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忘却の魔剣士~また、君を見つけるまで~  作者: KUZAKI
第二章 冒険者学校 その1
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第18話 キメラとの死闘

 

 キメラの出現場所を案内するために、俺達4人に加え、ホグマン会長と特異エリア魔龍連山へと向かう。


「会長」

「ナーシャか、どれだけ集まった?」


 どこからとも無く、ホグマンの秘書ナーシャが現れた。


「S級中位が1組です」

「SS級は?」

「それが、イグナス・ブレイドは出張に出ており、魔導具で知らせはしましたが。戻ってくるのに1時間はかかると。生徒が目撃者だと伝えたら、魔導具を切られました」

「こんな時に…!だが、ナーシャもイグナスのことをよくわかっているな」


 イグナスは一昨日から出張に出ている。今日戻ってくる予定だったが、間に合わなそうだ。


「ホグマン会長、キメラのモンスターランクはいくつなんですか?」


 俺は念の為聞いておいた。


「単独ならSS級、2体以上いれば天滅級になる可能性がある」

「それほど…」

「おまえたちは無理して戦うなよ。案内したらすぐに離脱しろ」

「善処します」


 話をしていると、魔龍連山の出入口についた。そこにはS級のパーティーが待機していた。パーティーと言っても2人だけのようだ。


「会長、この子供たちは?」


 S級の男が話しかけてきた。


「この子達が目撃者だ。アレクサンダー君、この人がS級中位シェリエ君だ。後ろにいるのが同じくS級中位のナニア君だ」


 シェリエは剣士のようだ。後ろの女性は格好からして魔術師だろう。


「アレクサンダー…あぁ、今年の首席の、じゃ後ろにいるのがもう1人の首席と次席達か、よろしく頼むよ」

「はい、シェリエさんよろしくお願いします」

「それじゃ、早速案内してもらうか!」


 俺達は魔龍連山へ入った。


 ◇◇◇


 しばらくして、空気が重くなるのを感じた。


「こ、これは」


 シェリエが顔を顰める。


「この辺です。ワイバーンの集団が飛び去って行くのを確認してから、キメラが出てきました」

「案内ありがとう、アレクサンダー君、エマ君。カルマ君とソフィア君も。君たちは離脱してくれ」


 ホグマンがそう言った瞬間だった。


「ぐっ…この威圧は…」

「はい…キメラです…」


 キメラがもう近くに来ていた。


「はやく…離脱を…」


「「うわぁぁあ!!!」」


 キメラが居た方向から、悲鳴が聴こえた。


 S級冒険者達と俺達は声のした方へ飛び出した。


「待ちなさい!君たちはダメだ!」

「大丈夫です!逃げ遅れた冒険者の救出を優先します!」


 ナーシャに支えられているホグマンにそう言った。


 声の元へ行くにつれて威圧感が増す。


「エマ、大丈夫か?」

「う、うん…慣れてきたかも…」


 最初に出くわした時より大分マシのようだ。

 カルマとソフィアも顔を顰めているが、大丈夫だと言っている。


「シェリエさん、討伐できそうですか?」

「どうだろうね。ものすごい威圧感だ、やれることはやるよ」


 S級中位のシェリエでも不安なのか。


「た、助けて!」


 前方から助けを求める声が聞こえた。

 キメラは右前脚を上げ、引き裂こうとしていた。

 その瞬間、シェリエは飛び出し、キメラの爪を弾いた。


「くっ、重いな」


 さすがS級だ。キメラの重い攻撃も簡単に弾いた。俺達は冒険者の救出をする。だが、古代のモンスター。

 その特性をここにいる誰もが知らなかった。


 ◇◇◇


「ナニア!獅子頭から落とすぞ!」

『エア・バースト』


 ナニアの魔術が獅子頭に炸裂する。


 虎剣流『岩斬』


 シェリエの斬撃が獅子頭の首に斬りかかる。しかし、シェリエの剣が弾かれた。


「なんだ…!?」


 弾かれ宙に浮くシェリエを竜頭のブレスが襲う。ナニアの風魔術でブレスの軌道をズラし、難を逃れた。


「獅子頭の首、硬い…なんてもんじゃない。まるで無効化されているような感じだ。」

「でも、魔術は効いていたわ」

「次は山羊頭を攻撃しよう」


 そう言ってシェリエは山羊頭へ走った。

 剣を振り下ろすと、刃が通った。


「こいつはいけるぞ!やれ!ナニア!」

『フレア・バースト』


 しかし、山羊頭には魔術は効かなかった。


「こいつは、厄介ね」

「ああ…どうやら、俺達はキメラとの相性が悪すぎる」


 なるほど、獅子頭は物理無効、山羊頭は魔術無効。なら、竜頭は?


「なんだ…?すんなり落とせたぞ」


 シェリエの剣が竜頭を斬り落とした。しかし、


「シェリエ逃げて!!」


 ナニアは叫ぶが間に合わなかった。獅子頭と山羊頭の同時ブレスがシェリエに直撃する。どうやら竜頭は囮らしい。そして、竜頭はすぐに再生した。


「シェリエ!『エクストラ・ヒール』」

「がはっ…これは、無理かもな…」


 S級中位、決して弱い訳じゃない。2人のパーティー。あまりに手数が少なすぎる。


「アレクサンダー君…!逃げるんだ…!」

「でも!シェリエさんたちが…」

「いいから!なるべく多く応援を呼んでくれ…!」


 ナニアに抱えられながら、シェリエは俺達を逃がそうとした。そこへ、キメラが迫り。左前脚を振り上げた。


「シェリエさん!!ナニアさん!!」

「いいから行け!!」

「くっ…」


 キメラの脚が振り下ろされた。


 〔ガキン!!〕


 剣で受け止める音が響く。


「な、なにしてるんだ。はやく…」

「ごめんなさい。俺は誰も目の前で死んで欲しくない」

「アレク…こいつに集中するぞ…」


 俺とカルマはキメラの脚を受け止めた。


「ぐぅぅ…重い…」

「カルマ!息を合わせるぞ…!今だ!!」


 なんとかキメラの腕を弾いた。こんな重いのをシェリエは1人で捌いたのか。


「シェリエさん。ここは任せてもらいます!」

「無茶だ…無駄に命を散らすな…」

「どっちにしろ、キメラは逃げた俺達も殺しますよ。なら、戦います…!」


 シェリエは諦めたように笑い、ナニアと共に後ろに下がった。


「カルマ、おまえは俺と前衛だ。なんとか捌ききるぞ。ソフィアは中衛でキメラの隙を見極めろ。エマ、後衛で全体の戦況を見て、気付いたことがあったら教えてくれ。せっかくの超格上だ。ぶっ飛ばそうぜ」

「「「了解!!」」」


 指示とも言えない雑な作戦を3人は了解した。あとは、こいつを倒すだけだ。


 俺とカルマが左右に分かれたのを見て、キメラが左右の前脚を上げ、2人に振り下ろした。


「ぐあぁ重めぇ!」

「これは…キツいな…」


 2人が耐えている所をキメラは2本に分断した蛇の尾で2人の鳩尾へ突きを放った。


「「がはっ!」」


 2人は一気に後衛まで突き飛ばされたが、エマの風魔術で受け止められた。


「大丈夫!?」

「「余裕」」


 絶対に勝てないと言われる強敵との戦闘で、俺とカルマのテンションは段々おかしくなっていく。


「あの突きは強力だな…」

「え?カルマへばってるの?」

「は?冗談やめてくれ、アレク、こっからだろ」


 2人は再びキメラに向かって走る。


「カルマ!まずは山羊頭落とすぞ!」

「おう!」


 同時に飛び上がり技を放つ。


「虎剣流『虎斬断頭(こざんだんとう)』!!」

「鷹剣流『疾風(はやて)』!!」


 しかし、2人の剣は首の五分を過ぎたとこで止まる。


「加勢します!!!」

「虎剣流『虎斬断頭』!!」


 3人の力で山羊頭を斬り落とした。


「グギャァァァ!!!」


  キメラが叫ぶ。


「よし!」

「3人ともそこから離れて!!」


 獅子頭を牽制していたエマが叫ぶ。斬り落としたはずの山羊頭は再生していた。


「そんなんありかよ…」

「どうした?アレク。怖気付いたか?」

「馬鹿言うな、カルマ。余裕だろ」

「お2人ばかり楽しそうでズルいです!!」


 前衛同士楽しくやる2人を見てソフィアが言った。


「ソフィアは引き続き隙を見極めてくれ、全力の一撃であいつをぶっ飛ばすんだ!」

「むぅ…わかりました!お2人が不甲斐なかったら変わりますからね!」


 そう言いソフィアは後ろに下がった。


「ソフィアもおかしくなってきてる…」


 冷静に戦況を見守っているエマはそんな3人に苦笑いした。


「いくぞ!カルマ!おまえに合わせてやるよ!」


 俺とカルマは再びキメラへ向かって走る。


「「鷹剣流『旋風』!!」」


 キメラの脚に無数の切り傷ができる。

 しかし、それもすぐに再生する。


「がっ!!」


 1本の尾が俺の顔面を捉えた。


「アレク!ぐっ!」


 2本目の尾がカルマの顔面を捉える。再び後衛へ弾き飛ばされるが、エマの風魔術で受け止められた。


「もう!いい加減冷静になって!次飛ばされても受け止めないよ!」

「「ごめんなさい」」


 そうだ。まずは冷静に。


「あのしっぽは鬱陶しいな。躱せないことはないが、躱したとこを他の頭が攻撃してくる」

「竜頭と獅子頭はエマが牽制してくれ。山羊頭としっぽは俺とカルマでなんとかする」

「はーい」

「私は…?」

「引き続き隙を見極めてくれ。必ず必要な時がくる。俺を信じろ」

「わかりました!!」


 再度立て直し、キメラに相対する。


「前脚攻撃は予備動作が大きい、ちゃんと躱せよ!」

「おう!」


 2人はキメラに向かって走り出す。キメラはいきなりしっぽで攻撃してきた。なんとか躱す。山羊頭のブレスが来るが、なんとか紙一重で躱すことができた。

 しかし、3つの頭がいきなりエマの方へ向いた。


「まずい!エマ!!」


 間に合わない。

 3つのブレスがエマに直撃した。


「うぅ…痛い…」


 だがエマは、直撃の瞬間風魔術をバリアのように広げ、ダメージを抑えた。


「エマ!大丈夫か!?」

「アレク!避けて!!」


 3つの首が次は俺を向いていた。なんとか躱すが、追撃の尻尾攻撃を躱せず。もろに食らう。


「ぐあっ…!!」


 そのまま突き飛ばされ後ろの木にぶつかり頭から大量の血が流れる。3つの首はまだ俺の方を向いていた。そして、ブレスが放たれる。


「アレクさん!!」

「ソ…フィア…!」


 ソフィアが俺の前に立ち剣でブレスを受け流している。しかし、全ては防ぎきれず俺の前に吹き飛ばされた。


 援護がなくなってしまったカルマは、1人でキメラを相手取る。


「くそっ…!」


 2本の尻尾攻撃に3つの頭からのブレス。

 カルマは耐えきれず。尻尾攻撃をもろに食らってしまった。


「強えぇ…。だが、まだ、戦える…」

「上級治癒魔術『エリア・ヒール』」


 エマは味方全員の傷を癒し、立ち上がる。


「おーいカルマ!まだいけるよな!?」

「当たり前だ!!」

「エマ!!援護頼むぞ!」

「うん!」

「ソフィア!カバーよろしく!」

「はい!」


 俺は強化魔術を耐えうる限界まで上げた。そして、カルマも鬼纏を限界まで上げる。

 傷は塞がるが、失った血は戻っていない。フラつきながらも剣を構える。


 言葉を交わさずとも、カルマに俺のやろうとする事は伝わっていたようだ。


 一瞬で俺とカルマはキメラの両前脚に肉薄する。


「「鷹剣流『疾風迅雷』!!!」」


 拡張された太刀筋は太いキメラの前脚を両断した。

 キメラはバランスを崩し前に倒れる。

 倒れたところから、俺はキメラの背へと走って登り跳躍した。


「なんで魔術忘れてたんだ俺!!」


 俺は魔術のことを忘れていた。最近剣術中心になっていたから仕方ない。

 左手から爆裂魔術を空に放ち、落下の勢いを付ける。


「おらぁ!!!」


 背中の翼を片方斬り落とした。


「グギャァァァ!!!」


 キメラが叫ぶ。しかし、前脚も再生されつつある。

(あれ?)

 そして、エマがある事に気付いた。


「アレク!再生が遅くなってる!!」

「ナイスだ!エマ!」


 度重なる再生でキメラも体力を消耗しているようだ。


「カルマ!!剣貸せ!!燃やす!!」

「は!?」


 カルマが一瞬なんのことかと思ったが瞬時に理解した。


「溶かすなよ!」


 カルマの剣を受け取り、俺の黒剣と重ねる。


属性付与(エンチャント):火』


 カルマの剣と俺の剣が燃え上がった。


「ほら!これで物理無効の頭も斬れる!そっちの獅子頭は任せた!!」

「熱っち!!任せろ!!同時に行くぞ!」


 2人は一気に頭へ肉薄し、剣で下からすくい上げた。


「我流『登り竜』!!!」

「鷹剣流『鷹登剣嵐(おうとけんらん)』!!!」


「「おらぁ!!!」」


 燃え上がる太刀筋は天へと登る。


「「ソフィア!!」」


 ソフィアは中央の竜頭を見据える。

 この為の全力の一撃。


「いきます!!」

「虎剣流『猛虎』!!!」


 竜頭ごと胴体を真っ二つにする。しかし、キメラは分かれた胴体を繋げようと再生を始める。


「「「エマぁ!!!」」」


「美味しいところもっていくね!!」


 エマに内包されていたとてつもない量の魔力が一気に解放される。

 その魔力は火を生成し、空に掲げたステッキの先端に凝縮されていく。

 それを、キメラへ向ける。


「超級火魔術『バーン・フレア・バースト』!!」


 キメラを中心に巨大な火柱が上がる。

 夜なのに、まるで昼のように明るい。


 巨大な火柱が収まると、消し炭になったキメラの残骸があった。再生はしない。


「か、勝った…」

「もう魔力がスッカラカンだよ…」


 俺達はSS級モンスターキメラを討伐し、喜びを実感しながら、その場に座り込む。


「ははっ、あいつらやりやがった…S級が情けねぇ…鍛え直しだな。」

「そうね。」


 シェリエとナニアは4人から刺激を受け、鍛え直しを決意した。


 しかし、絶望が全員を襲う。


「な…んで…」

「うそだろ…」


 俺とカルマは少し先を見て、絶望した。


「もう、無理だよ…アレク…」

「…」


 エマとソフィアもそれに気付き、エマは俺の元に来て抱きついた。ソフィアはただ絶句している。


 そこにいたのは、5体のキメラ。しかも、俺達が戦った個体より数倍大きい。俺達が戦ったのは、キメラの幼体だった。

 俺達の戦闘に気付き、ここへ来たのだ。


「おー、1箇所にまとめてくれてありがとなー」


 4人が絶望するなか、後ろから聞き覚えのある気だるそうな声が聴こえた。


「イグナス…先生…」


 俺は声を絞り出した。


「圧倒的格上相手によくやったな。お前達のおかげでなんとか間に合った」


 ソフィアはポロポロと涙を流す。


「あとは俺に任せろ」


 そう言いイグナスは剣を抜いた。光り輝く剣。代々勇者の血の者に受け継がれる聖剣『ブレイド』

 イグナスはその剣を空に掲げた。


「いいかーおまえら。再生するようなめんどくせー相手の奴にはな、圧倒的質量で押し切るのが楽だぞ」


「聖剣技『聖滅』」


 目を逸らしてしまうほどの光が辺りを包み、巨大な聖の魔力が5体のキメラに襲いかかる。

 地面から無数の巨大な光の剣が突き出る。


 キメラは断末魔をあげる間もなく、消滅した。


「これが、SS級冒険者…」

「次元が違う…」


 SS級冒険者の圧倒的な力に俺達は目を奪われた。


「あーお前らお疲れさん。よく頑張ったな」


 イグナスの言葉を聞き俺達は気を失った。


第18話ご閲覧いただきありがとうございます!


次話をお楽しみ!

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