だった。代表して礼を言わせてくれ。ありがとう。」

「いえ、礼ならイグナス先生が受けるべきでしょう。僕達は幼体の1体を倒すので満身創痍でしたから」


 そう、俺達は幼体を倒すだけで死にかけてた。イグナス先生が来なかったら死んでいた。もっと強くならなければ。


「そう謙遜するな、D級冒険者がS級に勝ったんだ。十分賞賛に値することだ。」

「ありがとうございます」

「ありがとうございます!」


 エマも俺に続いて礼を言った。

 エマの目がキラキラしている。なにか報酬を希望してるんだろう、恥ずかしいからやめてくれ…


「す、すまないが。冒険者のルールがある以上君たちに討伐賞金を出すことはできない。その代わり、今度の緊急クエストへ参加してくれ。便宜を図ろう」

「ありがとうございます…」


 エマのテンションが明らかに下がった。恥ずかしい。


「話とはそれだけですか?」

「いや、今回呼んだのは別の要件だ」


 別の要件?


「あー、俺が説明するよ」


 イグナスはキメラ討伐後、デーモンとのことを話した。


「つまり、今回の一連はナーシャに取り憑いたデーモンの仕業なんだー」

「なるほど、確かにSS級相手にS級2人組じゃ、先生が来るまでの足止めにすらならない」

「そのとーり」

「それで、そのデーモンの目的はなんだったんですか?」


 するとイグナスは俺を指さした。


「アレク…?」

「そうだ、あのデーモンが言うにはおまえの剣術の力量を知りたかったんだとよー、あとはエマについても言っていたな。最後までは聞けなかったけど」

「俺の力量を…?エマについても…」

「なにか心当たりはないか?なんでもいい。禍々しい魔力を持ったやつについてとかな」


 エマはチラリと俺を見る。俺の見た光景についてだろう。仕方ない、話しておこう。

 俺はあの時みた光景を2人に話した。


「禍々しい魔力をもったなにかが目の前にいたと、しかも傍らには知らない仲間が死んでいて、君も大人だったと…」


 ホグマンは話を聞き頭の中で整理している。


「これは、予見なのか…?それにしては曖昧なところが多すぎる」

「まぁ、禍々しい魔力をもったなにかってのはおそらくデーモンだろうなー」


 確かに、イグナスから聞いた特徴とほぼ一致する。


「君が大人だったことを考えると、おそらく起こりうる未来なのだろう」


 ホグマンの言葉を聞いて、あの激情を思い出す。怒りや悲しみが入り交じった、精神をも壊しかねないほどの激情。

 俺の身体は震えていた。エマが心配そうに背中を摩ってくれる。


「そーだなー、知らない仲間ってのは気がかりだが、対策をしとくに越したことはないだろーな」

「デーモンに対抗するために?」

「それもあるが、君たちの身を守る為だ。デーモンの話によれば、狙われているのはアレクサンダー君とエマ君だ。デーモンは負の感情を増加させることができる。君たちが魔に堕ちないためにも、がんばってくれ」

「「はい!!」」


 魔に堕ちない為にもか。俺はランガンの姿を思い出していた。魔に堕ちた人間の末路があれなら、俺やエマが堕ちたらどうなる…なんとなく敵の狙いがわかった気がした。


「具体的には何をしたらいいんですか?」


 魔に堕ちない為と言われてもどうすればいいんだろう。


「君たち2人にはイグナシア王国と親睦が深いミアレス聖国へ向かってもらう」

「2人ですか?カルマとソフィアは?」

「今回狙われてんのはおまえらだけだからなー、それにおまえらのパーティーで魔術を使うのはおまえら2人だけだろーよ」

「魔術を使う…ということは」

「そうだ。君たちは聖属性を強化しなければならない。デーモンが使う精神異常の魔術は闇魔術だ、対抗できるのは聖魔術のみ。これを強化しておけば君達が魔に堕ちることはないだろう。それに、カルマ君やソフィア君を魔の手から守ることもできる。行ってくれるな?」

「「はい!!」」


 ミアレス聖国か、どんな国だろうか。楽しみだ。それに久々のエマと2人っきり!

 断然この旅が楽しみになってきた!


「出発は1週間後だー遅れるなよー」

「え?なんで1週間後?」

「んあ?俺の都合が1週間後だからだよ。」


 なんだよ、イグナスもいるのか。ちっ…


「あー、アレクサンダーおまえあからさまにガッカリしやがって。どーせ久々のエマと2人きりだからイチャイチャラブラブしてやるーって思ってんだろ」

「そうだが?」

「ちょっ…アレク…」


 俺の返しにエマが顔を赤くする。


「てめーこのマセガキが。俺よりモテてんじゃねーよ!」

「ただの妬みじゃねーか!」

「はっはっはっ、イグナスとアレクサンダー君は仲が良いんだな!はっはっはっ」

「うぅ…恥ずかしい…」


 俺とイグナスは喧嘩を初め、エマは顔を赤くし俯き、ホグマンは笑う。そんなカオスな空間が出来上がった。


「あー、そうだ。おまえらの進捗次第では3ヶ月以上滞在することになるから準備しとけよー」

「大事なことは初めに言ってくれ!」


 イグナスは適当すぎる。ミアレス聖国で痛い目見ればいい。

 俺とイグナスの言い合いはしばらく続いたがエマが耐えきれず、俺の腕を引っ張り部屋を出たことで話し合いは終わった。


「もう!アレクは変なとこで子供なんだから!」

「エマも子供だろ」

「そーゆー事じゃない!いつもは大人ぶってるくせに!」

「またそれかよー、エマはもっと身長が伸びたらいいな。養分が魔力と胸にし…ぶへぇ!?」

「余計なことは言わないの?」


 エマの怒りの鉄拳が俺の鳩尾に炸裂した。

 エマは身長は平均より少し低いが、胸の成長は他より早いみたいだ。デカすぎず、小さすぎず。程よいサイズで俺好みに収まりつつある。うん、いいことだ。


「アレク?変なこと考えてない?」

「考えてないです」


 魔力の篭った拳を見て俺は考えるのをやめた。


「長い間パーティーから離れちゃう。今回の話、カルマとソフィアに話さなきゃ」

「そうだな、たぶん訓練場にいる」


 俺達は訓練場に向かった。


 〔カンっ、カンっ〕

 木剣のぶつかり合う音がする。

 やっぱり訓練場に居たか。


「カルマ、ソフィア、少し話があるんだ。いいか?」

「アレクさん!」


 ソフィアが笑顔で駆け寄ってきた。

 長い髪を後ろで束ね、汗に濡れる首筋がソフィアの色気をより一層引き立てるな。

 ソフィアの身長は平均ほどだが、引き締まったウエストにすらっと伸びた手足そして、男なら誰しもが目を奪われるその豊満な胸。とても10歳とは思えない。


「あの…アレクさんの視線が…エッチです…」

「アレク…?」


 ソフィアが顔を赤くし俯く。

 まずい、エマの額の青筋がいつもより2〜3本多く見える。


「ごめんなさい」


 悪いことをしたら謝る。人として当然のことだ。


「それで、話ってなんだ?」


 カルマが汗を拭いながら聞いてきた。


「いきなりで悪いが、俺とエマはホグマン会長の命令でミアレス聖国で特訓をすることになった。数ヶ月かかるだろうから、しばらく俺とエマ抜きで依頼をこなしてくれ。」

「ミアレスで特訓ですか?それは私達もついて行くことはできないのですか?」

「これは、魔術師としての特訓なんだ。それに、事情が事情だ。急を要する」

「事情…ですか?」


 俺は、ホグマンたちと話したことを2人にも伝えた。


「デーモンが…お2人を狙っていたと…」

「それなら、尚更2人にする訳には行かないだろう」


 カルマとソフィアは不安な顔をしている。


「大丈夫だ。俺達にはイグナス先生が引率でくる」

「イグナス先生が、それなら安心ですね!」

「そうだな、しっかり強くなってこいよ」


 2人も納得してくれたようだ。


「では、しばらくパーティーはお休みにしましょう。私達はフリークエストをこなして強くなりますね」

「それがいい、俺も金を貯めたい」

「いいの?数ヶ月あれば2人なら余裕でランク上がるんじゃ」

「私達はアレクさん、エマさんと共にランクアップしたいのです!帰ってくるのをお待ちしてます」

「俺も同じ気持ちだ」


 2人は俺達が帰ってくるまで待ってくれるみたいだ。確かに、ランクのズレができたらクエスト選びも大変になる。

 いや、みんなで一緒に上がりたい。そんな気持ちだ。


「出発まで1週間あるが、明後日緊急クエストが発令されるとホグマン会長から事前に聞いた。そこでしっかり評価ポイント稼ぐぞ!」

「はーい」「はい!」「おう!」


 それぞれの返事を聞き、緊急クエストに備えるのであった。



第19話ご閲覧いただきありがとうございます!


次話をお楽しみに!

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